※「」は日本語、『』はスペイン語という設定。 (アニメ冒頭のナレ回想音楽と平田さんの声) エストレヤを狙うメキシコマフィアとメタルエテモン。その魔の手から守るためフリオは遂にエンシェントトロイアモンへと進化した。 マフィアたちを撃退した後、フリオはエストレヤと別れ一人旅を続けるのであった。 デジモンイモゲンチャー第☆話「バーガーショップを守れ!ティラノモン大食い対決」 「お願い!手伝って!」 一人旅を続けるフリオがそう頼まれたのはたくさんのデジモンに囲まれたハンバーガーショップの近くを通り過ぎたときだった。 相手は自分よりも年上の日本人の女性で快活な印象だ。 彼女は久亜アイナと名乗った。このバーガーショップをバーガモンたちと運営しているという。 「うちのお店に急にたくさんのデジモンが来ちゃって、流石に料理以外が私のワンオペじゃ対応仕切れないの!今日だけでいいから!」 彼女の後ろでは今も通常より大きいバーガモン(バーガモンx3セットと言うらしい)が厨房内を縦横無尽に動いている。 「ボク、テツダイマス」 フリオは気づいたときにはそう答えていた。元々目的を探すための旅で急ぐものではないのだ、それなら助けたい。特にバーガモンには借りがある。 「サンフラウモン、次はあっちだ!」「♪」 フリオと同じようにアイナに頼まれ、「困ってるならもちろん手伝うよ!」と臨時店員になった穂村拝がサンフラウモンの持ったたくさんのバーガーやポテトをエレキモン一匹一匹にしゃがみながら渡していく。 「バイトとかしたことなかったけど、こういうのも楽しいな!」 「ソウ、オモイマス」 同じくらいの年齢だからか、気軽に話しかけてくる拝に肯き返すフリオ。 使いっ走りや、悪いときはスリなどはしたことがあるが、店員として雇ってもらって働くのは初めてだ。 ハンバーガーを渡したときのデジモンからのお礼の言葉が単純にうれしかった。 ただ、バーガモンたちにハイブリッド体としての自分をみせるのはためらわれて、アルボルモンの方が効率的だと思ってはいたが、生身のまま給仕をしていた。 「ありがとうございまーす!……なんでまだこんなに来てるの?食べ終わってまた注文してる子もいるし」 「アイナさん、さっき聞いた話だと大食い大会が開かれてるって噂になっちゃってるらしいですよ」 「アイナ、このままじゃバーガーもポテトも作れなくなっちゃうよ〜」 「もうすぐ、もうすぐ来てくれるはずだから!」 厨房からバーガモンの悲鳴が上がる。想像以上の注文にハンバーガーの材料がなくなってきたのだ。 注文を待っているデジモンたちはまだまだいて、さっきもガジモンの集団が来たところだった。 そのとき、ガタガタと聞き覚えのある荷馬車の音が聞こえてきた。あれは……ジャガモンだ。 「お待たせー!」 めざめを載せたジャガモンの荷馬車がショップの隣に止まる。 一緒にデラモンと黄色のつば広帽を被ったおさげの少女が乗っている。 「追加の材料持ってきたよ!アイナちゃん!」「堀太さんの畑のも!店員さんもするよ!」 馬齢めざめとジャガモン、古波津歌菜とデラモンが肉や様々な食材を持ってきてたのだ。 「助かったー!もう材料すっからかんでダメかと思ったよ」 「アイナちゃんのバーガーショップはお得意さんだし融通しちゃいますよ」 そう笑うめざめは、手伝いのフリオを見つける。 「あっペタルドラモンの子!元気してた?」 「ハイ、ゲンキデス」 戸惑いつつ答えるフリオ。人間に戻ったときに謝ってはいるが、食べようと追いかけていた相手なので気まずい。 もっと何か、言うべき言葉はないか。そう逡巡していると 「ならいいや、アイナちゃん助けてあげてね」 そう言ってめざめは去っていった。 