それはアトラーカブテリモン様の森に巻き起こった事変。とても大きな事件 偶然に偶然が重なり迷い込んだデジタルワールドで妹《魚澄真菜》と再会したのも束の間、《蜂矢明良》はこの火に巻かれた電子の森の何処かで少女たちを守りながら戦う …その最中に一筋の雷光が轟いて、ヤツらが現れた 「誰だ、テメェら」 「……うえええ気持ち悪いですぅう」 「だぁーっ!大丈夫か真宵!?」 「雷速化はアグニモンでも酔うもんなぁ…ホレもう少しだがんばれよー!」 晴れた煙の中から現れたのは、真っ青な顔でグロッキーな少女《古池真宵》と《サンドヤンマモン》。それを介抱するトンガリ頭、そして丸皿のような兜をした艶消しブラックのデジモンという漫才チーム 身構えていたアキラは拍子抜けしずっこけそうになった 「あれっ鉄塚さん?なんでこんなとこに」 「うおっびっくりした!真菜じゃねーか。さっき色々あってコイツを助けてよ、あちこち走り回りつつ避難させようとだな…って、うわ《シードラモンのおあしす団》までいやがる」 「またあったわね三馬鹿の1人くん。でも今日はNOサイドNOおあしすよ、せっかくの推しとのひと時を邪魔しないでちょうだい?」 「やかましいわ!?」 「知り合いか真菜?」 トンガリ頭───《鉄塚クロウ》と親しげに話す妹にアキラが問うと、共に冒険した仲間の1人だと返ってきた 「なんだよびっくりさせやがって…」 ずっと敵に追われて休む間もなかった一同の気が緩みかけたその時、 「オマエが…夕立か?」 クロウのパートナーデジモン《ルドモン》の言葉ににわかに緊張が再発する 「もしかして鉄塚さんも…?」 「……」 だがこの戦場において、既知の仲間が今日の味方とは限らないのだと彼らは薄々感じていた。様々な想いが錯綜し、いつ誰がどこで裏切るかもわからない疑心暗鬼になりかけていると…先刻まで部外者であったアキラですらも妹たちが置かれている異常な状況を飲み込み始めていた そしてクロウも妹たちが今必死に守ろうとしている夕立という少女が目当てかもしれないという一抹の可能性に、真菜の不安を気取ったアキラが再び半歩身を乗り出す 「どうする…ルドモン」 クロウの呼びかけにルドモンが数歩距離を詰めてきた 真っ直ぐに見つめるのは…真菜の腕の中に庇われながら震える少女。この災禍の目にいる人物…《賢木夕立》 「…ダメだぁぁオレには出来ない!!」 「…だよなぁーーー俺にも無理だ!!」 そして彼らから溢れたのは…諦念の悲鳴と謝罪 「光太郎には会いたいけど……ゴメン夕立!オレたちやっぱ…間違ってた」 「えっ…」 「ホントはお前に聞きてえことが山ほどあんだ。秋月さんや司…頼みてえ事もあった」 未だわからない青山司の命、そして亡くなった恩師・秋月光太郎…そのことに不安や未練がない日などきっと彼らには無かった 迷いながらもここまでやって来たのがその証拠だった 「けどな…ガキ1人に寄ってたかって泣かせてまで、こんな馬鹿げたコトやってられるかってんだ」 だがそれ以上に彼等は今、感じる 因縁への決着をもってしてなお拭い切れるはずもない、クロウの過去に焼きついた赤き世界の絶望。───その"再来"の最中で見た少女の『涙』にクロウは、ルドモンは…静かに憤り踵を返し 「だから俺らは……託されたモンと、自分(テメー)の信念に恥じねえよう」 …視線の彼方に訪れた、仲間たちを脅かさんとする無数の敵を睨みつけて、駆け出した 「───真っ向から立ち向かうだけだぜッッッッ!!」 クロウが振りかぶった気合いの拳骨。成熟期デジモンのウッドモンが悲鳴をあげて殴り飛ばされて、突き出された掌に紫光が沸き立つ 「ルドモン!まずは俺たちで悪い奴全員ぶっ倒して止めてやろうじゃねーか。このバカみたいな争いをよォ」 「ああクロウ。今のオレらならそんくらいやってやれる気がするぜ…さぁ、まとめてかかってきやがれ!」 彼らの放った威勢にウッドモンらに動揺が走り……同時に1人の男が背後から名乗りをあげる 「…いいじゃねーか。よくわかんねーがその覚悟気に入ったぜ。オマエ名前は」 「クロウ。