ダブルクオーテーション(")で囲まれた文章は以下の怪文書からの引用箇所です。 No329『燃え残りの先、終焉進化ラグナルガルモン』 No334『家族と一緒に村へ』 No271『愛媛のスナおじ』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 俺は昔夜が怖かった。 影から何が出てくるのかわからない。夜寝る時も、怖がってずっと母親の手を握っていた。 今俺を取り囲んでいるのは、あたり一面の闇、闇、闇。影、影、影。 死の力と影の力。暴走する力は俺をこの空間に縛り付けている。 わずかな光に縋れば、そこに見えるのは誰かの物語。 家族、恋人、仲間達。もう俺には得られない物語。 見たくない。もう得られない幸せを見せつけられるなんて苦しいだけだ。 友情、希望、達成感。見たくもない。 ああ。俺はまだ、暗闇が怖かったのか。 ───────── …………昔のことを思い出していた。 広瀬夕真…私がこの空間に閉じ込められたばかりのことだ。 楽音に擬似コアを破壊され、私は再び世界から拒まれた。 ダークネスローダーがある限り、いつかは戻ることができる。 しかし、この影の中では物語に触れるぐらいしかできることはない。 この空間には遥か昔の物語も遠い未来の物語も、はたまた違う世界の物語でも流れ着く。死のスピリットの力によるものだ。 なぜなら死は隔てられていない。いつ死のうとどこの世界で死のうと行き着く先は同じ死であるからだ。 さあ、どの光に縋ろうか。私は手を伸ばした。 ━━━━━━━━━ "「―――ボクの勝ちだ、クラースナヤ。約束通り、終末のデータは貰っていくよ」" "「流石に被験体だけあって中々やるモンですが、ここで時間切れですかねェ。こっちとしては願ったり叶ったりってトコですが」" ふむ…あれはアスタモン…隣に立っているのは…確か黒曜将軍に惚れていた彼か。 倒れているのは…確かアルバイターの少女だっただろうか。 彼女にこんな素晴らしい苦しみがあったとは知らなかったなぁ… ここではあくまで覗き見ることしかできない。見たことのない人物であれば名前すらわからないし、その物語がどのような歴史の上にあるのかも知ることはできない。 これはどのような世界の物語なのだろうか。 覗き続けていると、少女が何か言葉を発しようとしているのが見えた。私はそれを聞こうと耳を澄ます。 ”「生まれるんじゃ、なかった……」” 素晴らしい。苦悶に満ち溢れた一言…直接聞きたい…もっと近くで味わいたい…!いくらそう感じたところで、私はこの影の中から出ることはできない。 私がその一言を噛み締めている間にも、影の向こうで物語は続く。 ”「俺はまだ……俺たちはまだ……」" "「まだ、始まっても、いないんだ……!」" ピンク髪の彼女のパートナーであろうルガモンが、燃え尽きかけた身体に再び火を灯していた。 つまらない…大人しく絶望の淵に沈んでおけばいいものを。私にはもはや沈む絶望すらない。 私のバッドエンドを求める心が物語を歪めろと騒ぎ出す。 私の望みとは真逆の方向に物語は進んで行き、彼女とルガモンは新たな進化を手に入れていた。次の瞬間、光は霧散し消えた。 さぁ、次の光へ…私はまた手を伸ばす。 ───────── "「ロードナイト村で結婚式…というよりは村おこしの為のイベントか、一体どんなことやるんだろうな…」" "「結婚式…って何するの?」" 彼は…確かことあるごとに宿泊所を開いたり、人をもてなしている男だ。名は…なんと言ったか。 外に出ることができていれば軍のデータベースの情報を見ることができるのだが… "「沢山の人間が暮らしているからな、同じ場所に通ってたり、同じ場所で働いてたり、何となく自分は仲良いと思ってたけど相手はそう思ってなかった!なんて事が無いように思いを言葉や形にするのが人間なのさ。」" 話の内容から察するに、この物語はロードナイトモンがブライダルイベントを開催した枝のものだろう。 "「そっか…じゃあ、オレも言葉にしないとね…ちゃんと聞いてね。」" "「急に改まってどうした?」" "「オレね、ゲンキがオレの家族で良かったと思ってる。オレの父さんになってくれてありがとう、愛してる。」" あーあー甘い甘い。