「おっかしいなあ…こんなとこに街なんてなかったと思うんだけどなあ」 ストレジシティまであと少しというところであったが、その道中にヴォ―ボモンに見覚えのない街があった。 「道間違えたんじゃないの?」 「んん…そんなはずないんだけどな…」 目の前の街は、近代的なビルなどがある都市のようであった。 「光、勇太。そらからみてきたよ。とおることはできるみたい。」 デビドラモンから空の状況を確認したところ、蜘蛛の巣状にビルが配置されているということだった。 「デジタルワールドだと偶にいつの間にか建物毎出来る事はあるけど街事ってのはあんまないかな。」 「いいんじゃない?それに街ならなにか便利な物あるかもしれないしね。行くわよ日野。」 「あっちょっと待ってよ鬼塚さん。」 光と勇太の後を追って、デビドラモンとヴォ―ボモンが後を追おうとする。 「あれ?」 だが、身体が上手く動かない。何かに絡め取られているようだ。 「勇太!光!!」 先を行く光と勇太に呼びかけても聞こえていないようだった。 いつの間に降りだした雨に霧が出てくる。ふたりの姿が霧の中に消えていった。 「ヴォ―ボモン!デビドラモン!」 気がついたら時には勇太達はヴォーボモンを見失っていた。 霧のせいだろうと思ったがそれじゃあどこかで声がするはずだが、どこからもしない。 デビドラモンの雄叫びなら嫌でも耳につくはずなのに、距離もそこまで遠くに行けるはずないのにどこからも聞こえない。 これがただのデジタルワールド特有の気象であってほしいが… 「これ以上俺達もはぐれちゃまずいし手繋いで行こ」 勇太は光の手を取って歩き出す 「…前もそうだったけどあんたって女子の手繋ぐ事に抵抗ないのね」 「妹いるし、そんな事言ってる場合じゃないだろ」 「…そうね」 嘘である。疲れてる時光がわがままを言って作業的に繋ぐ時はめんどくささが勝って何も感じないがこう意識させられると顔が熱くなって身体がムズムズする。 雨が降りはずめて良かった多分手汗が出ている。気づかれたらなにを言われるか分かったもんじゃない。 「雨も本降りになってきたし霧も濃くなってきた…鬼塚さんビルで雨宿りしようかヴォーボモン達も追ってくるなら待ってたほうがいいかもしれないし…」 勇太と光は近くのビルに入ったエントランスは最上階まで筒抜けで天井はガラス張りになっている。 エントラスの側面には至る所にモニターが設置されており風景映像と支離滅裂な文章がテロップとして流れている。 「結構濡れちゃってるな…鬼塚さんだいじょ…っ」 「!…見るんじゃないわよエロ野郎!最悪!きっしょ!!?」 「ち…ちがうってっ」 雨のせいで光が着ているブラウスが透けて奥の黒色の下着が透けて見えてしまった。更に濡れて肌に密着する事で光の薄い女性的な身体が浮き彫りになっていた。 慌てて勇太は顔を逸らした。 「これ使って…」 せめてものと思い上着を渡す。 「ん…」 先程の勢いが嘘のようにしおらしく光は上着を 受け取った。 「俺拭けるものとかないか見てくる!」 逃げるように勇太はその場を後にした、未知の感覚だった。なんだか身体…特に下半身が今まで感じたことのない言語化できない感覚で混乱した。 しばらく周りの部屋等を見て周り冷静になってくると光の態度に何か違和感を覚えた。 いつもなら一度怒り出すと暫くは続くのにそれがなかったからだ。声のトーンもどこか恥ずかしいと言うよりも落ち込んでいるようなものに思えた。 「…」 光は勇太が去った後上着を被り体育座りになり身体を抱えるようにうずくまった。 自分に優しくしてくれる“男”自分の味方である勇太にも男がある事を実感してしまった。 