「それでは本日の定時報告を。まず『校長』から。」 『陸自のほうから連絡があった。ギズモン製造工場の襲撃が相次いだせいで学園警備の定数が維持できないそうだ。ひいてはFE社の戦闘部門に協力願えないかと。」 『バカな事を言うな!五行はどこも戦力をすり減らされてそれどころではない!』 「『人事部長』、貴様の順番はまだだ。発言を慎め。次は『計画主任』。」 『本日の実験結果の詳細は同期してもらうとして結論から言うと進展はない。』 「だろうな。私のほうもそういう手応えだった。では『探索班長』。」 『例の特異強化個体郡の活動痕跡や情報は本日も得られず。……やはりデジタルワールドにはもういないのでは?』 「それは外部改造個体である貴様の考える仕事ではない。次、『捜索班長』。」 『公的機関の保護児童リストに該当する追加は今日もなし。デジ対のデータベースへの侵入作戦を提案します。』 「やめておけ。あそこへの侵入は過去全て失敗している。」 『やはりあの特異強化個体……“ヘルギ”さえあればあの程度の防壁など……!』 「『オリジナル』、ないものねだりをしても仕方がない。さて、時間がもったいない。そろそろ『同期』を開始する。」 『待て!儂の発言がまだだぞ!』 「『人事部長』、貴様の方もどうせ大した報告はないのだろう?見栄だけで物を言うのはやめろ。」 『むぐっ……。』 「では『同期』開始。」 Dr.ポタラと彼の仕事 FE社人事部長・都立デジモン学園校長・チェンレジ計画及びクロノスタシス計画主任を兼任するチャーパ・ポタラ。 彼のパートナーであるクロックモンの能力を応用し、脳内記憶の時間軸を捻じ曲げたり巻き戻したりして人やデジモンの記憶を消去できる。 これに彼がかつて偶然入手した記憶転写技術を組み合わせ、他人の記憶や人格の移植が可能となった。 それにより新しい予備の体に人格を複写することで永遠の命を実現するのがチェンレジ計画の骨子であった。 しかし記憶消去はクロックモンが本来持つ能力ではなく、主に精神面で重大な負荷が掛かっていた。 半年前、天沼鉾が襲撃を受けた際についに限界に達したクロックモンは暴走。 何体もの実験体が死亡ないしは逃亡し、Dr.ポタラは已む無く強制的にクロックモン自身の記憶と人格を消去させた。 以前から自身のクローン複製や強化実験体に自身の人格を移植し並列化させていた彼は同様の処置をクロックモンに実施。 デジモンの人間とは全く異なる、そして高い演算性能に直接触れた彼は狂喜乱舞した。 並列化したDr.ポタラたちは全員一致でクロックモンを統合基幹個体とすることを決定。 そこでDr.ポタラ(クロックモン)が発案したのがクロノスタシス計画である。 これが承認されると彼らは直ちにチェンレジ計画を凍結、持てるリソースを全てクロノスタシス計画に投入する。 同じ頃、予てより裏工作していた都立デジモン学園への介入に成功、民間人材登用の名目で学園の校長に就任する。 卒業検定の基準を恣意的なものへと変更し多くのデジモンを卒業扱いとして、その上でFE社への就職を斡旋。 相当数のデジモンが危険な戦闘や実験に使い捨てられることとなった。 また一部は陸上自衛隊へと斡旋し、それらのデジモンはラボの工場にてギズモンへと改造された。 実験用の人間やデジモンの確保に成功したものの、クロノスタシス計画の進捗はあまり良くない。 個体時間の巻き戻しによる若返りは記憶や人格まで巻き戻される問題を未だ解決できていない。 時間停止による老化の克服は、肉体の時間を止めたまま動ける状態には至っていない。 暫定的な対応策として自身のオリジナルの肉体の時間を停止させて人格と記憶のバックアップサーバーとして保管・運用。 若返った個体・新規に人格を複写された個体を含む全個体は定期的に同期することで自己同一性を維持している。 時間操作による不老不死の、目標とするレベルでの実現への道程は遠い。