私はこの光を手放した。 私にこんな物語のように甘い時間を過ごしたことがあっただろうか。 私は思い出せる限りの自分の記憶を辿った。 ────────────────── 「夕真…!私の影のスピリット…引き継いでくれ…」 影宮が震える手でスピリットを私に握らせている。 「成正!お前俺を一人にする気かよ!」 「一人じゃない…!スピリットが一緒だ…私だけじゃない…ルイだって綾女だって識乃だって…スピリットと共にある…だから…お前は一人じゃな──── 彼の体が影となって消えた。今ならばなぜそうなったのかわかる。スピリットの長期使用と身体データへの過負荷が彼の体を崩壊させたのだ。 私の手には5属性のスピリットが揃っていた。 「うあぁぁぁ!!!!!」 私はそれを全て取り込む。 「エンシェントスピリットエボリューション!!!」 次の瞬間そこに私の姿はなく、カムドモンが顕現していた。 ───────── 「広瀬くん…ありがとう…」 胴体を貫かれた識乃が私にしなだれかかっていた。貫いたのは、私だ。 「ごめん…助けられなくて…!」 血に染まった手で彼女を抱き止めながら、私が涙ながらに呟いていた。 識のスピリットを悪へと変性させてしまい、暴走する彼女に私は引導を渡すしか無かった。 「お…お前ぇぇぇ!!!」 後ろから誰かが走ってきた。ルイだ。 彼は私を突き飛ばし、識乃を抱きしめる。 「ルイ…広瀬くんを怒らないであげて…」 「しっかりしろシノ!ボクはシノなしじゃやっていけない…」 「そんなことないよルイ…お母さんと…なかよ……… 識乃の体がいくつもの破れた本のページに変化し、それぞれが燃え尽きるようにチリと化し消えた。識のスピリットの悪影響だ。 「シノォォォォ!!!!!」 ルイは悲しみのあまり叫んだ。そして、彼は私に向かってくる。 「お前が…お前がシノを殺したんだ…!この…人殺し!」 彼はそう叫び、私を殴った。 「じゃあどうすればよかったんだ!一生あのまま暴れさせとけばよかったのかよ!お前だって助けられなかったくせに!」 私も彼を殴った。 この殴り合いは、やがて二体のハイブリッド体の争いへと変わっていった。 ───────── 「ねえ、キミはシンカしたらどんなデジモンになりたい?」 外から聞こえた声に、殻から少しだけ目を覗かせた。 声の主は、私と同じカラモンだった。 「ワタシはメルヴァモンみたいにツヨくてウツクしいデジモンになりたい!キミは?」 「ボクは…ロイヤルナイツみたいな…セカイまもるデジモンに…なりたい。」 私はそう答えた。 「イイね!ねえシッてる?スピリットっていうのをツカえば、フツウにシンカするよりはやくつよくなれるんだって!」 私よりも強く輝く目で語っていた彼女は、翌日殻ごと他のデジモンに捕食された。 私は彼女を助けようともせず、ひたすらに逃げた。逃げて逃げて逃げた先で、私は二つのスピリットと出会った。 「コレで…ツヨく…!」 死と影、二つのスピリットの負荷に耐えられるはずもなく、私の体は影となり、この世界に閉じ込められた。 ────────────────── ダメだ。どんな私の過去の記憶を辿っても、そこには絶望があり、最期にはこの暗い世界に閉じ込められる。 陳腐で凡俗なただの絶望。そこに一切の幸せはない。 他人の幸せなんて見ても辛いだけだ。今まで一度も手にしたことがなく、これからも手にできないものなんて。 なのに私は、また手を伸ばしていた。 ───────── "「なんだ、浩一郎も出るのか」" "「面倒だけど……まだ人生を楽しむつもりだからね」" 浩一郎と呼ばれていた男。彼には確か…さまざまな呼び名があった気がする。 インおじ…だったか。馬鹿げた名とは思うが、なかなかに侮れぬ男のはずだ。 "「まぁそう思うよ、居なくたって愛媛は砕ける……この言い方だと愛媛県が砕けるみたいだなぁ」" "「なら愛媛の形をした隕石?」" 名もそうだが、話している内容もまた馬鹿げている。これは愛媛が落ちてくる枝か。 あの枝に私は関われなかった。 "「クンビラモンッ!!進化ァァァァアア!!!」" "「タクトウモンっっっ!!!」" ほーう…やはり侮れない男らしい。究極体を操るテイマーは皆厄介だ。 "「介抱には期待するな……タクトウモンっ……モードチェンジっ!!」" "「タクトウモン……ラァァァアアスモォォオドッ!!」" 