-------------------------------- 【登場キャラクター】 ・天野 才耶香&メタルマメモン(No.191) ・シグー&キメラモン(No.92) ・マメモンイレイザー(初出No.191) 言及だけ: 渡辺 豆蔵&オメカモン(No.35) ジン ツジハ&デジタマモン(No.184) 八王子 蘭(自創作キャラ)&デジタマモン(No.126) -------------------------------- △〇〇△ デジモンイモゲンチャー サイドストーリー 「ティラノモンの王マメモンイレイザー」 △〇〇△  草原を、地響きと絶叫が揺らす。 「ヒィィィィィィィメタルマメモン!! ぎゅああああああ!!!!」  メタルティラノモンに乗る人間の男は悲鳴を上げながら、前方を走る小型デジモンへと憎悪の瞳を向ける。  彼はティラノモン大好き「マメモンイレイザー」。かつてマメモンが所以の出来事で、泣き叫び、喉から血を流し、39.6℃の高熱で三日三晩うなされる羽目になった悲しき男である。 「あれが噂のデジモンイレイザーってやつか!」 「ちょっと違うんじゃないかなっ!?」  メタルティラノモン&マメモンイレイザーに追われるデジモン「メタルマメモン」に、サポートマシンに乗って並走するパートナーの少女「天野 才耶香」は、ドリル状の武器を投げ渡す。  それは、才耶香が開発したデジタル兵器・ドリルガントレット。  ドリルガントレットを腕に装備したメタルマメモンは、反転し、前進するメタルティラノモンの懐へと飛び込んだ。 「どちらにしろ! 我がマメモン兵法の前には弱敵よ!」 「ぎゃあああああ!!!! マメモンがこっちにぃぃ! 踏み潰せ、メタルティラノモンッ!」  メタルティラノモンは接近したメタルマメモンを粉砕しようとするが、身体の小さいメタルマメモンは腕と脚を?い潜り、メタルティラノモンの胸部へとドリルガントレットを突き立てた。 「ほう。今回の兵器は悪くないな」 「GRRRRRRR!?」 「このまま、胸板ごと貫いてくれるっ!」  ドリルガントレットはメタルティラノモンの強化装甲を削り取っていくが、その最中。  ガントレットからデジタルねじが、ポロリと外れた。 「……ん!?」 「あっ。マズい!」  メタルティラノモンの装甲を貫くには、もっと強度が必要だった!  才耶香が冷や汗を流す中、ドリルガントレットは見事に分解してしまい、危険な光が灯るメタルティラノモンの左腕がメタルマメモンに向けられる。 「おい才耶香、また欠陥かっ!?」 「撃てぇっ、メタルティラノモン!」  メタルマメモンは即座に自身に備わるサイコブラスターを発射し、メタルティラノモンの光線攻撃を相殺する。  メタルマメモンは衝撃で後方に飛ばされながら、舌打ちをした。メタルティラノモンは自分と同じ、サイボーグ型の完全体デジモンである。一対一ならともかく、パートナーを守りつつ戦うのは難儀だと考えたのだ。 「弱敵には違いないが。厄介ではある」 「なら、さっさと逃げちゃおうよ! こっちには戦う理由なんて無いんだしさ!」 「それはそうだが……」  メタルマメモンは、メタルティラノモンに騎乗しているマメモンイレイザーを見上げる。 「果たして、向こうはそれを許すかな」  マメモンイレイザーのもつ、マメモンにまつわる悲しき過去をメタルマメモンは知らない。  だが、マメモンイレイザーの憎悪に満ちた瞳は、雄弁に語っていた。彼が、マメモン属であるメタルマメモンを逃がすことはないだろう、と。   「マメモン共など、一丸残らずデリートしてくれる! トドメを刺せっ、メタルティラノモン!」  マメモンイレイザーの叫びに呼応するように、メタルティラノモンが"ギガデストロイヤー2"を放つべく右腕をメタルマメモン向けた、そのとき。 「"ヒート・バイパー"」  天から四本の熱戦が放たれ、メタルティラノモンに直撃した。 