二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1715608599331.png-(229832 B)
229832 B24/05/13(月)22:56:39No.1188929301そうだねx2 00:17頃消えます
「○×△☆♯♭●□▲★※!」
画面の中の凄惨な光景に、しかし目を背けることができなかった。
リングの上には、色とりどりの風船が散らばっていた。
赤、青、黄。カラフルにデコレーションされた空間に、一体のテディベアが横たわっていた。
身長170cmはあろうかという巨大なぬいぐるみは、口から鮮血をほとばしらせ、血飛沫を撒き散らしながら苦悶の表情を浮かべていた。
ボォン! 風船がけたたましい音を立てて破裂する。
傍らにはドアがあった。どこの部屋にもつながっていない、どこでもドアのように独立したドアだ。
施錠はされている。しかし戸板は見るも無惨に打ち壊されており、もはやドアの役割を果たしていなかった。
ボォン! どこかでまた風船が破裂する。
なぜこんなことになってしまったんだ──。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/05/13(月)22:57:17No.1188929551+
画面で繰り広げられる三景に、思わず頭を抱えてしまうが、現状は一向に改善する様子がない。
ふと隣に座るエルコンドルパサーが囁いた。
「トレーナーさん、思い出して! こんなときこそ、あの言葉デェェス!」
そうだ。自分にはエルコンドルパサーに教わったフレーズがあるではないか。
何も恐れることはない、焦らず冷静に対処していけばいいだけのことだ。
おもむろに立ち上がり、Webカメラをにらみつけ、毅然とした態度で言い放つ。
「お父さん、落ち着いて! エロ! エロ! エロエロ!」
燃え盛る炎に、ふたたび油が注がれた。
224/05/13(月)22:57:41No.1188929688+
三者面談というものは、何も教師の専売特許ではない。
トレーナーと生徒、そしてその両親の間でも三者面談というものは成り立つのである。
むしろトレセン学園のような特殊な形態の学校にとっては、トレーナーとの面談のほうがはるかに需要が高く、重要なイベントなのだった。
「吉報! 特ダネ! 大ニュース! パパとの三者面談、決定デェェス!」
勢いよくトレーナー室に入ってきたエルコンドルパサーは、満面の笑顔でそう伝えてきた。
来たか、このときが。
詳細を聞かずとも、大方のことは察することができた。
エルコンドルパサーは、以前から自分と父親を会わせたがっていた。
自慢の父親と、二人三脚で歩んできたトレーナーとの邂逅を目にしたいのだ。
こちらとしても面談は望むところで、時間の許す限りエルの近況を話してあげたいと思っていた。
しかしことは簡単には進まなかった。特にネックだったのは時差である。
324/05/13(月)22:58:11No.1188929859+
エルの父親の住むメキシコと日本とでは時差14時間、完全に昼夜が逆転してる上にコアタイムの被りもない。
ましてや一時期チャンピオンとして団体の頂点に立っていたほどの人物である。
プロレスラーとして東西南北忙しく飛び回っていることは想像に難くない。
通常生活しているうえでは面談の時間を捻出することは不可能であった。
「しかーし! エルはその不可能をも可能にしてしまうエスペシャリテだったのデス!」
要するに、わがままを言ったらしい。
先方も、可愛い愛娘の願いならと快く承諾してくれたようだ。
いささか申し訳ない話だが、二人の間の決定に口を挟むのも野暮なことである。
決まった以上、全力で取り組むだけだ。
「それで、いつからになった?」
エルコンドルパサーは、綺麗にそろった白い歯を見せた。
「はい! 今からデス!」
424/05/13(月)23:00:26No.1188930752+
85インチの巨大ディスプレイは、さながら映画館にいるかのような迫力があった。
