※太線(━━━━━━━━━)は語り手の変わる場面転換、細線(─────────)は語り手の変わらない場面転換を表しています。 「ん〜…私はビールかな〜シャウトモンは?」 「あー…そうだな…カルピスで。」 「あっはっはっはっは!何それ子供みたーい!」 「いいだろ別に好きなんだから!」 ライブの後、俺とほむらは二人で居酒屋にいた。 「シャウトモン何食べる?」 「んー…砂肝だな。」 「なかなかいい趣味してるじゃん…すみませーん!砂肝2本ともも!どっちも塩で!」 程なくして、ジョッキが二つ運ばれてくる。 「「乾杯!」」 「んっ……ぷはー!すみませんレモンサワーお願いしまーす!」 「お前だいぶ飛ばしてんな…」 「いいじゃん打ち上げなんだしー!」 いつもそれぐらい飲んでるだろ…とは言わないでおいた。 「今日も盛り上がったなほむら!」 「ギターのミスしなくて良かったよ〜…」 「大した指さばきだったぜ!」 そんな他愛もない話をしながら、数十分後。 「……ねえシャウトモン。最近何か変って思ったことない?」 ほむらが7杯目に入った頃、そんなことを言い出した。 「変?どういうこったよ?」 「なんかさー…最近誰かにつけられてるっていうか…そんな感じがするんだよね…」 「そりゃまた穏やかじゃねえな。ストーカーってことか?」 「うーん…そうなのかな…?直接見たわけじゃないからよくわかんなくってさ…ただなんか…ずっと誰かに見られてるみたいな感じがしてさ…シャウトモンわかんない?」 「俺はなにも…もしかして今もそうなのか?」 「………うん。」 ほむらは周囲を見回してから、小さく首を振った。 この店の中にいるのか?俺も辺りを見回してみたが、特に不審な人物は見当たらなかった。 ただ、何か嫌な予感のようなものは、俺にも感じ取ることができた。 「そういうことなら、あんま遅くなる前に帰った方がいいかもしんねえな。」 「えー…まだ全然飲んでないんだけどー…」 ───────── ほむらを引っ張りながら足早に道を歩く。 「ちょっとシャウトモーン!そんな引っ張んないでよー!」 「嫌な予感がする!とっとと帰るぞ!」 先を急ぐ俺たちの前に、人影が立ちはだかった。 「まさか気付かれてるとは思わなかったよほむらクン。」 「ああ⁈誰だテメェ!」 その人影からは、人間一人とは到底思えない圧を感じた。 「あれ…?先輩じゃないですか!」 「知り合いか?」 「うん…よく私のライブ聴きに来てくれてて…どうしたんですか先輩?」 男はほむらの方へと近づいていく。 「本当はもっと泳がせて一番の食べごろを待とうと思ったんだけどね…」 男の目が、黄色く光った。 「離れろ!そいつおかしいぞ!」 「気付かれちゃったら…もうしょうがないよねぇ!」 男の体が六角形の白い何かに包まれていく。これは…卵の殻か? 殻が完全に男を包み込むと、恐竜のような両足がそれを突き破り生えてくる。 デジタマモン。噂に聞いたことがある…こいつは、人喰いデジモンだ。 「ほむら逃げろ!ロックダマシー…G!」 火炎弾をぶつけたが、強固な殻には焦げ跡一つ付くことはなかった。 「ほ〜むらク〜ン!君みたいな女はとっても美味しいんだよねぇ〜!!」 「俺が時間を稼ぐから逃げろ!ブレイクロッカー!!」 いくら殴ろうが、ヒビすら入らない。 「でもシャウトモンはどうすんの!」 「俺のことはどうだっていい!こいつは人を喰うんだ!早くにげ────「ナイトメアシンドローム」 ゼロ距離で放たれた暗黒の球体。俺はそれをモロに喰らってしまった。 「ぐぅぉはぁッ!!」 「シャウトモン!!!」 全身が軋む。まるで何かに握りつぶされたようだ。 「ディナーの邪魔をしないでねぇ〜!」 「ほむ…ら…にげ…ろ…!」 体がいうことを聞かない。せめてラウドモンに進化できれば…! ほむらが走って逃げていくのが見える。息が苦しい。俺はダメでも…お前は…! 「つ〜かまえたぁぁ〜!」 デジタマモンから発せられた黒いエネルギーが、ほむらの足を掴んで宙吊りにし、口元へと持ってきていた。 「離してよ!この!」 ほむらはなんとか逃れようともがいている。 せめて奴の意識を逸らそうと再びロックダマシーGを放とうとしたが、腕どころか体全体に力が入らなかった。 