「な、なぁっ!? お、おい、メタルティラノモン!?」  強化装甲ごと脚部を貫かれ、体重を支えきれなくなったメタルティラノモンが崩れ落ちる。  落竜して草原に投げ出されたマメモンイレイザーが見上げると、そこには大型の異形のデジモンの影があった。 「な、何者だぁっ!?」 「何者かって……?」  大型の異形デジモンは草原に着陸し、その背に乗る人間の少年は、腰を抜かしているマメモンイレイザーを憂鬱そうに見下ろした。 「僕はシグー。そしてこいつは、キメラモン。僕たちはデジモンイレイザーの尖兵だ」 「で、デジモンイレイザーだと!?」 「僕はこの"不完全なバケモノ"を完成させるための、素材を集めている……」  シグーはマメモンイレイザーの傍のメタルティラノモン、才耶香の傍のメタルマメモンを見るが、彼は「違う」とばかりに息を吐いた。 「お前たちは、この付近でデジタマモンを見たか? 女性のテイマーと行動しているやつだ。僕はそいつを探している」  「女性テイマーとデジタマモン? あぁ、以前に、ジェネラルの豆蔵さんとオメカモンが言ってたっけ。ホーリーデジタマモンだとか何だとかを探して大騒ぎを起こして、マメモン城下町で牢屋にぶちこまれた二人組がいたって」 「何それ……。多分、それは別デジタマモン組だ」  シグーは以前に入手した情報を思い返す。  ターゲットであるそのデジタマモンは、自らを拘束するかのように全身にベルトを巻いており、完全体デジモンとは思えないほどの恐ろしい力を示すのだという。   それほどの力を持つデジモンであるならば、騒ぎを起こしてテイマー共々牢屋行きなどと、そんなトンチキなことにはならないだろう…… 「デジモンイレイザーは僕たちに言った。キメラモンは、その特異なデジタマモンを吸収することで、究極の姿に……"千年の竜"になるのだと」 「だけれど」 「……お前達も、キメラモンの糧くらいにはなるだろう?」  キメラモンの四本の腕に、高熱が集中する。  死の熱線"ヒート・バイパー"を再び放とうというのだ。 「強敵っ……! 死んでは元も子もない! 退くぞ、才耶香!」 「待って待ってぇ、メタルマメモン!」  才耶香とメタルマメモンは即座にその場から全力で逃げ出し、ヒート・バイパーの射程圏外へと離脱する。  だが一方で、マメモンイレイザーは動けなかった。  落下のショックでまだ腰が抜けており、頼みのメタルティラノモンも脚部を負傷しているのだ! 「や、やめてくれぇっ!」  マメモンイレイザーは、キメラモンを見上げて悲鳴を上げる。この距離から撃たれれば、自分も巻き込まれてデリートされてしまう!  だが、マメモンイレイザーを名乗り、マメモンを理不尽に襲い続けた彼を助けてくれるものなど、どこにもいなかった。   「"マメバイト1000"!!」  いないはずだった。 「……ちゃんを、いじめるなっ!」 「ッ!?」  キメラモンにかみつく小型デジモンの存在に、シグーは、瞳を開いた。  デジモンイレイザーのパチモン的存在「マメモンイレイザー」は、マメモンに憎悪を燃やす男。それは、デジモンイレイザーの尖兵間の噂話で聞いていたが……たった一人でキメラモンに戦いを挑むこのデジモンは、まさしくマメモン属のデジモン。  マメティラモンだったのだから。   「ヒィィィィィィィマメティラモン! ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!」  マメモンイレイザーは腰を抜かしながら、再びトラウマが蘇ったのか。  自分を守ろうとするマメティラモンに向かって、悲鳴を上げている。 「君はどうして、あのマメモンイレイザーに忠義を尽くすんだ? 君は、愛されていないというのに」 「黙れ! ……ちゃんのことを、何も知らないくせに!」  マメティラモンはマメモンメットを脱ぎ捨てて"メットラリアット"を放つが、悲しいかな。  