フェレスモンMAKUAKE 契約に必要なものは情報だ。 何をしなければならないか。何をしてはいけないか。それをするのに何が必要で何が不要か。 情報を隠して契約を破らせ一方的に搾取する事もある。情報を与えて契約を守らせる事もある。 このオレ、フェレスモンは契約を重視する。取り決めたルールさえ守ればその力を振るう。 デジタルワールドで西城カズマという男に出会った。ゴクモンと多くのデジモンを従えて、西城会というヤクザ集団を名乗っていた。 西城の腕は確かなものだった。配下のブギーモン達では相手にならず、オレも殴り飛ばされた。 オレを倒したその後で西城会に勧誘された。 デジタルワールドで勢力を拡大し、いずれはリアルワールドに手を伸ばす。強いヤクザの時代を取り戻す。それがオレの聞いた西城の野望だ。 強い者には従おう。だが全てが上手く行く訳ではない。だからこの縛りが必要だ。 「いいぜ。このオレ、フェレスモンは『西城カズマが負けない限り』西城会に付いていこう」 西城カズマが殺された。これからリアルワールドへと手を伸ばそうとしていた頃だ。 西城会はゴクモンを頭に変え、少しずつ『ズレ』ていった。 誰も西城カズマの目指した強いヤクザの在り方を正確に理解していなかった。西城カズマは腕っぷしが強かった。強いデジモンが幹部の座に着いた。西城カズマは悪知恵も働かせていた。頭の回るデジモンが参謀として側に着いた。西城カズマは資金をどう集めていた?弱いデジモンから金を奪い始めた。幹部連は手段は問わなかった。西城の名で下っ端が暴れ、奪い、上へ納める。上へと登る為に下っ端同士でも争い合う。 西城カズマの目指した強いヤクザは。 西城カズマの野望は部下のデジモン達に敗北した。 契約は終了した。 「どこへ行くフェレスモン」 リアルワールドにある西城会に占拠された事務所。遺されたデータを元に襲撃したここは、西城会のリアルワールドへの第一歩として西城カズマが決めていた……らしい。 残されたパソコンとボロボロのソファ。焦げ付きのテーブル。割れた窓に穴あきの壁。暴れるだけ暴れて片付けもしねぇ。 リアルワールドの金は今のところ金庫に残されていた分で全部。現幹部連中が言うには次の襲撃場所でも調達するつもりらしいが。 オレにはもう関係ない。 「契約が終わっちまってな」 オレだけではこいつらに勝てない。 それでもここに残る理由は無かった。 震えそうな声を抑えて絞り出す。 「西城会に着いていく理由がなくなっちまった。オレはここで抜けさせてもらうぜ」 川へと落ち、何とか生き残った。 ボロボロの身体をなんとか引きずって陸へと這い上がる。……これからどうすっかなぁ。 「おうお兄ちゃん。ボロボロだな。生きてるか?」 人間の声。年をとった男の声だ。 「見ねえ面に変わった見た目……デジモンだな」 西城に似た、血の匂い。 「最近この辺で西城会を名乗るデジモン達が暴れてるんだが知ってるか?」 よく知っている。 「無関係ならサツでも呼んでやるから保護してもらいな」 「……西城カズマ」 男の表情が変わった。 「アイツが死んで……今はゴクモンが仕切ってる」 「なんだ……死んだのか、西城」 少しトーンが落ちたか……?知り合いだったか。 「殺されたんだ……まあ殺ったのはゴクモンだろうな」 状況と手口を考えれば十中八九ゴクモンだろう。奴の野心は他のデジモンも知るところだ。 「アンタ、ヤクザだろ?血の匂いがするぜ」 上手く隠しているが、オレにはわかる。西城の知り合いなら尚更。 「西城カズマは強いヤクザの時代を取り戻したかったらしいんだ」 「……へぇ」 「でもオレ達はそもそもヤクザってのを……西城しか知らなかったのもあって暴走して」 思い返すのは強い奴の言う事を聞いて、ただ暴れる下っ端のデジモン達。 「その結果が今の西城会だ」 それじゃあ野良のデジモンとたいして変わらねぇんじゃねえか。 「なんか、違うんじゃねえかと思ってよ」 「成る程な」 男は納得したのか、空を見上げた。 「お前、名前は」 「フェレスモン」 「着いてきなフェレスモン。お前に教えてやるよ、本物ってやつを」 男の眼は、サングラスの奥で燃えていた。 「地獄で見てろよ西城。俺達は弱くなんてなっちゃいねぇんだよ」