鉄の漢───鉄塚クロウだ!」 「イカした名前してんなぁ。オレは蜂矢明良だ、妹が世話になってるみてぇだが…真菜に色目使ったらブッコロすぜ?」 「ハッ心配すんな。俺はいまゾッコンな相手がいるんだよ!」 「おっ、なんだよ彼女いんのかぁ?」 軽口を叩き合う彼らの前に不用意に飛び込んだウッドモンへ 「「───んじゃあ、即席チーム結成といこうじゃーねか!」」 息を合わせた正拳突き クロウとアキラの拳を激らせるデジソウルをデジヴァイスに叩き込み、破裂した二条の光から《ライジルドモン》と《タイガーヴェスパモン》が…闘気に焦がれ覚醒する 「「デジソウル……バーストォォ!!」」 漢たちが、二体のバーストデジモンが共に敵の群れへ飛び込んだ 「はぁぁぁぁ!!」 タイガーヴェスパモンBMのオーラの四肢が、ローヤルマイスターが力強く鋭く敵を穿ち、 「くらいやがれェ!!」 アキラの拳がそれを追い次々に力任せに薙ぎ倒し、 「俺たちの敵じゃねえぜ!!」 ライジルドモンBMが電磁シールドで拘束した有象無象に雷撃を解き放ち、 「真菜ちゃん危ない!」 「オラァァァア!!」 仲間の声を察知したクロウがすかさず闘気を纏った蹴りを浴びせ、土煙が数度爆ぜる様を真宵と夕立たちは木陰から見て驚天し、共闘するアキラもたまらず感嘆を吐く 「はわわ。どうやら暴の化身が揃っちゃったみたいね…真菜ちゃん、危ないからお姉さんの後ろにいなさいな」 「ひゃあああ!また鉄塚センパイがピカピカしてスーパーサ◯ヤ人みたいなことしてる!?」 「オイオイなんだありゃ、ムチャクチャじゃねーか」 「ええと、理屈はわかんないけどライジルドモンをバーストさせると鉄塚さんも一緒にバーストするみたい…」 「マジかァ。……あんだけ気持ちよく暴れられんのはたまんねぇな」 「ちょっと」 「おっとそうだな。オレらも負けてられねーぞタイガーヴェスパモン!まとめてぶちかますぜぇ!!」 タイガーヴェスパモンのオーラが一際輝き、彼方の親玉を睨み上げ必殺の構え その路を切り裂かんとライジルドモンBMが両腕を雷嵐の衝角へと変え撃ち放つ 「《ブロウクンメッサー》ッッ!!」 「くらいやがれえええーーー!!!」 タイガーヴェスパモンの必殺が炸裂し…赤き世界の熱をかき消すように、ジュレイモンの群れごと爆ぜていった 「うえぇまた飛ぶんですか鉄塚センパイ…?」 「もうちょいの辛抱だ、ゲロは我慢してくれよ真宵ぃー」 「そんなぁー…」 「行っちまうのかクロウ」 「ワリィ、ホントは一緒に夕立を守ってやりてぇが真宵とサンドヤンマモンをどっかに避難させねーといけねぇし……全部走り回って片っ端からバカヤローどもをゲンコツで止められんのは、カミナリ様みてぇになれるオレたちしかいねぇからな!」 「…わかったぜ、こっちはオレらに任せろ。気ぃつけていけよクロウ」 「ああ、じゃあなアキラ!」 紫電が瞬いて、瞼を開けたそこに彼らの姿はもうなかった 「…おもしれー仲間ができたんだなぁ真菜」 「まぁね。なんだかお兄そっくりでびっくりしちゃったけど、改めて見るとほんとそっくりじゃん?」 「ハァ?オレのがぜんぜんイケメンだろーよ」 「いま彼女いる?」 「あー…」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「…助かった」 「えっ?」 同時刻…襲いくる敵意を氷刃が咎め、奇しくもクロウと同じく戦火を斬り伏せ鎮圧しながら、《デュランダモンBM》と共に木々の間を駆け抜ける《秋月影太郎》はそれに続く仲間へと呟いた 「キミの言葉のおかげで、また一つ迷いを振り切れたと思う。…いかに自分が心が弱いかと思い知らされる」 「…それは、影太郎さんが……本当は」 ───優しい人の証なんだと思います。などと《ジゴクちゃん/赤城アカネ》は口にすることができなかった 手にかけてしまった兄への贖罪。