走り去る荷馬車を見ながら、もっと日本語を勉強していれば何を話せばいいかすぐわかったのかなとフリオは思った。 「ゴニンマエ、オモチシマシタ」 「次のお客様、こちらの席へどうぞ!」 「ああ、お客様ケンカはしないでください!サンフラウモン止めて!」「!?」 「歌菜、退屈してるデジモンがいるし歌おうよ!」 「給仕しながらならいいかな……。じゃあ私、歌いまーす!」 途切れることがないデジモンの列と、懸命に働くバーガーショップの面々。 そこにドスンと地響きの音が近づいてきた。 「ここで大食い大会をしてると聞いてね、うちの可愛いティラノモンたちを連れてきたんだ」 5、6匹のティラノモンを引き連れた男、マメモンイレイザーだった。 「うん、ここはマ……いやなんでもない、あのチビどももいないし良い店だ!」 マメモンイレイザーがティラノモンたちを並ばせる。 「どうしよう、あれってデジモンイレイザーの仲間ってやつじゃないか?」「!」 ファイティングポーズをとるサンフラウモン。 「でもお客さんとしてきているし……」 「はい、落ち着いた」 困惑する店員たちに向かって手を叩くアイナ。 「どんな人であれ、お客様なんだからスマイルスマイル。何よりせっかくの大口のお客様なんだから!バーガモンも張り切っていくよ!」 アイナの言葉に肯くバーガモン。そのとき、バーガモンが光に包まれる。 光がやむと、超進化したキングバーガモンが現れた。 たちまちのうちに巨大なハンバーガーをいくつも作るキングバーガモンと、それを両手で運んでいく店員たち。 ティラノモンたちが満腹になるのに、そう時間はかからなかった。 「いやあありがとう。ティラノモンたちにこんなに食べさせてくれるなんて」 満足そうに言うマメモンイレイザー。 「それでお勘定なんですが」 「ねえ君、うちのティラノモンの専属料理人にならないか?」 「え?いいえ、私とバーガモンはお腹を空かせたデジモンみんなにたくさん食べてもらいたいので」 「でもほら、そういえば大食い大会の賞品を聞いていないじゃないか。うちのティラノモンたちよりたくさん食べられるデジモンはいないんだ、賞品の君たちを連れていく、これでいいじゃないか」 「そもそも大食い大会なんて……」 「じゃあ俺達がティラノモンより食べる!」「!」 アイナの前に立つ穂村とサンフラウモン。 「ふん、君たちじゃティラノモン一匹にも勝てないよ」 「私だって!」「ええ、無理だよ歌菜ちゃん」 アイナを守るように囲む仲間たち。その姿を見て、フリオは覚悟を決めた。 「ボクガ、タベマス!」 バーガーショップのためになら、この姿をバーガモンたちに見られてもいい。 スピリットエボリューションにより、ペタルドラモンの姿へと変じるフリオ。 現在のフリオはペタルドラモンになっても制御できているため、その大きさは山ほどはない。 だが食欲は変わらない。 たちまちのうちにティラノモンたちよりも多くのハンバーガーを食べていく。 その姿を見てティラノモンのようにあごをあんぐりと開けるマメモンイレイザー。 「これで大食い大会はフリオ君の優勝ね!」 「ちっ、覚えておけ!次の大会ではもっとティラノモン連れてくるからなあ!」 アイナの言葉に捨て台詞を吐き、ティラノモンたちを連れて帰っていくマメモンイレイザー。 彼らを追い返せたのはよかったが、この姿にみんながどう思うか。 そう思いながらバーガーショップの方を向くと、特大のハンバーガーを持ったキングバーガモンが近寄ってくるところだった。 「ありがと〜。でも君もまだ食べられるよね!」 そう言ってそのハンバーガーを目の前に置くキングバーガモン。 