「ひぇへへへ!いただきま〜す!」 「放せって…言ってるでしょ!」 宙吊りにされたほむらは、デジタマモンに向けてパンチを放った。 黄色い目が不気味に光る空間。殻の中へと向けられたほむらの右腕は、次の瞬間なくなっていた。 「えっ………いっっっっ!!?!!!?」 「ほむ…ら…!?」 右腕を喰われたほむらの叫び。噴き出た血が、デジタマモンの白い殻を赤く染めたその光景。 それが、意識を失う前の最後の記憶だった。 ━━━━━━━━━ 「ぎゃああああ!?」 ほむらの腕を食ったデジタマモンの叫びが、辺り一体に響いた。 「不味い!不味すぎるぞ!なんだこの味はぁぁぁ〜!お前…!なんで人間から薄汚いデジモンの味がするんだよぉぉ!!!?」 悶えるあまり、デジタマモンは彼女の足を離した。 「というか…人間の味じゃなぁぁい!なんなんだよぉ!!!」 ほむらはそんなデジタマモンに目もくれず、倒れるブラックシャウトモンの方へと這っていった。 「ねえ…!シャウトモン!起きて!」 「許さんゆるさんゆるさぁぁぁん!!!潰してやるぅぅ!!!」 ほむらを踏み潰すため足を上げようとしたデジタマモン。 「ぎゃああああぁぁぁ!!!!」 彼に背後から切り掛かるものがいた。 「うっわぁ〜さすが次席の特別製!デジタマモンを殻ごと斬れちゃうなんて!」 ファントモンとそのテイマー、永須芽亜里。 「はぁ、人間も一緒って聞いてたから私も殺せると思ったのになぁ」 ファントモンは楽しげにデジタマモンに斬撃を加えてゆく。 「そろそろトドメかなぁ〜」 「待ちたまえファントモン。」 最後の一撃を与えようとしたファントモンを静止する声。 それを発したのは緑の服のワイズモン、エルダーワイズモンだった。 「捕まえなさい。」 彼の号令で、プロテクターを身につけた人間達が何人も現れる。 「電子生命体捕縛装置展開します。」 紫色の光の輪がデジタマモンを包み、装置へと吸収される。 「人間が分離しました。どうしますか。」 「そちらも捕まえたまえ。それと、ほむらとブラックシャウトモンを例の病院へ。」 「了解。」 「ちょっとちょっと、殺していいって言ってたじゃん!」 ファントモンが不満げに訴える。 「事情が変わった。あの2体を殺すと不都合が発生してしまう。」 エルダーワイズモンは訴えをにべもなく切り捨てた。 「ファントモン、誰か誘って殺そっか。」 「そうしようメアリー…」 二人の殺人鬼は夜の街へと向かっていった。 ━━━━━━━━━ 「う…あ…」 目を覚ますと、無機質な白い天井が見えた。 体が自分の思う通り動く。 「そうだ…ほむら!」 「ほむらを探しているのかい。」 声がした方を見ると、そこには長身の緑の服を来たデジモンがいた。 「超再生ディスクが効いて良かった。君はデジタマモンの攻撃で生命活動を停止しかけていたんだ。」 ここは…病院なのか…?というかこいつは誰だ?どうしてほむらの名前を? 「ほ…ほむらを知ってるのか!?」 「もちろん。君よりもずっとよく知っている。」 「ほむらはどこにいるんだ!」 ずっとよく知っている。その言葉がすこし引っかかったが、ほむらのことが気になった。 願わくば、俺の朦朧とした記憶が間違いであって欲しかった。 「彼女ならそっちに…おっと。」 俺は話を最後まで聞かずベッドを飛び出した。 「あれ…シャウトモン…目が覚めたんだ…良かった。」 俺を見て笑う彼女の右腕は、やはり肘から先がなかった。 ━━━━━━━━━ ほむらの所在を教えると、彼は焦った様子で駆けていった。 超再生ディスクの効果だろうか。ナイトメアシンドロームを食らった後にしては元気なようだが、もう少し安静にしていた方がいいように思う。 「ほむらぁ……俺様が不甲斐ないせいで…!」 「いいよ…生きてるんだしさ…」 「でも…これじゃギターが…!」 「シャウトモンが弾けばいいよ。私はボーカル専念するからさ。」 追いかけてみると、ほむらは泣きじゃくるブラックシャウトモンを抱きしめていた。 「シャウトモンが元気ならそれでいいの。私の事はどうだっていいよ。」 「水を差すようで悪いがブラックシャウトモン、君は自分の体のことを気にした方がいい。」 