不穏はなかった

　カバンはストラップで肩かけにして、両手で缶のココアを持つと、冷えた指先にじんわりと熱がしみました。その温かさにひとつ息をついてから、公園を出ます。
　そこでまた、わたしは「あ」と声をあげました。
　歩道の先、見えた後ろ姿はよく知るものでした。
　ココアを手に駆け出すと、ローファーの足音に気付いたのでしょうか、プロデューサーさんはわたしが呼ぶよりも早く振り向いて、「おっ」と驚いたみたいに笑いました。
　「おつかれさまです」と挨拶をして、わたしはプロデューサーさんの隣に並びます。「おつかれさま」と応えたプロデューサーさんは、そのまま「今日は寒いなあ」と息も白く言います。見れば、手袋のない指先はやっぱり赤くなっていました。
　ココアを包んで、少し走って、わたしの手は少しだけれども温まりました。今は、わたしよりも。
「あの……プロデューサーさん」
　よかったら手を温めるために。それだと霧子が寒いだろう。わたしは大丈夫です。事務所はすぐだから俺も大丈夫だよ。
　プロデューサーさんは笑いながら、首を横に振るばかりです。

プロデューサーさんがいなければ暖かくなれない霧子さん…美しいですー…

「そ、それじゃあ……！」
　わたしは、少し強引にプロデューサーさんの手を取りました。そして、びっくりしているプロデューサーさんとわたしの手の間に、ココアの缶を差し込みます。
「こうすれば、わたしもプロデューサーさんも……」
　温かいので、と言う前に、プロデューサーさんは、ははっと笑いました。でも、缶もわたしの手も、離したりはしませんでした。
　二人でひとつの缶を持つなんて、したことがありません。つるりとしたココアの缶を落とさないように、わたしの手には力がこもります。プロデューサーさんもしきりに指を動かして、収まりのいい場所を探しているみたいでした。
　事務所までは、あと少し。なのに、わたしとプロデューサーさんの歩みは、ゆっくりになっていきました。それが二人でココアを持つなんて変わったことをしているせいなのかどうかは、分かりません。
　でも、時々触れるプロデューサーさんの指先はさっきよりも熱くて、それを感じるわたしの手も、とても熱くなっています。
　それだけは、たしかなことでした。

霧子はかわいかね〜

見んね霧子！
霧子…？

脳内に住む冬優子の脳味噌が壊れる音がする

微笑ましか〜

バカねあさひ
今の幽谷霧子の行動は単純な優しさからであって他の意図は全くないのよ

うちはもう耐えられん

>バカねあさひ
>今の幽谷霧子の行動は単純な優しさからであって他の意図は全くないのよ
冬優子ちゃん半分ぐらい魂がどっか逝きそうっすよ

一部始終を見届けた黛冬優子は静かにベンチに横たわるのであった＿＿

霧子はこういうことする

金手紙を見てあったか〜いには遅くないかなと思っていました
おあつらえ向きに寒くなってきっとこの二人のためだと思いました

最近暑いわ寒いわで…
>うちはもう耐えられん