昼下がりの新橋、電脳犯罪捜査課オフィス。 本来なら部外者立入禁止エリアであるその場所に闖入者がいた……その数、5人。 いや、それをそのまま5人と言っていいのだろうか。 うち一人は直立歩行しているものの明らかに人間ではないデジモンで、二人はまだ幼稚園児ぐらいの子供だったからだ。 「はーいみんなー!調子はどう?新ネタある?」 「名張さんだからここは部外者立入禁止で……ってえええっ!」 またも報告書に難儀している色井は人数がやたらと多いことに気がついた。 しかもその半分以上は見覚えがある……というかつい先日のリアライズ案件のデジ対との合同作戦でデジ対側の作戦立案と武器の手配を行った人物だ。 「アンタ確か名張さんでしたっ……って名字同じ!?えっ、どゆこと!?」 「やあ、この間ぶりだね色井君、いつも僕の妻がお世話になってるんだってね?」 言われてようやく察した。 名張茜と名張蔵之助はいわゆる夫婦なのだ。 ということはこの小さい子供は…… 「ほら、侘助、一華、ごあいさつして。」茜が促すと、 「なばりわびすけです。5さいです。」 「なわりいちか、さんさいれす。」 もうだいぶ滑舌の確かな男の子と、まだ濁音の発音がたどたどしい女の子がおじぎした。 「えっかわいい!」二尾橋が年齢相応な嬌声を上げる。 「……はい、こんにちわ。私は二尾橋源乃っていいます。もとのおねえさんって呼んでね。」 だがすぐにしゃがみこんで目線を合わせて自己紹介をする。 「はい、もとのおねえさん!」元気よく返事する兄と、 「……もちょもおねーたん」やっぱりだいぶ発音がおかしい妹。 「ホントに結婚してたんだ、っつーかマジで夫婦なのか……アルケニモンは全然驚いてないな?」 「あら宗介、私は同じ匂いがしてたからこの前の時に気づいてたわよ。」 筧に対し自慢げに言うアルケニモンだが、 「いや、普通は名字と普段のアカネさんの話から気づくんじゃねえの?」 ディアトリモンが少し馬鹿にしたような目で見た。 「あっすみれおばちゃんだー!こんにちムギュッ!」 すみれを見つけて駆け寄る侘助の頬を手で挟む。 「おばちゃん、じゃなくて、おねえさん、でしょ?」 「だっておばちゃんママとおないどムギュッ!」もう一回挟む。 「はい、やりなおし」 「すみれおばあちゃん」 「このガキャー!ええ根性しとるやないかワレェ!」 わざとだ!コイツ私が怒るの分かってて言ってる! すみれは侘助を捕まえようとする……が、なぜか捕まらない。 「おにーたん、だめなの。」一華が侘助の足首を掴んで転倒させる。 「おんなのひとにそういうこといったただめ。」滑舌の悪さがなおのことかわいい。 「すみれおねーたん、けこんできないのきにしてるの。」 かわいくない!と叫ぶのをすんでのところですみれは踏みとどまった。 「……わかったよ。」転んで泣きそうになるのをこらえる侘助。 起き上がって服の前をパンパンとはたく。 「まあまあみんな、お土産買ってきたから一緒に食べましょ!じゃーん!」 茜の取り出した菓子の包みを見て 「……赤福ね。」すみれと 「……赤福ですね。」色井と 「……赤福だな。」筧が揃って微妙な反応を返す。 「何よー、赤福に文句あるのー!?」 憤慨する茜に対して返ってきたのは、 「だって茜さんっていつも……」すみれと 「なんか見たことないようなマイナーなお菓子ばっか持ってくるから」色井と 「こういう超メジャーなやつ買ってくるのって何というかこう……」筧の 『変!!!』容赦ない評価だった。 少し悔しそうな茜と、それを見て楽しそうに笑う蔵之助。 つられて子どもたち、そして警察官たちとパートナーデジモンたちも笑い声を上げる。 ……いや、一組だけ、先程から何も反応せず黙々と作業をしているコンビがいる。明智とギロモンだ。 「明智くんもこっちおいでー!一緒に食べよーよ!」茜の呼びかけに対し明智は、 「いえ、自分は明日から公休なので今日中にこのレポートをまとめないといけないので。」 素っ気なく無表情で断った。 「こうきゅうって?」侘助の質問に 「お休みって意味だよ侘助。あのお兄さんは明日からお休みだから、今日中に仕事を終わらせなくちゃならないんだ。」蔵之助が答える。 「おやすみ!あしたぼくたちもおやすみなんだ!ランドいくのランド!」 「らんど、らんど!」はしゃぐ侘助と一華。 「そっかあ、じゃあ今日は帰ったら早く寝なきゃだね……ってアレ?そういや今アパートって解体中じゃ……」 つい先日、茜の下宿してたアパートがわずか一日で解体されて現代技術の凄さを実感していたすみれが言う。 「そう、だから今夜はキャンプなの!」 「キャンプキャンプ!」「きゃんぷ〜」 「キャンプ?」はしゃぐ三人に対して首を傾げるすみれ、そして 「キャンプってぇーと、もしかしてあそこか……城南島の」 何かを思い出して少し声が沈む色井。 「そう、色井くん大正解!」色井を指差す茜。 「君たちが解決したっていう事件の取材に行ったらちょうどいい感じのキャンプ場があってね?そこで今夜一泊してから行く予定なの!」 右拳を突き上げる茜と、同じポーズをする子どもたち。 「あっじゃあ俺からアドバイスです。あの辺コンビニとかほとんど無いから食いモンはたんまり買っていったほうがいいですよ。」 張り込みの時のことを思い出しながら言う。 「夜中まで飛行機飛びまくるし夜明け前から船が通り過ぎてうるさいんで気をつけて……って、気をつけてもどうにもなんないっすね。」 言いながら色井は、封を開けた赤福に先輩より先に手を付けていいものかどうか迷っている。 「あれは本当に酷かったな。」 相槌を打ちながら先輩を差し置いてひとつ口で摘んで食べるディアトリモン。 「海は近いし羽田空港の夜景は見事なんだがなあ、あそこは。」 負けじと手を伸ばす筧。 「今日は平日なので我々以外に客は居ないと聞いています。」 今までどこにいたんだと言うぐらい無言だったレナモンが鋭い目つきで言う。 「でも家族揃ってのキャンプにランドなんでしょ?楽しんでらっしゃいな。」 アルケニモンがトレーに急須と人数分の湯呑みを持ってきた。 羽田沖、海上。時間は21時過ぎ。 分未満の超過密ペースで旅客機が頭上を通過していく。 (どう考えても誘っているよな……) 海上を進む巨大な影、金属光沢に輝くメタルシードラモンの頭上に立つのは明智。 ……パーカーのフードを目深に被る今はクラックチームのバレットか。 傍らにいるのもギロモンではなくテッカモンになっている。 (わざわざ人気のない場所に家族全員揃ってますなんて襲ってこいと言ってるようなものだ。) 無意識に左手首のデジモンリンカーを触る。 (十中八九罠だろうが……それならば力ずくで踏み潰すまでだ。) 念には念を入れ、わざわざ究極体のメタルシードラモンを借り受けてきたのだ。 シュリモンとレナモンが例えもう一段階進化したとしても問題ない。 まあ男の方の正体は察しがついてる。 女の方は……イージスドラモン様の手にかかれば吐くだろう。 この俺を甘く見ていることを後悔させてやる。 城南島の海沿いにあるオートキャンプ場が見えてきた。 確かに停まっている車は一台だけ、真っ黒な大型四輪駆動車。 傍らにはテントが見える。人がいるのか中がぼんやりと光っている。 先制攻撃だ。