砂塵烟る荒野に重く轟く発動機の駆動音。続いて衝撃が1つ、2つ、見れば2つの影が肉薄しギリギリの攻防を繰り広げている。 その内の1つ、他方と比べ一際大きな体躯を持つリベリモンは機械化されたその腕を振るい、片や小さな影--コカブテリモンを追い詰める。軌道の際を寸でのところで避け続けるコカブテリモンに焦れたリベリモンが唸りを上げる右腕の丸鋸を振りかぶり、一息のもと横薙ぎに払うと、それを待っていたと言わんばかりに大地を蹴り上げその軌道の内側へと入り込み、2本ある左腕でリベリモンの攻撃を受け止める。リベリモンも瞬時に残る左腕で追撃するも同じく止められ、両者組み合う形で膠着する。 元来種族的に膂力に優れるコカブテリモンにとっては、相手が格上の完全体であろうと力のみに絞れば競り合うことは可能であり、それ故危険な鋸さえ避ければこの程度は造作もない。 尤も、完全体の完全体たる所以は体躯や膂力のみに留まるものではなく、それはこのリベリモンにも当て嵌まった。受け取められた左腕が音を立てて開き、砲口が剥き出しとなる。完全体たる所以その最たるものは、そこに至るまでに積んだ経験。ゴブリモンから叩き上げで完全体にまで成長した彼にとって、この流れは予想通りと言うべきものであり先の大振りな攻撃こそ、ここへ至る為の囮であった。 勝負あった。狙いを定め、引き金を-- 「もう一度『ストロボ』」 小さな黒い影が両者の間に素早く割って入ると、それは放電音を伴って視界を染め上げる閃光を放つ。 光に目を焼かれ思わず攻撃を中断し、たじろぐ。 視界が奪われる直前目に映ったのは確かにコクワモン--もう1人の対戦相手であった。だがあちらは相棒が相手取っていたはず。 まさかやられたのか? 奪われた視界の中、 思案を巡らせていると不意に背筋を悪寒が走る。第六感めいたそれはリベリモンが培った戦士としての経験から来るもの。それを信じ脚部のモノホイールを逆転させ咄嗟に距離をとると、鼻先をバチバチという音と共にナニかが通り過ぎた。 今のがコクワモンのものならば次が来る。微かに聞こえた地面を蹴り上げる音を頼りに防御の構えをとれば、僅かに回復した視界に自慢の角を受け止められたコカブテリモンが映った。 コクワモンが再び体勢を整え攻めてくる前に戦闘不能にすべく、右腕を振り上げ…そこで気付く。 先程目の前を掠めていった筈のコクワモンが想定とは逆の位置で、まさに今攻撃の構えを取っていることに。 ブラフ。目の前を通りすぎたのは恐らく帯電させた小石かなにか、この1番の隙を突く為のもの。 「『シザーアームズミニ』!」 両腕に電気で刃を形成し突撃を仕掛けてくる。躱せ無い。咄嗟に身構える。 そこへ桃色の2つ結びを靡かせながら意趣返しと言わんばかりに影が飛び込む。影の主、奈仁濡音ノノは相棒のリベリモンを庇うように--或いは先程目眩ましを浴びせてきたコクワモンへやり返すため間に割り込み、手にした鎚で迎撃の構えを取る。が… 「うわっ…!とと…」 コクワモンはノノの眼前で進路を反らし明後日の方向へ過ぎ去っていく。攻撃の構えを解き、ノノへ向き直る。不満の表情を浮かべるノノ、苦笑いを浮かべるコクワモン、戦闘のそれとは別種の緊張感が場を支配し両者の間に気まずい沈黙が流れた。 「ん~…やっぱダメかぁ…すいませーんストップお願いしまーす」 ケイトの申請を受けシステムが投影していた仮想戦闘領域を解除し、無機質なシミュレーションルームへと戻った。 ――― ―― ― 「ノノちごめーん!」 申し訳無さげな顔で手を合わせるコクワモン。 シミュレーションルームすぐ側のロビー、そこに並べられたソファーで先程まで激闘を繰り広げた両者は休息を取っていた。 「そんな謝らないでください!…でもせっかくシュミの合う友達が出来たのにこれじゃ消化不良というか…」 「どうにかしたいよネ~…」 手にした缶ジュースを飲みながらノノとケイトは頭を悩ませる。 このアリーナで出会い意気投合した彼女らは、互いの戦闘スタイルに興味を示し、交流も兼ねて先程のシミュレーションルームで手合わせをしていたのだが… 「なんとかなりませんか?コカブテリモンさん」 「うーん…おじさん達は元の世界だと人間に攻撃しちゃいけなかったし、出来なかったんだよ。