破壊された植物工場〈生産管理室〉 トマト軍団とジュレイモンを倒し発端とされる植物工場に辿り着いた一同だったがそこは既に蛻の殻。 急いで逃げたのか昼食と思しき食べかけや脱ぎ捨てられた上着は見つかったが、個人情報に繋がるようなものは一切なくこの状況を想定していたような気配があった。 「本当に人っ子1人いない、ルーナさん何か分かりました?」 工場の中をぐるりと回って収穫のなかった熱夢とフレイモンは管理室のPCを調べに残ったルーナの下へ戻って来た。 ひとを呼んだ身で事態の究明に役立てないのが悔しいのか少年の眉間にはシワが寄っている。 「初期化が甘かったおかげでね、この馬鹿騒ぎの理由は大体見えるよほら、これが責任も取らずに逃げた彼等の企みだ」 A級ハッカーを自称しただけありわずかな時間で消去されたデータをサルベージし解析した彼女は、デジヴァイスを使い部屋の壁をスクリーンにここで行われていた実験のデータを映し出してみせた。 ジュレイモンが持つ森を支配し生命を取り込み栄養に変える力を自身の栄養を放出する力に改造、植物の高速栽培と巨大化に利用する栄養タンク化計画。 「だが完全体を扱うにはここの技術は拙すぎたな、自我も多少の自由も残っていたデジモンは自分から伸びる供給ラインにその怒りと憎しみの種子を乗せた」 それにより変質したトマトが暴走し工場を破壊、解放されたデジモンは収まらない怒りのまま暴れ回り外の人間にも牙を剥いた。 デジモンをただの資源として扱う行為、薄ら寒さを覚えたのか思わず傍らのパートナーに身を寄せたフレイモンの肩に熱夢が手を添える。 「可哀想な事…しちゃいましたね」 「君達が気にする事ではないよ、分かっていても落とし所はなかったろうし…そういえばあのギュウキモン達は?」 「すぐに調理して保管するってみんなトマト担いで帰りました、…俺達詳しくないんですけどギュウキモンってああいうタイプ多いんですか?」 いや普通はもっと悪辣で凶暴な種なんだがと、落ち込む子供達の気をそらそうと投げた話題はそれなりにデジモンに精通したルーナにもよくわからない方向に行ってしまった。 「なにはともあれ依頼完了だ、デビモンがトラックを回してくるからトマトの配分はそれからで」 「はい、でもその前に今渡せるのを渡しておきますね火のハイブリッド体のデータ…デジヴァイスでいいですか?」 「ん…こっちに頼む」 「オイラのデータ大事にしてな」 形式は違えどデジヴァイス同士なら通信に支障はない、フレイモン、アグニモン、ヴリトラモン、アルダモン四種のデータがルーナの手首の端末に送られる。 「じゃあ他の人達にも話してきます、今回はありがとうございました」 「ありがとうルーナ」 丁寧に頭を下げて、まだ工場内や現場を調べている仲間の下へ少年達は駆けていった。 見送った女はこの工場で行われた事の全てを抽出し終えたメモリをPCから抜いて懐に収める。 「うちには及ぶべくもない可愛い仕事だが発想と成果は悪くない…有効活用してあげるよ弱小企業くん」 ここにいない誰かを見下し嗤ったそれはFE社のエージェントとしての顔。 ただのトマト好きのお姉さんとして始めて終わるつもりだった仕事、しかし自社以外のデジモンビジネスの痕跡は本来の自分を思い出させるのに十分だった。 それがデジモンの命を他の何かに注ぎ変質させる研究なら尚の事、命の限界を超えようとする社長のお気に召す事だろう。 「社長にはこれでよし、ジャスティナには融合形態まで至った火のハイブリッド体のデータ」 いきなり取った有給の埋め合わせには十分、なんなら臨時ボーナスを狙えるかもしれない。 美味しい収穫を実感しながら女は鼻歌交じりに歩き出した。