それは影太郎を"黄泉がえり"の噂へと…この超常的な世界において否定しきれないソレに引き摺り込むのには十分だったのだろう もしそれで彼が再び道を違えてしまったら もし彼が再び心を深く傷つけてしまったら きっと赤城アカネの心は、自らが傷つくのと同じくらいに痛み、耐えられないのかもしれない 影太郎の存在は今のアカネにとって確かに大きくなっていた 「……」 だから必死に説得した。この森に足を踏み入れた彼の前に…たとえ己が彼と戦い傷つくことになろうとと立ちはだかる事を選んだ 彼の手を引いて止めたかった そして影太郎が彼女に述べたのは怨嗟でも悲しみでも、ましてや凶刃などではなく 「…ありがとう。アカネ」 「……っ」 短くも確かな飾らない感謝の言葉と、安堵を抱えた"寂しげな笑み"だった 「ボクからも礼を言わせてくれアカネ。影太郎を信じて止めようとしてくれてありがとう…ボクらはもう大丈夫だ」 「うん…」 デュランダモンの優しさも余計に沁みて、また胸の奥がきゅっと締め付けられる 「影太郎さん、アカネさん…!」 聞き慣れた声が2人の耳に届き、少女たちが現れる 「ミサキちゃん!よかった…」 「無事だったか。貴方は確か…」 「《取置サンワ》だよ。そうかキミたちがBVの…直接顔を合わせるのははじめてかもしれないネ」 「やはりミサキの…。秋月影太郎だ」 合流したBVメンバー《赤瀬満咲姫》らと挨拶もそこそこに、これまでの動向と情報を交換する 「なんと、あちこちにそそり立ってるあの"氷柱"はキミらの戦闘鎮圧の跡か…驚いたネ」 「…無闇な殺し合いがしたいわけじゃない。こんな馬鹿げた争い、鎮圧しなければならない」 「なるほど、ミサキちゃんから聞いてた通り根が真面目そうな男だネ」 …だからこそ爆発した時の舵取りが正しくないとああなるのネ。とは本人を前に言えずサンワは言葉を飲み込んだ 「それでどうするんだい」 「南へ。そして引き続き戦火を…」 言いかけた時、彼らの背後…遠くに黒い閃光が爆ぜた 「何!?」 「伏せろ!」 影太郎が任務中身につけているBV支給のタクティカルマントをとっさに翻し、背中を差し出して爆風と塵から皆を庇う 「あ、ありがとうございます影太郎さん」 「いったい何なのサ…」 「アレ見てください。デジモンが…黒いデジモンが暴れてる!」 アカネが指差した空の向こう、無差別に力の奔流を吐き出しながら吠えるデジモンの姿があった 「早速おいでなすったネ…止めに行くんだろう?同行するよ」 「ありがとうサンワさん。アカネさん、影太郎さん」 覚悟を決めたサンワとミサキに頷く2人。一同がそのデジモンへと向かおうとした矢先… 「えっ…いま、あっちにめもりさんの姿が…!」 「何?」 アカネの視界の端に、見慣れた姿を捉えたような気がした この森に突入後はぐれ行方不明のBVリーダー《四季めもり》…もし本当なら捨て置くのは危うい、そんな予感がひしひしと募る 「……影太郎さん、私めもりさんを探しにいってもいいですか」 「単独では危険だ」 「…私もBVのメンバーです。《シャニタモン》だって、貴方のおかげでもう戦えます」 「……わかった、めもりを頼んだ。危険ならすぐに呼べ」 「はい!」 「よし、じゃあいこう」 「はぁ…はぁ…めもりさん!?」 「あれっアカネちゃーん?見つかっちゃった」 「なに…してるんですか」 「あっ」スパーン 「キャーーーーーー!?」 走った末にたどり着いためもりの姿 そこでアカネが目の当たりにしたのは…断頭台で首がフライアウェイした簀巻きの《スケイルモン》だった 「あ…あ…何…?」 「そりゃモチ、死者蘇生なんてこんなバズりネタを前にして黙ってられないっショー!…あれっチャンネルBANされてるーー!?」 「スケイルモン…スケイルモン!?」 その時だった アカネが声をかけたスケイルモンの亡骸?が突如光を帯びる。これは…進化の光 スケイルモン超進化… 「───《ヌル・スケイルモン》!!」 「おおー!?」 「うおお力がみなぎってくる…めもり一体コレは!?」 「しらん…なにソレ…こわ…」 「……」 こんな状況下でこの人たちは何をやってるのだ? 