生き物的な言い方をすれば本能とも言えるかもね…」 「でも、今はリミッター付いてないんでしょ?それでもダメなの?」 「ん~…アレかな?せーりてきけんおかん?みたいな?なんかねーノノちに攻撃しそうになった時こう、背筋がぞわ~!!ってなってウワーッ!ってなるの。ヤバくない?」 「「あー…」」 (今ので分かるのか…) 説明を聞き納得した様子の2人を見てリベリモンは内心そちらに感心する。 「…まぁアレだね。機能的には問題ない筈だから精神的なヤツだとは思うんだけどねぇ…」 「…なら仕方ないんじゃあないのか?親交を深める手段は何も手合わせだけでもないだろう…」 「「「「ダメだよ!それじゃあ!!」」」」 「圧倒的アウェー…!」 「リベリモンだってさっき闘ってみて理解ったでしょ!?ケイトさん達の腕前!あんなの全力で闘らないと勿体無いよ!!」 「そうだヨッ!リスペクト出来るライバル!闘うのに適した環境!ここまでお膳立てされて他の選択肢なんてある!?ないよネェッ!!」 「あーしもあそこで止まらなかったらどんな展開になってたのか気になる~!こんなんトコトンやるしかないっしょ!!」 「おじさんもねぇ、さっきの手合わせで着いちゃったから、火。どうにか全力で闘りたいよねぇ…」 「…ならばもう何も言うことはない…」 多勢に無勢。こうなっては諦める他なく、流れを見守ることにするリベリモン。 「けど、ほんとどうしよっか…」 「うーん…」 「…あっ、そうだ。ちょっと待ってなよぉ」 皆一様に頭を捻り唸っていたところ、コカブテリモンが何かを思い付いたように声を上げ、ノソノソと何処かへと去っていく。少しの時間が経つと、なにやら抱え戻ってきた。 「それは…」 「ボール…ですか?」 「うん、プラ製のね。ブラックボックスの掃除中に手に入れたヤツ。…おにーさんちょっと今から言う通りにコイツ切ってくれるかい?」 「ん?ああ…構わないが…」 「そうそこ真っ直ぐ…ああ~!そうそうそんな感じ!じゃあ次は…」チュィィィ (俺は何をやっているんだ…?) 自身の今の有り様に疑問を持ちつつも、言われた通り器用な手付きで加工を進める。やがて切り終わったそれに幾つかの部品を接着して、完成と相成った。 「ヘルメット…?」 「金魚鉢みたいですね…」 率直な感想を述べるノノとリベリモンに対し、なにやら合点がいったと言いたげな顔をするケイト達。 「それって…」 「ロボロボぢゃん」 「ロボロボ?」 「ああ。ロボロボ団っていうこんなの被った妙な連中がいるのよ。徒党を組んでスカートめくりやら給食盗んだりやらするんだ」 「う~ん所謂『ハンシャ』ってヤツですね…」 「微妙に違う気がするが…で、何故その不審者共の被り物を?」 「普段人間に手を上げられないおじさん達も何故かロボロボ連中には攻撃できたんだよねぇ。噂だとシステムの人間判定から外れるからとかナントカ…だからこの被り物使えばもしかしたらちゃんと闘えるかもしれないと思ってねぇ」 「どういう理屈だ…?」 「どうかなお嬢ちゃん、一応視界や空気穴の確保は出来てると思うんだけど…」 「…」コーホー 手渡されたそれを被り暫く周りを見回したあと、その姿のまま駆け出したノノは、感触を確かめるようにひとしきり跳ね回った後、皆の所へ戻ってくる。 「…うん!これなら闘うのにも支障はありません!」コーホー 「おお!そりゃあ結構だねぇ」 「えぇ…」 「やったあ!じゃあ早速試してみようよ!早く早く!」 「ええ!ええ!!そうしましょう!!」コーホー 言うな否や嬉々とした様子で再びシミュレーターへ向かって走り去っていく2人。そして残されたデジモン達もそれに続く。 「しゃーっ!やろやろー!!」 「腕がなるねぇ!おじさん達負けないよ~?」 (…もしもの事が無いように俺が気を付けなければ…) リベリモンは心の中で1人決心した。 ――― ―― ― 「模擬戦闘お願いしまーす!ステージはアセットCで!」 シミュレーターに両組が降り立つと、ケイトは馴れた様子でAIに指示を出す。灰色一色の広大な空間が一瞬の内に崩壊した都市へと姿を変えた。 「おーっ!良い雰囲気ですね!」コーホー 「でしょ?