「ツマンナイ」 四月一日ケイトは飢えていた。輝かしく、血沸き肉踊るような楽しいバトルに。 死の淵を乗り越えオメダモンという新たな力に目覚めたのは僥倖ではあったが、あの一連の出来事は此方の世界に来てから漠然と胸に燻っていたものに明確な形を与えてしまった。 つまるところ生存戦略としての闘争ではなく、もっと気軽にラフにやりたい。勝負にはプライドや魂を賭けるもので命なんて賭けるのはごめん被るのだ。 そういったケイトの信条とは裏腹に満足するような勝負の機会はとんと訪れない。 進化という新たな力がもたらした魂を燃え上がらせるような熱狂は、その胸に燃え滓のような燻りを新たに増やすだけとなった。 誰か、誰かこの燃え残ったもの全てを燃やし尽くすような火を胸に投げ入れてはくれないものか。そのような思いが頭を埋め尽くす。 「まぁまぁ、オジサンも気持ちは分かるけどね?むくれないむくれない」「ん~…」 コカブテリモンに宥められたがそれでもまだ不満が顔から消えないケイトを見て、コクワモンがおもむろに空へ舞う。 「あ~っ!向こうの方になんか建物見えるし!あれって例のお店じゃね?」 「おっ!後もうちょっとじゃないか!付いたら色々買い物したいねぇ」 「てかさぁてかさぁ!なんか思ってたより全然ヤバいよマジで!絶対遊ぶとこめっちゃあるよアレ!あそこならいっぱい遊んでぇウニャ~!!って気分もすっきり出来るし!」 「そんなにかい?こりゃあ泊まれるところも有るかもしれないねぇ。幸い手持ちにも余裕があるし久しぶりにのんびり過ごすとしようかぁ」 「ヤバァ~!めっちゃ良いじゃんねそれ!!ほらケイト!早く行こっ!」「…ほらケイト」「…うん」 二人に気を遣わせてしまった、その事実に頭が冷めていく。思えば二人だってきっと同じように鬱屈とした思いをしているというのに… 「二人とも…ごめんね…」手を引く二人に伏せがちに呟く。 「あーしら相棒でしょ?気にすんなってぇ!」「そうそう。それに少しくらいそうやって吐き出したほうが健全ってもんさ」 そう言いながら笑う二人を見てケイトも顔を綻べた。 —――――――――― ――――――― ―――― 「近くで見ると本当にスゴイね…」 近代的…むしろ近未来的ともいえる建物の前で思わずそうつぶやく。 「商店…のはずだけどこりゃあどっちかというと複合施設なのかねぇ」 「なんかぁ空きテナントにガシャポン専門店置いてそ~!」「どんな感想?」 「と、とりあえず中入ろうヨッ」「ガシャポンショップ何処だ~?」「引っ張るねぇそれ…」 他愛のないやりとりを交わしつつエントランスへ足を踏み入れる。外観相応に広い屋内にはデジモンとそれに混じってちらほらと人影が見られた。 中央には半円状のカウンターと、その背後の大きなディスプレイには店内マップが映し出されており、見たところ予想した通り複合商業施設のようだ。 「あっ!見てこれ。本当にホテルがある!」「レストランもあんぢゃ~ん!!」 「ここ本当に広いねぇ…このアリーナってぇのはイベントブースか何かかい?」「あ、ガシャポンコーナー」「嘘ぉ…」 久しくこのような娯楽に触れる機会のなかった三人はマップ一つではしゃぐほど高揚してしまっていた。 「どうする?まずどっかで軽く食べt…」「はっ!キャンキャンうるせぇのが紛れ込んでんなぁ!」 会話を遮るような声。見れば丸々とした小さなデジモンがこちらを厭わしげに睨みつけていた。 「はぁ?!なんなのいきなりうっzムグッ!」「いやぁお騒がせしてどうもすいません…なにぶんこんな大きい施設こちらの世界に来て初めて見るもんで興奮しちゃいまして…」 「だろうな見なくても解る。初めてここに来た奴らは大体さっきのお前らみてぇに喧しく喚くんでな」 はっと鼻で嗤われる。それに食って掛かろうとするコクワモンと抑えるコカブテリモンを尻目にケイトが話かける。 「あ、あの!騒がしくしてごめんね…お詫びじゃないけど良かったら」 そう言うと荷物の中から小さな包みに入れられたチョコレート生地のクッキーを取り出した。 「ここに来る途中で行商の人から買ったの!ナントカの森ってところで取れたカカオ使っててすごくおいし…」「おい」 「なんだ?