ライジルドモンの姿が解け、クロウが膝をつく 「───"みんな聞こえる"?」 「───"僕たちは、勝ったんだよ"」 デジヴァイスから響く、日野勇太の声 巨悪をまた一つ、倒した その実感を噛み締め…共に戦い抜いた仲間たちは、それぞれの戦いの場に重い思いの勝鬨を上げた それは鉄塚クロウ、ルドモンも同じ そして彼等は…この場で共同戦線を生き延びた《恩師》へと謝辞を述べるのだった 「ありがとう、秋月さん!」 『オレたちの勝利だー!』 「ああ。本当に…良かった」 『デジモンイモゲンチャー"side-KURO" 』 最終話 《漆黒の英雄 ライジルドモン・バーストモード》 「なぁ秋月さん」 戦いの爪痕に荒れ果てた遺跡の柱に、くたびれた身体を預けながらクロウが眉をひそめて尋ねる 「ずっと気になってたんだけどよ…。なんで"俺らが倒したデジモン"のデータなんか集めてるんだ、その変な機械で」 ずっと疑問だった。どうやってあの炎の街から生き延びたのか、なぜ自分にルドモンを預けたのか、何故影に隠れて自分たちの冒険に協力してくれているのか、 「それにやる事やったらすぐどっか行っちまうし。まだ皆にアンタのことキチンと紹介できてないんだぜ?」 何故自分以外の者に会おうとしないのか、どこから来てどこにいくのか、 気がつけば何にも知らない 「そうだね、そろそろ君には打ち明けてもいいかもしれない…何故このデジタルワールドで旅をしていたかを」 そう言って秋月は右手に携えた機械を晒す 携行デバイスのように見えるそれは今もセンサーを光らせては、クロウとルドモンが撃破した敵デジモンのデータ残留物を読み込みながら黒い光をチラつかせる 「ルドモンの戦いのデータは、『コレ』を完成させるために必要なことだった。俺はこの世界を渡り歩き…悪しきデジモンを倒すため、力を蓄えさせるために影から協力してきた」 悪しきデジモン。その言い回しがうまくいえないが引っかかる このデジタルワールドに害をなす存在たりうるデジモンは確かに存在する…が、クロウとルドモンが倒してきた強敵の中には…初めから全てがそうとは言い切れない者たちもまた多くいたはずなのだ 「へぇ…《ネオデビモン》のデータを得られるとは、想定外の収穫だったな。キミと、土壇場でライジルドモンの力を…一瞬とはいえ覚醒させたティアルドモンの賜物だ」 そのデバイスが今まで聞いたことのない電子音をたて、画面のように見えたガラス面を開口しながら煙を吐く 彼はもうそのデバイスそのものには興味をなくしたのかそれを放り捨て、代わりにその手には…先のデバイスから出現した不気味な機械を満足げに握りしめるのだった 「ありがとう。鉄塚少年」 秋月が手を差し伸べる クロウは驚いたような、困惑したかのような様子だったが…恩師からの謝辞を無碍にする気にはならなかった ゆっくりと立ち上がり、秋月の下へ手を伸ばす… キミはもう用済みだ。鉄塚─── ───クロウ。 名指しされた彼の背後で秋月のパートナーデジモンの顔が黒く染まり、その面影が半分…ずるりと崩れ剥がれた 「クロウ!」 ───もしも、鉄塚クロウがこれまでの戦いで生身のままデジモンと何度も交戦した経験がなかったとしたら? 「ガッ……!?」 …たった今、金色の爪は瞬く間に彼のはらわたを裂き、容易く命を奪っていたのだろう 『この野郎!?』 今まで培った経験則が勘を呼び、咄嗟に身体を捻らせ…脇腹に受けた鈍痛と衝撃にクロウは崩れた岩壁に叩きつけられた ルドモンが呼応し、怒りのまま金色の爪と切り結ぶ。剥がれ落ちた輪郭から覗く赤く濁った相貌を理解した時、ルドモンは青ざめた 『お前は……もう一体の…"オレ"!?』 「はじめましてかな。僕の作ったデジモン…《ゴルルドモン》とは」 ───『ゴルルドモン』 Legend-Armsを模倣し生み出されたルドモン 感情を持たず言葉を持たず、ただ破壊の限りを尽くすため命令に従う冷酷なる兵器 必殺技は両腕の装甲を相手に叩きつける『ウォルレーキ』 「急に、何すんだ秋月さん…」 状況が飲み込めないまま、クロウは問い掛ける 「言っただろう、キミに用は無くなったんだ。だから返してもらう…ルドモンを」 「ルドモンを、返す…?待ってくれ、何のためにそんなことを…秋月さん、秋月光太郎」 「その男の名で呼ぶなァ!!」 「ッ!?」 荒らげた声と共に舌打ちをし、外套のフードを剥ぐ。前髪を気だるげにかきあげたその男から返ってたのは…恩師のものとは違う、仄暗く冷たい眼が睨みつけていた 「俺は…いいや、『僕』の本当の名前は『秋月影太郎』。キミが恩師と慕いへつらう出来損ないの───"弟"さ」 ───秋月影太郎…弟!? 「憎たらしいことに僕と兄さんは瓜二つでね。───行方不明だったルドモンを拾ったのが兄の知り合いだったのが、なんとも面倒なハナシだった。  …だからキミを騙すためにくだらない演技もしたが、キミのような落ちこぼれを騙すにはそれで十分だったようだ」 「…なんだよ、それ。じゃあ秋月さんは…秋月光太郎はどこにやったんだお前!」 「ハァ?"決まってる"じゃないか…そんな人間は、もうこの世にいない。…死んだんだよ」 ───恩師が生きていた デジタルワールドでの戦いの最中、はじめてそのことを知った時どれほど心が救われたのか それをこうもあっさりと突き崩された 嘘であってほしかった事実の提示 クロウは頭を酷く殴られた時のような冷たさに襲われた 「ああ、うんざりする…"目的"を果たすためとはいえ、こんなくだらないごっこ遊びに付き合ったが……キミの馬鹿さ加減にはとりわけうんざりしてきた」 ゴルルドモンからのダメージがまだ抜けきらない。息を上手く吸えず手足が痺れる それらの回復するよりも早く…頭にだけ真っ先に血が昇るのを感じる 「たかが完全体への進化までにどれほどの徒労を経た?兄のようにルドモンを満足にテイムできず、ティアルドモンへの進化もまともにさせられず…ようやく目覚めたと思えば、ライジルドモンの力を引き出せるのも結局ほんの一瞬だけ。  …あの日野勇太とかいうガキと謙遜のない才能の無さだ」 コイツは何様だ? 「仕舞いには、自らデジモンに殴りかかる血の気と短絡さ。……学もない、力もない、品もない。事あるごとに秋月さん、秋月さん、と…。出来損ないのアイツなりに自分以下のこんな馬鹿を調子づかせて、従えて…さぞ愉しかったのだろうな」 やめろ…その声で、その顔で 「同情するよ。道の隅を慎ましく歩むだけの凡才にもなれないキミのような落ちこぼれには…、同じように落ちこぼれと群れて傷を舐め合うが丁度いいのだろう」 みんなを、あの人を 「───侮辱するんじゃ、ねええええええッッ!!」 『ウォオオオオオ!!』 「侮辱?事実だよ…そして真実」 『!?』 「デジ…ヴァイス!?」 「"あの時"はまだ未完成ですぐに壊れてしまったが、今は違う。完成したのさ…キミたちのおかげで。それを今、見せてあげよう」 "ルドモン" "究極進化だ" ============================ いつの間に…外に放り出されたんだ 空が変だ 熱い 燃えている 世界が。夕焼けみたいに赤い なんだ、これ…おいクロウ。オレはどうなって ───クロウ? 「感動の再会かな…気分はどうだいルドモン。いや…」 "ブリウエルドラモン" 『───!!?』 「オマエは……オマエは…ッッ!?」 「───はははは、どうかな鉄塚クロウ!!君の街を、恩師を、全てを焼き払った怪物の正体、ご満足いただけたかな?…そして、"キミだよ"ルドモン」 『…あ、ああ…』 「僕の兄───出来損ないの兄…《秋月光太郎》を、自らの手で焼き払ってくれたマヌケな犯人は」 ───"キミ"なんだよ…ブリウエルドラモン 『…うそ、だ。ウソだ…ウソだあァァァァァア───!!!!!!』 ───『ブリウエルドラモン』 ほぼ身体が盾で形成され、ドラゴンの姿となった「Legend-Arms」盾デジモンの究極体 必殺技は、炎の翼から烈火を放つ『グレンストーム』と、翼を分離し炎のバリアを展開しながら敵に突撃する『ブラストスマッシュ』 怪物の慟哭が天を貫く その怒り、嘆き、悲しみ…全てに呼応するように焔がのたうちまわり 「ルドモン…ルドモン!オイ、止まれ!!」 「無駄だよ。キミにはもう彼を"従える"ことはできない…いいだろう?このデジヴァイス…本当のパートナーのくせに彼を"最後まで進化させられなかったあの無能"には宝の持ち腐れだ。だから僕が奪い…有効活用させてもらった」 「てっっめぇえええ!!」 「いいのかい、よそ見をしていても。彼は」 不意にクロウの一帯に真っ黒な影が伸びる 「───キミを殺しにくるよ?」 