①鞍馬 りんね編 「ねぇ~織姫さん、今日家行って良い?」 「また家にたかりに来るおつもりですか…」 「いーじゃん、何か依頼があった時はお安くしとくからさ~」 「あくまでお安く……なのですね。商魂の逞しさには素直に感服致します。」 「いやぁ〜、それほどでも…あるかな~」 「それくらいでなければ霊能探偵などという阿漕な商売は務まらない…と…」 「阿漕言うな」 「ですが、過ぎたるは猶及ばざるが如し…金銭を稼ごうとする行為自体は決して悪い事ではありませんが何事にも限度というものがあります。慎みの心をお忘れなき様……」 「はいは〜い、善処しますよ~。ところで今日の夕飯の献立何?」 「あなたという人は………」 ②岩家 イチカ編 「イチカち〜、右の義足が何かギシギシ言ってるんだ。悪いけどちょっと見てくれない?」 「また生身のままデジモンと義足を壊しましたのね!?」 「いや、変な音がするってだけで別に壊したわけじゃ……てか、なんで生身でデジモンと戦ったってわかったんだ?」 「これで何回目だと思っていますの!?」 「…11回」 「26回目ですわ!」 「うわぁ…そんなに…」 「うわぁ…そんなに…ではありませんわ!お元気が有り余っているのは大変宜しい事だと思いますが、過ぎたるは猶及ばざるが如し。という言葉もございましてよ!」 「うん…………ごめん…。」 ③浮橋 長閑編 某日。ある場所に訪れた織姫。誰かと待ち合わせをしている様だ。 「お待たせしました、織姫さん」 しばらくして浮橋長閑がやって来る。 「待ってたぜ、浮橋ちゃん。例のブツは…?」 「こちらになります。」 長閑から手渡された袋を受け取り、中身を確認する織姫。 「確かに……。ありがとな、浮橋ちゃん。商品の代金と駄賃だ、取っといてくれ」 織姫が長閑に金銭を渡す。 「しかし、食玩の人気のアソートのみを…それも3つずつ買って来て欲しいとは織姫さんも中々の悪ですね……転売でもなされるおつもりで?」 「人聞きの悪い事言うなよ!こいつは全部私様の物だ。誰にも渡さねぇ」 「織姫さん…見たところ裕福なご家庭に住まわれている様ですし、普通にセット販売されている物をお買い上げになれば宜しいのでは?」 決して少なくない額の報酬を見ながら長閑は尋ねた。 「金持ちだって欲しくもない物には金なんか出さんぞ?確かに欲しい物には糸目を付けんが、いらねぇもんには一文たりとも払うつもりは無いね…永遠に棚の守護神やってろって話だ」 「めっちゃ悪い奴だーー」 ④真見無目 モモ編 「ちっちゃくて可愛い子ですね~ お姉ちゃんが好きなもの買ってあげるよ〜」 モモが織姫の頭を撫で撫でしながら話す。どうやら織姫の事を小学生だと思っている様だ。 「じゃあ私、ペギラが来た!の聖地に行きたい!お姉ちゃん連れて行って〜」 「?……よくわからないけどお姉ちゃんに任せなさ〜い」 ⑤青石 守編 「グレイモン(XW)にディノレクスモン………。青石さん、エメゴジ……お好きなんですか?」 織姫の質問に守が答えようとする。 「え?いや……まずエメゴジってな…「ゴジラ・ザ・シリーズというアニメがございます。一度ご視聴なさってみてはいかがでしょう?…もし青石さんさえよろしければ我が家にご招待致しますよ。お母様が昔録画したものを全話取り揃えてございますので。是非お越し下さい。」 しかし、織姫は守の返答を遮り、ボルテージが上がって行くかの如く早口になる。 「えっと……」 「是非……」 「え〜……」 「是非…!」 「………」 「是非…!!」 「…はい。」 「わかりました。お待ちしております。」 織姫の圧に押され、家に行く事を承諾してしまう守なのであった。 ⑥堀 鉄華編 「人参の丸焼き……また鞍馬さんに無理矢理押し付けられたのですか?」 「そうなんだよねー。