家族のことが嫌いだった。 親父とお袋は仕事続きで何ヶ月も帰らないことはざら、だから弟たちの面倒は俺一人で見ていた。 同年代の奴らは好きなことをしているのに俺は兄弟のお守り。 いい加減嫌になっていた、助けるのは俺ばっか小さい頃からずっと! デジタルワールドに来た時、家族のことを心配をしていた、だが心の奥底では大いに喜んでたさ。 俺は生まれて初めて自由を得た!此処では兄として責任を負う必要はない。 そう思い込んでいた時にチッチモン、お前と出会ったんだ。 野心もあるにはあったが、初めて会った時から何故か放っておけず、表向きは現実世界への帰還が目的でお前との旅が始まった。 アトラーカブテリモンの森で初めてお前の究極体の姿を見たとき、禍々しい姿だがとても頼もしく思ったっけな。 森で戦ったテイマーとサンドリモン、名前は聞かなかったが、あいつらに追い詰められた時正直死ぬかと思った。今度会ったら唯じゃおかねぇ。 戦いの終わった後、お前を家族の一員だって言ったの覚えているか?自分でも何言ってんだって思ったよ。 デジカカオを燃やすだが燃やさないだかで戦ったこともあったな。 普段仏頂面のお前がチョコを食べた瞬間、珍しく頬が緩んでいたの今でも覚えている。 愛媛が降ってきたのは......よくわかんねぇから飛ばす。 バーベキューはとても楽しかった。家族以外の奴とあんな大騒ぎしたのは初めてだったよ。 旅をしていてわかったことがある。 チッチモンお前は俺だ。見た目や性格の話じゃない、家族のいないひとりっぼっちで生きた俺そのものだった。 お前を無視することは、俺自身を否定しているようで放っておけなくて、だからあの時無意識に『家族の一員だ』って話したんだ。 そのおかげかようやく気付けた。 今でも家族に対して憎しみを持ってはいるがそれ以上あいつらを、家族を愛しているってことに。 思えば兄弟たちの世話なんかいつでも投げ出すことはできたはずだ、なのに10年以上あいつらの面倒を見続けていたのが何よりの証拠だったんだ。 お前と会わなければ一生この気持ちに気付けなかっただろうな、本当にありがとうチッチモンいや、クロノモン! ここに来たばかりの俺を勧誘したのなら、お前たちの仲間になってたかもな。 だがな、今の俺は違う。イレイザーと手を組むつもりはないしクロノモンを、家族を渡す気なんて更更ない。 こいつに手を出すヤツは誰であろうと容赦しねぇ、家族を守る為なら俺はなんだってやってやる! 私には記憶がなかった。 故郷や、家族、共に過ごした仲間などといった過去があると信じていた。私にとって生きる希望そのものであっただろう。 だがそんなモノは初めから存在しなかった......。 クロノモンが生まれた要因であったとされるクロノデータ、その残滓からデジモンイレイザーによって作られた紛い物。 幾度実験を重ねてもクロノモンになれなかった失敗作。それが私の正体。 実験の記憶を消去されていた私は、この身一つで外の世界に放り出されることとなる。 なぜ私をデリートしなかったのか理由は不明だが、記憶もなく彷徨っていた所に睦月と出会い旅が始まった。 様々な場所を巡ったが、元から存在しない過去の手がかりをいくら探した所で見つかるはずもなかった。 ―――だが、この旅は決して無駄ではなかったと断言できる。 この旅では様々な出会いがあり、私は多くの知識と経験を得られた。どの出来事も鮮明に覚えている。 失敗作だった私がクロノモンとなり、ついにホーリーモードにまで至ることができた。 何より何もなかった私に、彼が家族という拠り所を与えてくれたのが一番の恩恵であった言えよう。 イレイザーの尖兵よ奴に伝えておけ、お前のようなクズと取り引きはしない。 したら最後、残るのは屍の山と絶望だけだ、わかりきっている。 私は睦月と共に生きる。彼の障害となるもの総てを払い退けると誓おう!