今度はラースモードか。流石だ。 などと物語に見入る自分がいることに気付いた。 同じだ。ダークネスローダーを手に入れる前と。 誰かが幸せに暮らしたり、再び立ち上がったり、まるでヒーローであるかのように戦っていたり。 私はそれを蚊帳の外から眺めるだけ!私はもうそんな惨めでいるのは勘弁だ!!私こそ物語を創る者!このダークネスローダーを手に入れたあの日から! 早く私は戻らねばならない! 私はダークネスローダーを掴んだ。 それの画面が淡く光り、周囲の影に一際大きい光が生まれる。 「…!?ネオデスモンサマ?」 その光から声がした。 「プヨモン…か?」 一つしかない瞳にサングラスをかけている私の配下の一人。その姿が光の中に見える。 「やっぱりネオデスモンサマだ!」 物語を覗くのとは違い、どうやら意思の疎通だけはできているらしい。 擬似コアが少しだけ復元できたのだろう。 万全でなくとも、シナリオに手を加えられる。このことがいかに変え難い喜びか。 ━━━━━━━━━ 死影の世界(仮称) ネオデスモンの本体が存在している世界。 影のスピリットの影響が強く、外界の影に通じているが、死のスピリットの力により、時間の概念が存在しない。 外界からの突入はさほど難しいものでは無いが、留まることはネオデスモン以外には不可能。そのためネオデスモン配下のデジモンもここにいるわけではなく、デジタルワールドにある拠点から通り抜けさせる形で召喚している。 またネオデスモンはここから出ることが出来ず、ダークネスローダーによって作り出した擬似コアによって、一部を外に引っ張り出す様にして外の世界に干渉している。 ━━━━━━━━━再掲の設定━━━━━━━━━ 以下の情報はネオデスモンが語ったことの詳細であり、事実であるのかは不明。 ━━━━━━━━━ The Selected Five 裏十闘士や影十闘士のスピリットを手に、世界を守るため戦った子供達。 Dスキャナを使用せず、スピリットを直接取り入れることでスピリットエボリューションを行っていた。そのため負荷が大きく、それが原因で死亡したメンバーも存在する。 影 影宮 成正(なりまさ) とある財閥の会長の次男だった。高校生。兄は財閥を引き継ぐ事を周囲から期待される一方、自分は兄と比べて何もかも劣っているという鬱屈した思いを抱えながら育つ。 そんな思いと影のスピリットが共鳴し、選ばれし子供となった。 友真と共に最終決戦まで生き残ったが、その戦いの最中に死亡。自分の持っていたスピリットを全て彼に託し、消滅した。 スピリットの長期使用により、無意識に暗いところを好むようになっていた。 妖 大石 彩女(あやめ) 俗に言う所の厨二病の女子だった。中学生。ぬらりひょんの娘を自称しており、妖のスピリットを手にした際には舞い上がっていた。 しかし、本心では戦いなど望んでおらず、ただ普通に暮らしたかったと思っていた。戦いを重ねてゆく内その気持ちが大きくなり、戦闘を避け、仲間たちの後ろに隠れるようになる。 その結果、仲間たちがダブルスピリットエボリューションに覚醒する中、一人だけ戦力的に取り残されてゆく。 しかしある戦いの際、仲間たち全員が戦闘不能になるという事態が発生する。彼女は覚悟を決め、ついにダブルスピリットエボリューションに覚醒した。 だが、長く戦いを避けスピリットを使用していなかったその体には負荷が過剰であり、最終的に敵と刺し違える形で死亡、消滅した。 この出来事は残された仲間達にも大きな衝撃を与えることとなる。 呪 矢口 ルイ フランス人と日本人のハーフの少年。高校生。幼少期をフランスで過ごし日本とは縁の薄い生活を送っていたが、親が離婚。 彼は父親と共にフランスに残ることを望んだが、母親が無理やり日本へと連れ帰った。 途中から入った小学校では日本語が不自由なこともあり、周りから浮いた学校生活を送る事になった為、実母を怨むようになる。 そんな歪んだ感情が呪のスピリットと共鳴した結果、彼は5人の中で最も強い力を持つ戦士となった。 識乃は彼の従姉妹であり、デジタルワールドで初めて出会った。最初は母方の親戚ということもあって険悪なムードだったが、戦いの中で惹かれ合っていく。 