旅が長くなってきたのもあってか、みんな野営をするのが上手くなってきた今日この頃。気軽に同行したり別れたりするこのグループは今は珍しく結構なメンツが一緒になっていた。しかしふらっとバラバラになるのに気づいたらふらっとまた集まってるのはどうなってるんだろうなこれ? それはさておき。俺、三下慎平が今何をしているかというと、夜風にあたりつつデジクロスの設計図を組み立てているところであった。いやまあ別に普段からこんなことをしているわけではない。単純に眠れないから、せめて時間は有効活用しようと思っただけだ。難しいことを考えてりゃ多少は眠くはなるだろうという打算もあるし、強くなり続ける敵相手に竜馬やクロウの足を引っ張りたくないという気持ちもある。……まあ全く作業は進んでないし眠気も全くやってこないんだが。ターゲットモンの付き合ってくれているが、こっちはこっちであんまりいい案は浮かんでなかった。まあクロスローダー使うようになったの俺が来てからだもんな。 「三下くん?こんな時間までなにやってるの?」 「うおっ、魚澄先輩!?」 魚澄真菜。旅の中で海岸に立ち寄った時合流した仲間の一人だ。胸がデカくて、竜馬やクロウと結構仲がいい。あと、旅の仲間の女性陣の中では年上だから、頼りにされてるところをよく見る。反面、俺とはそこまで縁がなかった。まあ中学生男子と高校生女子だからな。いかんせん話しかけづらさはある。小学生くらいならまたべつなんだろうな。シンラあたりは結構懐いてるみたいだし。 「『うおっ』……って、失礼だなぁ。まるで人をお化けみたいに」 「そうよ、レディーの顔を見て『うおっ』なんて言っちゃダメよシンペイ」 「……っと、すみません。まさか話しかけられるとは思ってなくて。魚澄先輩はなんでここに?」 「ちょっと眠れなくて。少し、お話に付き合ってくれる?」 「あー、魚澄先輩も。……あれ、シードラモンはどうしたんすか?いつもいっしょなイメージがあるんすけど」 「一緒に寝てたんだけど私だけこんな時間に起きちゃって……。起こすのも悪いし……」 「なるほど。まあいいっすよ、こっちも眠れなかったんで」 しかしそれでも俺に話しかけてくるとは珍しいこともあるもんだ。まあ今日はこの時間まで起きてるのが俺しかいなかったというのはあるんだろう。結構竜馬もクロウも夜更かし気味だから眠れないときはそっちのほう行くだろうし。 しかし、お話か。そういえば、魚澄先輩について一つ気になることがあったんだ。こんな機会もうないだろうし、今のうちに聞いてしまおう。 「そういえば、魚澄先輩って、竜馬とクロウのどっちが本命なんすか?」 「シンペイ!!!」 スパーン、とターゲットモンのスニーカーが飛んでくる。痛い。でも仕方がないだろう。気になるんだし。あ、魚澄先輩顔真っ赤にしてる。 「ほんとごめんなさいねうちのシンペイが……この子ったらデリカシーってもんをどこかに置き忘れてきたみたいで……」 「なんかお母さんみたいな言い回しするなターゲットモン」 「アンタのせいでしょうが!」 「あはは……大丈夫、気にしてないから……」 うーん、このままだとはぐらかされそうだな。ちょっと攻め方を変えてみるか。 「まあどっちが本命ってのは冗談として、実際のところ竜馬とクロウとは仲いいっすよね。例えば竜馬さんのことはどうおもってるんすか?」 「え、竜馬くん?そうだなぁ……やっぱり、優しい人だよね。周りのことをよく見てるっていうか、誰かの助けになるために動ける人。ただ、ちょっと自分のことを顧みなさすぎるところがある気がするから、そこらへんはちょっと心配かな」 「あー竜馬はそういうところあるっすよね。一人でふらっとどこかいって何してるのかと思ったら気が立ってる野生の完全体大人しくさせたりとか。たしかに安全の確保は大事だけど何も一人で何も言わず対処しにいかなくってもっていうか。じゃあ、クロウについてはどうっすか?」 「クロウさんかぁ。頼りになるよね、こう、兄貴分って感じで。ちょっと調子がいいところもあるとは思うけど、みんなを明るくさせるためにやってるところもあるんだろうなって。ただ、竜馬くんとは違った意味で危ういところもある気がするんだよね。