同じBVとして、テイマーとして…そして配信者として、何もかもが迂闊で行き過ぎたおふざけ 一歩間違えればパートナーの命すら弄びかねない所業 アカネの内で、溜め込み続けたものがズンと重みを増して確かに何かが切れた 「……めもりさん」 「…えっ?アカネちゃん」 ゴウ、とアカネのクロスローダーが唸りをあげる。それはまるで彼女の怒りを喰らいエネルギーとしているようで それに呼応するかのようにシャニタモンが震え出し…大地の振動とシンクロしながら広まっていく 「今日こそ…今日こそは、怒りましたからね…っっ!!!」 めもりの脳内に焼きついた配信画面のテンプレートが、にわかに騒がしくなった 『ヒェッ』『オイオイオイ』『死んだわアイツ』 『めもりチャンネルVSジゴクチャンネル』 『キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!』 「───シャニタモンっっ!!!」 「これは…どういう状況かネ」 「遅かったなミスター秋月。アリーナ以外で会うのは初めてか」 「VI.F…貴方もここに来ていたのか」 影太郎たちがたどり着いた時、空にいた黒いデジモンが金色の光に引き摺り落とされ大地に膝をついていた 黒い城の廃墟と思しき開けた土地、そこに彼らを待っていたのは…オールマインドアリーナのランク1《VI.F》と名乗る男。そしてその相棒…ロイヤルナイツがひとり《マグナモンX抗体》 「あれは…黒いマグナモンだと」 「ああ。暴走個体あるいはニセモノ…そういうのもあるのか、と思っていたんだが…何やら訳ありらしい」 「ウ゛、オオ……アー…チャン…」 「影太郎さん、あの黒いマグナモンの後ろに誰か倒れて…!」 「…聞こえるかそこの黒いマグナモン。こちらには回復プラグインの用意がある。そこのテイマーの容体を教えろ、応急処置が必要ならば…」 「アーチャン、ニ…サワルナァァァァァア!!!」 閃光。おそらく意識のない《西園寺あああ》を庇う《マグナモンBP》から必殺技《エクストリームジハード》が突発的に繰り出される 「くっ!?」 「───大丈夫か。ヤツは錯乱している、私たちが抑える」 「マグナモンX…」 影太郎の前に躍り出てそれを防いだのは金色の鎧だった 「これは私がやらねばならない。そう考えたまでだ…」 「少しばかり楽しめそうなヤツだと思ったが…確かにこれはアテが外れたな」 「あれれー?こんなところに死にそうな子供がいるなー?」 「…誰だ貴様」 今度は別の刺客。黒煙の森をふらふらと、この場に似つかわしくないへらへらとした様相の女性が現れ名乗りをあげる 「おやおや、私は《機械ショップの店員》さんだよ。こんな騒ぎでみんな大変だよねー、怪我したり死んじゃったり困るよねー。だからね」 機械ショップの店員を名乗る女性、その背後の煙から巨大な何かが蠢いた 「デュランダモン!」 とっさに影太郎が命じ、飛び出したデュランダモンが刃を交える 「《キメラモン》だと…!」 「どうやら碌でもない奴らもまだまだ招き入れてるらしいなこの森は」 「邪魔しないでよぅ。ほらそこの女の子を新鮮なうちにー……改造してあげなきゃね」 ミサキたちの背筋に寒気が走る 正気の沙汰ではないこの戦場において、さらなる狂人が引き寄せられたのだ 「この人…変です」 「あー、こりゃとんでもないヤツがいたもんサ」 「ミサキ達は下がれ。隙を見てすぐにあの少女を回復できるように……この化け物は僕たちが斬り伏せる」 「わかりました…!」 「じゃあ、そっちのFくん?には黒いマグナモンを頼んでいいのかネ?」 「そうなるな。まぁ今回はアイツの独断場だろう…俺の出る幕は無さそうだ」 腕組みを解いたFが流し目のまま指差した先、黒と金色の激突を見やりため息をついた 「ウォオオオオオオオ!!」 怒涛のエクストリームジハードを、その黒き慟哭を一身に受けマグナモンXの身体が徐々に後退する Fは手を出さない。マグナモンXもまたソレを望まなかったため幸いだった 「守るべき者を、使命を果たせなかったのだな」 彼の背後に横たわり小さな息吹が消えゆかんとしている。