もとはレース分析用にと買ったものだが、あまりの大きさに普段遣いでは持て余していた。
それがここに来て、面談用にちょうどよいだろうと白羽の矢が立ったのだ。
エルがWebカメラと通話アプリの準備をしている間に、こちらは一枚のA4用紙とにらめっこを続けていた。
メキシコの共通語はスペイン語、もちろん日本語が通じるわけもない。
間にエルを挟んで通訳してもらえばいいだけの話ではあるが、それでも最低限の礼儀は尽くしておきたい。
ましてや、こちらが昼の時間帯にわざわざご足労(?)いただいているのである。
挨拶のひとつでも流暢にできなければ失礼というものだ。
なので事前に、エルに頻出するスペイン語のフレーズを箇条書きにしてA4用紙にまとめてもらった。
一夜漬けならぬ十分漬けであるが、やらないよりははるかにマシだ。
524/05/13(月)23:00:55No.1188930938+
担当トレーナーとしての誠意を見せるべく、一所懸命に暗唱を繰り返す。
オラ、ムーチョ、ブエノスディアス、エンカンタード……。
そうこうしているうちにエルが隣に座ってきて、拳を突き上げてガッツポーズを決めた。
「準備OKデェェス! いざ、バモノース!」
止める間もなく通話が始まる。テスト前のような嫌な汗が背中ににじんできた。
624/05/13(月)23:01:21No.1188931118+
映し出されたのは、プロレスのリングだった。
対角線にいる対戦相手を見つめるように、コーナーの一角が切り取られている。
やがてロープをくぐり、一人の屈強そうな男が入ってきた。
上半身は裸で、鍛え上げられた胸板と六つに割れた腹筋が鈍く照明を反射していた。
下半身はタイツを履いているが、チーターを思わせるしなやかな筋肉がタイツ越しからでも確認できた。
トントンと軽やかなステップを踏んで、コーナーにあるスツールにひらりと腰を下ろす。
身のこなしからして、只者でないことはひと目で知れた。
これが、エルの父親……。
顔をマスクで隠してしまっていることだけが残念だが、それ以外は想像していた姿と瓜二つだった。
724/05/13(月)23:01:43No.1188931252+
「オラ! ※★▲◎□▼※▼◎△☆!」
え?
「▼○※□◎▼★×※☆◎○!」
低くて威厳のある声だが、めちゃくちゃ早口だ。とてもにわか仕込みで聞き取れるものではない。
どうにもできずエルに助け舟を求める。
「はじめましてだね、会えて嬉しいよトレーナー君、だそうデス」
よかった。エルがいればひとまずは安心である。
「え、エルカンタード、ブエノスディアス、スエグロ」
「?」
やはり発音が悪いようだ。もう一度丁寧に言い直す。
「Buenos días, suegro.」
エルの父親はぱちぱちと何度かまばたきをしてから、大声で笑い出した。
「スエグロ? ◎□○□▼▼▲※◎※※※▲!」
「面白いやつだな、気に入った! だそうデス」
ほっとする。第一印象は悪くないようだ。
824/05/13(月)23:02:07No.1188931395+
エルの父親は気さくでフレンドリーな人だった。
小粋なジョークをいくつも挟んで、本来こちらがやるべきアイスブレイク役を買って出ていた。
何度も吹き出しそうになるほど笑い、そしてその度に感心した。
元チャンピオンである偉大な人物が、初対面の年下のトレーナー相手になんのわだかまりも見せずに胸襟を開いている。
もし自分が彼の立場だったら同じように接することができるだろうか。
いや、とてもできない。大人としての度量、男としての余裕、全てにおいて相手が一枚上手であることを認めざるをえなかった。
ふと先刻の自分の態度を思い返した。
相手がここまで配慮してくれているのに、自分はスペイン語でまともに挨拶を返すこともできない。
忸怩たる思いが胸の奥から全身に伝わっていくのを感じていた。
せめてもの償いとして、エルの近況を懇切丁寧に、情熱を持って伝えることを心がけた。
生活態度、交友関係、学業成績、進路希望、そしてトレーニングの諸々と、ライバルたちとの激戦に至るまで。