あま~いお菓子で餌付けでもすりゃあ俺はゴキゲンになるようにでも見えたか?」「ちっ違うよ!?」 「この世界に来てからこうしてデジモンと落ち着いて話を出来る機会ってあんまり無くて、大抵戦闘になるから…だからこうやってお話してくれる人とは、ちゃんと仲良くなれたらなって思って…」 「……はぁ、買うもん買ったらアイツに面倒事押し付けられる前にさっさと出ていくんだな。」 短く溜め息を付き奪うように包みを受けとるとこちらに背を向けそう告げる。 その言葉の真意を問おうと話しかける前に別の声が割って入った。 「こちらとしては新たに利用されるテイマーが増えれば、その分情報集積の助けとなるので大いに歓迎致します。回り回ってあなたの不具合を改善することにも繋がると思いますがモチモンはなにか不満ですか?」 タブレット端末を携え、アンニュイな雰囲気を纏った黒髪の女性が小さなデジモンへ質問を投げ掛ける。 モチモンと呼ばれたそれはふんと鼻を鳴らすと返答せず包みからクッキーを頬張る。 「あ、あのぅ…」 「これは失礼いたしました。ようこそテイマー支援機構アリーナへ。この施設を管理運営しているエージェント・Kと申します。こちらは当施設の警備を担当しているモチモンです。」 「あっ!アタシ四月一日ケイトって言います!リュウトウ学園6年です。こっちの二人はパートナーのコクワモンとコカブテリモンです。」 「…あ?」「…よろしくお願いいたします四月一日様」 「?えっあっハイ!よろしくお願いします!」 ギクシャクした自己紹介を終えたとこでコカブテリモンが疑問を口にする。 「ここがアリーナっていうのかい?あのマップを見た感じだと施設の中央にアリーナって場所があるように見えたんだがねぇ」 「はい。厳密には中央のアリーナとその周辺に付属する商業施設になります。元はアリーナだけだったのですが利用者が増え、それに伴い必要な施設が増築され今の姿になりました。」 「確かアリーナの周りで野宿するバカが出てきたりしたな」 「それを狙うデジモン等も増えたためやむ負えなくといったところですが、結果として多くのテイマーにアリーナを利用いただけているのは此方としても行幸です。」 「はぁ~なるほどねぇ…」 「あの…結局アリーナって何ですか?テイマー支援機構って…」「はい。それは…」 ケイトの質問にエージェント・Kは淡々とした口調で回答していく。要約するとテイマーにランクを振り分け競わせ、戦闘技能を向上させることが目的の施設のようだ。 「参加するテイマーが増えればその分シミュレートの品質も良くなり、それを利用するテイマーも…」 「そ…」「?」「それだヨッ!!!!アタシが求めていたものは!!!!!!」 エージェント・Kの話を遮り興奮した様子でケイトが叫ぶ。 「…それはなによりでs「あぁ~~!すごいヨ!こういう楽しそうなとこずっと探してたんだヨッ!どこ行ってもみんな怖い顔して戦っててウンザリしててさ!ここなら思う存分好きなようにロボトル出来るんでしょ?なんていいとこなんだろう!砂漠にオアシス地獄に仏!必須栄養素が補給出来て体中のアドレナリンが沸騰して水蒸気爆発起こしそうだヨ~~!!!」 「え~!なんか思ってた以上に楽しめそ~ぢゃん!良かったねケイト!」「うん!!!!!!」 「なるほどメダリンクみたいなもんかぁ…いやぁよかったねぇ。ここの情報探してきたオジサンにも感謝してよぉ?」「アリガトウ!!!!!!」 (キマッてんのかコイツ…?) 恍惚としたケイトとそれを微笑まし気な反応を示す二人に怪訝な顔をするモチモン、エージェント・Kはそれらを流し話を進める。 「それではアリーナに登録しますk「はいハイハイ!!!!」「お話遮っちゃだめだよぉケイト~?」 興奮冷めやらないケイトを宥める間にエージェント・Kがタブレットを操作し必要な手続きを済ませる。 「…登録を完了いたしました。改めてアリーナへようこそ。エージェント・Kはあなたの来訪を歓迎いたします。」 「キャッホォゥ!!!それじゃさっそく…」「少々お待ちください」 今にも駆け出そうとするケイトは呼び止められ、そわそわとした仕草でエージェント・Kの言葉を待つ。 