※太線(━━━━━━━━━)は語り手の変わる場面転換、細線(─────────)は語り手の変わらない場面転換を表しています。 「ねーねー起きなよー!」 おそらく私のことを酔いつぶして”お持ち帰り”しようとでも思っていたのだろうナンパ男が、今はテーブルに突っ伏して寝ている。いや気絶かな? 「潰れちゃったらえっちできないよ〜?…………すみませーん!同じのもうひとつくださーい!」 何も反応がない。これ呑んでも起きなかったら置いて帰っちゃお。 …十数分後。私は少しふらついた足取りで店を出ていた。 会計は置いてきたあの男に任せた。わたしはさっさとかえろう。 「あー…ねむ…」 あたまぐるぐる あしはふらふら だれかむかえにきてくんないかなー…そうだ 「ねーねーしゃうともーん!おむかえにきてよ〜!」 『ほむら…オメーまた呑んだのかぁ?』 「えへへ…きょうは27杯!」 『呑みすぎだバカ!』 「いつものあたりにいるからさ〜むかえにきてむかえ〜!」 ───────── ………あー…あたまいたい 昨日何してたっけ…っとー…ナンパ男酔い潰して…あー… 「起きたかほむら?もう昼だぞ」 「あれー…シャウトモン?ってことはここ家…?」 「オメーが迎えに来いっつったんだろうがよ…」 「あれー…そうだったっけぇ…」 そういえば電話をかけたような気も…する。 「とりあえず水飲め水。」 シャウトモンがボトルを差し出してきたので、頑張って起き上がりそれを受け取った。 ごくり。 「あ”〜〜しみるぅ〜…!」 「酒臭え上に反応がおっさん臭えぞほむら…」 「うっさいなーシャウトモーン!」 「まなんでもいいけどよ…来週のライブ用の新曲!できたから聞いてくれよ!」 目を輝かせながらギターを構えているシャウトモン。 「えー…今頭痛いし後にしてくんないかなぁ…」 そう言いながら彼を見ると、拳を握りしめていた。 「だからオメーが呑んでくるの嫌なんだよ…俺様の歌聞いてくんなくなるじゃねえかよ!」 「しょうがないじゃん頭痛いんだから!!」 「それに変な男に奢らせんのもやめろよあぶねえから!」 「いいじゃん別に!彼氏でもないのにエラソーに!!」 「ほむら!俺がどんな思いでお前を迎えに行ってるのかわかってんのかよ!」 シャウトモンに突き飛ばされた。 「痛った…!何すんの!」 「あ……悪い…」 「出てって!」 「………」 「私のうちから出てってよ!」 「……わかったよ!出てってやるよ!」 ガチャリと乱暴な音を立ててシャウトモンが玄関のドアを閉める。 経緯と種族は違えど、今までに幾度となく見た光景だ。 「あー……またやっちゃったな…」 頭がガンガンする。とりあえず今は二度寝しよ。 ━━━━━━━━━ 「……わかったよ!出てってやるよ!」 と言い切ったものの、今の俺様に行くところなんてない。 デジタルワールドに帰る方法はわかんねえし、こっちじゃ路上ライブやったところでビビられるだけだ。 「あー…どうすっかなぁー…」 そもそも俺がほむらに手を出さなきゃ面倒な事にはならなかったんだ。 俺は考えるより先にすぐ手が出ちまう。最初に組んでたダークボリューモンは俺がぶっ壊した。 アイツはスピーカーとしては最高だったが、どうしても方向性が合わなかった。 次に組んだゲコモンは悪いやつじゃなかったが、トノサマに進化してからそれっきりだ。 ポンチョモンとも少し組んだが、アイツのラテンなノリとは全く合わなかった。ムカついてぶん殴って解散した。 ガワッパモンは才能はあったが、勝手に曲をアレンジしやがるせいで揉めた。ブレイクロッカーでボコボコにして皿を叩き割った。 テンポモンのやつは俺にもっと踊りやすい曲を作れなんて指図を何度もしやがったからロックダマシーGで焼き鳥にした。 こうして考えると、ほむらはいいパートナーだ。ノリは合うし、才能もあってそれほど口うるさくもない。 「ま…後悔しても仕方ねえか…」 とりあえず歌おうと、ギターを取り出す。取りだ… 「やっべ…忘れた…」 ほむらの家に完全に忘れてきた…今更戻るのも気まずいしな…でもアレがないと俺は…どうする…どうする? ━━━━━━━━━ 目が覚めた。 