昔の思い出したくない記憶がフラッシュバックして肩を掻きむしる。 先程も怒れなかったのじゃない一度竦んでしまったら声が出なくなっていた。 上着から勇太の匂いがするのを光は感じた。 そして自分にも忌まわしい“女”がある事を実感してしまう。 光の周りに糸のようなものが纏わりついていた。光はまだその事に気づいていない。 霧の中には得体の知れないものが潜んでいた。 「ある程度揃ったかな」 勇太は上階の部屋を周りタオルや食料などを手に入れていた。 最初はオフィスビルかと思ったが、デジタルワールドでは当たり前なのかどうにもチグハグであるホテルの一室もあるかと思えばまるで工場のような作業場や部屋にお堂、はたまた庭園のように水が廊下にまで流れ出ている部屋もある。 だが共通点もあった黒色で毛に生えた人面の蜘蛛の絵画が飾れていた。 勇太にはそれが人を小馬鹿にした嫌悪感のあるものに思えた。 そしてもうひとつの共通点は蜘蛛の巣が多いということであった。無人だから当たり前のように思えるがエントランスや廊下にはないし何よりデジタルワールドではデジモン以外では元の世界にいる生き物を見た記憶があまりない。 いたとしても魚くらいであったろう。 部屋に備え付けのラジオが急にノイズ音と共に鳴り出した。勇太はびくりと身体を震わせた。 「ゆガッ…ゆう…ガッザザ一緒の…ガッザザ女ガッザザ危ないガッザザザ」 「!」 女、光の事かラジオはまた無音になっていた。誰かいるのか。それよりもと勇太は元のエントランスに戻るため駆け出していた。 エントランスに戻るにつれ先程にはなかった蜘蛛の巣が増えている。 光の姿が見える。そこには人の上半身と蜘蛛の下半身を持った生物昔漫画で見たアラクネの生物がいた。 「まずい…デジモンか」 光はアラクネのようなデジモンの糸に絡み取られているようだった。 ヴォーボモン達もいない状況で…俺だけでデジモンを? なんとかするしかない。するんだ! 一撃離脱とりあえずなんとか道を作って鬼塚さんを連れて逃げないと… さっき工場とかであったもので… 頭上からの奇襲…丁度鬼塚さん達の頭上から飛び降りれる。硬さそうなの結局ビンしかなかったけど… 「おるああ!!」 勇太は頭上の階からデジモンの頭部目掛けて飛び降りビンを振り下ろす。 綺麗に頭部を殴る事ができた。上手く着地はできず足を捻ってしまった。 「うんぐっ…!」 痛みで涙が出るがそれどころじゃない。デジモンの方を見上げると驚いたようだが特にダメージはないようだった。 ここまで想定通りだった。次に厨房のところにあった混ぜるな危険と書いてあった洗剤を詰めたビンをそれぞれデジモンの顔面目掛けて投げつける。 「がああああなんだきのガキ!?」 化合物にガスはデジモンにも効いたようで顔を覆うように苦しんでいる。今のうちに…! 同じくキッチンから拝借した包丁で糸を切る。 「よかった。デジモンの糸でも切れないわけじゃなかった!鬼塚さんさあ逃げよう!」 どこか虚な目をしている光の手を引き逃げようとする。 挫いたせいか上手く走ろどころか歩けない。 なんとか距離を取ろうとしたがすぐにデジモンは回復しこちらに向かって来ようとした。 「そのメスガキを渡しなクソガキ!!」 既に回復したのかデジモンがこちらに向かってくる。 「最終手段!」 勇太はライターをデジモンに向けて投げる。 「こんなも…ぎゃあああ!!」 火は勢いよくデジモンの身体を燃え広がった。 最初のビンに工場の部屋にあった稼働用の燃料。恐らくであったがガソリンで合ってたようだ。 