鉄塚クロウは自分が男であると自認している。それは性自認的なものであると同時にもっと精神的な、自分の中のコア的な物、根源的な魂的なものがそうであると。  だからこそ精神をすり減らしていた。 「クロウ……さん♡」  目の前に女がいる、体は細く小さく抱きしめれば簡単に折れてしまいそうな華奢な体はそれが確かに未発達の体躯であると理解できる。普段はその身を包んでいるはずの桃色の衣服を脱ぎ棄てて、人目にさらさない乳首も女性器も晒していた。  その顔にある双眸は少女のものではない。情欲に濡れた瞳がクロウを貫いている。そのアンバランスなあり方が魂をかき乱してくる。甘い言葉が心をくすぐり、出してはいけない手を出してしまいそうになる。揺れるその瞳、蕩けた口元、少女なのに女、淫猥に溶けた口が言葉を紡ぐ。 「クロウさんになら……いいですよ♡」 〇  クロウは手を繋いでいた、自分の手よりも小さく柔らかな手が自らの手を握りしめていた、不安なのか汗ばんでいる、それは庇護欲を掻き立てた。  少女の名は司という、青山司、クロウが因縁の相手を追う際に偶然保護した。それからリアルワールドに送り届けるために共に行動している。最初の頃はぎくしゃくとした間柄も気づけば打ち解けるに至っていた。  その司が最近おかしかった、目を合わせて話していたはずなのにいつの間にか視線をそらすようになった、のぞき込めば横を向くように逃げようとする。嫌われたのかとも思ったがそうではなかった、一度嫌われたと思い別れを告げたことがあったがそれにはひどく狼狽し、泣く寸前までいかれた、それからは分かれる様なことは言っていない。だからこそ困惑する、嫌われているのにどこか自分から離れようとするが、本当に分かれようとすればそれは嫌だという。一度パートナーデジモンのルドモンに尋ねたことがあった、馬鹿かお前と返された。腕っぷしに自身はあっても心の機微にはあまり自信がない、どうしたものかと思う。旅の最中に関係が悪化するのは良くないし、自分を嫌いでないなら送り届けると約束した以上それは果たさなければならない。 「あー……司、大丈夫か?」  口を開く。周囲を見た、森だった、少し前に出会ったデジモンに話を聞いた、この森を抜ければ街があるという。クロウだけならばそう言ったものは無視した、ある程度サバイバルにも自身があるし多少の野宿はなれたものだ、だが司はそうはいかない、ただでさえ体力に差がる以上それを考慮するのは当然だった。 「ごめんなさい……」  小さく謝るようにそう言われた、気にしなくていいと努めて明るくそう言う。事実気にしてなどいないし、ただ仇を追うなかで少しばかりの清涼剤とも言える。だから、気にしなくていいと。しかしそれを司は良く思っていない、小さくごめんなさい、ごめんなさいとだけつぶやいている。小さくて聞き取れない言葉もあったが、無理に聞こうとはしない。 「本当は……早く行きたい、ですよね」  司の言葉はどこか深く沈んでいる。 「いいってことよ!あー……なんだ、ほら」 「気の利いた言葉を言わなくてもいいと思うぞクロウ」 「っせ」  ルドモンの茶々を軽くいなし司に向き直る。 「さっきも言ったけどよ……俺ぁ気にしてないし、これも旅の醍醐味って奴だろ」 「でも……」 「でもも何もねーって!」  そう言って笑い、 「そうだ、そろそろ街に着く頃だしさ、そこに行ったらホテルでも取って休もうぜ、風呂もついてると思うし、飯だっていいもん出ると思う!少しゆっくりすれば……まぁ、もっとよく考えれるだろ!」 「……はい」  同意の言葉におうと返して前を見る。森はあと少しで抜けられる。 〇  司が上を見る。自分より背丈の高い少年だ、クロウ、と呼ばれるその少年に今は守られ、そしてついて言っている。なんの縁もない、ただであったというだけの義理で自らを守ってくれている少年はきっと性根がいい人なのだろう、ぶっきらぼうではあるが、しかし悪いとは思わない。  小さく、小さく心の中でクロウさん、とつぶやいた、その言葉が自らの中に溶けていく、最初は意識もしていなかった、しかし共に旅をする中で日に日にその存在が肥大していくように感じた、女とも言い切れないつぼみの中に、どうしようもなく弾けそうな情動を抱えた、こんな感覚を覚えるなど司自身が思ってもいなかった。  