「!!」 『クロウ、伏せろー!!』 「なっ…トリケラモン、竜馬!?」 「…トライホーン、連打!!」 「こちらもだ!エクスティラノモン、ブラックマター!!」 ブリウエルドラモンの脚にトリケラモンとエクスティラノモンの怒涛の連続必殺を叩き込む。死角から放たれた彼等の類まれなる鋭い強襲は、我を忘れ暴走するブリウエルドラモンを突き崩すには十分だった 『ぐうう…!』 「…なんて、硬さだ」 だがそれでも、トリケラモン自身にも穿ちきれないほどの堅牢さが跳ね返り傷を負う 「動けるかい、鉄塚くん」 「せ、センセー…!」 クロウを庇うように、前に出たエクスティラノモンと朝比奈は影太郎を睨み見据える 「これはどうも朝比奈先生。あなたの事も存じてます…兄と同じ選ばれし子供たちの一人だったと」 「遺跡の爆発を見て駆けつけてみれば…光太郎を騙ったお前に聞きたい事は山ほどある。その弄り回したデジヴァイスは元々アイツのだな。そしてルドモンに何をした」 「アナタならばよく知ってるでしょう。兄がどれほどまでにデジモンのテイマーとしての才能に恵まれなかった人物かは…ね」 「だから貴様の力をひけらかすためにこんなことをしたと?」 「…生憎、僕はあの"出来損ない"とは違うのでね。だから"こんなこと"もできる」 エクスティラノモンの背後から衝撃。砂煙を裂き…鋭い金色のボディが影太郎を背に降り立つ 「Legend-Armsを模造したのか…どうやって!」 「10年。デジモンを知り、それだけの歳月を研究に費やした…デジモンへの復讐のため。僕にはそれができる力がある。そしてこれが私の生み出し従えるに相応しい兵器。…ゴルルドモンだ」 金色のルドモン。ゴルルドモンと名付けられた傀儡。言葉を介さず、命令にのみ従わせ戦う存在。それをヤツは道具と罵る どこまであの人を踏み躙るつもりなのだ。クロウのはらわたが煮え繰り返る そしてそれは…朝比奈とて同じなのだろう 「復讐…八つ当たりの間違いじゃないのか」 「ほう…キミは確かあのパーティの盾であり要の1つ。…いいだろう、ならば盾のLegend-Armsデジモンの真価をお見せしよう」 「…舐めるなよ。ルドモンを、返してもらう」 「では、朝比奈先生には───ゴルルドモン。進化だ」 影太郎の改造デジヴァイスが怪しげな光を帯び、黒い力場が苦しみもがくブリウエルドラモンに絡みつき、突き動かす そしてもう一つの鈍金のデジヴァイスが唸り、ゴルルドモンの姿を変えていく 「───いけ、《ゴルドティアルドモン》。そして…ブリウエルドラモン。…ブラストスマッシュ!!」 「やるぞ、エクスティラノモン!」 「…本気でいく。トリケラモン───マトリックス…エボリューション!!」 「しかし、奇妙なこともある。ルドモンを導くためにキミに流した…ワタシの"贋作デジヴァイス"がこのようなカタチに変化を遂げるとは。…まぁ、キミにはもう必要ないだろう」 バキッ 「…ッッ!」 「…ハァ、本当にうんざりする目をしてる。そんな弱さでヒーローにでもなったつもりだったのかい?  見たまえよ…キミを庇った者たちは、傷つき、倒れ…"僕"のゴルドティアルドモンにも、ブリウエルドラモンに傷一つない。もっとも、チンロンモンの彼はこちらの技と相打ち跳ね除けたのは賞賛に値するけれどね」 それぞれがぶつかり合いやがて炸裂…破裂した爆熱と蒼雷は一帯を巻き込み、ゴルドティアルドモンの能力を盾とし荒野に一人涼しげに佇む影太郎 「さて、ブリウエルドラモンが存在する限り、この炎は蔓延する。やがて力無きデジモンたちや人間たちを、この世界も…全部焼き尽くす。そうなったら次は」 「それで、満足か…貴様は」 かろうじて立ち上がる朝比奈 「ああ。そうだね…何もかも消えてしまえばいい…僕はそう思うよ。───全てが消えて…やがて僕も消えて、それが"僕の救い"になるなら」 「……」 「だから貴方も消えてくれ。そして次はお前らを消して…残った連中も全員。苦しんで、苦しんで…苦しんで苦しんで苦しんで」 影太郎がデジヴァイスに指を食い込ませ、吐き捨てる 「消えて失くなれ」 ブリウエルドラモンの火球が、朝比奈を狙う 朝比奈は深く息を吸い込んで、呟いた 「…解せん相談だ」 故に、運命はあるべき方向へと味方する 「皆さん、お待たせしましたー!」 『一時退却よ!』 「来てくれたか…メグルさん、ノバスモン!こっちです!」 救援に現れたのは、朝比奈と同じかつての選ばれし子供達がひとり《岸橋メグル》…その男の達人的なハンドル捌きに呼応する《ノバスモン》。深緑の鉄の車輪が疾駆し、無数の砲弾を散らしながら炎の轍を描き迎えに来た 煙幕弾が投射された隙にクローアームが伸び、すり抜けざまに倒れた彼らを車体に飲み込み、最後に朝比奈が飛び乗る 「逃げられると…おや?」 ブリウエルドラモンのカラダにノイズが走る。苦しみもがきながらその巨体が崩れていく 「限界か。まぁ、いい…後でまとめて焼いてしまえば」 「ありがとうございますメグルさん」 「なんの、間に合って良かったです。彼等も」 『他のみんなも一帯のデジモンたちを避難させたり、炎を食い止めるためあちこちで頑張ってるよ!私たちは一旦、集合場所へ』 「そうか…ありがたい」 朝比奈は思わず脱力してしまう。張り詰めていたものが切れてしまった。そして…真実を知ったことでの落胆でもあるのだろう ノバスモンのハンドルを握りながらメグルは心配そうに尋ねる 「あの巨大なデジモンが…クロウくん、元を辿れば秋月くんのパートナーデジモンだったルドモンなんですね」 「ヤツの言う通り…光太郎は、私たちとの冒険の中で一度もルドモンから進化を成功させたことがなかった。それでも……それでも、体を張りルドモンと協力し、信頼しあい、皆のピンチを何度も助けてくれた。  お調子者なのが玉に瑕だが、警察官になったのもアイツらしい」 「そうでしたか…」 だが光太郎は死んだ もうこの世にはいない そして彼を騙り、我々の目の届かないところから着実に鉄塚クロウに近づき、信頼を勝ち取り…我々が強大な敵を討ち疲弊したタイミングを計らい 「こんな事態を…起こさせた」 赤き世界 鉄塚クロウが味わったとされる絶望の正体。生きとし生けるものへの冒涜たる情景…それが背後に遠ざかる かつての仲間の相棒のせいで それを受け継いだ若者のせいで 世界が…終わるだと 「…ふざけるなよ」 ============================ 意識を取り戻し、体を引きずりながらノバスモンを降りたクロウたちの目の前には、皆がいた 岩や木に身体を預ける者、地図と睨めっこしながら作戦を立てる者、傷ついた野生デジモンをケアする者… 「クロウ!」 「鉄塚さん!無事でしたか…」 「竜馬も生きてる?生きてるねヨシ!」 「朝比奈先生、おかえりなさい」 暖かく出迎えてくれる者 …このデジタルワールドを"脅かす者たちの一人"との大きな戦いがまたひとつ、ケリがついたはずだった その直後…ブリウエルドラモンの烈火が引き起こしてしまった地獄に、多くの者たちが力を振り絞り満身創痍の中…頼まれるでもなく再び立ち向かわんとする勇気ある者たち   そんな彼等にクロウは顔向けができなかった 「───ッッ、すまねぇ!!」 真っ先に口を注いで出たのは、謝罪 「みんな、すまねぇ…すまねぇ…。俺がアイツに騙されたから、お前たちの言う事ちゃんと聞けてねぇからッ…せっかくデッケェ敵をひとり倒せたのに、ルドモンを盗られて、あんな風に操られて!  センセーにも竜馬にもケガさせて…みんなにも迷惑かけちまって。こんな…こんな事に……ッッ!」 額を激しく擦り付けながらクロウは食いしばる様な声で喚く 「俺のことは、何べんでも殴ろうが蹴ろうが…殺そうがどうとでもしてくれていい!!  だが…だがっ、アイツは…ルドモンはずっと心の底からヒーローになりたかった…こんな、こんな事望んじゃいなかったハズなんだ!!だから…」 むざむざと逃げ帰るしかなかった自分に言える事は、この程度なのかもしれない 「頼む…!アイツを……ルドモンを…助けてやってくれ…!!頼む…頼む…このとおりだ…だから…ッッ」 ザッ… 「ン゛ーー…」 「…ッ? ワ゛ーーーー!?」 「ン゛ーー!」 「ア゛ーーーーー!!ケツが!ケツがもげた!!!!」 「あー元気いっぱい。ぜんっぜん大丈夫そうだな」 土下座から顔を跳ね上げた瞬間、視界いっぱいに広がった眉間の皺MAXの竜馬の顔面に仰け反り、その尻をリョーコがけだぐり、もんどりうつクロウへ三下がせせら笑う 「オメーらァァ!!なにすんじゃーー!!?」 「いやアンタがどうとでもしろと?