化合物で気化する時間も上手く稼げたみたいだ流石にこれで大丈夫だろうと光の手を引いて逃げようとしたが… 周りに無数の蜘蛛に人間の顔と手が生えた恐らくデジモンだろうものが無数に勇太達を囲んでいた。 「こんなもんで本気で逃げられると思ってたのかい?」 アラクネのデジモン既に炎を消していた。よくよく考えればヴォーボモンのプチフレイムですら効かないデジモンもいるのだこうなってもおかしくはない。 「よくもやってくれたねぇクソガキ。このアルケニモンの美貌に…レディの顔に傷つけるとは高くつくよ。さぁ光。ママを虐める悪い男を捕まえておくれ。」 「ママ?」 勇太がアルケニモンの発言に疑問を持った間髪入れず光から思い切り殴られた。」 「なぁ!?」 勇太は予想外の状況に受け身も取れず顔から倒れ込んでしまう。 口と鼻が切れ血が出る。頭も打ってしまい。頭痛と吐き気がする。思考がまとまらずそのまま動く事ができなかった。 倒れ込んだ勇太の顔目掛け光は蹴りを入れた。 「んぶ!?」 咳き込み涙が出てくる。あまりの気持ち悪さに勇太はそのまま嘔吐した。 「げはっ!?おえっ!?」 「汚いガキねえ品性のかけらもない恥ずかしくないのかしら。」 「お前が鬼塚さんの母親ってどういう事だ」 「私の糸と霧でこの子の心を見たのよ。そしたらママぁママぁ助けて痛いよなんでそっぽ向くのって。だから私がママになってあげたのよ。私はみんなのママだからねぇ。」 「みんな…」 勇太は興味があった訳ではないが思考の纏まりが取れず反芻して言葉を返していた。 「そうよ。周りのドクグモンとコドクグモンは私が産んだ子よ。だから私がみんなのママ。この街アルケニモンの街の支配者なの。」 「なんで俺達を…この霧も…」 「光が持ってるデジヴァイスが欲しいのよ。それでお招きしたってわけ。」 「なんでデジヴァイスを…」 思考が纏まり取り戻してきた。 「こいつがあれば進化を促せるんでしょ?だからこいつを使ってこの子達を立派な。そうね究極体に進化させるのよ。子供の成長は親の喜びで …っチッ。テメエのカスみたいな悪あがきで口傷ついちゃってるじゃない。おいそこのこっち来い。」 アルケニモンの指示でコドクグモンがひとり寄ってくる。 「チッほんとにテメエはすっとろいわね。」 アルケニモンは寄ってきたコドクグモンを殴り捕まえると。 「なっ!?お前何してる!?」 コドクグモンを喰った。すると見る見る顔の傷が癒えていった。 「お前そいつは自分の子供だって!?何してるんだよ!?」 勇太の怒号にアルケニモンは煽る為の演技とは思えない本当の疑問の表情浮かべる。 「あっ?何言ってるのよこいつらは私の子供よなら私がこいつの所有者なんだから何したって勝手でしょ?ねえ私の子供達」 「そうだね」「ママの言う事が正しいよ」「ママの言うことが絶対」 コドクグモンとドクグモンの言葉に光の身体がピクリと動いた。 「そんな訳ないだろ!子供は親のおもちゃなんかじゃない!自分勝手な事言うなよ!」 「うっさいわね。何言ってのよ頭打っておかしくなったんじゃないの。ねぇ光。ママのためにこいつ殺しちゃってくれない?」 アルケニモンは光の頬をねっとりと撫でる。 「…せっ…その汚え手を離せよ!」 光の目に光が戻りアルケニモンの手を振り払った。 「ベラベラとキショい事言いやがって!」 「な!?どうやって!?」 光のデジヴァイスが輝いている。 「な!?この光!?ああああああああ!!!???」 デジヴァイスの輝きにアルケニモン達は耐えられず退けぞって離れて行く。 そして、デジヴァイスの輝きは勇太の怪我を治して行く。完治までいかないまでも動ける程度には怪我がなっていく。 「日野行くよ!」 「させるか!」 