識乃が死んだ際、識のスピリットは彼が引き継いだ。 敵の本拠地に至る戦いの際、友真と成正を先に行かせ、自らは足止めをする事を選んだ。最初から識乃の後を追うつもりだったらしく、4つのスピリットを取り込み敵軍を壊滅させたが、過負荷により死亡。 消滅した後、スピリットは友真と成正の元へと飛んでいった。二人はそれにより、彼の死を察した。 スピリットの長期使用により、憎悪を押さえ込むことが難しくなっていた。 識 矢口 識乃(しの) 平凡な日々を送っており、その平凡な生活に満足していた少女。小学校高学年。 識のスピリットに選ばれた理由もわからず、戦いに身を投じることに対し躊躇しなかった仲間達に軽い恐怖感すら抱いていた。 しかし、ルイとの交流を通じ、だんだんと覚悟を決めていった。 同性ということもあり仲を深めていた彩女が戦いを拒み始めたのとは対照的に、夕真の次にダブルスピリットエボリューションに覚醒する。 彩女が死んだ際彼女は深く動揺し、スピリットを使うことができなくなってしまう。それでも無理やり戦おうとした彼女はスピリットを悪へと変質させてしまい、暴走する。 ルイは暴走を止め彼女を救おうとしたが力及ばず、最終的に夕真が彼女に止めを刺す形になってしまった。 スピリットの長期使用により、図書館のデータベースの内容を夢に見るようになっていた。 死 広瀬 夕真(ゆうま) 自殺未遂を繰り返し入院中の少年。高校生。人生はつまらない日々をただひたすらに繰り返すだけだという考えから学校の屋上から投身自殺を図るが、一命を取り留めてしまう。 しかし、入院中の日々は彼にとってイレギュラーなものであったことから、入院することを目的に自殺未遂を繰り返すようになる。 何度も死に近づいたことで死のスピリットと惹かれ合い、選ばれし子供となる。 デジタルワールドでの戦いの日々は彼にとって非常に刺激的なもので、戦いを純粋に楽しんでいた。 しかし、仲間が一人、また一人と死んでいったことで考えが変わり、つまらない日々を繰り返せることがいかに贅沢であったかを思い知った。 最後には一人生き残ってしまい、危険を十分承知しながらも死、影、妖、識、呪のスピリットを全て使い「カムドモン」へと進化した。 己を全て燃やし尽くすことを代償とし、彼は敵を空間もろとも破壊し尽くし滅ぼした。 しかし長きに渡る使用によってか、魂と深く結びついた死のスピリットは彼を死なせることはなく、幽霊のような状態に変化させてしまう。 その状態をなんとかするために彼は残留していた影のスピリットと融合したが、イレギュラーな状態の体に複数のスピリットを取り込んだことによりエラーを起こした結果、彼は影の中に閉じ込められてしまう。 永遠にも感じられる世界からの拒絶は彼の性格を歪めた。 デジモンイレイザーに与えられたダークネスローダーの力により、彼はこの世界へと帰還し、自らを”死影将軍”嗜劇のネオデスモンと名乗るようになった。 なお、これらの出来事の記録はカムドモンが敵を滅ぼした際に巻き添えとなって世界線ごと消滅してしまい、どこにも残存していないようだ。 また、よく似た広瀬友真という少年の存在がある世界線で確認されているが、Dスキャナを所持しており、仲間に死者が出ていないなどいくつかの差異が存在している。 カムドモン 究極体・神人型・ヴァリアブル 裏十闘士や影十闘士のスピリットを5属性分集めることで顕現するとされるデジモン。 かつて神が怒りのままに振るった剣の名を冠しており、世界すら揺るがす強い力を持つ。 穢れを強く嫌う性格であり、正義も悪も構わずに自分が穢れているとしたものを消し去る。 神のようなその力を完全に引き出すためには、生贄を必要とする。 ━━━━━━━━━ カラモン 殻で自らの体を守るスライム型デジモン。幼年期。 攻撃能力はなく、殻の中身も柔らかく捕食されやすい。敵を早期に発見して避けるため一つ目が大きく発達している。 身を守るための殻も成熟期デジモンの攻撃で簡単に破壊されてしまう。 発電能力を得たカラモンの一部はプヨモンへと分岐していった。 ネオデスモンによると、カラモン自体は捕食されやすさにより数を減らし、現在では絶滅したらしい。 元から生息数も少なかったようで、現存する記録はない。