半分消せれば御の字だ。 「アルティメットストリーム!」 メタルシードラモンがエネルギーの奔流を放つ。 それはテントに命中し、そして爆発……しなかった。 芝生の一部が焼かれただけだ。 「……立体映像か!」 「そういうこと。やっぱり来たね、明智君?」 車の上に蔵之助がいた。さっきまでそんな場所に誰もいなかったはず……! 「アンタたち逃げたり隠れたりは得意だったな。」 姿を消すプラグインを使ったのだろう。 「そうだね、まあ今夜はそうしないけどね。だって――」 その言葉と同時に茜とシュリモン、侘助と一華、レナモンが姿を表す。 「キミごときにそんなことする必要ないからね?」 「……っ!貴様っ!テッカモン!」 ナメやがって!怒りに燃えるバレットはテッカモンを進化させる。 「テッカモン超進化!ピエモン!」 「やっぱ子ども攫うんだったらピエロだよなぁ!」 あちらのミスはノコノコと自分の子供まで連れてきたことだ。 攻撃目標にしたりあわよくば隙を見て人質にすればどうにでもできる。 「究極体が2体、か……」茜と 「こりゃちょっと本気でやらないと……」蔵之助が 『ダメみたい』「ね!」「だね!」視線を交わした。 茜と蔵之助がそれぞれディーアークを取り出し、お互いの方に投げた。 同時に掴み取った瞬間、それが強く光を放つ。 二人が青いカードを取り出す。 このカードと『エイリアス』だけは、蔵之助が作ったものではない、13年前から使い続けているカードだ。 『カードスラッシュ!ブルーカード!』 『MATRIX_EVOLUTON』 レナモンがキュウビモン、タオモンと変化し、更に変化しつつ茜の肉体がデータ化し融合する。 シュリモンは一度ホークモンの姿となり、更にアクィラモン、ヤタガラモンへと変化し、蔵之助と融合する。 そして現れる―― 「サクヤモン!歩き巫女モード!」 「レイヴモン!雑賀モード!」 「……なっ、歩き巫女……それにサイガだと!?」フード越しでもわかるほどに驚くバレット。 忍者軍団・名張衆の源流の片方、信濃巫。 その末裔である茜のデータによってサクヤモンは歩き巫女モードへと変じた。 袖や裾が短くなってノースリーブ・ミニスカの巫女服に、レナモン時を彷彿とさせる腕の大きな手甲と膝上まである装甲化された脚絆が追加されている。 髪の毛は大きな一房にまとめられ、手にするのは錫杖でも大幣でもなく、一振りの短刀。 胸元ははだけ気味で、その谷間があらわとなり二つの山が大きく揺れる。 その姿は金色の狐面をかぶるくノ一そのものだった。 名張衆のもう一つの源流、雑賀衆。 その末裔たる蔵之助と彼がイメージする鈴木孫六のデータを受けてレイヴモンは雑賀モードへと至る。 全身の装甲は厚さを増しつつ漆黒に染まり、その羽根はやや四角くなって両肩の外側に移動し武者鎧の大袖を思わせる。 だが何よりも目を引くのはその手に握る得物である。 どう考えても忍者や鎧武者とはイメージの結びつきにくい、巨大なガトリング砲がそこにはあった。 相手も究極体が2体、しかしこれは逆にチャンスだとバレットは判断した。 デジモンとテイマーが融合するマトリクスエヴォリューションは強力だ。 だがこの場合、幼子を護衛するレナモンがいなくなるのだ。 「ピエモン!」バレットはマインドリンクで細かい指示をピエモンに伝える。 トランプソードの一振りにバレットは乗り、ピエモンがそれをテレポートさせる。 無防備な子どもたちの眼前に、剣とともにバレットが現れた。 無言で子どもたちに近づき、より小さい女の子のほうを抱えあげる。 「そこまでだ!子どもの命が惜しかったら……」 「一華!」