二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1715609681060.jpg-(7220 B)
7220 B24/05/13(月)23:14:41No.1188936051そうだねx15 00:38頃消えます
これはぴるす君異世界転生装置
チートも付与してあげるから安心して殺されるといい
死ね!

かくしてぴるす君は異世界に旅立った
もっとも転生物が氾濫した昨今に、ただただ剣と魔法の世界に転生したのではつまらないだろう
だからぴるす君にはもっと斬新な異世界に転生してもらうことにした

送った場所は小さな太陽が弱々しく輝く仄暗い異世界
平均気温は氷点下180度、液体の水など存在すはずもなく、全てが凍り付いた風景が広がっている、そのはずだった
だが氷点下180度は奇しくもメタンの融点であった
かくして大地に溜まる液体のメタンは太陽光に温められて揮発し、空に昇っていく
上空で冷やされ凝縮したメタンは雲を作ると、やがて雨となって地に降り注ぐ
降り注いだメタンは川を作りながら大地を流れ、やがて大海に還りそこでまた揮発する
それはH2Oではないながらも、元の世界と同じ液体の循環を再現した異世界だった
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/05/13(月)23:14:57No.1188936160そうだねx8
尤も、元の世界と同じところはここまでだった
確かにメタンは水と同じく多くの有機物を溶かすことのできる優秀な溶媒だ
ただ氷点下180度という低温が問題だった
端的に言えば、温度が低すぎて化学反応が進まないのだ
かくしてメタンの海には隕石によってもたらされたアミノ酸に
数億年の年月をかけてようやく生成された高分子化合物がわずかに漂うだけだった
生物には至らぬこれらの有機物に元の世界のような豊かな景色を生み出すことはできない
結果としてぴるす君が見る異世界の姿は、氷の瓦礫が転がるだけの荒涼とした風景だった
224/05/13(月)23:15:09No.1188936224そうだねx9
このような異世界でぴるす君に授けられたチートは"適応"だ
氷点下180度の世界で凍死しないようにぴるす君の体液をメタンに置換している
尤も、これでは極性の問題からリン脂質が細胞構造を維持できない
そこでリンでなく窒素を使用したアゾトソームで細胞を作ることにした
また、この異世界では酸素は希少であるため、エネルギー代謝経路を嫌気性のものに変更している
遺伝子もメタン溶液中でも安定するタイプのゼノ核酸に変えた
その他細々とした修正を加えることにより、
氷点下180度に達する極低温の異世界でのぴるす君は生存できるようになった
これだけ聞くとぴるす君は最早人間ではないように見える
確かに生体分子学観点では人間はおろか既知の生物と全く異なっている
一方で四肢構成や内臓の構造といった形態学観点では人間と同一だ
遺伝子や細胞は生物の構成要素であるが、生物の本質ではない
ラテン語で書かれていようが英語で書かれていようが聖書は聖書であるのと同じように
遺伝子や細胞骨格が異なろうともぴるす君はぴるす君なのだ
だからこそ、転生したぴるす君もこれまで通り生き、そして死ぬ
324/05/13(月)23:15:22No.1188936314そうだねx5
異世界に転生したぴるす君はメタンの霧雨の中をあてどもなく彷徨うだろう
現在のぴるす君はメタンから始まる嫌気呼吸によりエネルギーを得ているから
辺りに存在するメタン溜まりを啜れば飢えることはない
しかしタンパク質の元となるアミノ酸はメタン溜まりに漂う量では不足している
ビタミンに相当する物質に至っては皆無と言ってもよい
結果としてぴるす君は脚気や壊血病に似た病に苛まれるようになる
関節の痛み、手足のしびれ、粘膜からの出血、貧血等々による意識の低下
多くの病に苦しんだ結果、ぴるす君は歩くこともままならなくなり大地に倒れるだろう
氷の瓦礫に横たわり、メタンの雨に打たれながら、靄の向こうで仄かに光る太陽を望んだぴるす君は
遂に心停止、意識喪失、いわゆる死ぬことになる
死の瞬間ぴるす君を構成する細胞で、とある遺伝子が活性化する
これにより生成された因子は最後の仕事として自身の細胞を破壊し始める
いわゆるアポトーシス、細胞死の始まりだ
全身で始まった細胞死による分解と、絶えず降り続けるメタン風雨の風化の果てに
瓦礫だらけの異世界に一山の有機物の塊だけが残ることになる
424/05/13(月)23:15:25No.1188936333+
削除依頼によって隔離されました
あーこの背景色はそういうこと?