きっとクロウは司が望むままに庇護し、自らの目的を達しながら、リアルワールドに戻してくれる何らかの方法を探し出してくれるのだろう、それはとてもいいことのはずなのに怖気がした、嫌だと思った、そのぬくもりが自らを離れてどこかに行ってしまうのではないかという恐怖は少し考えただけでも絶望の淵に立たせてくるようだった。  もうまともにクロウの顔を見ることができていない、パートナーのデジモンたち、ソウルモンとバケモンに聞いたことがある。クロウには知られないように。彼らはもしかしたら、と言った。 「それ、恋かも!」 「えぇっ……あのぶっきらぼうに……?」  それは臓腑の、魂の中に堕ちてきたように思う。恋、こい、コイ、甘く、焼けつくすほどの衝動、痺れつくほどに甘美、背筋にほとばしる欲求、そのどれをとっても恋、と思った。  司は自分が恋をしていると感じている。  未熟でつぶれてしまいそうな本能の果実、太陽の照りにも劣らないその熱情が、急かすように何か行動をするように求めてきた、しかし、それを解決する手段を持ち合わせてはいない、焦りだけが募る。その焦りは心臓に作用し、血流を加速させて熱になる。体温が上がり、汗が出る。服が張り付いたようで気持ちが悪い。 「ん…どうした?」  その様子を見ていたクロウが話しかけてくる。自分のことを見射てくれているということに喜びを思えながらもまた迷惑をかけてしまっていることに申しなさを感じる、我慢しようと思った、しかし言わなければそれに気になるのがクロウと言う少年だ、余計に心労をかけないように素直に言う。 「その……少し暑くて……」 「え、あ、風邪!?」 「あ、違います……あ、歩いたから、体熱く……」 「あ……そう言う事ね」  腑に落ちたとばかりにクロウは頷き、ポケットを弄って紙切れを取り出した、たたまれていたそれを開いて、内容を見ている。 「えっと……こっちが上流」 「多分今ここにいるぞ」 「お、サンキュルドモン……ッとなると少し行けば川あるな」 「それに上流だからキレイなはずだぞ」 「だな」  よし、と、何かを決めたようにし、 「あー、近くに川あるからさ、街に入る前に少し汗落としていく?」  ソウルモンとバケモンが怒りをあらわにした、 「クロウっ!!馬鹿かっ!!」 「女の子の肌を見ようってか!!えーっ!!」  勿論それはクロウに聞こえていないが、それが抗議活動であるということだけはその様子で理解したらしい、クロウが落ち着くようにジェスチャーをしてから聞いてくる。 「えっと、何言ってるかわかる?」 「え、あ……」 「もしかして言えない系?」  ち、ちが、と、言葉に詰まらせてから、 「その……く、クロウさんは……」 「おう」 「水浴びしてる……私を見るつもりかって」 「……ああ!」  そう言えば、と叫んだ、 「ふ、普段は俺だけだから気づかなかった……」 「デリケートだぞクロウ」 「会ってるけど間違ってんぞ、デリカシーな……ま、ともかく」  クロウは少しだけバツを悪そうにしてから軽く謝り、 「ごめんな、男に見られるって嫌だよなぁ」 「……それは」  そんなことはなかった、他のどこかの男性ならともかく、クロウにならばと思った、もし、見られたときに自分が何を感じるだろう、多くの感情が迸り、消え、しかし一つだけ存在しない感情を思い浮かべる、嫌悪感、それだけは一切感じないことを理解した。  それだけではなかった、乳首が少し震えた、想像したからだ、つまり、服を脱ぎ、裸体を見せ、無防備な全てをゆだね、それがクロウに預けられ、その男性の欲求のままに貪ることを。  ぁ、と小さくつぶやいた。なんでこんなことを想像できたのだろう、それは性的な、まだ触れたことのない知識だ、そもそも触れる様な状況にあったことなんてないのに、精緻に想像できる、キスで口を割られて蹂躙され、ふくらみのない胸をこねくり回され、未熟な女性器を既に完成しているであろう男性器でを割入れられる、多いかぶられ、荒く息を吐き、誘うように甘い声を上げている自分を。  