大声を上げる茜=サクヤモン。 しかしその声に驚愕や恐怖といった響きはなく、落ち着きがあった。 「――やりなさい。」 「はい、まま。」その直後、バレットの左腕に激痛が走った。 「んがあああっっ!何が……!!」 見れば一華を抱えている左腕に細長いクナイのようなものが刺さっていた。 それは丁寧に尺骨と橈骨の間をくぐり抜け反対側まで刺し貫いていた。 その上端を握る一華の幼い手は刺さったそれを捻る。 「ぐあああっ!」激痛に耐えかね幼子を放り投げるバレット。 くるっと空中で一回転して一華は着地する。 (このガキ……腕ごとリンカーを斬り落とそうとした!) 腕に刺さったクナイを引き抜くと、その刃に不自然な色合いが乗っていることに気付いた。 (これは……毒か!?) 気づけばもう一人の子どもがフラフラとした足取りで近づいてきた。 バレットが訝しんだ直後、何か光が閃いた。 「!!」自分の両脚の腱が斬られたことに気づくのに数秒を要した。 侘助の両手にはクナイが逆手に握られている。 先程の光はこのクナイの刃の反射だったのだ。 変移抜刀霞斬り、その二刀アレンジである十文字斬り。 忍者剣技の基本である。 たまらず倒れ込むバレットの右手に侘助が、左手に一華が近づく。 二人はバレットの手に先程とはまた別種のクナイを突き刺した。 大きな鋸歯のギザギザが返しとなっているそれで、バレットの両手を芝生に縫い付ける。 幼児とはいえその体重を掛けて深々と刺さったそれは、芝の根に引っかかって用意には抜けない。 「こっ、このガキィ!」 バレットの全身に痺れが回ってきた。これではろくに動けない。 だがマインドリンクは健在だし声も出せる。 まだ戦いようはある。 「あなたたち、危ないから車の中に隠れてなさい。」 茜=サクヤモンの声に子どもたちは幼児とは思えぬ素早い身のこなしで四輪駆動車の後部座席に乗り込み、ドアを閉めた。 (バカめ、そんなところに隠れていたら、車ごと撃ってくださいと言ってるようなものだ!) 「メタルシードラモン!あの車を撃て!」 「アルティメットストリーム!」 メタルシードラモンの放つ光が四輪駆動車に降り注ぐ。 (あのガキどもだけでも殺してやらないと気がすま……なっ!?) しかし車は無傷だった。よく見ればうっすらと光っている。 「あの機動忍者屋敷には対デジモン電子装甲が施されてる。」 蔵之助=レイヴモンが口を開く。 「防御力は電力量に比例する。内蔵バッテリーだと保つかどうか怪しかったけど……」 そこでちらりと羽田空港を一瞥する。 「いやあすごいね羽田空港の電力量は。1%でもこれだ。」 巨大空港の電力消費量は一般家庭の10万世帯分、大都市ひとつ分に相当する。 その一部をこいつは拝借しているのだ。 この城南島が、羽田空港に隣接しているのを利用して! ガキはすぐには殺せない、そう判断したバレットは2体の究極体の撃破を優先することにした。 あいつらを倒して、ガキはゆっくりと始末すればいい。 「海に誘い込め!水中戦ならこっちが有利だ!」その考えは間違ってなかった。 「甘いね。」間違っていたのは認識の方だった。相手は忍者なのである。 「おい……お前らなんで水の上を……水上を走ってるんだよおおぉ!」 サクヤモンとレイヴモンは海面の上を普通に走っていた。 まるで地上と変わらない速度で動き回る2体は、メタルシードラモンとそれに掴まるピエモンにたちまち肉薄する。 「アルティメットストリーム!」 迎撃行動をとるメタルシードラモン、しかしその攻撃はレイヴモンの両肩の翼に受け止められて霧散する。 「!!」