熱っぽく話している内に、いつの間にか前のめりになって、気づけば腰が浮きそうになっていた。
924/05/13(月)23:02:38No.1188931576+
話題はついに凱旋門賞に差し掛かった。
「私も現地で見たかったよ。素晴らしいレースだった」
エルが凱旋門を象ったトロフィーを誇らしげに掲げ、Webカメラに見せつける。
「パパ、これがそのトロフィーでーす!」
「エクセレンテ! ついに我が娘が世界最強の座を手にしたんだね、非常に感慨深いよ」
エルの父親はうんうんと頷いて、満足そうに笑った。
チャンスだと思った。名誉挽回のこれ以上ない好機だ。
エルと事前に話していたスペイン語のフレーズ集に、凱旋門賞に関係する文章がまとめられていた。
幸いにして、何度も繰り返し暗唱したおかげか、一字一句間違えることなく内容を思い出すことができた。
これを会話の中で自然に披露すれば、エルの父親の見る目も変わるだろう。
もしかしたら、”お父さん”と呼ぶことを許してくれるかもしれない。
1024/05/13(月)23:03:08No.1188931752+
「凱旋門賞制覇の夜は、まるでお祭り騒ぎだっただろう。どんな気分だった?」
きた。いまだ。
「Las noches en París eran apasionadas.」
“パリの夜は、私たちにとって特別なものとなりました”。
お父さんが微笑む。
「Su cóndor se comportaba como un gato en la cama.」
“私たちは夜遅くまで、素晴らしい勝利を祝福しあいました”。
お父さんの顔が引きつる。
「Esa noche cruzamos la línea.」
“私とエルの、かけがえのない絆を感じたひとときでした”。
お父さんが表情を失う。
1124/05/13(月)23:03:34No.1188931916+
百面相のように変わるお父さんの顔に、しかしすぐには気付けずにいた。
他でもないエルが、腕に抱きついてきたからだ。
しかもただ抱きつくだけじゃなく、恋人のように指と指とを絡ませてきた。
なぜこのタイミングで? 困惑する暇もなく、怒号が耳をつんざいた。
「◎▼△※○※▼○※▲□△!」
見るとお父さんがスツールを蹴飛ばして立ち上がっていた。
「お、お父さん! どうしたんですか」
エルに翻訳を頼もうとしたが、首を横に振るだけだった。
「すごいスラングで、とても日本語に訳せないデェェス!」
なぜだかエルはすこし嬉しそうだった。
「□◎▲○×※※▲□□△□!」
「貴様、この俺を裏切ったのか!」
裏切った? なんのことだかわからない。
「貴様のことを少しでも信用したのが間違いだった! 貴様のような卑劣漢に娘をまかせるわけにはいかない!」
状況の把握に頭が追いつかない。エルとお父さんを交互に見やるが、エルは対岸の火事を眺めるように爛々と目を輝かせるだけだった。
1224/05/13(月)23:03:58No.1188932069+
「いいか! これから貴様がどんな末路をたどるか教えてやる!」
お父さんがリング脇に向かって手招きすると、巨大なテディベアがロープの上から放り込まれた。
成人男性と同じくらいの身長のぬいぐるみは、倒れる暇もなくお父さんのアイアンクローに捕まり宙吊りとなった。
「これを、こうだ!」
そのままテディベアをコーナーに叩きつけると、チョップ、クロス、猛撃波の流れるようなウルティモ・コンボを決めた。
どむっ、どむどむっ、どむっ。
目の前で繰り広げられる突然の暴力に、開いた口が塞がらない。
これが先程まで理性的に、和気あいあいと話していたあのお父さんだとでもいうのか。
あまりの変わり身の速さに、全身から血の気が引いていった。
「パパ! エチャレ! エチャレ!」
エルが無責任にはやし立てる。心底楽しそうだ。
1324/05/13(月)23:04:21No.1188932209+
お父さんはさらにリング脇に何か合図すると、赤い液体の入った大きな瓶を受け取った。
「あれはエルの家に伝わる特製サルサ・ヴィダでーす!」