そんな想像をしているときっとクロウは一切想像もしていないのだろう、快活な声で告げてくる。 「悪ぃけど、街に着くまでもう少しだけ我慢してな」  はい、と言って、自分に背を向けたところで、声が出た、自分でもどうしてそんな言葉をかけたかはわからない、しかし、質問。 「クロウ……さん」 「ん?おお、どうした」 「えっと」  一息を溜めて声に、 「クロウさんは……私の裸、見たいですか?」  クロウが目の前でツバを噴き出した、思ってもいなかった質問が急に来たからか、驚きを隠せていない。 「なななななな、何言ってんのぉっ!?」 「狼狽えすぎだろクロウ」 「ルドモンっ…しゃーないんだよっ!」  そう言ってから軽く咳をして、 「えっと、なんでそんな?」 「あ、えっと、その、川で、水浴びだと脱がないとだけど……わ、私の裸……そんなに、いいわけじゃ」 「司」 「は……い」 「いいか、そりゃそうかもだけど、男なんて馬鹿だから間違って反応しちゃうかもしれないの、Ok?」 「え、はい」 「だから、あー、なんだ?そう言う変な質問はナシ!いいね?」 「わかりました」 「クロウ、言い方が変になってるぞ」 「うっせぇ!」  クロウがルドモンを軽く小突き、大股で歩を進めた、声をかけてくる。さあ、行くぞ、と。それに頷き司も歩き出す。  司は思った、否定はされなかった、と、それが意味するのは自分の体に反応されるだけの価値があるのだ、と。その事実が嬉しく、口が笑みに歪むことを抑えきれない、今、顔を見られていなくてよかったと思う。 〇 「バケモン、ソウルモン」 〇  デジモンたちが納める町は、思っている以上にファンシーではあったがそこにある宿は人間でも宿泊にたるものだった、大きめの部屋にシャワールームと洗面台があり、部屋にはベッドが2つ、一時を過ごすにはちょうどいい、食事も出るというか至れり尽くせりだ、ここで汗を流しゆっくりと睡眠をとれば旅と野宿で疲労した体にも体力が戻るだろう。  だろルドモン、と呟いたが反応は来ない、そう言えばソウルモンとバケモンに呼ばれて外に出ている、確かにデジモンにだって自由になると気が合ってもいいだろう。パートナーデジモンは自分と同一の存在ではない、あくまで独立した存在だ。はぁ、と、溜息を出す。力の抜けた吐息は悪い気がしない。と、音がした、扉が開く音は風呂場の方から、先にシャワーを浴びるといった司が上がったのだろう、おかえり、と声をかけようとして、口を開いて固まった。  バスタオル1枚をまいただけの司がそこに立っていた、熱い湯の後なのか頬が上気して色っぽいと不意に思ってしまった。 「つ、司っ!?」 「えっと、はい」 「そ、その恰好はっ!?」 「その……ちゃんと着替えますけど、その、すぐに交代した方がいいかなって」 「そ、そんなの大丈夫だから服、着ようね!?」 「はい」  そう言うと司が目の前でバスタオルを落とした、裸体がある、まだつぼみの祖の体はしかし、男のものとは違う、つい触れたくなる女の体。  しかしクロウはそれを必死に我慢し、いさめた。 「ば、馬鹿ッ、そ、そう言うのはっ」 「……見てもいいんですよ?」  その言葉と同時に、司が今まで見たこともない顔で笑みを浮かべていた、少女のそれではない、蠱惑的な笑み。 「か、からかうなっ…んじゃ交代なっ!」  すぐに出も視線を外すために大股で風呂場に向かった。 〇 「意識……してくれてる」  風呂場に向かったクロウを見送った司は1つの確信を得た、自分の裸はクロウの男性的な欲求を呼び起こすだけのものがあると。声を上げて笑みを浮かべていない自分を褒めたくなった。 「っ…あ……は♡」  自らの手で、自らを慰める。刺激は心地よさとは違う淫猥なもの、今だありえないはずの女が今開きかけている、知識ではない、ならばそれは本能だ、獣が繁殖のために備え付けている無意識に持ち得る性欲求が、少女には不釣り合いなほどに淫らな意識を植え付けた。 「クロウ……さん♡」  その言葉に声を返してくれるだろうか、自分が甘く吐く言葉と同じくらい甘い声で自らの名を呼んでくれるだろうか、きっと、きっと、と司は思う。