レイヴモン・雑賀モードの特徴は防御と火力の飛躍的な強化、引き換えに機動性と格闘戦能力が低下している。 「おかえしだ!」右手に持ったガトリングを構える。 「弾種選択、HEP!」 GAU-8 30mmガトリング砲を改修した対デジモンガトリング砲が火を吹く。 どんな攻撃も反射するというメタルシードラモンの装甲はしかしその弾を弾くことなく受け入れ、着弾爆発する。 High Explosive Plastic、粘着榴弾はプラスチック爆薬を弾にしたもので、弾かれにくく装甲表面にくっついて密着状態で爆発する特性を持つ。 衝撃波で装甲の内側が剥がれ、メタルシードラモンの無防備な部分を掻き回した。 「ヴァアアアアア!」メタルシードラモンの絶叫が響く。 「こいつもくらえ!」レイヴモンが左手を伸ばすと虚空から巨大な単砲身の機関砲が出現した。 「弾種選択、HEAT!」 ブッシュマスターV 35mmチェーンガンを改造したデジモン用試作機関砲が連射される。 成形炸薬弾は内部からの剥離で薄くなったメタルシードラモンの装甲を喰い破り、その内側をメタルジェットで蹂躙した。 「とどめだ!」次の瞬間、バレットは信じられないものを見た。 レイヴモンが2体に増えたのだ。 次元鏡像化現象を応用した忍法の奥義のひとつ、影分身。 蔵之助自身は会得できなかったこの奥義を、レイヴモンの力を借りることで再現することに成功した。 「本願寺跛舞(ほんがんじちんばのまい)!」 同じ攻撃力を持つ、個別に自分で動ける分身による多重攻撃。 四門の砲火力を集中され、メタルシードラモンは大ダメージを負った。 「リアライズを……維持でき……撤た……」 メタルシードラモンの姿が一瞬光って消えた。おそらくデジタルワールドに撤退したのだろう。 足場となるメタルシードラモンを失ったことでピエモンは窮地に立たされた。 いや実際には海面に立つことは出来ずに腰まで海に浸かっているのだが。 すぐ目の前にはサクヤモンが迫っている。 「トイワンダネス!」敵を包んで変化させるハンカチを飛ばす攻撃。 しかしサクヤモンの周囲を飛び回る管狐――が変化した白蛇が飛んできて迎撃、命中して相殺する。 「エンディングスペル!」衝撃波を放った瞬間、サクヤモンが増えた。 今度は2体どころではない、12体に。 「何だ……と!?」バレットはもはやそれ以上言葉が出ない。しかしマインドリンクでピエモンに指示を出し続ける。 「エンディングスペル!」分身の1体を迎撃、消滅。しかし1体分身が増える。 「トイワンダネス!」分身の1体に命中、人形に変える。 が、その人形は即座に消滅しまたもう1体分身が増える。 「トランプソード!」4つの剣が分身4体に命中し消滅、しかし今度は4体分身が増えた。 「何なんだこいつは!何なんだよお前等!!」バレットは怒りに打ち震える。 「剣が4本じゃ足りないわねぇ。」茜=サクヤモンが口角を上げる。 次元分光現象を応用した分身の術、茜自身は3分身までしかできない。 しかしサクヤモン・歩き巫女モードは常時『エイリアス』が発動可能となっている。 それを組み合わせて3×4=12分身を実現しているのだ。 さらにそこにメッシュ型ネットワークの概念を導入。 12体全てが親機であり子機、本体であると同時に分身でもある。 互いが互いのバックアップとなるため、撃破されても同時に全滅しない限りは補充される。 茜とサクヤモンの2人分の思考意識で12体をコントロールするため細やかな制御が出来ないのが欠点である。 『真空斬り!』茜自身の遠隔忍者剣技が12体から放たれる。 その全てを回避し切ることは出来ず、ピエモンはいくつかを防御姿勢で耐え凌ぐ。 