お父さんは仰向けに寝かせたテディベアに覆いかぶさると、その口めがけてサルサ・ヴィダをぶちまけた。
「貴様に我が家の家庭の味を思い知らせてやる!」
みるみるうちに赤に染まっていくテディベア。その姿は直視に堪えないものがあった。
お父さん自身もサルサ・ヴィダの飛沫にまみれ、シリアルキラーのように前面を血の色に染め上げていた。
これでは到底ベビーフェイスなどとは言えない。むしろヒール側の人間である。
「お父さん! やめてください! STOP! こんなのおかしいですよ!」
心からの叫びは、しかし虚しく空に漂うだけだった。
やはりスペイン語でなければ通じないのか……。
エルと目くばせをすると、彼女は待っていましたと言わんばかりに大きく頷いた。
1424/05/13(月)23:04:44No.1188932368+
エルとのスペイン語フレーズ集には、緊急時用の文言がいくつか載せられていた。
謝罪のための文章、心からの誠意を表すための文章、誠に遺憾であることを示すための文章。
いざというときのための三つの文章を、切り札のごとく使いこなすべしとエルに教えられていた。
まさにそのカードを切る時が来たのである。早鐘を打つ心臓を抑えながら、大声で諳んじる。
「お父さん! Tu hija tiene un pedazo de trasero!」
「☆♯♭●□!?」
おそらく、何だと!? と返されたのだと思う。
こちらも一度で通じるとは思っていない。何度も繰り返すまでだ。
「Tu hija tiene un pedazo de trasero!」
「Tu hija tiene un pedazo de trasero!?」
「Tu hija tiene un pedazo de trasero!」
“本当に申し訳ないです”を意味するはずの言葉が交わされる。
間違いなく通じた。これで一安心――。
「ウオアアア!」
しかしお父さんは何かに取りつかれたかように胸をかきむしり、激しい怒りに身を震わすだけだった。
1524/05/13(月)23:04:46No.1188932377そうだねx1
>「それで、いつからになった?」
>エルコンドルパサーは、綺麗にそろった白い歯を見せた。
>「はい! 今からデス!」
なにっ
1624/05/13(月)23:05:06No.1188932512+
なんと恐ろしい光景だろう、完全に精神の平衡をうしなってしまっている。
エルからも何とか言ってやってくれ、とたまらず助けを求めた次の瞬間。
画面外から大量の風船が紙吹雪のように舞い降りてきた。
夢のような光景、一瞬呆気にとられるが正気に戻るまで長い時間はかからなかった。
お父さんは風船をひとつ掴むと、両側から万力をかける要領でいともたやすく圧し潰してみせた。
「これが貴様の肝臓だ!」
ボォン! さらに風船の破裂音が響く。
「これが貴様の心臓だ!」
ボォン! 赤色の風船が弾け飛ぶ。
「そしてこれが、貴様の睾丸だ!」
ボボォン! 風船が二つ同時に跡形もなく飛び散っていく。
恐怖映像を目の当たりにして、完全に腰を抜かしてしまう。
画面越しに喉笛を嚙みちぎらんばかりの、すさまじい気迫だった。
1724/05/13(月)23:05:36No.1188932707+
もはや手段を選んでいる暇は無かった。
全身全霊をもって自らの謝意を表現しなくては、お父さんを止めることは出来そうもなかった。
押し付けられたミッションのあまりの困難さに、金玉が縮みあがる思いだった。
やがて肩で息をするお父さんの隣に、黒子たちがドアを運んできた。
それは、ただのドアだった。どこに繋がっているわけでも、何を繋げるわけでもない。
どこでもドアのように、独立したドア。それが今、リングの真ん中に運ばれてきたのである。
「聞け! 今から飛行機に乗って貴様の家に向かう!」
ガチャガチャ、ガチャガチャ。ドアノブをひたすらに回すが、施錠されているのかドアは開かない。
「こんな風にして締め出そうったって無駄だ! 俺にかかればこんなドア、こうしてやるっ――!」
