「……あのさァ、やっぱヤメない?」 ベッドの上、膝立ちになったナツルが口を開いた。 「ナンデ? 私がしてって言ってるのに」 ステイシーは全裸で横たわり、不機嫌な顔になる。 「いた、だってさァ……ステイスのこと首絞めたりなじるなンてさァ……ボクそういう性癖ないし……」 「うそつき」 ステイシーは唇を尖らせた。 「調子乗ってる時のアンタはヘビみたいにねちっこくてサドなのに、実は二重人格?」 「違うよォ!? それはステイスのこと喜ばせたいだけで……あとボク、首絞めはさすがにしたことないし……」 「だ・か・ら、やってみたいの。アタシのこと、喜ばせてよ」 「……ウーン……」 それでもナツルは乗り気にならない。 「慣れてないから手加減できないかも」 「アンタのカラテなんてたかが知れてる」 「ホントにひどいこと言っちゃったり……」 「アンタみたいなダメ人間に何言われても気にしないわ」 「……ヤメてって言っても止めないほうがいいんでしょ? ボクそんなのライン見失いそうで……」 「どうしても危ない時は自分で跳ね除けるから、気にしないで。ほら……」 「ハァ……ホント、気が乗らないけどなァ……」 ナツルは渋々馬乗りになった。ステイシーはそうやって思いやってくれることが嬉しく、また意地悪にからかうのにも少し昂りつつ淡い期待をして待ーー。 「ーーがッ……!?」 前触れもなく、いきなり細い両手が首を鷲掴み、躊躇なく締め上げた。徐々に、というレベルではない。細い腕に筋肉と腱が浮かぶほどの本気の締め上げ。 「か、は……ちょ、いきなり……ッ」 「黙れよ、売女(スラット)」 ヘビめいた瞳が酷薄に見下ろした。口元には裂けたような笑み。 「ベラベラベラベラ、好き勝手にほざいてよォ、ようはテメェがマゾアクメぶっこきたいだけだよね?」 「かッ……ァ、ぐ……ッ」 「ただハメられるだけじゃ物足りない、ニューロン空っぽの低知能のファッキンビッチが偉そうにカラテ語ってンじゃねェよ、ほら、気持ちいいんだろ? ヨガってみろよマゾ女!」 「……ッ♡♡ け、こァ、は……ッ♡♡♡」 ブシュッ、プチュ、しょろろ……ステイシーは繰り返しアクメしながら激しく失禁する。低酸素状態でニューロンがぼやけ、死が近づく。二度と戻れない闇 が。 「あァーあ、ガキめいて漏らしてンの。所詮カチグミの甘ちゃんだよねェ、マジでぶっ殺してやろッか?」 「ッッ、……ッ♡♡♡」 嘘だ。ナツルはギリギリのところで力加減をかけている。意識が落ちる一歩手前で、本当に少しだけ力を緩め、血流と呼吸を最低ラインで維持している。愛情がある。だが容赦はしていない。虫の羽を弄ぶ子どもめいた残酷さ。 「命乞いしてみろよ、なァ! 出来ないの? じゃ死んじゃおッか? ほら、ほらァ!」 「……ッ♡……ァ♡イ……ッッ♡♡」 てんかんを起こしたかのごとく手足が痙攣した。帰ってこれないかもしれないという極限の不安と緊張、絶対に助けてくれる、死なせたりというしないという信頼と安堵……無限の奈落の瀬戸際で片足立ちするような不安と、母親の腹の中のような安堵が同時に頭を突き刺し、狂ってしまうほど絶頂する。一番に胸を焦がすのは、愛だった。 ◆◆◆◆ 「やっぱり無理だよォ、ボクこういうのホント無理ぃ!」 「……でもしてくれるの、大好き……ナツ、好きよ……♡」 「はァ……ステイスが嬉しいならいいケド……ボクも愛してるよ、ね」 「うん……♡今度は優しく、いっぱい愛して……♡」 夜はまだ続く。