『真空竜巻!』 足が止まったピエモンに対し、茜=サクヤモンは両手でそれぞれ螺旋状にした真空斬り、真空竜巻という上位忍者剣技を放つ。 12分身全ての両手から、すなわち24本の竜巻がピエモンに襲いかかる。 回避は不可能、ならば耐え切るのみ。 ピエモンは全力防御でこれを全て喰らいながらも致命傷は回避。 しかしそれは必殺の一撃への布石でしかない。 防御力のほぼ残ってないピエモンに、真空竜巻を隠れ蓑にしたサクヤモンが急接近した。 手にしたトランプソードで迎撃を試みるピエモン。 しかし分身解除して1体になったサクヤモンは茜のフルコントロールで動いている。 苦し紛れの刃を難なく回避し、その懐に潜り込む。 「四十八滝・千手斬!」 右手、左手、右足、左足、その全てで茜は真空斬りができる。 さらにインパクトの瞬間その部位だけを12分身させる。 こうすることで零距離の密着状態から48連撃を一瞬で叩き込むサクヤモン・歩き巫女モードの必殺技である。 「ぐわあああぁっ!」 ピエモンは究極体の状態を維持できずテッカモンに退化、それ以上の退化こそしないものの戦闘続行は不可能だった。 羽田空港から届く光を反射し七色を湛える海面、その上に立つ狐面のくノ一の頭上を、大型の旅客機が轟音を上げながら通過していった。 マトリクスエヴォリューションによる融合を解除した茜と蔵之介がバレットに近づく。 倒れ伏した彼の顔を蔵之助はしゃがんで覗き込む。 「さて、君の所属を確認しようか。」 にこやかな笑顔で語りかける。 「まあ目星はついてるけどね?まずデジモンイレイザーとは直接つながってないね?」 「つながってたらディンさんが気づかないわけ無いわよね。」茜の方もニコニコしている。 「政府関係や犯罪者関係もノーだ。それなら僕か茜の情報網に引っかかる。」 笑顔のままの二人を恨めしそうに見上げるバレット。 「そしてこの前のマーキング追跡で分かった君の行動パターン……さしずめクラックチームあたりかな?」 「!!」表情を変えたつもりはなかった。 しかし相手には読まれてしまったようだ。 「図星か。まあいいよ、別に僕たちは君たちと表立って争うつもりはないんだ。」 「……どういうことだ?」 「僕らは各勢力に足を引っ張りあっててもらいたいんだ。どこかが覇権を握ったりしないならそれで十分さ。」 この男の言うことはどこまでが本当なのか……普段から胡散臭いゆえに却って読みづらい。 「というわけで君のボスには伝言を頼みたい。そっちの世界で暴れる分には特に干渉する気はないよ。でも――」 そこで言葉を区切ると、蔵之助の表情と口調が一変した。 「こっちの世界でなにかやばい事しようって言うなら容赦はしないよ。」 「……!」嘘でも脅しでもないとはっきりと分かった。この男は本気で言っている。 「まあ、君の所属だけ聞くのも不公平だよね?僕らの所属も教えておかなくちゃ。」 にこやかな笑顔に戻った蔵之助が言う。 「僕の所属は……」 「陸上自衛隊開発実験隊、鈴木主任、だろ?」バレットの言葉に 「……あー、そっちが引っ掛かったんだー。成る程、そのルートで探ってたんだ。」 蔵之助はさらに口角を上げる。 ……違ったのか?!自身の情報ルートを探るためにダミーの情報を掴まされたことにバレットは気付いた。 「習志野のサイバー防衛隊特別勤務班、そこが僕の本当の所属だ。」 「……C別!」実在したのか、とバレットは心の中で叫んだ。 存在の噂はあるが公式には否定されている、自衛隊の対デジモンスパイ組織。 通称C別とも呼ばれるが、反デジの連中からは死別という蔑称で呼ばれている。 