そう仰ったんじゃねーかよクロウー」 「サ・ン・シ・タァー!?」 「み・つ・し・たァー!!」 「怒るよ」 「「ごめん」」 「…お前を煮ても焼いても、時間と体力の無駄だ。原因は全部…あの男だろ」 「…それは」 「しっかりしな鉄塚ぁ!あんな奴にどんだけボロクソ言われたか知らないけど、起こっちゃったものはしょうがないでしょ!」 「まぁーアンタみたいな不良野郎が"さん"付けで事あるごとに自慢してくる恩師を真似てきたんだもんなぁ。しかも生き写しレベルで似てたんでしょー?  ほんっっっとアイツいい弱点のつき方てくれちゃってさ。…そんでクロウを片手で胸ぐら掴み上げて浮かすリョーコこっわ」 「怒るよ」 「「ごめん」」 「彼等の言うとおりだ。…後悔も、罪を突き詰めている暇もない。アイツ…いや君の恩師のためにも、今度こそブリウエルドラモンを止めなければ…」 「そして、それをやるのは…アンタの仕事!」 クロウへの名指しに皆が一斉に頷く 「…俺。俺…には、もう何も。デジヴァイスだって…」 「…気持ち悪いくらいに、しおらしくなる事があるものなんだな。お前にも」 「んなっ…!」 ガサッ その時、 「なぁ、少年たち…話聞いたよ。彼…秋月の弟さんなんだな」 「げぇっインピオおじさん!!!!」 「改めて言葉字面にすると最低すぎるな…」 突如木陰からの不審な声に臨戦体制のデジモンたちを、両手で制しながら男は現る…腐ってもかつて選ばれし子供たちの一人だった、その男が 思うところがあったのだろう 「待ってくれないか今日は、今日のところは一旦停戦で。───少し思い出したんだ。たまには誰かに昔話をさせてくれないか」 皆々様が訝しむのも無理はない…が、今は少しでも敵の情報が欲しい。朝比奈は子供達のそれを制し、許諾した 「私たちの世代が選ばれし子供となったあの日、デジヴァイスとパートナーデジモンを授かったあの日。 …敵の策略で…そこをみんなが攻撃されて、まだ生まれてないデジタマたちを守るためバラバラに戦っただろう?」 また随分と懐かしいハナシだ。朝比奈はその情景を思い浮かべる 確かに目覚めたばかりのデジモンたちとパートナーとなり、その最中…その冒険の中で倒した悪の根源が繰り出した凶暴化したデジモンたちが襲いかかってきた だが結果は… 「ああ、本来ならもっと多くの選ばれし子供達が…俺たちと一緒に冒険するはずだった。だがデジタマの巣は悉く破壊され、その大半は…パートナーやデジヴァイスを得る事がないまま現実世界へ引き戻された」 「その時…見たのだよ」 浩一郎が見せたことのない苦い顔をする 「───"秋月"が目の前で、敵のデジモンに…抱えて逃げてた金色のデジタマを、デリートされるのを」 「ええっ!?」 「だから、みんなと合流したあとびっくりしたのさ。そこには、さっきデジタマを壊されたはずの秋月が…陽気にルドモンと喋っていて。 …同時に安心もしたんだ。ああ、さっきの彼もちゃんとパートナーと会えたのだと」 …けど、多分違ったんだね そう付け加え、続ける 「アレは、デジタマを壊された彼は…光太郎ではなかったんだ。もしかしたら彼はそれが原因でこんなこと」 「デジタマを破壊されたのは…偶然同じ場に居合わせた双子の弟、秋月影太郎だった…ということか」 「あの時はいきなりの戦いで私も腰が引けてしまって、なにもできなかった。…謝りたいような、怖いようなさ」 そんなにも根深い因縁だったとは…頭が痛い それが、その事件が全ての元凶だったのか…あるいは最後の引き金となったのか いずれにせよヤツはもうすぐ、デジモンを焼き払いにくる そしてやがて…今度はまたヒトを焼くだろう 「…待って、何だあれ」 「おい、アレ見ろ!」 その矢先だった 再び世界が、赤く蠢いた その彼方に揺らぐ…誰も知らぬ金色の竜 「まさかアレがブリウエルドラモン…!?」 「いや………違う。あれは秋月影太郎のもう一体の…まさかアレも究極進化できるのか!」 「あーったく!ホントめんどくせー敵用意してくれたよなクロウはよ!」 あの場で影太郎のゴルルドモンと対峙していた朝比奈の嫌な予感が的中した 奴の手中には今…世界を滅ぼしかねない2体の究極体デジモンが揃っている 子供達が、たじろぎ、身震いする 「………鉄塚。いい?これだけは言っとく…私たちにできるのはビビったアンタのケツを叩いて送り出してあげること」 「まぁこんな頭おかしいシチュエーションに飛び込めるのはアンタしかいねーし、責任感じてるなら結局アンタが一番体張るしかねーんだよな!」 「押し付けがましいが……キミが、やり遂げるんだ。光太郎の代わりに、今度こそ」 「…お前のパートナーが、あそこにいるんだろ」 「…ルドモンが、まだ。あそこにいる」 それを見たクロウは…ようやく気づく 「ああ…そうか。そうだったんだな」 あの赤い世界に、叩きつけられた絶望に、己の無力さに、打ちひしがれて…大事な事を忘れていた あそこに居るのは、"もう"…過去に己の全てを焼き尽くした単なる化け物じゃない …俺は知っている。全部 デジヴァイスもない 打てる手もない 勝てるはずもない それでも、秋月さんは…あの日、立ち向かう決意をした ルドモンの下へ 相棒の下へ 「……なにやってんだ俺ぁ───ッッ!」 己の頬を張り上げ、クロウは迷いを断ち切らんとする。秋月影太郎から受けた心の傷から伝播した恐怖に膝が震え、額に汗が滲み、心の臓が嫌ほど跳ねる 「…怖え、未だかつてないほど、俺はビビってる。けど…けどなぁ!」 怖いだの、ごめんなさいだの、頼むだの…あのヤサグレていた自分が人目も憚らず、気がつけば随分とヤワなセリフを吐けるようになってしまった だがそれでいい…今はそれがいい その弱さを受け入れて、強くあれると。仲間たちが許してくれると、支えてくれると今なら思える 「悪りぃ皆。俺、めちゃくちゃ無策で俺突っ込むけど!…こんなフザケた宿命、ブン殴って変えてやらなきゃなあ。この俺がッ!」 震える歯を食いしばり、ギリリと…口角を突き上げ、クロウが奮い立つ それを見た者たちもまた、安堵と共に頷いて返した 「鉄塚さーーーーーん!」 「むっ、あの声は…勇太ーーーーー!」 そこにさらなる応援。…先の戦いで目覚ましい活躍を見せた《ウォーボモン》に抱えられながら手を振りまっすぐな笑顔を向けてきた少年 ───我らがリーダー《日野勇太》。そして彼に…いつも通りべったり寄り添い、ややむくれ顔の《鬼塚光》にもクロウは両手を振り返した 『ま、間に合った…疲れたよぉー』 「ありがとうウォーボモン。鉄塚さん、ルドモンを助けに行くんですね!』 「おう!…生憎デジヴァイス壊されちまったけど」 だからこそ今、在りし日を乗り越えてきた"彼らの姿"に勇気づけられるのかもしれない 「関係ねえや。ぜってぇ連れて戻るぜ」 勇太の目線に拳を突き出すと、勇太もノリよく拳を突き出して合わせてみせた 「はい!ルドモン、ぜったいにクロウさんを待ってるはずです。僕たちも力がまだ戻ってないけど…できることを続けます…頑張ってください!」 相棒が、俺を待っている。鉄塚クロウが立ち向かう理由などそれで十分だ そして染み渡る…なんと心強いエールだろう 「クゥーっ…さっすが俺たちの"リーダー"だ。さらに元気が出たぜありがてぇ!」 「勇太…」 「っと…いやー悪りィな今回だけは。お前のカレシの声援、ちょっとだけ借りてくぜ」 「………………いまだけ、許す」 「!?」 「…………早く行けよ」 それ以上光はクロウと口を聞かないまま、勇太の腕にさっきより深くしがみつくのだった 「…ヤケるぜぇ」 「───ああっ!やはり最高だよ勇太君!!」 「げえぇ、まだ居たのかおっさん!?」 「えええーっなんでここにいるんですか浩一郎さん!」「フー…ッ!」 「おおっと揃いも揃ってそんな怖い顔しないでくれたまえよ、昔話をしに来ただけさ。……見事だよ"勇太"、キミはまた一つ壁を打ち破った。賞賛に値する」 声色を変え、浩一郎が笑みを浮かべる 「だがまだ先は長い。今はそこの鉄塚クロウに事を任せて君はまた英気を養うといい…もっとも、その前にもう一仕事があるのだったな」 勇太は頷いて、クロウを見る 「はい。クロウさんなら、きっと大丈夫です!」 「───イイ…。やはり君を見込んだ甲斐があったというものだっ!それにこういうシチュエーションでこそ生まれるモノを、生の劇場を味わうのもいいものだね」 「な、なんのことですか…??」 やはりこのおっさんの言うことはまともに受けてはいかん 健全な少年のためにもクロウはシッシッと追い払う 「…愛の伝道師は、時としてクールに弁えることもできるのだよ。