ひらりひらりと崖ぎわを、1人の少女が踊るように歩いていた。 他の子供達は現実に帰還し、頼みの綱のパートナーは封印された。狂気は少しずつ、だが確実に精神を侵食している。遠からぬ内に自身は狂気に飲まれるであろう。 リアルワールドへの帰還はすでに諦めた。このまま戻れば、コレはきっと自分を目印として現実にやってきてしまう。そうなれば真っ先に被害に遭うのは、母と妹だと目に見えていた。 すでに自分にはどうしようもない状態である事は分かっている。だからこそ彼女は、ここで全てを終わらせるつもりであった。物理的に倒す事はできない。だが自身と精神が繋がった状態で、自身が死亡したならば? これ以上被害を広げさせない。強い決意と覚悟を持ってして、彼女は海へと身を投じた。 ///// 偉大なる冥府の神がその魂を見つけたのは、完全なる偶然であった。 普段ならば見向きもしないはずの、善良なる死者の魂。自らの近くへと落ちてきたそれは、悍ましい呪いに冒されてなお輝きを放っていた。 彼は目を奪われたそれをよく見ようと、おもわず手を伸ばす。そして、完全な意識外からの強襲を受けた。即座に反撃を行い、腹部に大穴を開けながらも自身に攻撃してきた不敬者をその目に見据える。 それは、黒く澱んだ闇を纏った存在であった。見た目だけであれば完全体であったが、彼に重傷を負わせたという事実が見た目で判断していい相手ではない事を物語っている。 無数の完全体が周囲を取り囲んでおり、一瞬でも注意をそらせばすぐさま集ってくるであろうことも明白だ。 厳しい戦いになることを、冥府の神は予感していた。