私、浅見輝彦は学校新聞のライターである。 元々は学内の小さな事しか取り上げていなかったいかにも凡庸な新聞ではあったが、気まぐれに私が巻き込まれた事件や学校区域内の噂や関して記事にしたところ、貼り出した新聞を立ち止まって読む子達が増えていった。 これに気を良くした結果ここ最近は休日にまでネタを探し始めたのは若さ故の向こう見ずと言ったところか、相棒のマメモンなどは「休みの日にまで学校まで出張るとか正気かコラァ」などと不満げではあるが私のボディーガードである以上飲み込んでもらう他ないだろう。 父は私ではなく光彦に似たななどと笑うものだからこれは将来刑事になった際の捜査の練習だなどと誤魔化したのはつい昨日の話である。 今日も今日とて取材と称し学校区域内の噂、「黒マントの怪物」の調査を行なっていた矢先、住宅街の中で何やら人だかりがあった。野次馬根性で覗きに行ったところ、どうやら強盗事件があったと近所の人達らしき方々から聞こえてきた。事件現場を見ると民家の壁が破壊されており、外からでも中が確認できるほど大きな穴であった。しばらく現場を見ていると二人の刑事達と目があった。塙刑事と土屋刑事、彼らは誘拐事件から始まり何件かの事件をともにした顔見知りだ。土屋刑事の方は相変わらず手持ちのタブレットで何かをヤホーで検索しているようだった。 「やあ浅見君、お久しぶりです。」 塙刑事はこちらに気付いたようだ、挨拶をしてきた。相変わらず表情筋が死んでいるし心なしか棒読みな口調である。 ─お久しぶりです。ここで一体どんな事件があったんです?─ 「いやぁ…今回の事件は君もあんまり関わらない方がいいよ。公にはなってないけどおそらくデジモン案件なんだ。」 デジモン案件:デジモン自体の存在が世間一般に公になったのはここつい最近の話であり、人間社会においてまだこの新しき隣人を受け入れるための社会制度など準備できていないのが現状である。そのため現状同じくデジモンを戦力として保有する組織、警察庁及びデジタル庁のデジタルモンスター事件専門機関でしか対応できないデジモンによる犯罪を、現場の一般刑事達はデジモン案件と呼ぶ。 ─そう断言できるほどの理由が?─ 「見た通りだよ。家を吹き飛ばすほどの破壊が出来るのなんてデジモンしかいないんじゃないかな…それから現場から被害者が使用してたUSBが持ち出されているみたいなんだ。」 USB?おかしな話だ。これだけ大きな騒ぎを起こしておいて狙いはUSB一つとは。 「被害者はデジモン案件を追っていたみたいでね…同僚には大きな組織犯罪の証拠を掴んだと話していたそうなんだ。おそらくその証拠がUSBに入っていたんじゃないかな。」 ─合点がいきました。ずいぶんスケールの大きい話になってきましたね。─ 「そういうことだからデジモンが関わっている以上本当に危ない。デジ対が出てくるだろうから今回ばかりは君もマメモンと一緒に大人しくしておいてくれ。」 実のところ、過去私が関わった事件に関しては私も彼らも父には話していない。彼らとしても大きな問題になるのを避けたいのだろうし私も父に怒られるのが嫌だったからだ。デジモン相手では刑事が何人いても私を守れないと考えたのだろうと判断すると、私は素直に忠告を聞いたふりをして礼を言い現場を離れた。 ─マメモン、この事件、ちょっとおかしいと思いませんか?─ 「何がだコラァ!前提条件を話せ前提条件を!」 ─もし刑事さん達の言うとおり襲撃と記事データ盗難がデジモンの仕業だと言うなら、わざわざデータの物理媒体を持っていく必要がないんです。君達は直接データをデリート出来ますし、証拠を握りつぶしたいだけならUSBなんて壊して仕舞えばいいんですから。─ 「じゃあ何か?犯人はデジモンじゃねえって言いてえのか?」 ─それもおかしいですよね、人間だと爆薬や重機でも持ち込めば出来るでしょうが聞き込みでそんな情報は出て来なかったらしいですし…ちょっと興味が湧いてきませんか?─ 「…お前マジで良い加減にしろよコルルァ!?」 ─でもワクワクしませんか?マメモン好きでしょう刑事ドラマ、ちょっと調べるだけですから。─ 「…今日だけ、日が落ちるまでだぞコラァ…それから、俺から離れるんじゃねえ。」 この時の私は本当に軽い気持ちだったのだ、ただ少しこの奇妙な事件に興味を惹かれていた。この事件がこれから先起こるバイオデジモンによる連続襲撃事件、そしてその裏で蠢くバンチョーデジモン殲滅計画の幕開けに過ぎない事を、私とマメモンは知る由もなかった。 MAKUAKE 完