なんだか、気づいたら手の届かないところにいっちゃいそうな感覚があるっていうか」 「あのクロウがそんな儚げな美少女みたいなことになるっすかね?まあでも、魚澄先輩がそういう風に感じてるなら、俺ももうちょっと気にしてみるっす」 こうして話を聞いてみると、やっぱ魚澄先輩は二人のことをよく見ているらしい。少なくとも、二人に全く興味がないってわけでもなさそうだ。これはなかなか面白いことになってきたな。 「……シンペイ、悪い顔してるわよ」 「……気のせいじゃないか?」 「……三下くん、もしかして、さっきの質問の続きだったのかな、今の」 「いやぁ~、そんなことないっすよぉ?」 「ふぅん……。そういえばさ、この間みんなプールにいってたよね。私はちょっと思うところがあっていかなかったんだけどさ」 「そういや、たしかに来てなかったっすね」 あ、なんかすごい嫌な予感がする。具体的に言うと、こう……あんま率先して触れられると嫌まではいかないけど困る部分に触られそうというか……。 「雪奈ちゃんや竜馬くん、クロウさんから聞いたよ?なんだかいい感じの女の子がいるらしいじゃん。それも二人も」 「あー、いや、それは……」 なんて……なんて返すのが正解なんだこれ!?何言ってもカドが立ちそうなんだけど!? 「アンタも漢なんだし、これを機に覚悟決めたらどうなの?悪い気はしてないんでしょ?」 ターゲットモンが小声でせっついてくるが無視だ無視。さしあたりない反応を返しておこう。 「いやあ、あいつらが勘違いしてるだけでそんなんじゃないと思うっすよ。友だちの延長戦っすよ、多分」 「ううん、そんなことないよ、少なくとも遥希ちゃんは。前に依頼を出した時に遥希ちゃんが受けてくれて、そこで少しお話する機会があったんだけどね。彼女、三下口調って文字だけで三下くんのことを想像して話聞きに来てくれたんだよ?愛だよね」 「逆にちょっと怖くなったんすけど」 たしかに字は一緒だけどその字面で俺のことを想起するのはどうなんだろうか。 「あとは真宵ちゃんだっけ。あの子だって二人っきりで休憩してたって聞いたよ?中学一年とかそのくらいだってきいたし、それくらいの年頃の女の子が男の人と二人っきりになるのって結構勇気がいることだから、三下くんは相当気を許されてるんじゃないかな?」 「いやぁ、あくまで友達ってだけだと思うっすよ……?」 なんか、すごい詰めてくる。あれ、魚澄先輩ってこんな感じだったっけ……?もうちょっと大人しいというか、ダウナー気味だった印象なんだけど? 「ホント、マナの言う通りね!シンペイったら言い訳ばっかり上手くなっちゃって自分の気持ちと向き合うのがへたくそなのよ!」 「だからそのお母さんみたいな言い方やめろって!」 「自分の気持ちに正直になった方がいいよ、慎平くん。お姉ちゃんにいってごらん?」 「急に姉ぶりだした!?」 そこからはもうターゲットモンの煽りと魚澄先輩先輩の悪ノリが凄かった。 「ふふ、お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」 「遠慮しときます」 「つれないなぁ」 「アンタ滅多に人に甘えられないんだから今のうちに甘えた方がいいんじゃない?」 「余計なお世話だよ!」 ……いや本当に。 「で、実際のところ二人についてはどう思ってるの?この際恋愛とか無関係にさ」 「さっきの意趣返しが凄い……いやまあ、二人ともいい人だとは思ってるっすよ。千明先輩は強引なところもあるっすけど、こんな俺を気にかけてくれてるし、古池は控えめなところもあるけど優しいっすから。……なんかこっぱずかしいんすけど!?」 「慎平くんがさっき私にやったことだよ」 「本当に意趣返しが凄い!というかそろそろ名前呼びやめて!なんだかむずがゆくなってきたんすけど!?」 「えーかわいいのに」 「かわいくない!」 「いやーカワイイと思うわよ?」 「ターゲットモンまで!?」 なんの話をしてるんだ……? 「くぁ……」 「……っと、眠そうっすね、魚澄先輩。そろそろテントに戻るっすか?」 「うん、そうしよっかな。付き合ってくれてありがとうね、三下くん」 雑談することしばらく。