─── 私は失礼するよ、もんざえモォォォン!!(指パッチィィイン)」 数秒の沈黙の後、けたたましい土煙を巻き上げながらもんざえモン参上。浩一郎を引き上げていった 「また会おうーーーー!!!」 「2度とくんな!!」 念を押したが、まぁ絶対来るやつだ 朝比奈先生が深いため息ののち、話を引き戻す 「…ハァ。ともかく覚悟だけは決まったが…どうする、あれだけ燃え上がればノバスモンで近づくのも厳しいぞ」 「───でしたら、快適な空の旅をご提案しますわぁ」 「ハッ!?」 ここぞとばかりに予想外の名乗り上げ 金色の重厚な縦ロールを手でゆらし、高飛車な笑みを浮かべるスーパーセレブ… 「どうやら事態は一刻を争いますわね。皆さん、そして今し方…"ノブレス・オブリージュ"を垣間見た…鉄塚クロウさん。話はお聞きしましてよ」 「ノーブラ?(ドカッ)ッッデェ戦う前に死ぬ!?」 「貴方がたをあの場所まで…この《大聖寺奏恵》が、『力尽く』で送り届けますわああー!オーッホッホッホ!」 「え゛っ!?」 『はぁ…火の手から皆を逃し戻ってみれば、今度は火中の栗を拾いに行かされるとは』 カナエは自信満々に高笑い、そのパートナーのバルキモンが呆れて項垂れる 『悪いがこの女は言い出したら聞かん。ワガママに付き合ってやってくれ……鉄塚クロウ、其方も大層なワガママを貫きにゆくのだろう』 「ワガママってなぁ…せめて男気と言ってくれよ」 『男気か』 覚えておこう。バルキモンも腹を括ったらしい 三下が挙手する 「あのーちなみに、乗るメンツはあの火の海に放り出されるんだよな?そのあとは」 「流れでおまかせしますわー!」 「こっちもノープランだー!」 「(納得いかない顔)」 「おおっと、はい良い子は目ェ瞑ってねー」 高笑いをあげ、カナエがデジヴァイスを掲げた ============================ 「そろそろ時間だ。ゴルルドモン」 「"究極進化"だ」 舞い上がる金色の竜 その翼から剥がれ落ちた燐光が世界を再び赤く塗り替える様を眺めながら…ルドモンは独りごちる ───ルドモン。ルドモン、お前なんだな…本官を…っ俺を呼んだのは! 全て思い出した、 ───あの日以来、デジヴァイスが消えて…お前に会いに行けなくてゴメン。でもすごいじゃあないかっ!なれたんだな、究極進化…! あのデジヴァイスの光を浴びた時、 ───俺には結局できなかった。お前を進化させてやれなかった…すまない!けどっ…良かった!お前が…お前が強くなれて! ブリウエルドラモンとなったとき、 ───…だが、だが!!だからこそ…俺は 真実を告げられた時、 ───パートナーとして…相棒として、お前を止めなきゃあならないんだっ!! …失われたはずの記憶のピースが繋がっていった 『そうか…そうだったんだ』 ───ルドモン!!! 『オレが…光太郎を…相棒を……!』 「───来たか」 影太郎が呟く 炎煙の彼方より瞬いた青白い光線…レーザー砲がゴルドブリウエルドラモンを射線に捉えた それを金色の盾が容易く散らし、晴れた視界の向こうに現れた、もう一対の『金色』の戦艦 ───《ルクマバルキモン》 「ルクマバルキモンの主砲をあんな容易く…!」 『我々も消耗しているが、なんて硬さだ…』 「こうなったら…意地でも一矢報いてやりますわよ!!」 火線を靡かせ全砲門を解き放ちながら金色の戦艦が加速する 「ゴルドブリウエルドラモン、グレンストーム!」 『ぶつけてでも…墜としてみせますわー!!総員、掴まってなさぁい!』 「おあー!何する気だ!」 ルクマバルキモンの艦橋で誰かが叫んだ瞬間……グレンストームを腹に掠め、ルクマバルキモンの巨体が天空に飜る その光景に秋月影太郎は、初めて驚愕を漏らした 「…その、巨体で…"バレルロール"だと!?」 『ごめん───あ・そ・ば・せぇええええーーーー!!!』 「迎え撃てゴルドブリウエルドラモン!!」 激突。金色と金色の巨躯が互いを撃ち鳴らす 「…ッ!舐めるなあァァァァァア!!」 金色の盾に焔が溢れ、ルクマバルキモンの機体を強引に引き剥がしていく ───爆発。噴煙の中から散り散りに落ちていく少年少女 「うふふ…さすがに、一日に二度も本気を出すのは堪えます…わね」 「ありがとう大聖寺さん、今度は私たちが飛ぶ!アグモン、超進化よ!」 『いくぜ!───アグモン、超進化!!』 ───《メタルグレイモン》!! 鋼鉄の翼を翻し、巨大な鋼の腕を振るい仲間たちを抱き抱えたメタルグレイモンが地面スレスレを滑空しながら彼等を地上へ送り届けた。そして再び空へと駆け上る 「(何故俺はこちらに残ってるんだという顔)」 「悪いわね竜馬、トリケラモン。こういうときは、なんだかんだでアンタが一番頼りになるから…チンロンモンおかわりヨロシク!!」 その信頼に一層眉間の皺を深めながらも、竜馬は応えるほか無かった 「…ハァ、無茶苦茶をやらせてくれるな」 『いくよ竜馬!』 ───"アグモン、究極進化"!! ───"マトリックスエボリューション"!! 一方で地上に降ろされたクロウ、三下は気を失ったカナエの無事を確かめて良しとする 「…!」 そしてクロウにはドンピシャだった 「───ようやく、見つけたぜ!サンシタ、俺は先に行く。あとで落ち合おうぜ!」 クロウの瞳が目指すべき場所を捉え …天から降り注ぐ火球の破片を省みず、爆発を背負いながら一目散に走り出した 「うぉおおおおおおおおおおーー!!!!」 「ちょっ!おい、クロ…熱っづ!?」 三下は横たわったカナエの背を片腕にかけたままクロウの背中へ叫ぶ 「───俺、この人と二人っきりとかちょっと気まずくて嫌なんだけどォーーーーー!?!?」 『…同情する、三下慎平』 「あーもう、かっこつけてくれちゃっ……て」 不意に背後に気配を察知した三下。煙の向こうに誰かがいる… だがそれは予想外の来訪者。ターゲットモンが二度見し、三下の焦りが加速した 『アッ!アナタなんでここにッ!?』 「げっ…青山司ちゃん!?なんでこんな地獄にわざわざ来てんだよ、ルクマバルキモンに隠れて乗ってたのか!?」 なんと空からバケモンとソウルモンにしがみつき幼い少女が降りてきたのだ ターゲットモン共々戸惑いが隠せないまま、着地に転んだ司を抱き起こすと、三下の服の袖を彼女が予想外の力で握り返す 「…みついし、さん。ルドモンに…ルドモンにあわせて。つれてって」 「ハァ!?状況と立場わかって言ってる?ココは戦いの経験がほとんどない君じゃソウルモンにバケモンがいても命がいくつあってもたりないような…」 「おねがい、します」 涙を堪えた目に、三下とターゲットモンは一瞬射すくめられてしまう 『どうする、どうする?』 「…ハァァーーー……んがあああ!さっきクロウが通ったところは火の海だから…回り込むぞ皆!」 ───駆け抜ける人影をゴルドブリウエルドラモンの背に佇み、冷徹に見下す瞳 「キミのような落ちこぼれにそのデジモンを従える資格はない。私が…力あるものが従え、遣う。そして…」 「ホンッッット、デジモンも人間もとことんバカにするヤな奴よねアンタ」 『…傲慢野郎』 「ウォーグレイモンにチンロンモン…今度は二人がかりとはね」 影太郎は表情を変えぬまま、黒煙を裂き飛翔する二体の竜を一瞥する 「チンロンモンのキミは、まだ先の傷が癒えてないだろう。そして今更相手が一人増えたところで…」 「御託はいいから、やってみなきゃあわかんないでしょ!!」 ゴルドブリウエルドラモンの身の毛もよだつ威嚇。三体の竜が舞い上がり、激突した   「よお、来たぜ…ルドモン」 そしてそれは今、一番聞きたくない声だ 『…っ、どうやって』 「なんだァ?こんだけ派手に登場してやったってのに、そんなのに気づかないほどボケーっとしやがって…まぁ、また会えたな」 『何しに来たんだよオマエ…!』 「決まってんだろ…」 会合一番、拳骨 …赤く腫らした瞳をぎらつかせたクロウの一撃がルドモンの手甲を確かに震わせた そして…耐え難い黒い力場が、ルドモンの体を乗っ取り、クロウに襲いかかる 「ケンカだコラ。この俺が責任持ってテメーをぶちのめして…"止めてやるよ"」 『…ッッ!バカかオマエ!さっさと逃げろって言ってんだデジモンに人間が敵うわけねぇだろ!!』 「うるっせええ!行くぞ!!」 滑稽だ。影太郎はそれを嘲る気力すら湧かない 放たれる拳。何度も、何度も、何度も デジモンの装甲に傷一つ与えられぬ脆弱な掌 やがて血を滲み、黒い盾を汚しながら 返される打突に赤子のように翻弄されながら 愚かな少年は転がり、砂を喰み そして…立ち上がり 繰り返す 繰り返す 繰り返す 「ッだああああ!」 