524/05/13(月)23:15:37No.1188936396そうだねx9
なんだ、異世界に行っても結局ぴるす君が死ぬだけじゃないか、そう思う人もいるだろう
確かにそれは間違いではないが、この話はこれこそが始まりなのだ
この異世界は気温が低すぎるがために、生物と呼べるほどに高度で複雑な有機化合物を生み出すことはできなかった
だがここでぴるす君が死ねば、複雑な有機化合物が大量に供給される
それも歌舞伎の粋を集めて設計した氷点下180度で活動する生物の有機化合物である
付近のメタン溜まりの中を高濃度に漂うそれはやがてこれまで成しえなかった生命の誕生を実現するはずだ
ひとたび誕生してしまえばあとは早い
生命はたちまち異世界を席巻すると、今度は同族とアミノ酸獲得競争を始める
これは進化を促し生物多様性の礎となる
更に時間が経てば、最終的に氷の瓦礫だけの異世界に元の世界と同じような、
されど元の世界とは根本的に異なる生化学で営まれる生命の楽園が広がることになるだろう
つまりぴるす君を異世界に転生させて、そこで再度殺すことは生命誕生の起爆剤にするためなのだ
624/05/13(月)23:15:49No.1188936460そうだねx10
だがここで私は考える、この行いは善いことなのだろうかと
確かにこの異世界は液体の循環が成立しているのに生命を生み出すことはできなかった
メタンの海に漂う有機物は全て生物未満の拙いものばかりだ
しかし、拙いながらもこの異世界の時間はまだ進んでいる
遅いながらも有機物を合成する反応は続いている
ならばそれを観察しつづけるべきではないだろうか
子供の絵はいつだって拙いものであるし、子供のころの私の演技は今にして思えば拙いものばかりだった
だが拙いことを理由にしてそれを切り捨てていたなら、子供はいつまでたっても成長しないし、今の私も存在しない
同様にここの異世界にいる生物未満の有機物もいつか生命に成る時を信じて今一度待つべきではないだろうか
それを無視して人為的に生命を作ろうというというのは歌舞伎の傲慢ではないだろうか
そもそもこの計画で生まれた生命にとって、自身の始祖がぴるす君であるのは屈辱ではないだろうか
724/05/13(月)23:16:01No.1188936538そうだねx7
悩みぬいた末に、私はまだ生きていたぴるす君を元の世界に戻すことにした
これでこの異世界に外部からの異物はなくなることになる
結近い将来に新たな生命が誕生する可能性もなくなった
だがそれでいいと私は考える
今の私の名は二代目松本白鸚
父祖から代々家業を受け継ぐ歌舞伎役者だ
たとえ私が死んだとしても名を継いだ三代目の松本白鸚がこの異世界を観測するだろう
三代目が死んでも四代目が、四代目が死んでも五代目が、同じように観測を続ける
そして遥か未来、この異世界に生命が誕生した時、その時代の松本白鸚が必ずやその姿を記録に収めるはずだ
それを信じ今を守ること、未来の歌舞伎役者に今を託すこと
これこそが善き歌舞伎役者ではないだろうか
結論に至ったところで私は誰もいない異世界の観測を再開した
異世界は今も荒涼とした大地にメタンの雨が静かに振り続けている
824/05/13(月)23:16:15No.1188936628そうだねx20
ちなみに、元の世界に戻ったぴるす君は体液を構成するメタンが沸騰、体が破裂して死んでしまった
異世界転生装置を使わずに死んだから、今度は転生もチートもなしだよ
924/05/13(月)23:19:49No.1188937900+
チートというか最早改造だな…
1024/05/13(月)23:20:53No.1188938261+
>ならばそれを観察しつづけるべきではないだろうか
やる前に気づいてくだち…
1124/05/13(月)23:21:22No.1188938425+
ファンタシィ歌舞伎かと思ったらサイエンス歌舞クションだったやつ!