魚澄先輩があくびをしたことでようやく流れが止まってくれた。 そして呼び方が戻ってる。続行されなくて本当によかった。夜が明けたら名前呼びになってましたとか怖すぎるもんな。 「今ちょっともったいないっておもわなかった?」 「思ってないっての」 勝手に人の心情を捏造しないでくれターゲットモン。理不尽な姉が増えたみたいなもんなのに喜ぶようなもんじゃない。……まあ本当の姉貴よりはマシか。元気してっかなあいつ。 「でも、失礼かもしれないけど、三下くんとこんなに楽しく話せるとは思ってなかったな。もう少し気難しい子かとおもってた」 「……俺も魚澄先輩がこんなからかってくるとは思ってなかったっす。もう少しノリが重い人かと」 最後まで失礼だなぁ、と笑って魚澄先輩がテントに戻っていく。改めて時間を確認すると普通に夜明けの方が近い時間だった。本当に寝ないとヤバいやつだなこれ。 「俺たちも寝るか、ターゲットモン」 「そうね。夜更かしはお肌の天敵だものね!」 「それについてはもう遅いんじゃねぇかな……」 そんなくだらないことを言いながら、魚澄先輩に続いて俺たちも自分たちのテントに戻るのだった。 ──── 「ぉはようございあーす……」 「サンシタ!遅い!もうご飯はできてるのよ!」 「うおぉ……頭蓋に響く……」 翌日。案の定寝不足の俺は這う這うの体でテントから起きだし朝ごはんを食いに来た。 今日の当番は勇太と光のコンビだったらしく。朝から光の甲高い声が響いていた。元気があるのはいいことだがもう少し声のボリュームは落とせないものだろうか。 「……遅かったな。デザートはもうトリケラモンが食い切ってるぞ」 「うお……まじかよ」 「起きてくるのが遅い方が悪いからな!文句は言わせないぞ!」 「まあこれに関してはシンペイが悪いわね」 「なんだ?夜更かしでもしてたのか?」 「まあそんなとこ……なんだか眠れなくてね」 「クロウが使ってた睡眠薬使うかー?」 「あれ在庫まだあったっけ?」 竜馬、トリケラモン、クロウ、ルドモン。全員今日も元気なようだ。まあ、じっくり眠れたんだし、そりゃそうである。なんなら元気はないのは俺くらいだ。 「おはよう、三下くん」 「寝坊とはいい御身分だな、小僧」 「……うっす、魚澄先輩」 と、魚澄先輩とシードラモンもいたらしい。まあ、竜馬とクロウがいるんだからそういうこともあるか。魚澄先輩は俺と違って今朝もちゃんと起きれてたようだ。やっぱしっかりしてるな、この人。 「そうだ、三下くん。ちょっといいかな?」 そんなことをいってのこのこと近づいてくる。……なんか嫌な予感がするな。 そう思いつつも避けるだけの具体的な理由も思いつかず、大人しく魚澄先輩が来るのを迎える。 ……いや、なんか近くね? 「昨日は楽しかったよ、慎平くん」 「──ッ!」 耳元でささやかれ、思わず話しかけられた方の耳を手のひらで覆う。びっっっくりした。すごいなあの人。眠気一瞬でとんだわ。 「……三下?どうしたんだ?」 「……いや、なんでもないっす」 竜馬さんが心配そうな……あるいは怪訝そうな顔でこっちを見ている。魚澄先輩がなにをしたかは見えていなかったらしい。 肝心の魚澄先輩は何食わぬ顔で微笑んでいる。肝が据わりすぎてるよこの人。ここにきて底知れない存在に感じてきたわ。 ……これ、本格的にアプローチ始まったらどっちか食らうんだろうな。しかも、一回だけじゃなく何回でも、落ちるまで。女って、怖いな。 腰と心を落ち着けて勇太の作った朝ごはんに向き合う。今日はカレーらしい。デジタルワールドのきのみやらなんやらがリアルの食材と同じ味になってたりするのにも慣れては来たが、やっぱりどこか不思議な気分にはなる。見た目が違いすぎるからな…。 「……うん、美味い」 スプーンを動かしながら今日の旅程を思い出す。たしか、次の街につくのは後二日くらいだったか。寝不足の体にはつらいが、まあ光にどやされない程度には頑張って歩かないとな。 旅が長くなってきたのもあってか、みんな野営を片付けるのが上手くなってきた今日この頃。同行したり別れたりを繰り返しながらも、俺たちはまた旅を続けるのだった。