『やめろ…やめろッ!」 「やめねぇ!!」 『帰れ!!』 「帰らねえ!!」 『ふっざけんな!!』 「大マジだコラァ!!」 落ちこぼれ共が繰り出す中身のない、くだらない、押し問答 何の価値がある? 道具の分際にそうまでして固執する意義がどこにある 諦観し、切り捨て、突き放せばいい …そうすれば、楽だろうに 『どうしたよ…なぁクロウ』 「…」 『ブン殴ってみろよ。ブン殴ってくれよ…オレは、オレが!秋月光太郎の仇なんだぞ!!』 「知ってるよ…」 『だったら、もっとホンキでやれよ。殺しに来いよ…憎いんだろ、怒ってんだろ。なぁ!』 「……ああ、そうだったかもな。でもよ…ジョージョーシャクリョー、ってヤツだ」 咳払いし、打ち伏せられてから何度も立ち上がり…煤にまみれ、土にまみれてクロウは食い下がる 「…『強え漢になるための鉄則・その7』…罪を憎んでヒトを憎まず。…あー、いやこの場合はデジモンだな?」 『お前…本気でオレを止める気あんのかよ!!』 「ああ。だが俺は、今、お前の"パートナー"なんだよ…この瞬間もな」 そして、と付け加える 「一丁前のヒーローになるまでお前の面倒見なきゃなんねぇし、道を踏み外したんなら…命懸けで食い止める。…ただの怪物のまま死なせてたまるかっつってんだ」 『……ッッ!!』 「まだお前の本音を聞けてねえぞ。マジで死にたいだけなのか、それだけしかねぇのか……コイツで証明しろよ! デジソウル…チャージ!!』 ルドモンへの拳撃に闘気が吹き出す 「うぉらああああ!!」 ルドモンの身体が明確に揺らいだ。人間の体がデジモンを圧している。ぶつかり合いの中でデジソウルが、圧縮され、磨かれ、加速している その影響がクロウの身体機能に余波をもたらしている 『なぁ…!?』 「お前は、変われる。…そいつを証明して───」 「ルドモン」 遊びは終わりだ、と 天より声が、あの光が降りてくる 「究極進化だ」 「チィイ!」 究極進化へのリキャスト完了の合図 リョーコや竜馬たちが"もう一体"のブリウエルドラモンを食い止める以上、こちらに究極体デジモンを跳ね除ける力は存在しない 死の気配。全身が冷たくヒリついていく …だが、 「…!?」 「なんだ…進化の命令を、跳ね除けているのか?」 『ぐ、が…ァァァァァア!!!』 「そうだ…負けんな、俺以外に負けてんじゃねえーぞルドモン!アイツの言うことなんざ聞いてんじゃねえ!!」 禍々しい光の中、ルドモンの姿が揺らぐ。ティアルドモン、ルドモン、ブリウエルドラモン、ライジルドモン…何度も、何度もうねり、歪み そして……己の胸に爪を突き立て、《ライジルドモン》が悲鳴を上げながら停止する 「ルドモン!!」 『───これは…オレの、罪だ。取り返しのつかない事をしちまった…罪のない人間をたくさん焼いて…相棒も……光太郎もだ。だから…全部オレが背負うべきなんだ…全部背負って消えなきゃ…死ななきゃならないんだよ…』 「…」 『けど…けど、ちくしょう…チクショウ!  なんでオレは…こんなトコにいる!?  なんでオマエがボロカスに傷だらけになってる!?  なんでオレがお前らを傷つけてる!?  なんでオマエの隣にオレはいない!?  なんでオマエを護ってやれない!?  なんでみんなを護れない!?  なんで光太郎も護れない!?  なんで…なんで…』 『オレは…オレは、なりてえよ。大事なみんなを、仲間を、オマエを…今度こそ…今度こそォ!護れるヒーローになりたかったんだよォォォオオオオオオオオオオオ!!!!』 「ルドモンーーーっ!!」 「『!?』」 「司ちゃん待てって!」 「つ…司!ターゲットモン!サンシタたちまで!?」 『あァンもう!ゴメンネクロウちゃん。この子ルクマバルキモンの中に隠れてたみたいで、アチキたち止めようとしたんだケド…』 『鉄塚クロウ、そしてルドモンよ。こやつの話も聞いてやれ』 「捕まえた、これ以上近づいちゃダメだって!」 どれだけ必死に走り続けたのだろうか。仲間たちと共に追いついた三下に腕を掴まれた司は息を荒らげ脚元を汚し、煤だらけになり、それでもこんなところにまで そして彼女はいま…自らに爪を突き立て自害を選ばんとするライジルドモンを見つめ、震えている 「やだよ…死なないで…死なないでルドモン。わたし覚えてるよ、あなたたちと出会った日…ソウルモンを庇ってくれて、必死に守ってくれた…かっこよかったの!」 「つ、司ちゃん…けど、今のアイツは!」 三下の言葉を、か細い声色からは想像もできないほどの大声がつんざく 「だからっ…ずっとヒーローだもん!ルドモンは…っルドモンたちは……あんなひきょうものに負けちゃだめなんだぁ!!う…うあああっ……!」 「……っ!えええい、聞いたでしょこんな小さな女の子泣かせてアンタなにチンタラやってんださっさとソイツいつもみたいにぶん殴って引きずってきなさいよこのバカッ!バーカ!」 「カッチーン!言い方!言い方よくねぇーぞソコ!!」 「うるさい」 影太郎が吐き捨てた 「「「!?」」」 「ウォーグレイモンが!」 ゴルドブリウエルドラモンの爪に鷲掴みされたウォーグレイモンが振り払われ、チンロンモンに激突する 「鉄塚ぁー!こっちは気にするなぁー!」 『ルドモンを止めろー!』 「うるさいッ!!くだらない。寒い。みっともない…馴れ合うな……友情ごっこなど、終わってしまえ」 揺れるまなこで、歪んだ口元で、絞り出すように影太郎が命ずる 「殺せ。ライジルドモン」 バキリ。黒い力に突き動かされ、ライジルドモンが泣き叫ぶ。折れた爪を胸元に残したまま、ギリギリと壊れた機械のように身体を震わせ、その剣幕に…望まぬ殺意が宿る 『やっっば!!どうしましょ三下ちゃアン!?』 「俺に聞くなぁターゲットモン!けどなぁ…尻尾巻いてとか考えらんねーからな!司ちゃんには指一本ふれさせねーからな!」 「…おうよ」 「はっ?」 「ルドモン。聞こえるな…『強え漢になるための鉄則』…その5、だ」 息を吸い込み、掌を硬く握り、前を見る 相棒を、見据える 「───約束は…《約束は必ず果たせ》ェェェエエ!!」 それは走馬灯だろうか 突如、何もかもがゆっくりと蠢き過ぎ去らんとするこの景色の中でハッキリと頭の中に、心の中に…残された情景が、言葉が あの日の去り行く背中が…語りかける"約束" 「デジ…」 ───まかせたぞ。鉄塚少年 「ソウル…!!」 ───誰かを守れる、強い漢に 「───ッッッッッああああ!!」 鉄塚クロウ そして ライジルドモン 真っ向から激突する拳と拳 人の拳は容易く張り裂け、されど鉄の拳へ喰らいつく 組み合ったまま大地を踏み砕いたクロウが絶叫し ───"キミはなれるさ"っ! 「……ぅウォオオオオオ!! チャーーーーーァァァァァアジィィイ!!!」 ライジルドモンの額へ───己の頭蓋を叩き落としたのだ 『が…はっ…!?!?』 「何っ!?」 砕けたのは…ライジルドモンの兜 "窮鼠猫を噛む" "火事場の馬鹿力" それとも、ただ愚直なまでの…"根性" それに耐えかねたライジルドモンの視界が揺れ、膝を折る 「………よぉ、無事か」 「お…お、おう」 「…うん、うん…っっ」 三下が呆然と、司は涙を湛えた瞳でその背を一心に見つめ…頷く 「……ッッッッッ、はっはっはっはっ。はっはっはっはっ…ダーーーッハッハッハ!!ヨッッッシャあああああああああ!!!!!!」 項垂れた身体をぐわりと仰ぎ、クロウの高笑いが、束の間の静寂をバラバラに粉砕した 血まみれの拳を解き、親指を突き立て…己を指差す 「どうだァ相棒!オレは…このオレはァ!誰かを護れる…《強え漢》になったぞ。…いま、"ここ"で!!」 『クロ、ウ…』 そして。ライジルドモンへ指を指し 「…次は、テメェの"番"だろ」 「オイ」 「秋月…───影太郎ォォオオッッ!!!」 「ッッ!?」 「目ん玉かっぽじって…よーーく見ておけ。この拳で……俺と、ルドモンの"魂"をぶつけ合った……ッッ、光をなァァァーーーーーーー!!!!」 右拳を、左拳を、額を、全身全霊を、力の本流が破裂し大地を震わせ天へと駆け上る 何度も、何度も、何度も何度も何度も 人とデジモン。拳を交え、言葉を交え、心を交え、共鳴したデジソウルは ───限界を超えた"姿"を象り、クロウの掌へと舞い降りる 「さぁ…行こうぜ。いつまでも寝ぼけてんじゃねえぞ…"ヒーロー"さんよォ!!」 "チャージ…" "デジソウル" 「───バーストォォォオオオ!!!!!」 …影太郎の掌で改造デジヴァイスが爆ぜた その景色の向こう…瞬きの中、赤き焔の世界を切り裂き、空間の刹那を支配した紫電と…蒼き天空を揺蕩う黒き光を突き破り、顕現する 「『───《ライジルドモン・バーストモード》ッッッッッ!!!!!』」 