前からここ試してみたかったんだよネ!」 再現された廃墟の街を見て、まるで洋服を品定めするかのようにはしゃぐ両者。だが勝負の時が差し迫るとそんな様子もスゥ…と鳴りを潜め闘いの空気が場に満ちる。 「それじゃあ…カウント5でスタートお願いします」 「Ready、5」 指示を受けAIが無機質にカウントを読み上げ始める。 「4、3」 電流が火花を散らし、太い足が地面を蹴るべく強く踏みしめられる。 「2」 発動機に火が点り、排気筒から噴煙が立ち上る。 「1」 片や右手の得物を、片や左手のデバイスを構え、互いの視線が交差する。 「The fight is on」 合図と同時に両組が弾き出されるように相手方へ飛び出す。 「10時方向から回り込んで『ライトサーキット』に『ストロボ』」 加速するコクワモンの右手が放電によって強く光る。その勢いのままノノへ向かって右手を叩きつける。が、それに合わせ手にした巨鎚で受け止めた。僅かに流れた電流が彼女の髪を逆立てるも、大したダメージは通らない。そこへ頭部の放電による閃光が追撃する。が、先の戦闘でのお返しとばかりに、それも鎚に遮られてしまう。怯むことなく腕に力を込め、コクワモンの小さな身体を弾き飛ばそうとする。 「『リボルバー』」 後方にて待機していたコカブテリモンが、 コクワモンが切り込んでいる間に用意した瓦礫を投げ飛ばす。 その剛腕から放たれた瓦礫は回転を加えながら、ガラ空きになったノノの左方へまっすぐと飛来し-- 「リベリモン!」コーホー 「ふんっ!」 合図とともに割り込んだリベリモンの迎撃によって塵芥へと変わる。 「うっ…りゃああああぁっ!!」コーホー 「きゃっ!」 ノノによって吹き飛ばされたコクワモン。しかし空中で体勢を立て直すと、そのままケイトの側へと降り立つ。 「どう?2人とも。闘えそう?」 「うんうん!ぞわぞわ~ってしないからへーきっぽい!」 「受けてみた感じ、攻撃もさっきと違って威力がありました!」コーホー 「おじさんのアイデア大成功だねぇ!いやぁ良かった!」 「そうだな。…だが初手から随分仕掛けてきてくれるじゃないか?」 「それはそうだヨッ!本気でやらないとヘルメットの効果があるか分かんないもん!それに…あの程度防げると思ってたからネ」 「…」 「…ふふっ」コーホー 「これでこっちも本気で闘れる…行くヨッ2人とも!」 「「応!!」」 そう笑って見せると、今度は左手のデバイスを頭上へ掲げ高らかに叫ぶ。 「コクワモン!」「コカブテリモン!」 「「ジョグレス進化ああああぁっ!!」」 2体のデジモンが光の螺旋を描き1点へと収束していく。次の瞬間眩い閃光があたりを覆い、中から2色のビームマントを靡かせて、聖機士がその白く輝く巨体を顕にした。 「「オメダモン!!」」 「あの気配…究極体か!?」 「数的不利になるのも構わず進化したってことは…そういうことだろうね」コーホー ケイト達の全力、その片鱗を垣間見たことでノノもその昂ぶりを抑えられなくなる。そしてそれはケイトも同様であった。 「さぁ…」 「楽しみましょう!」コーホー 互いの声が勝負再開の合図となり、それと共にオメダモンに向かって駆け出すノノとリベリモン。 「『タタッカー』」 未だその手の届く外に居た筈のオメダモンが土煙を伴い目の前に現れる。 (速っ) 「『チャンバラソード』」 金色の刃が一筋の剣閃と成り迫る。 「オオオぉっ!!!」 閃を断ち切るようにリベリモンが割って入り、その丸鋸で受け止めた。 リベリモンの肩を踏み台に飛び、すかさず頭部へ鎚による一撃を狙う。が、振りかぶったところでビームマントを巧みに操り叩き落とされる。 「うっ…オオオッ!!」 排気筒から黒煙を吐き出しながらリベリモンが吠える。土煙を上げモノホイールが空転し、甲高い悲鳴を上げ丸鋸が回転する。オメダモンとの間に火花を散った。 「…っ!ダアッ!!」 「…っ!!」 再び吠えるとそのままの勢いでオメダモンを押し返す。 「リベリモン!」コーホー 「ああ!」 背後のノノに反応しリベリモンが後退する。そのままノノを回収すると倒壊したビルへ向けて走り出した。 