お父さんは長い助走を取り、コーナーからコーナーへ走り回って最後にドロップキックを繰り出した。
1824/05/13(月)23:06:00No.1188932851+
ばきりと木材のきしむ音がして、蝶番が限界まで膨れ上がる。
「オートラ! オートラ!」
エルの歓声に後押しされたお父さんがマッスルポーズをとると、再びリングをぐるぐると回り始めた。
十分に助走が付いたところでぐいっと軌道変化して、渾身のエルボーをドアに叩き込む。
ドアの戸板に、ちょうど人の頭が通れるほどの穴が開通した。
ゆっくりとした足取りで、お父さんはその穴に顔面を押し付けて裏側を覗き込む。
カメラもその動きに合わせて、裏側からお父さんの顔を映し出した。
「お客さまだよ!」
迫真の形相。狂気をミックスした笑い声が響く。
もはや常軌を逸しているとしか考えられなかった。
1924/05/13(月)23:06:18No.1188932970+
「トレーナーさん、パパは完全に我を忘れてますデース!」
「エル! いったいどうすればいいんだ! 絶体絶命のピンチだ!」
「残りのフレーズを使うしかありません! マキシモ大声で叫ぶんデェェス!」
わかった。気分は祟り神を鎮める巫女だ。頼む、かの者を鎮めたまえ――!
「お父さん! Ver a tu hija me pone cachondo!」
「Ver a tu hija me pone cachondo!?」
大声で怒鳴り返される。だがここまで来て退くわけにはいかない。
「イエス! カチョンド! カチョンド! カチョンド!」
ほとんど祈るようにして両手を握りこむ。どうか通じてくれ。
ボォン! ボォン! ボォン! 風船が手当たり次第に割られていく。
2024/05/13(月)23:06:36No.1188933076+
「お父さん! Tu hija es demasiado erótica!」
「Tu hija es demasiado erótica!?」
「イエス! エロティカ! エロティカ! エロ! エロ!」
なりふり構っていられる状況ではない。今持てる力をすべて投入し、どうにかこの危機を脱しなくては。
「エロ! エロ! エロ! エロ!」
しかしそんな思いとは裏腹に、お父さんのボルテージは最高潮を迎えようとしていた。
「首を洗って待っていろ! 初来日の土産は貴様のカラベラだ!」
カメラに向かって飛び掛かると、激しく画面が揺さぶられ、音もなく通話が切られた。
2124/05/13(月)23:06:58No.1188933234+
水を打ったような静寂がトレーナー室を包み込んだ。
あまりの出来事に言葉も出ず、ただ俯くことしかできなかった。
エルは隣に座って、顔を背けながら肩をぷるぷると震わせていた。
こんなことは前代未聞だ。三者面談の場で父兄を怒らせて退出させてしまうなど。
「エル、俺はこれからメキシコに発つ」
「ケ!?」
苦渋の決断に、思わずエルが振りむく。
「オンラインではらちが明かない。かくなるうえは単身メキシコに乗り込んで誤解を解いてくる」
「せっかくエルがセッティングしてくれた場だ。このまま喧嘩別れに終わってしまうのはあまりにも惜しい」
「おそらく無事では済まされまい。しかしお父さんとの仲が改善するならこの身のひとつやふたつ、喜んで捧げよう」
「厳しい道のりになるのは間違いない。もしものことがあったら、エル、君が骨を拾ってくれ」
2224/05/13(月)23:07:16No.1188933347+
エルは目を丸くして驚いていたが、同時に沸き上がる歓喜を抑えきれないようでもあった。
「おお……ブエノ、ブエノ! 感動、感激、感無量! それでこそ、エルが見込んだトレーナーさんデェェス!」
「パパとの関係をそんなに大事に思ってくれていたなんて……くうっ、エルは幸せ者でデス!」
「あまつさえ敵の本丸に捨て身の吶喊を決めようなどとは、その漢気、あっぱれデース!」
「……では、そろそろ種明かしの時間デスね」
すっくと立ちあがると、エルはアプリを開いて、通話開始のボタンを押した。
え?