それを食べたフリオはペタルドラモンの姿で初めて、お腹が満たされたかのような気持ちだった。 「乾杯!今日はありがとうねみんな」 「また何かあったら呼んでください!」「!」 「店員さんができて歌も歌えて楽しかったよ」「僕も!」 「タノシカッタデス」 無事デジモンたちをさばききり、閉店したバーガーショップの前でハンバーガーセットを食べて休憩する店員たち。 「でもマメモンイレイザーはどうしようかな、また来そうなんだよね」 「前にマメモンがいれば逃げるって聞いたよ」 「じゃあマメモンを探してみるかな」 「俺も見つけたら声かけてみますよ」「!」 「ボクモ、ソウシマス」 それは誰にとっても、心地よい疲労と達成感に包まれた楽しいひとときだった。 「貴様、木のスピリットの所持者だな?」 次の日、バーガーショップを離れ一人旅を再開したフリオが山道を歩いていると目の前に一匹のデジモンが現れた。 昆虫と恐竜が混じり合った異形の姿をしており、その佇まいは他と隔絶したな強さを感じさせる。 「我こそはネオデスジェネラルが一人、木竜将軍ドラグーンヤンマモン!貴様のスピリットを奪いに来た!」 本能的に危機を感じたフリオはハイパースピリットエボリューションによりエンシェントトロイアモンの姿となる。 そこにドラグーンヤンマモンの拳が迫る。エンシェントトロイアモンの強固な身体はその拳を受け止めたが軋む。 『なぜぼくのスピリットを狙う?』 「我が宿敵三上竜馬を倒す力を手に入れるためよ。近頃は小娘のばらまいた贋作ばかりで紛らわしいが貴様のスピリットは本物であろうからな!」 体中からロープやツルを伸ばして拘束しようとするエンシェントトロイアモン。しかしドラグーンヤンマモンはそのスピードですべてを避けていく。 ペタルドラモンの頃だったら喜んで渡していただろう。 だが、今は自分の目的を探すためにも渡すわけにはいかない。 なにより奴の言った三上竜馬、彼は自分を戻してくれた恩人の一人だ。その彼に危険が及ぶようなことはさせない。 「強制デジクロスも考えたが、貴様のような軟弱な精神は不要だ!」 『くっ!』 ドラモンチョッパーの一撃に吹き飛ばされるエンシェントトロイアモン。その身体には亀裂が生じている。 「貴様がペタルドラモンとして暴走していたことは知っている!ペタルドラモンという古の木竜の力を扱いきれず、その力に溺れた軟弱な精神!貴様ではその"木のスピリット"の真の力を引き出すことなど出来ぬわ!」 立ち上がろうとするエンシェントトロイアモンにドラグーンヤンマモンはグリッドタイフーンをぶつける。 暴風になすすべなく動きを封じられるエンシェントトロイアモン。 『サプライズキャノン!』 「そのような大ぶり当たるものか!」 苦し紛れのサプライズキャノンを容易くよけるドラグーンヤンマモン。 必殺技も効かない。だが。 『お前にスピリットは絶対に渡さない!』 エペイオスギミックにより周囲全体に砲撃やツルが飛ばされ、さすがのドラグーンヤンマモンも避けきれずガードをする。 「ふん、苦し紛れか!」 最小限の被弾で避けたドラグーンヤンマモンがライトニングオーケストラを放つと、直撃を受けたエンシェントトロイアモンが倒れる。 「つまらぬ戦いだったわ……何?」 倒れ伏したエンシェントトロイアモンにスピリットを奪おうと近寄るドラグーンヤンマモンだが、その身体から気配が感じられないことに気づく。 それはもはやハリボテだった。エペイオスギミックのとき、砲撃に紛れてフリオ自身も射出されていたのだ。 「一応はスピリットの持ち主ということか。だが次は逃がさぬぞ!」 戦いの跡の荒れ果てた大地に、ただドラグーンヤンマモンの声だけが響いていた。