「…『サブマシンガン』で、牽制しながら追撃」 エネルギーを噴射し、滑るように2人の後を追う。左腕の砲口から連射されるエネルギー弾で追い討ちをかけるも、大した被弾にはならない。そうしている内に徐々にビルが眼前へと迫る。 「…!あそこに!」コーホー 「わかった!」 ビルの残骸。幾つも重なりあったそれには間隙が生じていた。ノノやリベリモンにとってその中は移動するのに問題ない程度であるが、オメダモンにとってはその巨躯がやっと収まる程度の広さ。追撃を振り切り仕切り直せる。若しくは強引に追撃してきたとしてもあの中ならば速さを活かすことは不可能。圧倒的にこちらが有利な択…ノノはそう算段をつけた。 (さぁ…どう出るかな…?) 相手の出方を窺いつつ、追撃を躱し間隙へ向けてさらに加速し、2人はそのままビルの間に消えていった。 薄暗いビルの合間をひた走る2人。所々空いた隙間から光が漏れ2人を照らす。 「…ふぅっ!取り敢えず撒けたかな?」コーホー 「だな。それで?この後はどうする?」 「んー…正面からの打ち合いよりは、ビルの影に隠れて奇襲とかできたら良いなぁ」コーホー 「希望的観測だな…」 ノノ達がビルの合間に消えていったのを見届けてから暫く、オメダモンは少しはなれた場所より様子を窺っている。 「おじさん。アレくらいならいけそう?」 その視点をメダロッチから映し出された立体ビジョンで確認しながらケイトが問う。 「「…ああ大丈夫だよ」」 「じゃあ『アンテナ』」 右肩のクワガタの顎を模したアンテナを中心に、周囲を索敵するための音波が発射されると、ケイトの画面にその結果が直ぐ様映し出される。その影は倒れ傾いたビルの中を駆け上がっていくのが見える。好都合だ。 「11時、上方+2に…」 ぞわり、と背中を走る嫌な感覚に思わず振り返る。 「何いま」コーホー 「『いっせいしゃげき』」 左腕の砲口より放たれたエネルギーの奔流が光線となり、それに追い討ちを掛けるように放たれたミサイルの弾幕がノノ達の進む筈だった行先を消し飛ばす。不意に進むべき筈の足場が崩れ去り制動も儘成らぬ状態で勢いのまま宙に投げ出される。 「まさかここまで強引なやり方で来るなんて!やっぱりケイトさん面白いなぁ!」 「言っている場合か!?」 しかしそれでいて尚すぐさま状況を理解し、落下しながらも体勢を立て直し着地に備え―― 「!!!」 着地の瞬間地面が大きく爆ぜる。それは落下地点に先回りしていたオメダモンが放った追撃によるものであった。 予想通りの流れ…場合によっては決着もあり得る。そのようなことを考えながら様子を窺うケイト。 爆破の轟音に紛れ、すぐ傍で乾いた音が響く。そちらへ目をやると…欠けたヘルメットが落ちていた。 「あ…」 途端に頭が冷える。いくら強いと言えど相手は自分と歳近い女の子だ。オメダモンの砲撃が直撃していれば無事では済まない。勝負に熱中し抜け落ちていた最悪の可能性に恐怖が沸き上がり、身震いする。堪らず呼び掛けようとしたその時。 爆炎を飛び越える2つの影を見た。そして影の主…ノノの眼を見て総てを覚る。 それは死地にあって尚――笑っていた。 先程の恐怖も身震いも、自らの過ち故のものではなくあの眼を本能的に畏れた故のものだ。そう考え至った時頭の先から爪先まで、総毛立つ感覚に支配される。その根源は恐怖ではなく、歓喜。 「イヒっ…」 溢れる感情が無意識に口角を押し上げ、くしゃりと髪を掻き上げるよう頭に手をやる。心臓が激しく高鳴り、呼吸が浅く大きくなる。 ノノは重量故先に地面に降りていたリベリモンの背に降り立ち2人してまっすぐオメダモンへ突っ込む 「…ッ!『リボル」 ケイトが指示を出すと同時にオメダモンが構える…が、その指示を遮るように硬質のものの衝突音が響く。左腕の砲口が瓦礫によって塞がれている。迫るノノが手にした鎚で路上に転がったビルの破片を打ち出し、砲による迎撃を阻止したのだ。 「『ヴァンキッシュミサイル』!!」 リベリモンが叫びと共にその左腕より大量のミサイルを放つ。 「3時に走って『反応弾』で迎撃!」 尾を引きながら群がるそれ対し噴射を使って横滑りしながら距離を置くと、肩の砲口からミサイルを放ち追い縋るそれを迎撃する。