「それで私はね……」 「待て!お前も同じ所属じゃないのか!?」 「警視庁公安部第13課の非正規エージェントなの。」 そこで茜はウインクをして見せる。 「実は同じ警視庁でしたー!ってことで、これからもよろしくね?」 公安13課といえば公安の対デジモン犯罪組織部隊だと聞く。通称は公安D課。 「……なぜ俺にそんなことをバラす?」 訝しげに問うバレットに蔵之助は明るい笑顔で答える。 「理由はふたつ。ひとつは、こちらもクラックチームとのパイプを確保したいってこと。」 言ってることが嘘でないなら筋は通っている。 「もうひとつは、本当のことを知ってると逆に身動きが取りづくなるから。何も知らない奴って無茶するじゃない?」 「じゃ、一通り話も終わったところで、君の怪我を治療しなきゃね。」 「ごめんね明智くん、痛かった?ウチの子たちまだ手加減とか出来なくて。」 いけしゃあしゃあと言う二人に怒りが収まらない。 「テクスチャ擬装と治癒促進と……アキレス腱斬っちゃったかー、じゃあアキレウスじゃなくてルーデルにして、と」 いくつもの見覚えのないプラグインを次々と展開実行していく蔵之助。 見たことは無いが、自身の身体に起きている効果と感触から中身はだいたい想像がつく。 他のプラグイン開発者とは発想の根本が違いすぎる。 おそらくこいつは本来全く別ジャンルの研究者なのだろう。 両手に刺さったクナイも抜かれる。痛みは全くない。出血もない。 先程までの痺れも無くなっている。普通に動ける。 「ああ、無理に解析しようとしちゃダメだよ?止まったら君動けなくなって最悪死ぬからね?」 「そうなったら私たちもすみれさんも困るから、死なないようにお願いね?」 夫婦揃ってこいつらは……立ち上がりながらも怒りのこもった視線で睨みつける。 「そんなに怒った顔しないでさー、ほらスマイルスマイル!」 陽気な笑顔の蔵之助に、ついにバレットは堪えきれなくなった。 「なんでアンタらは!こんな状況でも!そんなヘラヘラ笑ってるんだよ!敵同士だぞ!」 それを聞いて蔵之助と茜は互いを見て、それからバレットの方を向いた。 「やっぱり君、ハッキング能力やデジモン戦闘は優秀だけど、人間相手のスパイはまだまだ未熟だね。」 蔵之助にそう言われてバレットは鼻白んだ。 「なっ、何を……」 「笑顔はね、一番お手軽で効果の高い『仮面』なのよ。」 そういう茜の笑顔は、いつも電脳捜査課のオフィスで見るものとまるで変わりがない。 「仕事、今日中に終わってよかったね?」 「は?仕事……!」茜に言われてバレットは気づく 時計の針は22時を回ったところだ。着陸する飛行機の姿が見えなくなっている。 今日の昼間、自分が何気なく言った言葉を記憶してるのだ。 普通の人間が言うにはよく覚えてたな、ぐらいの感想しか出ない。 しかし目の前の人物の正体を知った今だと、その言葉に恐怖を感じる。 そう言えば見ているぞ、とも前に言われたか。 もはや先程までの怒りは海風とともに吹き飛んでいた。 3日後、新橋の電脳犯罪捜査課オフィス。 「こっんにっちわー!ランドのお土産持ってきましたー!あと何か新ネタ無い?」 昼下がりの静寂を破る茜の声。 「新ネタならありますよ、茜さん。」 狙撃銃のカタログを見ながら二尾橋が言う。 先日の一件で、セミオートの狙撃銃に興味が出てきたようだ。 「えっなになに?おしえておしえて?」 「ディンのやつがちょっと暴れそうになって大変だったんだ。」 二尾橋の背後からカタログを覗き込んでるベアモンが言った。 「あのデ・リーパーもどき、どうもデジモンイレイザー絡みっぽかったんや。」 