画面に映し出されるリング。反射的に防御体勢を取ってしまう。
しかし、想像していたようなスプラッターな現場はそこにはなかった。
「L's Surprise!!」
コーナーからコーナーに渡された巨大な横断幕。
白地に赤でレタリングされた文字が情熱的に踊っていた。
2324/05/13(月)23:07:36No.1188933462+
エルズ、サプライズ?
文字列を理解するより先に、豪快な笑い声が耳に届いてきた。
「楽しんでいただけたかな! すまないことをしたね、トレーナー君!」
カットインしてきたお父さんはサルサ・ヴィダで赤く染まってもいなかったし、狂気に顔を歪めてもいなかった。
サプライズ。徐々に脳内が落ち着きを取り戻し、冷静に物事をとらえられるようになった。
まさか、"そういうこと"、か?
「サプライズでーす!」
どこから取り出したのかクラッカーをぱんぱん鳴らすエルを横目に、疑心を確信に変える。
今になってようやく、一杯食わされたのだということに気が付いた。
初めに浮かんできたのは、怒りの感情ではなかった。
ソファに深く腰掛け、クッションに全体重を預けると、浜に打ち上げられた魚のように口をぱくぱくさせる。
ジェット風船から空気が脱け出していくような虚脱感。安堵のため息だった。
2424/05/13(月)23:07:58No.1188933596+
「唯一の誤算は、君が非常に純粋だったことだ」
人差し指を立ててお父さんが得々と説明を始める。
「はっきり言って、テディベアの段階でばれると私は踏んでいたのだが、君は思っていた以上にいいお客さまだった」
「そのため、我々はエンターテインメントの枠を超えて増長しホラーの領域にまで入り込んでしまった」
「結果的に、度を越えた悪ふざけになってしまったこと、非常に申し訳なく思うよ」
「このことについて、まずは娘ともども陳謝させてもらいたい」
エルがぺこりと頭を下げる。
「すみませんデース……」
改めて一連の流れをおさらいしてみて思うことだが、騙されるほうも騙されるほうである。
全く気付けなかった自分のうかつさを呪うことはあれど、エルたちを責めるような気持には一切なれない。
「パパとの出会いを一生の思い出にしてほしかったんデス……」
「リングの上の強いパパをトレーナーさんに見てほしくって……」
「優しいトレーナーさんのこともパパに知ってほしかったんデス……」
2524/05/13(月)23:08:18No.1188933740+
珍しくしおらしい態度でそう打ち明けるエル。
許してくださいと手を合わせるが、許すも許さないもない。
それどころか、もはやいつくしむような感情すら芽生えてくる。
「まあ、娘から全幅の信頼を寄せられるその姿に、父としてわずかばかりの嫉妬を覚えたことも事実だがね!」
お父さんは暗い雰囲気を打ち消すかのように、努めて明るい調子でおどけてみせた。
「大丈夫です、お父さん」そう言って頷いた。「プロレスラーの真骨頂、見せてもらいました。ありがとうございました」
それを聞いたエルは、ぱあっとはじけるような笑顔を見せた。
父親と二人、会心のサムズアップを交わす。
「まったく君の誠実さには、驚かされるな」
2624/05/13(月)23:08:39No.1188933877+
「トレーナーさん、メキシコに行って話をつけてくる! ってさっきまで息巻いていたんデスよ!」
調子を取り戻したエルが、興奮した様子で先ほどのやり取りを繰り返した。
今となっては恥ずかしい限りで、頬をかいて誤魔化すことしかできない。
お父さんはうんうんと満足そうに頷くと、改まった調子でこう続けた。
「トレーナー君、君も知るようにルチャドールは限られた人にしか正体を明かさない」