ここのところ会う度に食べさせられてる様な気がするよ…」 「こんな物……」 織姫は人参の丸焼きを掴むと押し潰す様にして圧縮、ハンドグリップでも扱うかの如く握り潰し、たちまちビー玉サイズのオレンジ色の塊にしてしまった。 「これなら食べられますでしょう?」 「そうはならんやろ!?」 ⑦虚空蔵 優華子編 強敵ライジンモンとフウジンモンのタッグを虚空蔵 優華子とそのパートナー、ゴグマモンとの共闘で撃破したダスクモンこと織姫。進化を解いて元の姿に戻るが… (やっべ……右脚が動かん。さっき生身のまま思いっきり蹴った時だろうな…ライジンモン、思いのほか硬かったし…) 「どうしたんですの?」 怪訝に思った優華子が織姫に尋ねる。 「いえ、少しばかり義足の調子が悪いので、お迎えをお呼びしようかと…」 「そうですの……でしたら、こちらの方が早く家に着きましてよ!」 話を聞いた優華子がお姫様抱っこをする形で織姫を抱え上げて走り出し、ゴグマモンもその後に続いた。 お嬢様モード時は常時ポーカーフェイスを貫いている織姫の口元が緩む。 「本当に飽きさせないお方…」 「?…何か仰いました?」 「いえ……借りを作ってしまいましたね…お返しは後日何らかの形で必ず…」 「えぇ、楽しみにしていますわ!」 ⑧薄帯 瑠璃編その1 ある日のこと、織姫は味が良いと大変評判な大衆食堂『優雅堂』へ足を運んだ。 「いらっしゃ〜い。はい、あんたそこね」 愛想の悪い店員、薄帯瑠璃に案内され席へと座る織姫。 「注文、さっさとしてくんないかな?」 瑠璃は急かす様にオーダーを求めて来る。 「…茶碗蒸し」「……」 織姫の注文に瑠璃は言葉が詰まった。織姫が注文を繰り返す。 「茶碗蒸し」 「…メニューにあるもの言ってくれない?」 「賄いか何かで作ったやつがあるんじゃないのか?何にせよ私様の鼻は誤魔化せんぞ。」 「だからぁ〜…」「はいはい、茶碗蒸しでゲスね。少々お待ち下さいでゲス。」 空気がピリピリしかけていたところに厨房から料理長らしき人物(?)がやって来てその場を収めた。 しばらくして織姫の前に冷製の茶碗蒸しがお出しされる。織姫は手を合わせ、蓋を開けて食べ始める。 終始無言で食べていた織姫であったが、その表情から茶碗蒸しが大変美味である事が伺える。そうこうしている内に織姫が食べ終えた。 「ごちそうさま、美味しかったよ。釣りは結構だ。」 一万円札をテーブルに置き、そのまま帰ろうとしたので瑠璃が呼び止める。 「あっ、ちょっとお客さん!?」 呼び止めに応じず、背を向けたまま手を振る様に萌え袖をパタパタと振り店をあとにする織姫であった。 ⑨薄帯瑠 璃編その2 後日、店の評判を耳にした千本桜 冥梨栖も『優雅堂』に足を運んだ。相変わらず接客態度の悪い薄帯瑠璃に席へと案内される。 「ほら、さっさと注文して」 「良い匂いですわね。ここ、木の葉丼もお出ししていますの?」 「…はいはい、賄いが欲しいのね。すぐに用意するから待ってて」 少しご立腹な様子で店の厨房へと入って行った瑠璃。 「……なんであんなに怒っていますの?」 ⑩イソノインナナヨ編 「実は私、イソノインナナヨに一度お会いした事がございます… 彼女…私の顔を見るや否や『せんぼんざくらくらりす』…と私の亡くなった親戚の名を呟き出しました…。同時に『あなた嫌い、二度と会いたくなんてなかった』とも…。どうやら私の事を親戚の叔母様と勘違いしていた様です… そしてナナヨはスーッ…と消えてしまいました。最後まで心底嫌そうな顔をしながら…… 両者の間に何があったのかは存じ上げませんが、世を震え上がらせた怪異とて元は人の子…選り好みの一つもして然るべきなのだというお話でございました。」 語り終えた織姫はお辞儀をした後、蝋燭をそっと吹き消した。