噂話大好きおばちゃ……シンドゥーラモンが話し出す。 「ほいでな、それ知ったディンが『なぜ私を呼ばなかった!』ってブチギレてもうてな。」 「でもディンさんあの時単独潜入任務中だったんだから仕方なかったじゃないですか。」 「シンドゥーラモン、モトノ、それは話して大丈夫な事だったか?」 「ワン!」デジマルの散歩から帰ってきたアヌビモンが二人の噂話を咎める。 「あっそうだった!……すいません茜さん、このことは内緒で。」 この新人、シンドゥーラモンに染まってきてない?と茜は不安になった。 ま、こっちとしては助かるけど。 「だってデジモンイレイザーだぞ!」奥の部屋から長い銀髪の女性が出てきた。 先程からの話題の主、ディンである。 「デジモンイレイザーイレイザーたるこの私が出なくてどうする!」 「まあそうカリカリしないディンさんほらお土産。」 「しかしだなアカネ私はむぎゅ……甘いな。」 ランド土産のクランチチョコを口に突っ込まれ、そのまま食べる。 「もう一個くれ。」モグモグしながら左手を差し出す。 「どうぞー。他のみんなもどうぞー!」 そう言いながら茜はオフィス内にクランチチョコを配り始めた。 「あーけっちくん、調子はどう?」 作業する明智のデスクのすぐ横に来る茜。 一見いつもと変わらないように見える明智。 しかし今日は体調が優れないと言って外回りの色井とは別行動をしている。 代わりに筧が外回りに出たようだ。 「あまり良くはないですね。」無表情で言う明智。 実際彼は各種プラグインで無理やり動いている状態である。 もっとも、目の前の人物がその元凶なのだが。 ただ一緒に渡された塗り薬は非常によく効いている。 忍者由来の製薬会社の話は聞いたことがあったが、まさか本当に効くとは。 「ダメだよそんな顔してちゃー、ほらスマイルスマイル!」 誰のせいでこうなったと思ってるんだ、そう叫びたい衝動を明智はこらえる。 「お姉さんが笑顔のやり方、教えてあげよっか?」 そう言って笑う茜の顔を何秒か見た後、明智は視線をモニターに戻した。 「結構です。」 視線をそらした。 あのまま見続けたら、自分の中の何かがおしまいになりそうな気がしたのだ。 解説 城南島のキャンプ場 マジでうるさくて眠れないしマジで近くに店がないついでにお風呂もない でも着陸誘導灯が目の前にあって飛行機がいっぱい見られる 四輪駆動車 某Tヨタ製Mガクルーザー…に擬装した対デジモン戦対応ビークル 自衛隊対デジモン部隊仕様高機動車のプロトタイプ 7トン近い重量があるけどETCをクラックして普通のメGクルーザーのように装って高速料金をズルしている レイヴモン雑賀モード 実はトリッキーな相手が苦手 サクヤモン歩き巫女モードのほうも分身殺法が高威力の範囲攻撃に弱いという弱点があります 対戦カードが逆ならワンチャンあったのですが初見殺し押し付けるのが得意な忍者がそうしない訳もなく… 機関砲 ベルゼブモンに貸し出された武器のプロトタイプとでも言うべき試作品 威力は高いが調達性と運用性が致命的すぎたのでエリコン25ミリが正式採用されました 出せなかったけどガトリング砲ともども徹甲弾はレッドデジゾイド製、砲身内もデジゾイドコーティングされてます またホリィからクロンデジゾイドメタル買い付けなきゃ… サクヤモン歩き巫女モード 後日この姿を見たデジ対のドウモンさんは 「なんですかあれはあっちのほうがよっぽど破廉恥じゃないですかそれにあのデカパイはどういうことですか私よりも大きいじゃないですか聞いていますか蔵之助例のプラグイン早くアップデートしてください!」 とたいそうご立腹だったようです。