「せっかくなのでエージェント・Kらが戦闘シミュレートのお相手を致しましょうか?」「えっ!??!」「はぁ?!」 エージェント・Kの提案にケイトがそしてモチモンが驚愕の声を上げる 「シミュレーターじゃないのかい?」 「戦闘環境の再現のみに限定し、そこを舞台に模擬戦を行うことが可能ですので。」 「わぁ~っ!!!良いんですか!?」「おいちょっと待て!」 喜色満面のケイトとは裏腹にモチモンは抗議の声を上げる。 「なんで俺がガキのお守りに付き合わないといけねぇんだよ!」 「先の騒動で蓄積したデータから強化プログラムを試作しましたのでその試験運用をしたいと思い…」 「だからってこんなガキ相手じゃなくてもいいだろうが!?」 「…ふ~んやんないなら別に良いんじゃん?負けるのって誰だってやだしね~」 「あぁ?」 二人のやり取りにコクワモンがチャチャを入れた。制止するコカブテリモンを無視し先ほどの仕返しとばかりにモチモンへの挑発を続ける。 「あれ~?そうじゃないのぉ~?だってあーしらを本当にただのガキだと思ってんならぁここでウダウダごねるよりさっさと倒して終わらせればいいだけぢゃん?あ、嘘でも別に気にしなくてい~よぉ?あ~しは誰かと違ってキャンキャン喚いてる赤ちゃんも許してあげるからねぇモ・チ・ビちゃん♪」 「…安い挑発だな木っ端風情が…上等だ乗ってやるよてめぇの頭ショートさせてやるスタンガン頭ぁ!!」「やれるもんならやればぁ!?」 「あぁもうなんでそんな喧嘩腰に…ケイトも止めてほら…」 「ロッボトル♪ロッボトル♪たっのしいロボトル~♪合意と見てぇ~よろしいですかぁ~♪」 間に火花の散るさまが見えんばかりに睨み合う両者。流石にまずいと考え助け舟を求めるものの当のケイトは今から始まる楽しいひと時に一足早く夢見心地となってしまっていた。 「…」 「話が手早く済みました。ご協力感謝いたします。」「ア、ハイ…スイマセン…」 —――――――――― ――――――― ―――― エージェント・Kに案内されアリーナ、その戦闘技能シミュレーターへ足を踏み入れる。そこは広大な、それでいて灰色一色の殺風景な空間が広がるばかりであった。 「広~~~い!」「いやぁなんかワクワクするねぇ熱くなってきたよぉ」 ケイトに感化されたのか二人までも浮足立っている。だがケイトはそれ以上に昂ぶりを抑えきれない様子で催促する。 「早く!!早くやろKさん!!」 「かしこまりました。道中説明しました通りモチモンは現状5分戦闘するのが限度ですので、ご了承ください。」 「はぁ~い!!!」 逸るケイトに促されエージェント・Kが手元のタブレットを操作するとシミュレーター内の様相が鬱蒼とした森林、それよりもさらに巨大な樹木が並ぶ樹海とも呼べる姿に瞬く間に変わった。 「こりゃあ…なんというか…」「メダフォースみたい。トランジションのあれ」「あぁ…」 先ほどまでの熱気が鳴りを潜める。それはこの設備に圧倒されたというよりは、いよいよ始まる戦いに頭がスイッチした為。 それを遠くから見据えるモチモンとエージェント・Kもタブレットを操作し戦闘の準備を進める。 「モチモン、ワープ進化です」「なんだと…?」 モチモンの体が光を放ち、甲虫を模した黒光りする巨人、グランディスクワガーモンへと姿を変える 「おいてめぇ…」「右腕に強化プログラムを装備しています。あちらで使っていたものをベースに作成しているので使い心地は悪くないはずです。」 グランディスクワガーモンが頭に浮かんだ疑問を訪ねる前にエージェント・Kが装備の確認を促す。説明する気はない、ということのようだ。 (ちっ!そもそも妙だったんだ。ここを利用しに来るやつなんざぁいくらでもいるし、いちいち相手なんざしてやらねぇ…それを自ら、しかも手の内も見ないうちから究極体だと?この5分であのガキの何が見てぇんだこいつ) 右腕を見やれば懐かしい形状の武器が備え付けられている。速射性に優れチャージすることで高威力の射撃も可能な汎用性の高いレールガンだ。 (どいつもこいつも俺を無礼やがって…まぁいい、楽しい戦いがお望みなら嫌というほど味合わせてやる…!) (おっきぃ…今の二人じゃダメだな) 先ほどまで小さな姿だったモチモンがその黒い巨体を露にする光景を見てケイトは瞬時に相手の戦力を理解する。 