だが自分を見失い、恨み、どうしようもなくなった黒きマグナモンはもがき叫ぶ事しかできない。それしかわからない 「ボクハ…ニセモノナンカジャナイ…!」 エクストリームジハード エクストリームジハード! エクストリームジハード!! 誇りを打ち砕かれ、どうしようもなく打ちひしがれ。それはかつての自らの鏡写しのようで しかし絶え間なく繰り出される命を賭した必殺の重さは…かつてのマグナモンXには存在してないものだった マグナモンBP───《コピペモン》が捧げたパートナーへの愛、献身…絆、きっとその強さの証明であり……それを何処か羨ましく感じていた己に気付きマグナモンXは仮面の下、ひそかに笑みを浮かべた 「───なるほど。もはやそのチカラ偽物とは呼ぶまい…私が保証しよう、もう1人の"ワタシ/マグナモン"よ」 「……ッッ!?」 「主よ」 「ああ、好きにするといい」 「ならば私の全てをもって、今は"仮初めの引導"を渡し……キミを救おう」 金色の光が爆ぜる マグナモンXの肉体が輝きに染まり、力の本流と鎧の重量に大地がひび割れ爪先を食い込ませる ───マグナモンX《ゴールドデジゾイドモード》 超越したロイヤルナイツ最強の盾が慈悲を持って、黒き最強の盾たるべき者を照らす 「もう1人の"ワタシ/マグナモン"よ、パートナーと共に生き強く気高くあれ。そしていずれ来るがいい……」 ───この高みへ。 「エクストリィィイム!!!ジハーーー!!!」 「……ハァァァーーッ!《シャイニングゴールドソーラーストーム》ッッ!!!!」 「……終わったぞ。はやく手当をしてやるんだな」 一瞬の決着を見届けて淡々と告げるFの言葉を受け、駆け寄ったミサキは懐から取り出した回復プラグインをあああに起動させる 「ああーっ!なんでぇ、せっかくいい素材が見つかったと思ったのにーー!?」 「悪趣味なヤツめ…デュランダモン!」 あああを奪われた機械ショップ店員の悲鳴に、影太郎が舌打ちをし叫んだ 「ああ、これで終わらせる…!」 デュランダモンが腕の剣を掲げた天空に青い魔法陣が展開される それはキメラモンと機械ショップ店員らを取り囲むよう、四方に点在し…やがてそれらから吹雪を纏い隕石と見まごう氷の矢が降り注いだ 「ひゃああああああ!?!?」 大地を劈き現れた大輪の氷華がキメラモンごと彼女らを飲み込み天へと昇り、氷山の如き牢獄へと姿を変える そしてデュランダモンが全身全霊、金色の必殺刃を振り翳し…断滅の氷葬剣 「くらえ!!《ソード・オブ・ニブルヘイ───》」 「ぎゃあああーーーーー!?」 ごしゃああああん!! 「───ム?」 その一刀が斬り伏せるより早く、彼方より飛来した塊が…さながらガラス細工に投げ込まれた石の礫の如く氷山を打ち砕いた 切先の落とし所を失ったデュランダモンBMが目を丸くし、空中で固まる 「めもりさぁぁん…まだ、お話は済んでませんからねぇ…っ!!」 「ジ…ジゴク?」 「アカネさ…アカネさんっ!?」 怒髪天をつく。鬼気迫るアカネの姿はまさにそれだった BVの誰もが初めて見る彼女の怒りに面くらい、そして空中ではデュランダモンが彼方を見つめひきつった声を上げる 「…もしかして、そっちはシャニタモン?」 バキリ バキリ 今し方ヌル・スケイルモンを投げ捨てた剛腕が木々を掻き分け薙ぎ倒しそこに現れた巨躯───究極体デジモン《シュラウドモン》の紫炎が仄暗く蠢く 「ウオオ…オ?デュランダモン…チヂンダ…カ?」 「……シャニタモン…キミのほうが、大きくなったんだ…よ?」 「ひいいいゴメン!ゴメンネアカネちゃん!?」 「アイツら…」 どうやらデュランダモンの必殺に割って入った塊…BVリーダー四季めもりを抱えたまま丸まって投げ飛ばされたヌル・スケイルモンが、共々崩れ落ちた氷山のどこかから謝罪しているようだ それにゆらりゆらりと突き進む鬼の仮面と巨神 まさに地獄の様相 「…ジゴク」 影太郎が近寄り一声。こちらに気づかないほどの怒りをひしひしと感じる、あまりに似つかわしくない気迫に思わず圧されそうになるが再び声をかける 「ジゴク」 「めもりさぁぁん…!」 