同じ完全体ではあるがキメラモンとの格の差は明らかであり、マメティラモンの攻撃はキメラモンに容易く弾かれ、その全身はマメモンイレイザーの傍にまで叩きつけられてしまった。 「げほっ! うぅっ。く、クソォ〜!」 「ま、マメティラモン……」  マメモンイレイザーは、マメモンメットが外れて、小さなティラノモンのような姿になったマメティラモンを見る。  このデジモンは、かつて自分が育てた「最初のティラノモン」である存在だった。 「ど、どうしてだ? お前は、何故。どうして俺を」 「だって。だって! ……ちゃんは、一生懸命俺を育ててくれたじゃないか! ……ちゃんが俺を嫌いになっても、俺は、君を嫌いになんてなれないよぉっ!」  マメティラモンはせめてマメモンイレイザーの盾になろうと、立ち上がり、強大なキメラモンを睨みつける。  キメラモンがヒート・バイパーの発射態勢に入るが、 「やめろ。もう十分だキメラモン」  シグーは首を横に振り、キメラモンに攻撃の中断を命じた。 「……あんな小物を吸収したところで。お前に余計なデータが混じるだけだ。そうだろう?」  キメラモンは、シグーの言葉に返答しない。  だが、彼の意を汲み取り了承したのか、キメラモンは飛翔し、シグーと共にデジタルの空の向こうへと去っていった。 「ふぇー。怪物デジモン、行っちゃった?」 「マメティラモンの度胸に免じてといったところか。いやはや、まさかあのマメモン嫌いに、マメモン属のパートナーがいたとは……!」  キメラモンの姿が消えた頃、才耶香とメタルマメモンは、マメティラモンとマメモンイレイザーに近づき、その様子を見る。 「マメティラモン。本当は俺は、マメモンが大嫌いってわけじゃないんだ。だけどな、格好良いティラノモンがマメモンになってしまったのが、ショックだったんだ」 「……ちゃん」 「俺はそれが許せなくて、マメモンを直視できなくなってしまって、気がつけば"マメモンイレイザー"としてこのデジタルワールドに……」  ティラノモンに近い姿になったマメティラモンになら、叫ばずに喋れるのか。  マメモンイレイザーは、かつて拒絶したマメティラモンに自分の想いを吐露するが、 「あっ。落ちてるよ、ヘルメット!」  背景を何も知らない才耶香は、落ちていたマメモンメットを手に取り、マメティラモンに被せてしまった。  その瞬間。 「ヒィィィィィィィマメティラモン! ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!」  ティラノモンの姿からマメモン寄りに戻ってしまったパートナーの姿に、トラウマが蘇ったマメモンイレイザーは悲鳴を上げる。  錯乱したマメモンイレイザーはメタルティラノモンを叩き起こして飛び乗り、マメティラモンが引き留める間もなく、逃げ去ってしまった。 「ま、待ってよ! ……ちゃん!」  マメティラモンは、パートナーに追いすがるように、自身もまた駆けだしていく。  彼らの姿は地平線の向こうへと消え、草原に残された才耶香は、メタルマメモンと顔を見合わせて呟いた。 「いやー。変わった人間やデジモンがいるもんだね」 「お前も相当だぞ。何なんだ、あの欠陥武器は?」 「ごめん、ごめん! 今回の失敗はちゃんとフィードバックするよ。んでもって、もっともっと造るよ! 貴方は強くなって、私は楽しい! WIN-WINだね!」  このデジタルワールドでは、沢山の異なる物語と冒険がある。  才耶香とメタルマメモン。シグーとキメラモン、そしてあのマメモンイレイザーにすら。 「さぁ、メタルマメモン! 今度はどこに行くの?」 「あのなぁ……」  才耶香はメタルマメモンと共にサポートマシンに乗って、新たな舞台へと向かう。  パートナーのメタルマメモンはそう遠くないであろう次の騒動を予感し、苦笑いするのだった。 [終わり]