──スレンダーマン職人の朝は早い。 「天気のいい日はね、こうやって放し飼いにするんです。イキのいいバイオスモトリと一緒に放って、捕食とかもさせるんですよ」朝5時、この道20年のプロは油断なく多数のスレンダーマンを見守り、そう語る。 Q.大変ではありませんか? 「まぁ、好きで始めたビズですから」老人の顔には深い皺が刻まれ、浅い笑みの形を作る。最近は出荷元のチェックも厳しい。愚痴をこぼすこともなく浮かべた笑みの裏には、どれほどの苦労があるのだろう。 放牧を終え、次の仕事は入念なスレンダーマンの材料チェックから始まる。各種有機質、バイオ胚、[検閲済]……一流の職人は材料を選ばないが、同時にその質を見極める事を怠らない。見合った材料に、見合ったスレンダーマンを。厳選した材料を手に、地下に併設されたヨロシ生化学プラントへ向かう。 「アイエエエエ!!」「アイエアバーッ!!」 材料達の鳴き声がやかましい中でも、職人の動きに澱みはない。各種有機質……ロブスター、サメの歯、クローンヤクザ、人間……とその他科学薬品などを入れてミキサーにかける。混ぜ物で出来たこの素体にハズマットスーツ越しに触れ……丸く整形。ウドン生地めいた有様に。 「イヤーッ!」そしてニンジャめいたシャウトでそれを捏ねる! 打つ! 捏ねる! 打つ! 捏ねる! コシがでてきたところで、取り出したのは伝家の宝刀ヨロシ・グラインダー。バイオトネリコでできたそれはスレンダーマンの体を慣らすのに最適だ。 ゴロゴロと塊を伸ばし……形を作る! 特徴的なあの細長すぎるシルエットが形作られ、のっぺらぼうの顔もできる。全身が出来たところですかさずヨロシDNA注射(TM)を注射! このタイミングの見極めこそが職人の技。ベストな状態で作られたスレンダーマンは銃弾すらも弾き返す弾性を持っているのだ。(要出典) 「……イ……アア……アアー」ヨロシDNAを注射されたスレンダーマンが声を発する。見事に成功……職人の顔にも確かな笑みが浮かんでいた。 「イ…アア?アアー」出来たてのスレンダーマンはまだ白く、生まれたての小鹿めいてか弱く、ゆっくりと立ち上がることしかできず、言葉も不自由。もう一つのシンボルである触手とハサミもない。田園地帯に逃げた個体がアーバン・レジェンドになるのも納得の有様だった。 これに基礎教育を施すのもまた、スレンダーマン職人の役目である。生まれたてのスレンダーマンを連れ、一つ上の階へ向かう…くねくね歩きのスレンダーマンはとても可愛らしい。 午後4時。多くのスレンダーマン達が集う学習フロアに職人の姿はあった。先ほどのニュービー・スレンダーマンにつきっきりで言葉を教えていたようである。 「イアイアイ」「違う違う。アマクダリ」「アマ……クアイ?」まだまだ先は長そうだが、職人に休みはない。 Q.休憩はとられましたか? 「いやぁ。今日はこの子に言葉を教えてやらんとですから。人間は二の次ですわ」職人はあくまで笑う。先程と違い、楽しさが滲んだ顔で。「一人一人性格と個性が違う。型通りには行きませんから」ゴウランガ。その尽力には取材班としても脱帽と言うしかない。 彼はその後、次の仕事が始まる夜6時まで、つきっきりでニュービー・スレンダーマンの面倒を見ていた。「実際あの経験があって今の私があります。職人=サンには感謝しかありません」とは、後日インタビューしたあのニュービー・スレンダーマン改善の言である。立派に成長したものだ。 ……だが、夜を迎えると職人の仕事の中でも悲しい時間がやってくる。今日の夜に予定された出荷だ。すこやかに成長した年長スレンダーマン達が、丁寧にアイロン掛けされたスーツを着込み、ゆっくりとトラックに詰められていく。 Q.やはり出荷は辛いですか? 「そうですね……出荷時点でほとんど連絡取れなくなっちゃいますからね」出荷されたスレンダーマンは、アマクダリ・セクトの任務をはじめとした様々な職場に配置される。原型であるシャドウアサシンシリーズのように、将来的には芸能活動のような文化ミッションにも投入が期待されるが、今は殆どが諜報任務に送られる。 職人が丹精込めて育て上げたスレンダーマンも、生き残って一年後の同窓会に参加できるのは2割ほどになると試算されている。ショッギョ・ムッジョの世界だ。 「でも、これが私のビズですから」 職人はそういってまた笑顔を見せる。トラックに乗せられたスレンダーマン達に手を振ると、彼らも一斉に触手を振って返事。非常に和やかな光景……あくまで、別れの時に涙はいらない、ということなのだ。 「この仕事を長く続けるなら、義務感でやっててもしょうがないですからね。楽しんで明日も頑張りますよ」 辛い気持ちもあるだろうに、職人はタフに言ってのけた。……見事なものである。 出荷の後、職人は取材班と別れ明日の仕込みに移る。これから深夜まで作業は続くのだろう(シャナイ級機密のため撮影は許可されません)。 職人のカロウシが心配される所だが、実際自助努力的作業のためコンプライアンス違反ではなくごあんしんだ。 そして、作業を終え明日の4時まで短い仮眠……取材班は敬意をもって職人を見送った。彼の朝は早く、夜は遅い。我々ヨロシサン製薬は彼のようなプロの仕事を、創業当初から未来まで、永遠に尊ぶだろう。 「これからもよろしくな、スレンダーマン=サン」「あなた達はアマクダリ・セクトの秘密に近づきました。ゆえに全員殺します。」(https://wikiwiki.jp/threadgrep/スレンダーマン を引用)仲の良い二人! 職人の技に敬意を込めて── 「ハゲミナサイヨ! 職人=サン! スレンダーマン=サン!」(発光。カメラに不可思議な焼き付けが残る) 「「アババババババーッ!!?」」アッ (この番組はヨロシサン製薬の提供でお送りしました) ────────── 「なんじゃこれ」 「取締役会が送ってきたスレンダーマンのカバーストーリー用欺瞞映像とのことです」 「ええ……大師いい加減にするのじゃぞ……」 「(困惑顔のCEOカワイイ!)」 ヴィクセンは一人悦に入り、キュアは目尻の皺を深めてため息をつき、スレンダーマンが貴方を見ている。