それすらも潜り抜け、迫るものを剣の閃きが1つ、2つと瞬く間に処理する。残るミサイルが刃の届く範囲に迫る。切り捨てようとしたその刹那、横から飛来した何か衝突、爆破し辺りが煙に包まれる。 (また瓦礫を打ち出したんだ…!この煙に紛れるために…!) 視界を覆う煙が僅かに動く。 「オメダモン!!『からたけわり』」 「!!」 金色の刃が碧い光を纏い、気配のする方へ向かって振り下ろされる。 「『マキシマムデモリッシャー』!!!」 吠えるリベリモンがその一撃を受け止め、互いの必殺の刃がぶつかり合う。しかし完全体と究極体、出力の差は如何ともし難く、このままでは数瞬の内に決着は付く。だがリベリモンにとってその数瞬さえあれば何も問題はなかった。 「…!離れ…」 「ああああああぁっ!!!」 相棒の背を蹴り桃色の2つ結びを靡かせながらノノが躍り出る。両手で構えた鎚に焔が宿る。それを打ち据えんと緑の瞳がオメダモンを射抜く。同時にリベリモンが空いた左手を後方へ向けミサイルを放つ。 すぐさま炸裂したそれの爆風は、オメダモンの防御が間に合うより早くノノをその眼前へと押しやった。 少女の一撃。本来ならば究極体に傷すら与えることもないそれは、デジソウルの焔を纏うことでその巨体を浮かせるほどの威力を伴いオメダモンに叩きつけられる。 両の眼から光が消え頽れる。白い身体が粒子となって消え、代わりに2体のデジモンが弾き出された。 「The fight is over」 システム音声が終わりを告げ周囲にリアライズされていた光景が再び光となって消え去る。 倒れる自身の相棒達に駆け寄るケイトと、拳同士を打ち付けて勝利を喜ぶノノとリベリモン。 「…紙一重だったな」 「すっごい楽しかった~!ありがとう!ケイトさん!」 俯くケイトに向かって手を差し出し健闘を称えるノノ。そして… 「す…」 「「?」」 「すっごいヨッ…ノノちゃん…っ!」 それに恍惚とした笑顔で答えるケイト。差し出された手を両手で掴み、グイと迫る。 「すごい!スゴいスゴイ凄い!!!アタシ興奮しちゃったヨ~!!着地狙って攻撃した時!あれって一緒に落ちてきた瓦礫を足場にして飛んでタイミングずらしたんでしょ!?それに最後!爆風で加速して速攻を決めるなんて思いもしなかったヨ~!!それを土壇場ですぐ合わせられるチームワークっ…最高!!楽しい!!」 「あたしも!進化後の2人も凄く強かったですし…あとアレ!まさかあそこでビルを吹き飛ばすなんて思ってなかったからビックリしました!!あれってどうやって位置を把握したんですか!?」 「アレはね!オメダモンの右肩に…」 興奮冷めやらぬ様子で闘いの感想会を始める女子2人。その様子は年相応といった姦しさである。…尤も話の内容に眼を瞑れば、であるが。 「うぅ~~~!!これだけじゃ気持ち収まらないヨ~!ねぇねぇ!もっとやろう?ねっ?ねっ?」 「無論!望むところです!!」 「ヤッタァ!!」 「待て待て!」 早々に次の勝負へ移ろうとする2人をリベリモンが制止する。 「勝負するにしてもヘルメットはもうダメになっただろう?まともに闘りあえない以上、今日はここまでにしておくべきだ」 「あっ、あのさ~それもう大丈夫みたいな?」 「…何?」 「どうやら1度ガチでぶつかったからか、途中から気にならなくなったんだよねぇ」 「いいのかそんなので…」 「結局せーしんてきなもの?だしね~解決したならおけおけ!ってことで!」 「まぁアレだよねぇ、おじさんとしても勝ち逃げとかさせたくないから…ねぇ?」 4人からの並々ならぬ圧に、折れる。 「…はぁ、分かったよ…」 「「「「イエ~イ!」」」」 「ま、とはいえ連戦っていうのもすぐバテちゃうから、小休憩でも挟みながらボチボチやろうかぁ」 シミュレーターを後にするノノ、楽しそうにケイトとの会話に花を咲かせるその横顔を見てリベリモンは小さく笑う。 (…まぁ、あの笑顔が見られるのなら、多少の無茶くらい付き合ってやるか…) (…それはそれとして付き合う友達は少し選んで欲しいな) 浮かんだ言葉を心に留め、ただ遠い眼をする。彼は未だ知らなかった。 この後20勝20敗3引き分けの激闘の末、疲労により3日間寝たきりで過ごす羽目になる自身の未来を…