「「キャーーーーーー!?!?」」 「───アカネ」 「ひゃんっ!?」 真正面から両肩を掴まれ、仮面越し視界いっぱいに広がった影太郎の顔と再三の呼びかけにアカネの体が小さく跳ねて静止した 「あっ、え…影太郎さん?」 「……大丈夫か。脚に怪我をしてる」 「えっ…あ」 怒りのあまり気づかなかった。アカネの足首にはどこかで怪我したであろう傷跡があり、血が滲んでいた 「こ、これくらい大丈夫で」 「傷が残る。それに重症者がいる…拠点へ一度戻るぞ」 「ひゃああっ!?」 突如アカネの身体がふわりと浮き、影太郎の両腕に抱き抱えられる あまりに見事な"お姫様抱っこ"にアカネは先ほどまでの怒りが全て頭の中から吹っ飛び、仮面の下で火が噴き出るほど赤面 ミサキら女児もまた「おおー…!」と思わず羨望の眼差しをアカネに向けずにはいられなかった 「あ、あのっ…影太郎さん?」 「安心しろ。キミを落っことしたりはしない…それくらいには鍛えているつもりだ」 緊張のあまりアカネが彼の襟元をきゅっと握ると、落下を怖がったと勘違いした影太郎がもう一段階しっかりと彼女を抱き寄せどこか得意げに呟く 「んっ…」 「しっかり捕まっていろ。…痛くないか」 「…はいっ」 もしもこの仮面が無かったのならば、彼にどのような顔を向けて、それを鏡で見た時に自分がどんな顔をしているのか…それすら考えただけでアカネの心臓が飛び出しそうになり、縮こまってか細い声を絞り出し頷くしかできなかった 「ひいいん…影ちゃん助けてぇーースッゴく冷たいんですケドーー!」 そのムードを打ち壊して、カチ割り氷の山に身を沈めたまま再び悲鳴を上げる者がいた 「……リーダー、頼みがある」 「えっ、何なに急にリーダーなんて呼んでくれちゃって!しかも頼み事なんてウケるー!!」 「しばらくそこで反省しててくれ。僕らは怪我人を拠点に運ぶ」 「ぎゃーーし!?」 「安心しろめもり。その氷はデュランダモンの魔法だ、じきに解ける」 「あっ…えと、ごめんネ?ねっ?反省してるからーー!影ちゃんミサキちゃんーーー置いてかないでぇーー!!」 「へっくしょい!!め、めもり…今回ばかりは甘んじて罰を受けよう…」 「ヤダーーーー!!」 その様子をデュランダモンとシュラウドモン、FやマグナモンXは呆れたように眺めていた 「…どうでもいいが、あのショップ店員はとっくに逃げたぞ」 「あっ」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 退屈というのは苦手である なまじ人並みの感性を持ち合わせながら人より遥かに空っぽな身は常に何かしらの刺激を求めるものだ それゆえにBV外部協力者の体で《朧巻タツミ》はこの事件においてもっとも苛烈な戦いの場に身を置くことを考え、この騒動の渦中の人物たる賢木夕立の側に現れた そして思惑通り彼女をエサにしつつそれを守るため片っ端からぶちのめすエキサイティングなひと時を過ごしていた …はずだった 「…ところが、あまりにはしゃぎすぎて迷子になってもうて。1人寂しく歩いとったら…遠くにウチの大好物の影太郎ちゃんを偶然見っけてウチもうブチあがってもうてな」 「…んっ」 「早速そっちにワー!いうてちょっかいかけに駆け寄ったんよ…そしたら!なんやゴッッッッッッツイ氷の塊がウチんところにかっ飛んできよってもうドーン!してガーン!してポーン!してぎょえーっっ!」 「んふっ…!」 「そのまま空の旅を楽しんで気ぃ付いたらココ避難所の木に引っかかって、窓からジブンらにコンニチハしてたっちゅーわけよ。そうそう空といえば飛んでる最中にすれ違った鳥さん夫婦とおしゃべりしたんやけどな、その奥さんがまぁーエッッラいニヒルな笑みしてまたウチに言うんよー!(※以下、CV:遊佐浩二アドリブ)」 「んふふふっ!」 エセ関西弁から繰り出される、身振り手振り、変顔、奇声、ルール無用なんでもありの漫談。