その時までの僕のクラスでの立ち位置は「話しかけても面白みのない奴」「冗談を冗談で済ませられない奴」ってのばっかだったはずだ。 窓際の一番後ろ。アニメみたいな席配置は隣に転校生を入れるには丁度いい場所でもあった。 ブロンドの髪をした日本では珍しい白人の少女。名前は忍田スーザン天音(珍しくて覚えやすいから、スーザンと皆が呼び始めた) そんな好奇心を湧きたてる要素の塊であるスーザンは囲まれて困ってたのか、無理やりひねり出したような言葉をこっちに飛ばした。 「貴方はニンジャデス!?」 突拍子もないフリに思わず突っ込んだ。 「どこが忍者に見えるんだよっ」「…存在がデスか?」「そんなに怖かった!?」 周りが笑いだした。 その日以来、転校生のスーザンの漫才に付き合ってたら友達も増えてきたりした。 中二の終業式には「この漫才コンビも解散か」とクラスの連中に言われて。僕もそうなるだろうかと思ってた。 …春休みに手に入れた力が僕らを別の形でもつなげるなんて。 「ナヤム〜!また一緒になれましたネ!これこそニンジャの力デス?」 「女子と一緒になるためにそこまでしねえって!」 新クラスの連中にもまあまあ話は聞こえてたらしく『アレが噂の…』とか言いながらこっちを見ている。 「今日はデスね…」「ん、ちょっと待ってくんない?調べる事があるから」 僕はデジエレメンタルを手に入れて交通事故を防いだ時に、人助けが凄い気持ちいい事に気が付いた。 そしてフェアリモンとして、こっちの無理のない範囲でデジモンと戦ったりしようと決めた。 「何調べてるんデスか?」スーザンがスマホを覗き込んでくる。ちょうど僕はフェアリモンのエゴサをして、反省点を探そうとしていた。 …まあ傍目からしたらフェアリモンは痴女って言われても文句は言えんわけで。 「…ナヤムは、こういうのが好きなのですか?」 「お、おい!いきなり覗き込むなよ!」 驚いた僕は画面をオフにしてスーザンにツッコミを入れる。 「友達よりも大事な事デスか?…えっち」最後もいつもの声だと今年一年が終わってたかもしれない。 「あ、ああ!知り合いがフェアリモンに助けられたらしくてさ…」苦し紛れの言い訳を並べてるとチャイムが鳴って会話が中断された。その日のスーザンはいつになく機嫌が悪かった。 スーザンはナヤムが自分との会話よりも、フェアリモンという露出の高い女性の動画を見る事を優先したのに憤慨していた。 (男子は性欲が強いとは聞きましたが…目の前の人間よりも優先したナヤムはなんなのでしょうか?) 途中まででも一緒に帰ろうと誘ってみたが、それも断られた。 前まで誘ってくれていた友達は他の友達を見つけたようで、割って入る気分にもなれず昔のように一人で帰る事になった。 「コ…モニタモンいますか?」 スーザンは自身のパートナーデジモンであるモニタモンを呼んだ。 春休み中にデジタルワールドで出会った頃はコウガモンという成熟期のデジモンだったが、スーザンを早く帰らせる為に脱走した里に戻って里長の忠告を無視して、里に隠されていたリアルワールドへのゲートを共にくぐった。 くぐった結果、コウガモンはデータロスを起こして退化。出来る忍者を装えなくなったデジモンに自分の秘密も告白して喧嘩したが、今はキチンと完全体になって成長した姿でデジタルワールドに戻り、里長に謝ろうと二人で目標を決めていた。 「なんでござるかー?今日の修行も効果は薄かったでござる…」 モニタモンは天井からすたっと地上に降りてくる。 「そのですね…」スーザンは相談を始めた。 新学期に戻ってこれたはいいが、一番の友達だったナヤムがそっけなくなってしまった事。 フェアリモンという人間の女性のようなデジモン(モニタモンから間違いなくデジモンと断言された)ばっか考えてるみたいという事。 ナヤムとまた仲良くなるのはどうしたらいいかという事。 「ううむ…難題でござるが…提案として…」 「…なるほど、わかりましたモニタモン。全部かたっぱしから試します…!」 作戦1:化粧 「そばかす隠しも下手になって…昔のメイク術を忘れてます…校則守ったノーメイクでいくしかないです…」 失敗 作戦2:色仕掛け 朝、登校したスーザンはナヤムの席に進みながら、制服の胸元をすこし緩めた。だがナヤムは前以上に目を見て話す事を徹底していた。 (そんなに胸を見ないのなら…はしたないけど…!) さりげなくすこしだけナヤムの手に胸をつつかせてみた。…が。 「おいおい、スーザンボタン締め忘れてんぞ。こっちがやるからこっち来い」 ナヤムは少し反応したが、胸元を見るやボタンを締めてきた。 スーザンは構ってもらえた事だけは嬉しくて、それを受け入れたがそれ以上何もなかった。 …失敗 作戦3:フェアリモンの話題を出す 「ナヤムが興味持ってるフェアリモンについて調べましたヨ!」 食事中に話題を切り出す。スーザンはわからなかったがナヤムは聞きながら緊張をしていた。 「そこでデスネ!正体とか知りたくないデスカ!?」 ナヤムは飲んでる最中の味噌汁をむせて、もはや話をしている場合ではなくなった。 次に話題を出すと露骨に話題をそらしたり会話を切るようになった。 大失敗 他にも思いついた事は試したが、二年の頃のように戻る事は不可能だった。 今日もナヤムから一緒に帰る事を断られさすがに不憫に思ってくれたのか、別のクラスに行った友達と一緒に帰る事にした。 自分の悩みを全部明かす事は出来なかった。 「フェアリモンはナヤムにとってのなんなのですか…」 自宅に帰ったスーザンは、すべてを明かせる唯一の存在のモニタモンに愚痴た。 「ヒーローにあこがれてるのでござろうか…」「ナヤムのお子様ぁ……」 スーザンは嘆いてからモニタモンの言葉が引っかかった。ヒーロー? 「…フェアリモンへのあこがれを消せば、戻ってきますかね?」「スーザン殿?」 「モニタモン、こういう事出来ますか?」 その日、まだ恋を知らない少女の嫉妬から「フェアリモン負けろch」が産声を上げたのだった。