漆黒の英雄、咆哮 ───『ライジルドモン・バーストモード』 ライジルドモンが奇跡のバースト進化で宿命を超越した紫電の機械騎士。何者にも決して侵されぬ"漆黒"を纏いし鎧装と盾に護り切れぬ命などは存在しない 必殺技は『ライトニングバスター』『ロケットメッサー』そして雷鳴の如き神速で敵を真っ向から粉砕する耀甲拳『イージスオブケラウノス』 「あ…あれは」 「クロウ…ルドモンだ」 遥か遠く、見守る皆の目にもその光は届き…歓声となる それを振り払う、一人を除いて 「…は、ははははっ!何がバーストモードだ、所詮その姿は完全体のライジルドモンじゃあないか!」 「そいつぁ」 『どうかな』 ───!? ゴルドブリウエルドラモンの背後、黒いシルエット…神速で現る 「いつの間に…!?」 「『ライトニングバスタァァ!!』」 『GAAAAAAA!?!?』 頭角に収束した紫電が光の刃となりゴルドブリウエルモンにぶちかまされる 「バカな…ライジルドモンの俊敏さなど、こんなはずじゃ」 『…余所見を!』 「すんなぁぁーー!!」 チンロンモンの蒼雷 ウォーグレイモンのポセイドンフォース 隙を見出したリョーコと竜馬の振り絞った合体技が体制を崩したゴルドブリウエルモンを大地へ引き摺り落とす 「ぐああああっ!?」 かろうじてしがみついた影太郎 だがそこでチンロンモンとメタルグレイモンが光に包まれ、進化が解けてしまう 「…限界、か」 「ごめんアグモン、無理させた!」 それらもまた各々のパートナーが受け止める形で大地へと降り立った そして… 青天の霹靂 天より穿つ無垢なる光がごとくライジルドモン・バーストモードが…クロウと共に立ちはだかる 『いくぜ…クロウ!!』 「ああ、いこうぜ。…"ライジルドモン"!!」 ライジルドモンBの肩に飛び乗り、互いに横目に頷く 『ツカサ!オレを…信じてくれてありがとうな』 「うん…かっこいいよ、ライジルドモン」 「あー…三下!」 「だーから、俺はみつした…あれっ合ってるな」 「司ちゃんや、リョーコや竜馬やお嬢様、ターゲットモンやアグモンやトリケラモンやバルキモン、バケモンソウルモンそれからそれから…全部まとめて頼んだぜ!」 「なげーよ!そこはサクッと他のみんなを頼んだでいいやつだろ!あ゛ー、アンタはカッコワリィな!いいからとっととやっちまえ!」 やがて怒髪天を突くように再び炎が大地を侵し、彼方に金色の竜が首をもたげる 「…ッッッ、やれえええええ!!ゴルドブリウエルドラモン!!!!!」 『GAAAAAAA!!!!!!!!!』 「『いぃぃくぜぇえええええ!!!!』」 巨竜が猛き腕を掲げ、英雄が勇ましき爪拳を引き絞り…激突する 『GAAAAA!!』 『ハァアアアッ!!』 究極体に真っ向から競り合う"バースト完全体"というイレギュラー 反動と衝撃に鍔迫り合いを解いた双方がすかさず顎門から火球を、双腕から雷球を撃ち放ち黒煙が爆ぜる 「…押し潰せ!」 「横だァ!」 視界の両端に緋色が差し、死角を縫うようにブリウエルドラモンの盾が灼熱化。ライジルドモンBを挟撃し叩き潰さんとする"二の刃" 「───しゃらくせえッ!!」 ライジルドモンBの掌が圧迫する炎の壁を掻き分け、こじ開けて……握り潰さん勢いで引き剥がした。あまりの剛力に食い込ませた指先から…仲間たちの火力が注がれ続けたブリウエルドラモンの盾が醜い亀裂をさらして悲鳴を上げる 「なんだと!?」 「こんなパチモンの盾…ぶち抜けライジルドモン!」 「『ブロウクン……メッサー!!』」 迫撃のロケットメッサー。爪甲が変形し、けたたましい雷嵐の衝角へと姿を変えて───巨竜の盾をブチ抜く 「『『ド、ドドドドリルロケットパンチだとォー!?』』」 「フフ…アレが鉄塚クロウさんのノブリス・オブリージュ、いえ…『男気』というものね。面白いものを見られましたわ」 (正直かっこいいなアレ…) 「やるじゃん鉄塚ァー!ライジルドモンー!」 「がんばれ…ふたりとも、がんばれー!」 「───だがそれも、囮なんだよ!!」 『!』 「その頭から噛み潰せ、ブリウエルドラモンッッ!!」 金色の盾で注意を引き、技を引き出させて足を留めた所へ刺す"三の刃"。これが秋月影太郎の本命… ゴルドブリウエルドラモンの固く閉ざされた主顔が割れ、牙を剥き出しライジルドモンの姿を喰らう 「…悪りィなー。俺は『鉄』塚だぜ?」 「はっ…はぁぁ…っ!?」 「…そんなヤワな食いっぷりじゃあぁなァ。俺にィ…歯形ひとつツケらんねぇぞォオオ!!」 ライジルドモンの姿が消えた そこにはただ一人牙を握りしめ、足蹴にした男が…手足にデジソウルの闘気を纏いながらブリウエルドラモンの口角を"力尽くでこじ開けている" ───絶句 万力を素手で引き剥がすがごとき所業を生身の人間が成しているのか? どこまでも…どこまでもイカれた男だ 得体の知れぬ恐怖に侵され思考が足を止める その一瞬を、今度はライジルドモンBが逃さなかった。クロウが囮となり飛び込んだブリウエルドラモンの下方に、チャージされた雷鳴の輝きが漏れる 「やっちまえ!」 『ライトニングゥゥ…ボンバァァーー!!!』 地を這うゴルドブリウエルドラモンの巨体が、ライトニングバスターの数倍のエネルギーを濃縮した雷球の鳴動と共に天井へと薙ぎ飛ばされた たまらず巨竜が嗚咽を漏らし、口角から吐き出されたクロウが再びライジルドモンBの肩に舞い戻る 何度目かの雷鳴となり加速し、金色の竜の"さらなる天"を突いた漆黒の騎士が告げる 「『───イージスオブ…ケラウノス!!!!!』」 決着の合図 全身全霊、最強の必殺の盾が雷光となりて降り注ぐ 「僕は…負けるのか?」 影太郎の視界に光が満ちていく 滲み、霞み、思考が急速に鈍っていく 「僕は…」 死ぬのか? …ゴルドブリウエルドラモンは影太郎を背から弾き出し 「…はっ?」 影が覆い包み込むように、その背を晒し 影太郎を見つめる顔がまるで瞳を伏せるかのように…静かに俯いた   ============================ 「ゴルルドモン…」 土煙澱む地べたを這いずる影太郎の瞳に、荒野に転がる敗北した傀儡が映る 所詮、使えない道具… ───使えない道具だろ、壊しちまおうぜ かつて蠢く悪意が、母の形見を砕いた 「ッ…!?」 ───汚らわしい!こんな動物など隠しおって!! かつて轟く非情が、小さな命を奪った 「あ…ぁ?」 ゴルルドモンの腕が、砂のように崩れる それを見た時に脳裏に溢れ出る『痛み』 ───やめて、虐めないで!デジタマを壊さないで!! 「僕…の声?」 ───やだ、やめて!この子は僕の… 「…あ、ああ…!」 軋むような声、それは砂塵へと散りゆく…偽りの命から ───僕のパートナーデジモンなんだ!! そして、 『……ネ』 「やめろ、やめろ…言うな。喋るな。道具の、道具なんかのお前にそんな機能は無い…やめて、やめてくれ」 僕は、 『ゴ…メ…ン、ネ……エー…タロ』 また、運命に否定される 「ああぁぁあああああッッやめろぉぉおーーー!!!僕から…僕からまた奪うのか…お前らみたいな無能が!出来損ないが!落ちこぼれが……また理不尽な真似をするのか!!!」 縋るように抱き寄せていた 壊れてしまった何かをかき集めるように、取りこぼさぬように、必死に、必死に それでも尚、ひび割れ壊れた心から、崩れ朽ちゆく身体から…止めどなく噴出するモノを留める手段などもはや彼には残されていなかった 「嫌いだ…嫌いだ!お前らなんか!何もかも奪っていくお前らなんか!だから…だから、…みんな…みんな……こわい、怖い……消さなきゃ…消してしまわなきゃあ!!」 「させるわきゃねえだろうが」 「……ッッッッ!!!」 かつてこれほどの怨嗟を込めて、誰かを意識したことがあっただろうか 誰かを見やったことがあっただろうか 唇を切るほどに食いしばり、ゴルルドモンを寝かせて…ゆらりと立ち上がる 「鉄塚…てぇえづかァァ!!クロぉおおおおーーーーーーー!!!」 「かかってこいやぁあああああああ!!!!」 「えっ、ちょ、ちょっと待って鉄塚まだ戦ってんの!?」 「…脳筋もここまで来ると、たいしたもんだな」 ライジルドモン・バーストモードの一撃で穿たれた大地の底に鈍い打突音と怒号が反響する。そして駆けつけた彼らは力無く足をすくませ、見守るしかできない 『クロウ…』 「ルドモン…いや、ライジルドモン。君の因縁は払拭された。そして今度は彼の番だ」 司とライジルドモンの傍らに追いついた朝比奈は苦々しく、しかし目を逸らさず見つめる 「だーっチクショウ!