森から逃げてきたデジモンや負傷者に向け繰り出される、暇を持て余した糸目の怒涛の言葉遊び ……それに巻き込まれた───先の戦いの末にBVの一同に搬送され心傷に伏していたコピペモンと西園寺あああも否応にもシリアスどころでは無くなり、堪えた笑いをぱんぱんに溜め込んだ頬袋を我慢の限界とともに連続崩壊させた 「コラーっ!重症者を爆笑させるんじゃないっ!」 「あだーっ!?いやーすんまへん、こうも大勢の前やとついつい楽しゅうてお口が絶好調になってまうんよ」 「オボロの兄ちゃん他のお話も聞きたい!」 「おっええで。そんじゃ次は、行きつけのラーメン屋の店主と"しなちく山盛り"賭けて『真剣だるまさんが転んだ三本勝負』した時のハナシでもしよか」 「んふーーーっ!?」 もはや意味不明。だが一度ゲラった腹筋とは往々にして刺激に弱いものである 「大変だ、敵が攻めてきたぞ!」 「おっとぉ…?」 外がにわかに騒がしくなり、油の乗ってきた語り口に水を差されてむっとしたまま避難所を出ると、お出迎えする血気盛んな敵意が一斉にタツミに向いたのを肌で感じ取る そうそうこのヒリついた感覚がやっぱ好きやねん…と、調子良く高揚感を覚えた事に照れくさそうに隠しつつ、おどけて彼らを指差した 「なんや騒々しいー、シューキョーカンユウはお断りやでウチ。えーと左からぁ……雑魚雑魚雑魚雑魚、一つ飛ばして雑魚やな」 「「「なんだとテメェ!」」」 「…あれっぼくちん褒められた?」 「ジブンはその雑魚の中でもとりわけ弱そうな雑魚の稚魚やで」 「な、なんだとー!?ゆるさーん!!」 煽り立て見事にそれに乗った有象無象をケラケラとせせら笑った後、タツミが仕事スイッチを入れるため大きく伸びをする 「まぁ夕立ちゃん守ってた時に比べると退屈やけど、今のウチの仕事はここ護れっちゅーハナシやし……中にはかわいい嬢ちゃんたちもおるさかい、ええとこ見せときますか」 ゆらり。タツミの影から湧いて出るようにオボロモンがその姿を見せ ぱちん。弾いた指先に、五指の間に突如カードが挟まれ…タツミの片目が妖しく獲物を見定める 「───カードスラッシュ、『ヨッ!ヨッ!モン』『高速プラグインH』」 合図に静止したままのオボロモンの左手が消え……敵の群れに血煙が爆ぜた その先に揺蕩う一陣の糸の先端───消えた左手から伸び、繋がれ操られた刃をもたげる"しゃれこうべ"がまるで血に飢えた猟犬の如く獰猛に飛び込み、瞬く間に二度、三度と食い荒らす 「「「「「ぎゃあああああーーー!?」」」」」 「逃げるんなら早よしたほうがええよ、のんびりしとるとオボロモンの"傀儡刃(くぐつじん)"がケツをガブっといてまうで。なんせこの刃の射程は…」 「ひいい!くるなぁーーー!?」 「───13キロや」 視界の彼方、豆粒ほどの影が転がり動かなくなる 「…まぁさすがにウソやけど?逃げられんで残念やったな。ほな次いこか」 別のカードを指先に翻し、連続スラッシュ 「次は、ジブンらの体力ぎょーさん吸うてまう"増える吸血刃(きゅうけつじん)"や───カードスラッシュ『ウッドモン』『ヴァンデモン』『増殖プラグインB』」 まさにオボロモン無双 たった1人と1匹の完全体デジモンに、拠点を取り囲む無数のデジモンと敵共が崩壊してゆく やがて痺れを切らし、部下を蹴散らしながら彼らの頭目が目を血走らせて牙を剥いた 「この野郎ナメやがって…そんなボロ刀、オレ様の"クロンデジゾイト"装甲でへし折ってくれるわ!!」 「おおーコワイコワイ、親ぶんのお出ましっちゅーワケやな。…けど"クロンデジゾイト"とはええこと聞きましたわ。ほな次はカード無し、シラフでやらせてもらいます」 タツミが手札をポイと捨て、オボロモンに指差す 言葉を交わさず、目線も交わさず、オボロモンの体がタツミの半身のように意志が通い…音もなく静かに刀をもたげる 「潰れろオォォォオオオ!!」 「───…そら、バッサリ」 それから長い静寂が訪れ、風が鳴き…土煙をと共にひとつの命が去っていった 「んー…影太郎ちゃんのデュランダモンの時も思うとったけど、クロンデジゾイトはホンマに硬いなぁ。