さっきより頭痛はマシか…迎え酒したら楽になるかな… 「シャウトモーン…冷蔵庫からストゼロ取ってー…」 返答はない。 「あれー…シャウトモーン…シャウトモーン!」 やっぱり返答はない。そうだった…追い出したんだった。 「今度こそうまくいくと思ったんだけどなー…」 高校生の時、私の初恋も処女も奪ったあのクソバンドマンのせいで、私はバンドマンの彼氏ばかり作っている。それもダメ人間の。 そうじゃないと興奮しない。 シャウトモンのことも少しそういう目で見てる。彼の音楽は好きだし、一緒に歌うのは本当に気持ちいい。 正直、さっき暴力を振るわれた時も少し興奮した。 「あー…私マジでダメ女だわ…」 起き上がって見てみると、彼のギターの近くに紙が何枚か落ちていた。 新曲の歌詞のようだ。 「デジタルのモンスターの癖に作曲アナログだなー…」 てかギター置いたまんまじゃん…ってことは戻ってくるかな… まいいや。なんか飲も。 そう思って冷蔵庫を開けると、何も入っていなかった。 「しまった…さっき飲んだやつ最後だったか…」 コンビニ行くか〜…めんどー… そう思いながら玄関のドアを開ける。 「「あ」」 シャウトモンがいた。 ━━━━━━━━━ 「「あ」」 ギターを取りにきたはいいものの、どんな顔で入りゃいいのかわからねえ。 玄関の前で立ち尽くしていると、不意にドアが開いた。 「えっっと……俺様はギターを取りにきただけで…」 「ちょうどよかった〜コンビニ行ってきてよシャウトモン。」 「いや…俺は…」 「それで今日のこと許したげる。」 わざわざしゃがんで俺に目線を合わせ、ほむらはそう言った。 「……わかった。何買ってくりゃ良いんだ?」 「えっとねー…水とストゼロとー…」 「あのな…ほむら。」 「何?」 「俺様年齢認証通れねえぜ…」 「えーっ!そうなの!?」 「この前オメーが家で呑んでた時にコンビニ行けって言ったろ?」 「覚えてない。」 「っ……まあそん時な…店員に言われたのよ…『お金あるんだったらどんな怪物にでも物売るけど年齢確認必要なやつは無理』って…」 「ありゃー…あそこの店員さん根性あるねー…」 ほむらは少し困ったように笑いながら言った。 「じゃあ〜…一緒に買いにいこっか。」 ━━━━━━━━━ 「ありがとうございましたー」 数十分後、コンビニから出てくる二人。 「いやー…いっぱい買っちゃったね〜シャウトモン」 「また酒ばっかり…オメー結構金遣い荒いよな…」 大きな袋を抱えながら、シャウトモンは呆れるようにつぶやいた。 「お酒ばっかりじゃないよー!ちゃんと水も食べ物も買ったし」 「食べ物って…ほぼツマミじゃねえか…」 「あはは…おっしゃる通りでー…」 「それにお前…酒ばっか飲んでると早死にするぜ?」 「良いよ別に。」 先ほどまでへらへらとした雰囲気だったほむらは、急に冷たい声でそう言った。 「私が長生きしたって良いことないもん。」 「ほむら。そんなこと言うんじゃねえ。お前が死んじまったら俺たちFatalErrorはどうなんだよ!俺様はお前とまだまだ歌いてえ!」 「──────そっか。…………ねえシャウトモン。シャウトモンはさ、私の事好き?」 上を向いたままそう問いかけるほむらの顔は、シャウトモンには見えなかった。 彼にわかるのは、彼女の声がわずかに震えていることだけだった。 「好きに決まってんだろ?大事なバンドメンバー。FatalErrorの仲間じゃねえか」 シャウトモンの答えを聞くとほむらはほんの少しだけため息を吐き、シャウトモンの方を向いた。 「シャウトモンがそう言ってくれるなら…私もお酒控えないとね!今日はシャウトモンにもお酒飲んでもらうからね!」 ほむらはそう言って、袋の中から缶を一つ取り出し、シャウトモンに押し付けた。 「ほら、飲みなよ!」 そう言った後、ほむらはいつの間にか開けていた缶の中身を飲み干した。 「言った側から…せめて家帰ってから飲めよ!俺両手埋まってんだからな!」 ━━━━━━━━━