兄弟揃って殴り合いのケンカが弱えぇトコまでそっくりじゃねーかホントムカつくなモォー!」 「…アイツ疲れて投げやりになってない?」 「いや…つかあんな血塗れでなんでまだ動けるんだよターミネーターか?つかデジモンのバトルで何度もケンカ漫画おっぱじめんじゃねーよバカども!」 外野から野次が飛んできた気がしたが、構わずクロウが追撃し、半狂乱の影太郎が血反吐を吐きながらも飛び込み怨嗟を紡ぎ続ける 「僕は……僕は!ずっと怖かった!!」 生まれた時からずっと、息子をしがらみ虐げる厳格な父が怖かった 「あんな男のせいで…母さんは死んだ!!」 いつも守ってくれた優しい母は…病に伏し、幼い自分たちを置いていってしまった 「母さんの形見を…何も知らない怠惰な落ちこぼれどもが壊した!」 孤独と恐怖と痛みに耐えながら鍛錬しつづけた成果を、天才などと陳腐に吐き捨て妬み嫉む者たちには、たった一つの優しさの思い出すら踏み躙られて 「助けたかった子犬すらも、あの男に殺されて…!」 助けたかった子犬の命すら、汚らわしいなどと手前勝手に弄ばれて 「誰も僕なんか助けちゃくれない…みんな僕を突き放して、否定して……"僕のパートナー"すらも…デジモン共に殺された。また奪われたんだッッ!!」 そんな何かが変わると、変えられると。信じたあの日すら…縋るものを何もかも奪い去っていった 「お前の兄貴も、その一人だって…いいてぇのかよ!?」 ならばと。クロウは秋月光太郎の代弁者たるために声を荒らげる 「兄さんは…兄さんは、分からずやなんだ!いつも飄々として、不真面目で、僕をからかって……頼んでもないのにいつも、そばに居て」 でもそれが、あの頃はほんの少し嬉しかった。心が救われたはずだっだ。…そんな事すら思い出せないほどに、 「だから余計に腹が立つたんだ!」 余計に憎たらしく、羨ましかった。…選ばれし子供になれなかった影太郎には 「結局、裏切られた…」 ───"出来損ないな兄"だと家を追い出され、引き剥がされた子供の兄弟が…"再会"を誓った日、 それは兄が選ばれし子供となった日  …それは僕が選ばれなかった日 それは兄がパートナーと出会った日  …それは僕がパートナーをころされた日 それは運命が兄を導いた日  …それは運命が再び僕を否定した日 「僕を捨てて置き去りにしたんだ、兄さんも!!」 おおよそ人など殴ったことのないヤワな拳を何度も、何度も、悲痛な叫びと共に繰り出して影太郎の拳がクロウを打ち、最後に放たれた兄への怨嗟を……彼は眉間で受け、弾き飛ばす 「───だったら一度でも、自分から『助けてくれ』と言ったことはあんのか…!」 「ッ!?」 「助けてくれと、口に出して、人を頼って、頭下げて、信用しようとしたことはあんのかって聞いてんだ!」 影太郎の腹を蹴り上げ、間合いが開く 息を整えながらクロウが躙り寄る 「だが、まぁ…意地張って黙りこくってりゃ、助けてくれだなんて誰もわかんねぇし?頭下げんのもプライトが邪魔ばっかして、誰を頼っていいのか全然わかんなくなって、信用できる人間も、助けてくれる誰かも、 ………いつも必ず自分のそばに居てくれるほど都合なんか良くねえ。そんくらい………俺もよく知ってんだよ」 もはや両手も上がらない影太郎の胸ぐらを掴み上げ、額を突き合わせ、腕を振りかぶり… 「それでも…アンタは言うべきだったんだ。兄貴がお前を裏切ったんじゃない……好きだった兄貴を信じてやれてなかったのは…アンタだろ!!」 もはやその、最後の拳に力は残されていなかったが…糸が切れた人形のように影太郎は倒れ、嗚咽する 「『助けて』って…そう言ってりゃあ、そう言ってくれていれば!あの人は…どこへだって駆けつけて…守るためならなんだってやって。弟のアンタを、ぜってえ全力で助けてくれたハズだ…!」 影太郎が横目に、頭上のクロウを見やる 「だってよ、あの人は…秋月光太郎はッ!───誰かが助けてと言やぁ…不良のケンカのど真ん中だろうが、燃え盛る街の中だろうが………何もかもを焼き尽くす、炎の怪獣にされた相棒相手だろうが……」 そして最後に蘇る…兄を殺したあの日の記憶 煉獄たる世界とブリウエルドラモンを前に、光太郎は…あの優しい目は、諦めていなかったのだ 「最後まで"笑って"、立ち向かったスゲエ人なんだぜ」 不意に影太郎の乾いた掌に溢れ…触れた、誰かの"小さな熱" 「そして、俺は…」 「そんな漢に……っ」 「───………"憧れた"んだ…!」 ───クロウ! ───クロウくん! ───鉄塚! ───クロウさん! ───鉄塚少年 「!?」 ここはどこだ 霧に覆われた世界。そのまん前の向こう…どこまでも続くような水面の岸辺に、その男は居た 「久しぶりだな、鉄塚少年」 「…秋、月…さん」 「遠くから、見ていた。…弟が迷惑かけちゃったな、本当にスマン』 「秋月さん、どういう…」 「───だが、今度はちゃんと影太郎の"声"が聞けたみたいだ。アイツが、"助けて"と言ってくれた。だから本官はココにいる…ココで、キミたちを助けてやれる」 背を向けたまま、いつかのように水面へ釣り糸を垂らしあぐらをかく大きな背中 光太郎の伸ばした手が、彼の足元に寄りかかり眠る金色の兜を撫でる 「ゴルルドモン…」 「…ははっ。ルドモンはヒーローになれたんだな、そしてキミは…強い漢に。まったく照れちゃうよなっ!『本官に憧れたんだ…』なんてさぁー!!」 こちらを振り返らぬまま、頭をかき照れくさそうに大袈裟に笑って見せる秋月 「おおっとぉ…いいやアレ、マジっスから!見ててくださいよ」 「いいねぇ! まだ時間はあるようだし、少し話そうぜ。久しぶりにな」 「…ソレ、釣れるんすか」 「ンンーーー、どうだろなぁー?」 「ハハッ、いいっすね」 それから間も無く、水辺の前で…少し離れた場所で肩を並べながら会話した 何となく、その横顔へ振り返る気は起きなかった 「本官の実家は、古い武家の家系でな。そりゃあもう親父殿が鬼厳しくてなぁー…家を継ぐのに双子は不吉だのなんだの、時代錯誤とかもひでぇ古臭くてな!もう嫌になっちゃって」 「あれっ良いとこのお坊ちゃんだったんスか!?」 「まぁーそれでも、早死にした母さんのぶんまで弟を元気づけるために親父殿に反抗してたら幻滅したみたいでな…早々に家を追い出されて、結局そばにいてやれなかった」 あの男の悲劇は、こんな生まれた時から始まっていたのだ。クロウは何ともいえず眉を顰める 「それに比べてアイツは…弟の影太郎はとんでもなく優秀でなぁ。無口だがしっかり者で、勉強も頭が良くて、本官みたくケンカが弱いトコ以外はやることなすこと一番とって…そりゃもう自慢の弟だった!アイツはスゴイ!!」 「うわベタ褒めじゃねーか…」 「…けど実際はアイツ、ずっと悩んでいたんだな。ホントは寂しがりで、意地を張って。いじめられてたのも、隠れて大切にしてた子犬を親父がころしちまったのも。毎日メールしてたのに…黙ってたんだな」 ゴルルドモンを見やる。赤子のように小さな寝息を立てている 「…そして、パートナーとなるはずのデジモンを目の前で失って、本官との冒険に置いてかれちまっただなんて………だあああっ!そりゃあ恨み節も募るよなホントに悪かった影太郎!本官がもっと早く気づいていれば…!!」 「…いや、アイツはもう大丈夫だと思いますよ。俺が…アンタから教わったものは、グーで叩き込んでやったつもりなんで」 そう言うと光太郎が目を丸くしてコチラを見た…気がした 「ッハハハ、影太郎には悪いが荒療治とはこのことか!…そうだな。信じても良いか、鉄塚少年」 「見ての通り、めちゃくちゃに命掛けたんで。そんくらいじゃないとワリに合わないっスよ」 「そうか。そんじゃあ本官も…いろいろ終わったらアイツと一緒に迷惑かけてしまったみんなに謝って回らないとな!なーに安心しろ、本官は怒られるのは慣れてるし…今度こそは、影太郎のことも守ってみせるさ」 「…やっぱ、かっこいいや秋月さんは」 "───?" その時、金色の姿が光太郎の顔を見上げて、不思議そうに目をぱちくりとさせていた 「お、ゴルルドモン…起きたんだな。はじめましてだ、俺の弟を最後まで守ってくれてありがとうなっ。どうだ顔とか影太郎とそっくりだろう?」 彼が大きな掌でゴルルドモンをなでると、くすぐったそうに笑っていた 「ということは、そろそろ時間だな」 "───……" 「ん?声が…後ろの方からする」 「ああ。あちらへ行けば帰れる。この子も、鉄塚少年も…キミたちは帰れる。帰るべき場所がある。そこへキミたちを送り届ける…それが、本官がしてやれる"最後の職務"だ」 クロウはゴルルドモンと手を繋ぎ、歩み始める 「本官は、キミたちを誇りに思う。