あとちょっとでオボロモンでも1発で綺麗に"バッサリ"いけそうなんやけど…修行が足らんなぁ」 背後に転がり霧散していくソレを尻目に、タツミはどこか満足げに指で顎をなぞる 「ま、ええわ。おかげでまた一つ参考になったでおおきに」 防衛に駆り出され、その場にいたデジモンたちはタツミの歩く道を開けて唖然としたままだった 「どや、かっこよかったやろ」 「コワー…」 「ガチすぎて引くわー」 「ねちょーっとしてる」 「キモ」 ようやく開かれた口から飛び出した、皆を守った賞賛とは程遠い辛辣ワードにタツミがずっこける 「ぐえーなんでや!」 「何を遊んでいる朧巻タツミ」 「あっ影太郎ちゃーん!遊んでへんよお仕事がんばったんやでーホレ見い」 「そうか、なら引き続きここの防衛をやれ。僕はまた鎮圧に戻る」 「えーーそんな殺生な!ウチとふたりでブイブイさせてーな!それがダメならウチと戦って!!」 「やかましい引っ付くな馬鹿者ッッ」 「な、なぁ…さっきのやったのアンタだろ!」 「おっ?」 不意に声をかけられ、その予感にタツミが人懐っこい笑みを浮かべ影太郎を放り出す 「俺たちに力を貸してくれ。アンタの強さが必要なんだ…」 「おっほっほっ戦いなら大歓迎やで!ウチを頼ってもろて嬉しいなぁ…っと。せや、コレいっぺん言うてみたかったんよ…オホンッ」 「───"どしたん話聞こか?"(※イケボ)」 「ワードセンスがジジくさいな朧巻タツミ」 「ぴえんやで影太郎ちゃん」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『───聞こえてっか影太郎ォ!』 「デジヴァイスの通信越しに喚くな。なんだ鉄塚クロウ」 『───さっき夕立って子を見つけた!俺の仲間の真菜たちがずっと守ってたから安心しろ』 「何?……西園寺あああを知っているか。彼女が"夕立に襲われ"負傷した」 『───はぁっ!?夕立はずっとアイツらと一緒にいたって聞いたぞ。あーちゃんの容体は!』 「問題ないコピペモン共々治療は間に合った。……先程まで、糸目の胡散臭い男の与太話に笑い転げていたらしい」 『───おっ…おう?』 「鉄塚クロウ、貴様が賢木夕立と出会った時刻とデジヴァイスの位置情報ログを寄越せ」 『───お、おう。そっちはわかった』 「……なるほどな。結論から言う、貴様の仲間が保護している賢木夕立が…おそらく"本物"だ」 『───本物だぁ?』 「貴様が最後に仲間と出会った時刻、こちらで西園寺あああが負傷した予想時刻、そしてこちらと貴様がいた場所との相対距離と移動にかかる推定時間、そもそも彼女が他の仲間と初めから行動を共にしていた事……以上を考慮した結果、賢木夕立が西園寺あああを襲うのは不可能だ」 『───つまり、どういうことだ…』 「西園寺あああを襲った別の賢木夕立……彼女を騙る何者かがこの森に潜伏し、何かの目的で暗躍している可能性があるということだ」 『───ッ!?』 ・この森林事変の出来事は通常世界でもリアルな夢として観測しており、精神の経験値となって大小なり影響を与えている ・説得のおかげで影さんはアカネちゃんの前では時々小さな笑みを見せることがある 二度目の驚愕は無いと考えていたがよりによってミサキのバーストモードパンチには不意打ちがすぎてメガネ割れるんじゃないかってレベルで絶句した ・タツミのカードスラッシュコンボ例 『傀儡刃』 ヨッ!ヨッ!モン+高速プラグインH オボロモンの左腕(犬骸骨付近)をヨッ!ヨッ!モンの糸で射出・その場から遠隔操作しさらに高速化。ガン◯ムバルバトスルプスレクスのテイルブレードみたいなヤツで使い勝手ハナマル 『吸血刃』 ウッドモン+ヴァンデモン(+増殖プラグインB) ウッドモンの技ブランチドレイン等を解析し展開。地面の死角から血に濡れた木枝のような刃を咲かせ触れた者から体力・生命力などを吸い取りオボロモンに還元する。増殖化することで個々の吸血能力こそ落ちるが大規模な範囲攻撃とする ・鉄塚クロウMATHUROテーマソングは《Promise(Da-ice)》に決まりましたとさ