「えっと…あなたは…?」 ほむらが私のことを怪しむような目でこちらを見る。 そういえば直接姿を晒すのは初めてだった。鏡花に怒られてしまうだろうか。 「私はエルダーワイズモン。FE社に籍を置いている。言うなれば君の上司だ。」 「そうだったんですか…ありがとうございます。…シャウトモンのことも助けてくれたんですよね?」 「礼を言う必要はない。君たちに直接危害が加わってしまったのはこちらの不手際だ。」 「用意ができた。ほむらをこちらへ連れてきて。」 本当はもう少し話したかったのだが、鏡花からの通信が入ってしまった。彼女を連れて行こう。 「ほむら。君の治療の準備が整った。手術室に連れていくから指示に従って欲しい。それと…ブラックシャウトモン。君はこちらへ。」 看護師達にほむらを任せた。私には彼に伝えるべきことがある。 ━━━━━━━━━ 俺はエルダーワイズモンに促されるままに椅子に腰掛けた。 「で、俺様に何の用だよ。」 「まずは君の体についてだ。ナイトメアシンドロームによって君の体は相当深刻なダメージを負った。治療は施したが今後何があるかわからない。しばらくは進化を避けなさい。」 「…わかった。」 こいつ、俺がラウドモンに進化できることも知ってやがるのか。 「次に…ほむらのことだ。彼女の腕についてだが…心配はいらない。元に戻せる」 「元に戻せる…⁉︎どう言うことだよ!」 「言葉の通りだ。ギターの演奏も問題ないだろう。」 「どうやってそんなこと…」 俺がそう問うと、奴は困ったように言った。 「何と言うべきか…彼女は特別なんだ。人間ではない…と言うと語弊があるが…」 ほむらが…人間じゃない…?特別…? 「ど…どう言うことだよ!」 「あまり深くは話せない。それにほむらはこのことを知らない。君にも伝えるべきではなかったか…」 理解が追いつかねぇ。一体どう言うことなんだ…? 「ともかく、君にはほむらに今まで通り接して欲しい。今日のことも忘れなさい。辛い記憶など忘れるに限る。」 「ちゃんと説明しろよ!ほむらが特別ってどう言うことだよ!」 「……君はもう帰った方がいい。」 「待て!まだ話は終わってねえぞ!」 「ラプラス」 詰め寄ろうとした次の瞬間、俺はほむらの部屋にいた。 「なっ…!何でここに⁉︎」 転送されたってことか…?それより早くほむらを助けに行こう。あいつに任せておいてはいけない気がする。 「そういえば…どこだったんだ…あそこ…?」 近隣の病院を探してみたが、一致するところはなかった。 俺たちは一体…どこにいたんだ? ───────── 翌朝。 気付くと空が明るくなっていた。知らないうちに眠っていたらしい。 キッチンから物音がする。 「あれ〜?珍しく起きるの遅かったねシャウトモン」 「ほ…ほむら…腕…!」 ほむらは洗い物をしていた。しっかりと、両手を使って。 「腕?……別に何ともないけど…なんかついてる?」 「だって…昨日…!」 「昨日?ライブで何かしたっけ?」 「いや…その後に!」 「後…えっ…と…ライブの後何したんだっけ?…思い出せない…シャウトモン覚えてる?」 あれ…昨日の夜…何があった…?どうしてだ…思い出せない… どうして俺は…ほむらの右腕が気になったんだ…? 「悪い…俺も覚えてねぇ」 悩む俺の頭の中に、『辛い記憶など忘れるに限る。』と言う、誰かの声が響いていた。 ━━━━━━━━━ 「あれ?スマホのロック解除できない…あっ左手ならできた。なんでだろう?」 ━━━━━━━━━ 先輩 ほむらのゼミの一つ上の先輩だった男。ほむらのライブに何回か来ていた。 数週間前、デジタマモンに襲われ一体化してしまった。今までに3人の人間を捕食しており、ほむらを付け狙っていたことから鏡華により始末の要請が出された。 ほむらの右腕を再錬成するための材料として両腕を使用されたのち、実験材料として残りも消費された。 デジタマモン 人間を食うためにリアライズしてきた。目についた人間を手当たり次第に喰らってしまおうとしていたが、人間を乗っ取ればゆっくりと品定めできると考え男に取り憑いた。 捕獲された後は、データの100%を再練成の材料として消費された。