この戦いがこれからアリーナへ参加する新参者への歓待ではなく、どこの馬の骨とも知れぬケイトがアリーナに足を踏み入れるに足るか見定める腹積もりなのだと。 パートナーたちに目を向けると二人は軽く顔を向け目配せをしてきた。 (ぶつけよう、アタシたちが持ってる全てを。) 「…それでは模擬戦闘を開始します。」 エージェント・Kの開始の合図を聞き3体のデジモンが駆け出す それと同時にケイトも、その左腕に装着した腕時計型のデバイス、メダロッチを前に掲げる。 「コクワモン!」「コカブテリモン!」「「ジョグレス進化あああああああ!!!!!」」 メダロッチが輝きを放ち、呼応するように2体のデジモンが光となって収束していく。瞬間それは大きな白い影となって弾き出された。 「「オメダモン!!」」 グランディスクワガーモンに迫る巨体へと変貌したオメダモンが抜き身の刃を構えグランディスクワガーモンに迫る。 それに対しグランディスクワガーモンも右腕のレールガンを速射し牽制する。 「十一時から切り込んで」 飛来する弾丸の間を縫う様にして接近したオメダモンが右腕のスタッグソードを振るった。 地面を蹴り剣の間合いからわずかに外れた場所へ飛び退く。切っ先は空を裂き、追撃を避ける為グランディスクワガーモンは樹木の合間へ消えた。 二つの巨影が覆い隠れるほどの大樹の群れの中を二体のデジモンが追走する。メダロッチ越しにオメダモンの視界を確認しながらケイトが指示を出す。 「『サブマシンガン』背中の羽を狙って」 左腕に備えられたビートルキャノンの出力を抑え、速射性を高めた状態で追い縋る背中へ追撃を仕掛ける。グランディスクワガーモンも樹木を遮蔽物に使いながら躱していくが、徐々にその距離は縮まっていく。 最高速度では負ける気はない、だが小回りではオメダモンに分があるようでこの入り組んだ樹海の中敵の射撃を交わしながらの逃走では速度を維持できない。このままでは背中を袈裟切りにされるのは時間の問題だ。 (最初に剣で踏み込んできた段階で樹海の中に逃げるよう位置取りして誘導しやがったのか?小賢しいことしやがる…だが!) 前方に見える明るい場所へ多少の被弾や障害物を無視して全速力で飛び込む。木々が途切れ開けた広場で体を翻し、オメダモンに相対する形で横滑りし、半身で隠すようにしながらレールガンをチャージし始める。 「+に旋回して距離を詰めながら『リボルバー』」 互いに時計回りに回り込みながらじわじわと距離を詰め、その間も出力を戻したビートルキャノンでグランディスクワガーモンを撃ち続ける。 (装甲が固い…この威力だと正面からじゃ大きなダメージは通らない…出力を上げれば後隙が大きい…もう少し近づいて格闘に切り替え…なんで向こうは迎撃しない?武器が壊れて使えない?そんな様子はなかった。それなら手離すはず。…まだ何かある?) あと半歩分近付けばスタッグソードで切り込める。という距離まで接近したところでグランディスクワガーモンのレールガンがほんの僅かにオメダモンの進行方向へ動く。 「三時に『タタッカー』!!」 咄嗟に進行方向とは真逆へ飛び退かせる。だが、その先にはグランディスクワガーモンの突撃が迫っていた。 (読み負けた…!) 加速の付いた蹴りがオメダモンにヒットし大きく吹き飛ばされる。更にそのままチャージしたレールガンを体勢が崩れたオメダモンへ放つ。 「八時飛んで!」 間一髪のところで体勢を立て直し咄嗟に近くの樹木の後ろへ退避した。 頭部の大顎が赤黒い力場を纏い、背中の二対の羽が唸りをあげる。 グランディスシザー 彼が現在持ち得る最大火力が撃ち出される。黒い巨躯が弾丸の如く加速し続け、その大顎は盾とした樹木を容易く粉砕しオメダモンを捕らえた。 そのまま勢いを殺すこと無く木々を薙ぎ倒しながら押し込み、更に顎へ力を込める。悲鳴にも似た装甲のひしゃげる音が響き左腕のキャノン砲ごと歪んだ。 (左腕を犠牲に上手く直撃は防いだようだがその程度じゃ止まらねぇよ!このまま一気に) 瞬間、眼が合う。喉笛を食い千切ろうとする猟犬のそれと。 