マムルーク/mamlūk マムルークはアマクダリ・セクトに所属するニンジャである。 主な任務は要人の警護や反アマクダリ存在の処分であり、どんな指示にも逆らうことなく粛々と従う。 しかし、その勤務態度はセクトへの忠誠心由来のものではなく、故あれば指示を無視することもある。 彼は出世や成功に興味がなく、上層部からの評価にも関心を持たないからだ。 ミッションが下されれば請け負い、そうでないときは私室に籠もってカラテ・トレーニングに勤しむ。 カラテ上昇志向があるわけではない。他にやることがないからだ。 かつてのマムルークはモータルネームをアガタチ・カツト(阿賀立・勝人)といい、下級オイランの母と二人暮らしであった。 父はどこの誰かもわからない。母も知らないからだ。 カツトの幼少期は母の化粧の香りに包まれている。母はカツトから見ても美しい人だったが、カツトから見てもオイランとして働くには些か老いていた。 その人生の年輪を覆い隠すための化粧道具の匂いと、熟練左官工めいて顔を整える手つき。 暗がりの下であれば歳をごまかせるであろうメイクを施した顔で「どうだい?これが母ちゃんのテクニックさ」と笑う母。その笑顔が好きだった。 暮らしは貧しかったが飢えたことはない。母は己を愛してくれていたのだろうと、マムルークは時折思い返す。 成長したカツトは家計を助けるためにドンブリ・ポンでアルバイトを始め、余暇と小遣いでコッポドーのドージョーに通いだした。 コッポを選んだことに理由はない。近所にドージョーがあったからだ。 しかし、コッポドーのシステマチックで無慈悲な技術体系はカツトの性に合っていたらしく、早いうちからドージョーでも上位のワザマエとなった。 いくつかの小さな大会やストリートファイトでも勝ち星を重ね、自分なりに母を助けられているという自負が芽生えだした頃、その母が死んだ。 プレイを終えた客が母の年齢に難癖をつけ出し、取り押さえられる前にドス・ダガーを抜いて店員と母を刺殺したのだ。 カツトはドージョーを抜け、母を殺した客を探し出し、カラテで殺した。 もとより表社会の栄光に興味はなかった。母と二人で暮らしてゆければよかったのだ。 カツトはケゴン・フォールの水の如く、当たり前のように社会から流れ落ちてヤクザとなった。 母を殺した客はヤクザだった。ヤクザの報復を躱すには己自身もヤクザになるのが最も手っ取り早かったからだ。 ヤクザとなってからのカツトは特定のセンパイに傅くこともなく、子分の面倒を見ることもない、淡々とカラテを振るうのみの男となった。 実力はあるが欲はなく、命令に従順だが褒美に尻尾を触らない。 上役からすれば扱いづらい駒であり、様々なクランに所属したが長続きせず、いつしかフリーランスのような存在となっていった。 セルフネグレクトめいた退廃的生活を続けていたが、ふとしたことからネンゴロとなったオイランと一緒に暮らすようになり、変化が現れる。 ヤクザ界でも際立った無口かつ無愛想で知られ、くしゃみをしても表情が変わらないと言われていたカツトが笑顔を見せるようになった。 子分にも気前よく小遣いを出し、目上とすれ違えば直角でオジギをする。すべてオイランのアドバイスによるものだ。 「アンタも父親になるんだから、もうちょっと愛想よく、人に好かれるようにしたほうがいいよ?お父さんがヤクザの中でも嫌われ者じゃこの子がカワイソウじゃない」 どことなく母の面影を感じさせる、カツトより一回りほど年上のオイランは、大きく膨らんだ腹を撫でながら彼を優しく諭した。 生き方は変えられる。人生はどんな道を歩んでも日の差す時がある。 親となる自覚が芽生えたカツトは、まだ見ぬ我が子を迎え入れる体勢をまずは内面から整えていた。かつて理不尽に奪われた「家族」を、再び持つ喜びとともに。 出産予定日を間近に控えたある夜、敵対ヤクザクランによる迫撃砲アサルトによってカツトの住んでいたアパートは吹き飛び、住人は全員死んだ。カツト以外は。 苦しまずに即死したであろうオイランと子供の亡骸に別れを告げたニンジャは、報復として敵対ヤクザクラン構成員を皆殺しにし、ほどなくアマクダリ・セクトに存在を補足される。 復讐を済ませたニンジャはアマクダリ・ニンジャに対し無抵抗を示したため、恭順の意思ありとしてセクトに迎え入れられることとなる。 ニンジャの名はその半生を聴取したジャスティスにより「マムルーク」とされた。ニンジャにとってはどうでもいいことだった。 マムルークには何もない。ニンジャとなってからはモータルの頃には確かに存在した欲や愛情も薄れ、システムの元で活動するうちにそれらは更に擦り切れている。 彼とユウジョウを結ぶのは大変な困難を伴うこととなるであろうが、彼とてマシンではない。 なんらかの情に絆され、態度を軟化させる可能性もないではないのかも知れない。 好きなサケはなく、アルコールであれば飲む。好きなスシはなく、スシの形と味をしていれば食べる。 最重視するパラメータ:脚力(一番どうでもいいからだ。脚力はもちろん重要だが最重点するニンジャはいない) 親密度1:「黙れ」 報酬:『◉知識:ヤクザの流儀』/『◉知識:犯罪』 親密度2:「よせ」 報酬:『◉叩き伏せ』/『◉滅多打ち』 親密度3:「……これをやるから、もうおれに構うな」 報酬:『オーガニック・トロスシ』 爆発四散:「……サヨナラ!」 報酬:『**ポケットブック・オブ・マムルーク**』    アガタチという姓からはじまる名前がびっしりと書き込まれた、古ぼけた手帳。    はじめの頃は男女の名前が半々だったが、後半はほぼ女性の名前のみ書き込まれている。1/3ほど白紙のページがあり、まだ使える。    所持していると【精神力+1】、使用することで【精神力4回復】の効果(使い捨て)