お父さんは首の後ろ側に手を回し、マスクの紐をほどき始めた。
「我々にとってマスクはエンターテイナーとしての仮面であると同時に、尊厳の証でもあるのだ」
しゅるしゅると肩まで紐が垂れさがっていく。思わずごくりと息をのむ。
「だからこれから私がすることの、その意味というものを、よく考えてもらいたい」
2724/05/13(月)23:09:02No.1188934013+
舞台の上の千両役者のように美しい所作で、お父さんは潔くマスクを脱ぎ捨てた。
「今日は楽しかったよ。トレーナー君」
露になる素顔。ぐっと拳に力が入る。
「これからも、娘のことをよろしくたのむ」
気付けば居住まいを正して、深々とお辞儀を返していた。
父が残した責任の重さに、頭を下げることしかできなかった。
「ありがとうございます。お父さん」
隣に座るエルは、眩しいものを見つめるように、目を細くして二人のやりとりを眺めていた。
2824/05/13(月)23:09:26No.1188934161+
それから、は蛇足になる。
あの三者面談の日以降、急速にお父さんとの仲は縮まった。
LANEのアカウントも教えてもらい、今では「スエグロ」「ジェルノ」と気軽に呼び合える仲だ。
これにて大団円、と行きたいところだが、一つだけ心残りがあった。
グラスワンダーの存在だ。
エルコンドルパサーといえばグラスワンダー。二人はライバルであり対をなすような存在である。
同室のエルコンドルパサーの動向を、彼女だけ知らされていないというのはいかにも不公平だ。
なのでグラスワンダーを呼んで、これこれこういうことがありましたよと一部始終を話してみせた。
「あら、まあ〜。なるほど、そんなことがあったのですね〜」
グラスワンダーはにこにこと笑顔で応じていたが、その瞳の奥に別の炎が宿っているのを見逃さなかった。
後日、エルは下手くそな楷書で書かれた「反省」「猛省」「もうしません」という三つの習字を持ってきた。
「うう、グラスに告げ口するなんて、トレーナーさんずるいデェェス!」
がっくりとうなだれるエル。なぜかレッドホットな菓子折りもあわせて持ってきた。
お約束ではあるが、少し溜飲が下がった気分だった。
2924/05/13(月)23:09:57No.1188934345そうだねx2
ぱっ、ぱっ、ぱっ。
ウマッターのトレンドが流れていく。
トレンド急上昇ワードは「三者面談」「既成事実」の二つだった。
これらをめぐり、ウマ娘の間では喧々囂々、侃々諤々の議論が交わされていた。
しかし議論の焦点は、是か非かというところにはなかった。
むしろ、いかにしてトレーナーと既成事実をでっちあげるかというところに重きが置かれていた。
特に強い反応を示したのは、エルコンドルパサーと同様、海外にルーツをもつウマ娘だった。
ファインモーション。
エイシンフラッシュ。
タイキシャトル。
シーキングザパール。
ホッコータルマエ。
続々と名乗りを上げる俊英たち。彼女たちはこぞって両親とトレーナーとの面談を取り付けていた。
用意されたのはA4用紙一枚。現地の言葉で書かれた黄金のフレーズ集を手に、彼女たちは戦いに挑む。
尽きることのない面談ダービーの幕が今、切って落とされようとしていた。
3024/05/13(月)23:14:04No.1188935830そうだねx8
苫小牧は…海外……?
3124/05/13(月)23:15:39No.1188936408そうだねx9
スペイン語翻訳したら酷すぎて笑った
3224/05/13(月)23:16:26No.1188936696+
ちょっと待てよ!?
3324/05/13(月)23:17:48No.1188937192+
エルはさぁ…ワルいウマ娘?