1224/05/13(月)23:22:43No.1188938917+
>たとえ私が死んだとしても名を継いだ三代目の松本白鸚がこの異世界を観測するだろう
そうかな…
そうかも…
1324/05/13(月)23:24:50No.1188939695そうだねx5
歌舞伎の傲慢とは…
1424/05/13(月)23:25:11No.1188939819+
けおおお…
1524/05/13(月)23:26:43No.1188940358+
被害が少なくて良かった
1624/05/13(月)23:29:43No.1188941502+
しかし元の世界でおよそ5kgのメタンが突如発生した事についてはどう思う?
1724/05/13(月)23:33:20No.1188942805そうだねx9
ぴの鳥 復活編
1824/05/13(月)23:41:10No.1188945709そうだねx2
いつぞやの天文歌舞伎を思い出す大作だ…
1924/05/13(月)23:41:26No.1188945807そうだねx2
哲学的なSFだ
2024/05/13(月)23:41:27No.1188945818+
スクえもん ぴるすと創世日記
2124/05/13(月)23:42:59No.1188946429そうだねx12
なんだかわからんが博識でないと書けない気はする
2224/05/13(月)23:43:20No.1188946556+
大作すぎる…
2324/05/13(月)23:45:26No.1188947336そうだねx4
ぴるすなら原始的な環境でも生きれる気はする
それくらい単細胞であるとも言える
2424/05/13(月)23:48:05No.1188948302そうだねx10
>そもそもこの計画で生まれた生命にとって、自身の始祖がぴるす君であるのは屈辱ではないだろうか
急に冷静になるな
2524/05/13(月)23:49:36No.1188948818そうだねx17
読ませる文章と高度なSF感でくだらないこと書きやがって…
2624/05/13(月)23:50:21No.1188949075そうだねx6
こんな重厚なスクに出会ったの本当に久々だよ
2724/05/13(月)23:53:50No.1188950357+
おれSF読んだの何十年ぶりだろう
2824/05/13(月)23:54:45No.1188950720そうだねx13
スク自体久々だったが急に重厚なのが来た
2924/05/13(月)23:57:27No.1188951743+
豊かな大地となりたまえピグモン君!!
3024/05/13(月)23:58:45No.1188952236+
始祖ぴるすの原罪を背負った生命体は生まれることすら許されないんだ…
3124/05/13(月)23:58:49No.1188952257そうだねx9
>遺伝子や細胞は生物の構成要素であるが、生物の本質ではない
>ラテン語で書かれていようが英語で書かれていようが聖書は聖書であるのと同じように
>遺伝子や細胞骨格が異なろうともぴるす君はぴるす君なのだ
ここ好き
3224/05/14(火)00:01:47No.1188953330+
次のピクシーくんはうまくやるだろうよ
3324/05/14(火)00:04:18No.1188954191+
白いKOUSHIROUさん久しぶりに見たけど相変わらず読み応えのあるスクだった
ありがたい…
3424/05/14(火)00:04:53No.1188954417+
その後もさることながら最初のぴるす殺しで飛び六法すらしなくなるほどありふれた光景になっててまずダメだった
3524/05/14(火)00:11:21No.1188956861+
力作すぎる
3624/05/14(火)00:13:34No.1188957646+
夜中にすごいの読んじゃった…
3724/05/14(火)00:15:10No.1188958211+
ぴるす培地で異世界湯川が発生するかと思った
3824/05/14(火)00:16:11No.1188958626+
化学系だとぴるすニトロ化しようとするの見たことあるな
生物化学系の初めて見たかも?
3924/05/14(火)00:17:09No.1188958998+
ぴるすには無限の可能性があるからな…
4024/05/14(火)00:20:38No.1188960303+
科学知識と文才の不法投棄なんですけお
4124/05/14(火)00:23:53No.1188961446+
作家が手慰みにスク書いてるとかなの?
4224/05/14(火)00:28:26No.1188962877+
正直俺にはよく分からないけど
多分最終的に誰がどうなったのかは理解できた
4324/05/14(火)00:31:21No.1188963699+
ぴるすが生命の始祖なん嫌だな…と思ったら同じ結論にいたって安心した


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