夏の蒼い空に飛行機雲が描かれる。色鮮やかな草木と青色の匂い。  小高い丘から街と遠目に山が見合える。街には音がありそこには幾人もの人生が見れる。この景色は、美しかった。 「おんや、珍しい俺が見える人間…しかもデジモンを連れてるのは初めてだ。」  小高い丘の上にある神社。そこで緑色の肌、白髪の鬼。オーガモンは人とデジモンの気配に気づき、横寝から身体を起こした。  白髪のふたりにふたりのデジモン。夜光 月彦、伽夜子。コヅキガルモン、ブシアグモンが目の前にいた。 「いやぁ、君がオーガモンかい?ちょいと話があってね。」  伽夜子がいつもの笑い顔で語りかける。 「あぁ、話は分かってるぜ。ここから離れろってんだろ。団地を建てるんだろ?結構じゃあねえか。街に人が来る。街が育てば生気が溢れる。」 「…じゃ…じゃあ、なんで。」  月彦がおずおずと聞く。 「陰気だねぇ。聞き取りずらいってのも嫌気がする。じゃあなんで建設の人間追っ払ったてんだろ。」  オーガモンが空を見上げる。 「…」 「それはなぁ…」  飛行機の通過する音でオーガモンの声を掻き消す。 「…てぇ訳よ。」 「えっすみません…聞こえませんでした。」 「そうかい?んじゃあもうちょい近づきなよ。」 「え…えぇ」  手招きするオーガモンに、一歩月彦近づこうとする。 「…!月彦ちゃん!!」  ブシアグモンが鞘で月彦を横へ飛ばす。  その瞬間オーガモンの手から衝撃波が飛ばされブシアグモンはそれを受けて吹き飛ばされる。 「大丈夫かい…月彦ちゃん?びっくりしたぜ。ここまで威を消せるたぁねぇ。」  月彦は体勢を整え後ろへ後ずさる。コヅキガルモンが前へ出て威嚇をする。 「今更、言葉でたぁ些か無礼ってもんじゃねえかい?漢ならつべこべ言わず奪えばいいじゃあねえか。」 「半分は女なんだけどね。大丈夫ですか?ブシアグモン殿?」 「あぁって言いてえけど腕やられたねぇ。」  ブシアグモンが腕を庇いながら立ち上がる。 「まぁ俺の覇王拳を塞いだ事だし、教えてやるかね…まぁなんとなくだ。」 「…そんなに大事なんですか?」  月彦とコヅキガルモンが伽夜子とブシアグモンの前に出る。 「お前さん。耳が付いてないのかい。」 「き…聞きたいんです。あなたの言葉はずっと適当ですけど瞳がずっと…本気に見えたんです…。」  その言葉に、オーガモンが噴き出す。 「む…昔父さんが言ってたんです…ひとは言葉や表情全てで嘘をつくって、でもそれじゃあ何も信じられないって。だから…信じれる…信じたいものがあったらそれに覚悟を決めろって。」 「それで?」 「あ…ぁ…あなたの瞳はずっと本気に見えたんです。だから、何も知らないでただの暴力で闘いたくない。事情を飲み込んで…俺も…コヅキガルモンもそれに応えたい。」  オーガモンは瞼を落とし一瞬の間を置いた。それは確かに隙であった。月彦達にとってそれは明確なアドバンテージであった。腕を怪我したといってもブシアグモン程の者がその機を損じる訳がなかった。  ただ、そこには一瞬の静寂があった。それは確かに気位のためであった。  オーガモンが瞼を上げる。 「嘘じゃあねえさ。なんとなくだ。俺はこんなんしかできなかった。あいつはこんな事は望まねえし、他にも幾つもやりようがあったのかもしれねぇ。でもこんな事でしか守れなかったんだ。」 「…僕も家族を殺した奴を探してます。こうやってく事で無意味かもしれないけど近づくって信じてます。見つけて正直何がしたいかも分からないです。 でも…それでもそうしなけらばずっと…。」 「そうかい。」 「だから、全力で行きます。」 「へっ…俺も見る目がないねえ坊主、ワン公、名前は?」  月彦はデジヴァイスに手をかざし、コヅキガルモンが光に包まれる。 「夜光 月彦。」 「ミカヅキガルルモン。」  月彦と刀を加えた白銀の大狼が応える。  風に木が揺れる。騒めく。 「―。オーガモン。」  騒めき止み一瞬の静寂が訪れる。  その次の瞬間、ミカヅキガルルモンが一歩を踏み出した。 「覇王拳!!」 「一ノ型!朏・月前!!」  直線の閃光が走り、ミカヅキガルモンの刀が宙を斬り地面に突き刺さる。  ミカヅキガルルモンが膝を着きコヅキガルモンへ戻る。  オーガモンはそれを対峙し見下ろしていた。  静寂が流れる。聞こえるのは草木の騒めきだけであった。 「…そこの神社にあるもんお前さん達が持って行ってくれ。」  オーガモンの身体に線が入りばっくりと割れる。  そのまま風に舞う葉と一緒に光となり消えていった。 「…」  月彦は何も言わずコヅキガルモンを抱え上げた。    神社の中にはお菓子の缶がぽつんとあった。 「君が開けたまえよ。それが礼儀ってものだよ。」  月彦は頷き缶を開ける。そこには楕円状の形に、円状の画面があるボロボロのデヴァイスがあった。 「大事に取っておきな月彦ちゃん。そんでたまにはここへ持って来てやんな。」 「はい…ここの景色は確かに綺麗ですもんね。」  月彦は振り向き外を見る。夏の蒼い空に飛行機雲が描かれる。色鮮やかな草木と青色の匂い。  小高い丘から街と遠目に山が見合えた。  この景色は、確かに美しかった。