3424/05/13(月)23:18:23No.1188937381+
ドトウ...嘘だよな?
3524/05/13(月)23:19:12No.1188937681そうだねx4
フラトレのひみつ①
大学では、ドイツ語専攻。
3624/05/13(月)23:20:50No.1188938244+
言うてグラスも真似するでしょ…
と思ったけどグラトレは言葉が通じないくらいじゃ動揺しなさそう
3724/05/13(月)23:20:56No.1188938277そうだねx7
>ファインモーション。
そうだねアイルランドだね
>エイシンフラッシュ。
そうだねドイツだね
>タイキシャトル。
>シーキングザパール。
そうだね二人ともアメリカだね
>ホッコータルマエ。
ちょっと待てよ!
3824/05/13(月)23:21:04No.1188938312+
実際フラッシュのトレーナーは描写見るに三年後は多少はドイツ語話せるようになってそうなんだよな
3924/05/13(月)23:21:49No.1188938595そうだねx1
これウマ娘セックス怪文書?
4024/05/13(月)23:23:03No.1188939027そうだねx7
>フラトレのひみつ①
>大学では、ドイツ語専攻。
計画段階で既に破綻してる辺りがフラッシュすぎる
4124/05/13(月)23:24:53No.1188939703+
苫小牧はパスポートが必要だったか…
4224/05/13(月)23:25:36No.1188939985+
>フラトレのひみつ①
>大学では、ドイツ語専攻。
面談スタートしたら流暢なドイツ語で父母と談笑するフラトレ
青ざめるフラッシュ
4324/05/13(月)23:26:08No.1188940160そうだねx2
エルトレは真面目にやっているんだ〜っ!
だからダメなんだって?それはそう
4424/05/13(月)23:28:01No.1188940818+
じゃあユニちゃんの三者面談やるか…
4524/05/13(月)23:31:13No.1188942084そうだねx1
トレーナーさんこちらの文言はメジロ家の中では特別な意味を持つ言葉となります
おばあさまとの面談の際はぜひこのガイドラインに則ってお答え下さいね
4624/05/13(月)23:33:32No.1188942863+
タルマエがマル外扱いされるならスペちゃんもいいのでは?
4724/05/13(月)23:33:44No.1188942925+
英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語…
加えてメジロ語、シブの民語など
必要な知識は多岐に渡るのがトレーナーだ
4824/05/13(月)23:35:29No.1188943541そうだねx1
>タルマエがマル外扱いされるならスペちゃんもいいのでは?
スペちゃんは「お墓参りお願いします」って直球投げられるから大丈夫
4924/05/13(月)23:41:15No.1188945745+
何を言ったのかはわからないがエルがエロしたんやろ!
マスク外すぞ!
5024/05/13(月)23:44:30No.1188947018+
>青ざめるフラッシュ
知ってて黙ってたんですか?!なんて言っても
キミが可愛くてさ、なんて返されてから「……っ」で許す
5124/05/13(月)23:46:47No.1188947843+
>タルマエがマル外扱いされるならスペちゃんもいいのでは?
苫小牧と北海道を一緒にするなよ
5224/05/13(月)23:51:10No.1188949424+
>>タイキシャトル。
>>シーキングザパール。
>そうだね二人ともアメリカだね
分からん人は分からんけどそれでも英語はそうそうダマせる言語じゃないんじゃないかなぁ…
5324/05/14(火)00:01:10No.1188953115+
>>フラトレのひみつ@
>>大学では、ドイツ語専攻。
>面談スタートしたら流暢なドイツ語で父母と談笑するフラトレ
>青ざめるフラッシュ
>知ってて黙ってたんですか?!なんて言っても
>キミが可愛くてさ、なんて返されてから「……っ」で許す
誰か書いて
5424/05/14(火)00:03:54No.1188954073+
お前が書くんだヨ
5524/05/14(火)00:09:38No.1188956193+
エロ。避妊だけはしなさい


1715608599331.png