だから水臭いことは無しにしようぜ鉄塚少年。…達者でな」 クロウは、その大きな背中に頭を垂れた 力強く、全力で、声を高らかに 「お世話になりました!!」 ============================ 「…お?」 目が覚めた時、岩の影にクロウは寝そべっていた 「生きてる…」ズッッキィィイイイイイイン「ィィイ!?…い、生゛き゛て゛る゛ッ。…フン!!」 痛みこそ生きてる実感などと誰がほざき始めたか。加減しろ莫迦 涙目でそう思う それでも身体を叩き起こし、夜明け前の薄青い景色の中で周りを見やる… 正直、あれだけ体張って超絶頑張った自分が目覚めた事を心配しにくるヤツが一人二人はいて欲しかったが… 「みんな寝てるじゃねえか…」 皆も現実も、なかなかに薄情である 「目が覚めたんだね」 「おっ、何だいるじゃねーか…って、秋月影太郎ォ!?何でお前だけ起きてんだ、逃げられちまうだろうが皆なにやってんの!」 出迎えてくれたのが、まさか先程まで死闘を繰り広げた敵のボスだとは寝覚めが悪い だが彼は心底冷静な顔つきで告げる 「僕はもう、逃げないよ」 あぐらをかき影太郎を今一度見やると、その両腕と脚は確かに見慣れない拘束具で繋がれていた。それでもジャンプしながらどうのこうのはできそうなもんだが…きっと、そうじゃない もう逃げない。その覚悟に満ちた台詞にクロウは妙な考えを頭から払拭した 「……ハン、そうかよ」 「現実世界に送還されるまでにタイムラグがあるみたいでね。最後にキミの無事を確認できてよかった。───そして、"この子"の事を君たちに頼むべきかと考えていた」 「おう…ん!?なんだそのデジタマ。いつの間に」 影太郎の傍には、寄り添うように金色のデジタマがあった 「どうして、だろうね。ゴルルドモンには、デジタマに還る能力を付与してないのに。…付与できなかったのに」 ゴルルドモン。その名を聞いて合点がいった 「『聞こえた』」 「え?」 「───ってさ、言ってたぜ。アンタの"助けて"が…。だから俺もコイツもここにいんだよ」 ぶっきらぼうなクロウの言葉に呆然としていた影太郎が、不意に何かを汲み取る そしてその頬に溢れる雫が…夜明けに照らされ妙に眩しかった 「そう、か。───兄さん…にいさん……ゴメン…ごめんなさい……っっっ、ありが、とう……!」 「…クロウお前、『自分が起きたのに誰も目が覚めた事喜ばずに皆好き勝手寝て薄情だなぁー』とか思ってるんじゃねーだろーな」 「ン゛ンー!?」 背後から突き刺さる剣呑な文句に引き攣った顔でクロウが振り返ると、まるで竜馬が増えたかのように件の表情がズラリと並びこちらを見つめる面々…あっよく見ると本人もそこにいる! 「あの後ぶっ倒れたお前助けるためにさらにどんだけ走り回ったと思ってんだよー!!キッチリ感謝しろ感謝!!」 「い、いやーんなこたぁオモッテナイヨ?」 「(納得いかない顔)」 「目が泳いでんだよおバカ!」 「あー!ワリィ、ほんっっとゴメン!この通りだ!!」 「ローキック!ローキック!」 「やめろ今それはマズイ!また死ぬ!秋月さんに顔向けできなくなるやつだからマジやめっ…ヤメローーー!!」 『ヌオオオオおはよー!クロウはオレがまもるぞー!』 「ルドモンー!助けてくれルドえもーーん!!」 心に錆びついた柵を殴り壊された今なら思える 彼等のなんと騒々しく、羨ましいのだろうか 「…強い漢に、憧れた男か」 その営みを、絆を、守り抜いた少年を見つめたまま…影太郎の表情には寂しげで、満足そうな笑みが溢れた 「…僕を救ってくれてありがとう、鉄塚クロウ」 秋月影太郎は現実世界へちゃんと送還されていた そして俺…焼失事件で現実での生死不明だった鉄塚クロウも一旦、現実世界へイチかバチかの送還。結果は成功……俺はまだ現実へと戻ることができるタイプの人間だったらしい …その事を考えると、一部の仲間たちの事で不安も過るが今は考えないようした それから戸籍の変更やら面倒なリアルが押し寄せつつ…正式なものでは無いが光太郎さんの墓参りをし、トンボ返りで今再びデジモンワールドに立っている そして中高生組…時に小学生組の協力を得ながら旅の合間に勉強を開始。…小恥ずかしいハナシだが、警察官を目指そうと思う 秋月影太郎はデジモン犯罪専門の警察組織の手で然るべき処遇を受けると聞いた …ゴルルドモンは影太郎についていってしまった 心と拳をぶつけて、罪の報いを受け、最後まで生きる覚悟をした彼等の顔を忘れるなどありえないし…少しは、救われてくれと思っている 俺とルドモンの冒険は一区切りといっていい …もっとも、 「だあああああ!まだか、まだ準備は整わねえのか!?」 『あ、あと!あと何秒!何秒だ!?』 「んーと、えーと!40秒もたせて!」 「よしきた!」 「あ、やっぱ+10秒!」 「『どわーー!?』」 またいつかのように、戦い、爆発を背負いながら逃げ惑う。忙しない生活 それでも、まだやるべき事はこの世界にある 「おまたせ、反撃開始だよ!」 「ゼェ…ゼェ…よっしゃああ、ブチかますぞルドモン!」 『やってやろうぜ相棒ォー!』 立ちはだかるヒュドラモンを見上げ、クロウとルドモンが気合いを入れる 「チャージ!!デジソウル…」 誰かの助けを呼ぶ声が、このヒーローを呼んでいるのだ なら俺は、そのヒーローの相棒として 「バーストォォォオオオ!!!」 逆境に、笑うのだ ============================ あとがき ・鉄塚クロウの名の由来 →やがて鉄のような屈強な漢へなるように。クロウ=黒、ルドモンの爪→クロー、苦労… 影太郎とは黒色をモチーフとした似たもの同士だが、黒に染まり我を貫く者と、影に落とされ影に塗れ色を失ったものでは決定的に違うのだと思う 身長は175ちょいくらいだと思う 竜馬くんが防御力特化のタンクならばこちらはHPとスタミナがイカれた数値してるタイプのタンクですな ・強い男になる鉄則 →かつて秋月光太郎が不良時代の鉄塚クロウと交わした約束をまとめたもの。その内容はキチンと歯を磨く、早寝早起き、…など、ごくごくありふれたものばかりなのだが、日々実践し続けてみせるのはいずれも案外難しいものでもある そして約束を果たすという約束は、彼らが志したものへ諦めることなく立ち向かい目指すための背を押してくれる ・ライジルドモンバーストモード →多分一番ヒーローチックな姿の完全体をフューチャリングしつつ、過去に厄災の象徴となってしまった自分の"果て"を新たな形でブチ破るという覚醒すきすき大好き そして漆黒とは侵されぬ気高さと強さの側面を持つ色でもある…はず 差し色(原型カラーでは青い部分)が赤紫orマゼンタなのはかっこいいからだ。あとあんまり採用されないカラーリングだから個性の棲み分けヨシ! ブロウクンマグナムとストナーサンシャインみたいな雷ボールもノリでつかえるよやったね ・なんでクロウは突然人間やめてるのこわ… →ルドモンが本来ありえない《完全体デジモンのバースト進化※とりあえず究極体+α相当の基礎スペック》なので、余ったデジソウルがいい感じに還元されて一時的にクロウの身体能力までバーストモード化します 逆に今後ブリウエルドラモンとかでバースト化したらクロウはスペック据え置きで ・ライジルドモンのときクロウは一緒に戦う場合どこに乗るのか →だいたい戸愚呂兄弟スタイルで肩背中に手ひっかけてしがみついてる。クロウバーストモードでないと雷速化に振り落とされる ・今回のストーリーはどんな感じ →メインボスのいずれかを撃破直後に発生する連続クエスト (前提条件として鉄塚クロウ&ルドモンが特定のデジモンを討伐することでドロップする《黒いデータ》収集率100%であること) 鉄塚クロウを影からサポートしていた秋月影太郎がルドモンを強奪し、特大のブービートラップ発動。ブリウエルドラモンとして負けイベ→再戦とクロウルドモンの覚醒イベント ・ゴルルドモン関係を平田広明さん解説お願いします →『ゴルドブリウエルドラモン』 全身が盾で構成された金色の身体をもつ究極の姿。Legend-Armsをも超えうるその力は贋作にして傑作 必殺技は『ブラストスマッシュ』『グレンストーム』そして金色の大火で地平を染め上げる『エンドオブエルドラド』 追記:名前が長い! ・出演いただいたイモゲンチャーメンバーに感謝 →大人組は秋月さんも先生やおじさんと同世代ということにしちゃったぜ。先生えらい饒舌にしちゃってすまない… 秋月さんはすみれさんを君付けで呼んだりする ノバスモンはズゴック役です