なぜかは知らないが、きっと断られることがないと確信している。 〇 「お、落ち着け、俺」  シャワーを浴びながらクロウはつぶやいた、自分がおかしいことをクロウ自身が気づいている。 「くそっ……治まれって……」  股間で痛いほどに張れている怒張に対し恨み節をぶつけるように言った。  ふいに少女のものとは言え女の体を、しかも単なるAVなりエロ本なりでは見ることのない部分をモザイクなしで見てしまったことが男性的な本能を刺激したらしい、それは今だ庇護されるべき相手にすら反応していた。  普段の自分と違う、とクロウは思った、いくらなんでも流石にこの程度で反応なんてしないはずだ、しかしそうなった。自問自答し結論がつく。  自分一人であれば(ルドモンはノーカウントとして)たまったタイミングで適当に処理すればそれでよかった、しかし司といてそれができる状況はそうそうない、年下とは言え女が見ている中では当然無理だし、寝静まったころにと思っても疲れもたまれば性的欲求以上の睡眠欲が性欲を溜めたままに眠りに堕とす、当然起きれば多少は抜けていても本質的な解決になりえない。  その溜まりに溜まった欲求がほんの無意識に刺激をされた、普通ならば欲情など起きることもあり得ない相手に、情けないと思う。恥ずべきことだ、庇護するとした相手にあまつさえ劣情を抱いた己の不徳にどこまでも恥じ入る。深呼吸をした、落ち着け、と自らに語りかけた、これは偶然だ、たまたま起きた事故のようなもの、ならば湯で汗を流し、落ち着けば何も問題はない。そう思うと心が楽になる。そうだ、意識しすぎていた、平常心で、それだけでいい。 「うしっ、上るか」  普段ならば下半身にパンツを纏ってさっさと上るだろうが、今は相手がいる、きっちりと服を着こんでから、扉を開く。 「おーう、俺も上がったぜ、飯にしよ飯……ぃ」  唖然とした、女がいる、裸の女、司の裸。 「クロウ……さん♡」  目の前に女がいる、体は細く小さく抱きしめれば簡単に折れてしまいそうな華奢な体はそれが確かに未発達の体躯であると理解できる。普段はその身を包んでいるはずの桃色の衣服を脱ぎ棄てて、人目にさらさない乳首も女性器も晒していた。  その顔にある双眸は少女のものではない。情欲に濡れた瞳がクロウを貫いている。そのアンバランスなあり方が魂をかき乱してくる。甘い言葉が心をくすぐり、出してはいけない手を出してしまいそうになる。揺れるその瞳、蕩けた口元、少女なのに女、淫猥に溶けた口が言葉を紡ぐ。 「クロウさんになら……いいですよ♡」  息をのんだ、頭蓋の中に直接手を入れられかき乱される感覚。 「見て、ください……大きくはないですけど、きっと、気持ちいい、ですよ」  たどたどしく、しかし欲にまみれた言葉が1つ1つ紡がれる。 「きて」  誘う言葉、肉の花が虫を呼ぶ。理性が警鐘している、本能が歩を進めた、近づく、普段の自分ではないとわかっている、しかしはち切れそうな肉欲がすべての順位を無視して性欲を頂点に位置付け行動の原理と舌、飢餓の間際なら食欲が、高度もできないほどにつかれているならば睡眠欲が、しかしどちらでもないならば性欲が、あふれる。  手を伸ばした、諌めるため、という名目、横に広がったバスタオルで裸体を隠すという目的のはずで。  手首を取られ、胸に触らせられる。柔らかく、しかしほんの小さな硬さがある。それが乳首であると理解するのに時間はかからない、治めたはずの男性器がまた反応した、混乱が起きる、クロウが自分自身何を求めているのかわからなくなっている。言葉が来る、司の声がその混乱の隙間を縫うように入り込む。 「いいんですよ、今は私達だけですから」 「普段貰ってばかりで何も出来てない御礼ですから」 「体しか使えるものがないですから」 「男の人が大変だって見ればわかりますから」  言い訳の種を丁寧に潰すようにクロウの理性を削り、砕き、磨り潰す、最後に残るのは本能だけだ。 「ねぇ、クロウさん」  甘美な声、あらがえない、 「私の体で……気持ちよくなりましょう……♡」  クロウは捕食された。