経験か、あるいは本能か、顎の力を緩め距離を置こうとする。 「『反応弾』!!!」 だがその前にオメダモンの左肩から放たれた二発のミサイル。その内の一つが眼前で炸裂する。 爆炎が体を焼き。轟音が耳を遮り。閃光と煙が視界を奪う。 (この距離てめぇだって無事じゃ済まねぇだろ!クソっマズイデケェのが来る…!) 羽を動かし強引に煙の中から脱出を試みる。だが上手く飛べない。もう一発のミサイルが片方の羽を吹き飛ばしていた。 ぞわりとした悪寒が走る。このまま周りの煙ごと両断される。 「唐竹割り!!!」 「「だぁりゃあああああああ!!!!」」 「舐めんじゃねぇクソがあぁぁあ!!!!」 腹の底から吠え大顎が急速に力場を纏う。そしてそのまま振り下ろされる碧い力場を纏った刃へ大顎をぶつけると、二つの力場が一瞬拮抗したのちに大きな爆発を呼び起こした。 その爆風から尾を引いて二つの影が飛び出す。それは地面に爪痕を残しながら制止するとよろめきながら立ち上がった。 「はっ!ガキだと思ってたがやるみてぇじゃねぇかよあぁ?!こうなりゃとことん付き合っt「時間です」 「あぁ?」 次の瞬間グランディスクワガーモンの体から光の粒子が一気に放出され、元の小さな姿へと戻っていた。途端に脱力するモチモン。 「んだよクソが…」 たまらず言ちるモチモンをよそにエージェント・Kがシミュレーターを停止させる。並び立っていた巨大な木々が消え去り、再び灰色の空間へと戻る。 「四月一日様お疲れ様でした。これにて模擬戦闘を終了致します。」 そう告げながら未だその場を動かずにいるケイトたちの方へ歩み寄る。 「?四月一日様」「…ハ」 「アハッ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!!」 狂気めいたケイトの笑い声がシミュレーター内に響き渡り、思わず歩みを止める。見ればオメダモンもまた同様に笑い声を上げていた。 「あの年でキメてるたぁ将来有望だな」 「そのような様子は見受けられなかったのですが。」 その豹変ぶりに思わず率直な感想が口をついて出る。 「すごいッ!すごいッ!スゴイッ!スゴイヨォッ!!こんな楽しいのひっさしぶりだヨォッ!」 「「モチビちゃんめっちゃつよいじゃ~ん!あーしもめっちゃアガっちゃったぁ!!ねっ!ねっ!もっかいやろうよぉ!!」」 「「まさかこっちの世界でこんな白熱したロボトル出来るなんて思っても見なかったよぉ!!オジサンまだ興奮収まんないなぁ!!」」 「申し訳ありませんが最初にお伝えした通り彼の継戦時間は5分が限界です。」「「「えぇ~~!!!」」」 「代わりに改めて戦闘技能検証プログラムへ挑戦するのはいかがでしょうか?」 「良いんですか!?それじゃあ今日は思う存分ロボトっちゃうヨッ!!」「「イェーイ!!!」」 「…元気ですね。」 「…あれで戦闘後だって言うんだから付き合いきれねぇな。」 そう呟いてからふと冷静になる 「…そうだ戦闘後だ。あいつは俺の最大火力を左腕に受けて、てめぇのミサイルの爆風にだって巻き込まれたはずだ。それ以外にだって大なり小なりダメージはあるはずだろ」 「なんで元通りになってやがる」 ケイトと共にはしゃぐオメダモンの姿は先ほどまで死闘を繰り広げたものとは思えない、戦闘前と遜色ない姿に回復していた。リカバリープログラムを使った様子もなかったはずなのに、だ。 「…メダフォース、ロボトル」 「あん?」 「彼らが度々発する単語、それに該当する言葉は見つかりませんでした。」 「あのオメダモンと呼ばれるデジモンもそうです。ロイヤルナイツに近似した姿でありながら該当する情報はやはりありませんでした。そのうえあの驚異的な回復力…」 「エージェント・Kにはあれらが異質なものに見受けられます。我らと同じような…」 「てめぇまさか最初から探り入れるつもりで…」 「幸いアリーナのことを気に入って頂いたようですし、彼女達とは良好な関係を築けることでしょう。」 そう言って粘着質な笑みを浮かべるエージェント・Kを見上げながらモチモンは小さくため息をついた。 「…苛つくぜ」 因みにこの後ケイトたちは5時間シミュレーターで遊び倒した。