アルケニモンの攻撃に光のデジヴァイスが落ちてしまう。 「しまった!」 「そんなもの死ぬよりマシでしょ!」 デジヴァイスに意識を取られる勇太を無理やり光が引っ張ってビルから脱出する。 「殺しな!」 コドクグモン達が勇太達を追いかける。 外に出るとデジヴァイスの輝きが伸びて街の外に伸びている。そこからデビドラモンの雄叫びが聞こえた。 「デジヴァイスが霧を祓ってるのか?」 だが、デジヴァイスの輝きはすぐに細くなり消えてしまった。 「いいから逃げよ!」 勇太達の後をコドクグモン達が追ってくる。 このままだと追いつかれてしまう。 「こっち!」 目の前の路地で誰かが手招きしている。 背に腹はかえられず仕方なく勇太達はその手招きの方へ行く。 息を潜めどうやらコドクグモン達を巻く事ができたみたいだった。 「助かったよ。えっと君は?」 暗がりで見えない姿を目を凝らして見る。 そこにいたのはまた別のコドクグモンだった。 「なっ!?」 勇太は反射的に光を庇う体勢を取る。 「大丈夫。僕は味方だよ。僕はママに捨てられた失敗作だよ…君達をほっとけなくて。こっちいつも下水道に潜んでるんだ。」 「あ…ありがとう」 「…」 コドクグモンの後に続いて進んでいく。 下水道と聞いていたが水には魚や水草が生えていて澄んでおり下水道とはかけ離れていた。 「ここだよ。僕達が普段いるところは。」 少し広まったところに出た。そこには噴水と複数にモニターそして、コドクグモン。プヨモン。モチモンが数人いた。 モニターには外の様子が天気予報のように映し出されている。テロップはやはり支離滅裂なものだった。 「これで外の様子が分かったんだ。」 「うん。それでママに酷い目に遭わされてるの見てほっとけなくて。」 「ラジオで声をかけてくれたのも君達?」 「?それは知らないよ?」 「そっか…えっとその…失敗作って…」 「…ママは僕達を産んで育てて進化できる優秀な…ママの理想の子供は愛されるけど僕達みたいに上手く進化できない子供はママに食べられるか殺される…だから僕達はなんとか逃げ出してここに逃げたんだ。」 「…私達を助けたのはそれだけじゃないでしょ。」 今まで押し黙っていた光が口を開けた。 「…」 「私達に…あんた達のママを殺して欲しいんでしょ…」 「鬼塚さん?」 「自分達じゃ殺せないから…私達に変わりに…」 「…ここだと碌に食べ物も確保できない…それに僕達は自由になりたい…ママにアルケニモンにビクビク怯えて生きてくのなんて嫌なんだ!」 「「うん。うん。」」 「コドクグモン…」 「…気に食わないのよ。嫌よ。」 「ちょ…鬼塚さん?」 「日野は黙ってて!自分達は何もしないで逃げてるだけで!怖い思いもしないで自由になろうっての!そんな都合がいい話…ある訳ないじゃない!」 プヨモン達幼年期のデジモンは涙ぐんでしまっている。 勇太はどうしたものかとオロオロしてしまっている。 「…分かるわよ。霧のせいなのか見えるのよ…アルケニモンが私のほんとのママに…私もずっと逃げてた…誰かに助けて貰いたくて、そのくせひとも信じられないで蹲って…でも、駄目なのよ何かを変えたいなら…どっかの馬鹿みたいに…いつかは立ち向かわないと何も掴めないのよ。私は…この馬鹿みたいに勇気を出してここから出たい…その先に何もなくても。だから闘う自分のために…あんた達はどうなの?」 俯いて震えながら光は言う。相当の勇気を持って宣言したのだろう。 「…一晩考えさせて。みんなと相談する。その間休んでて…」 「分かった…」 広場の傍で勇太と光は無言で座っていた。 光は体育座りで蹲っている。 勇太は声を掛けたがったが、声を掛ける事が出来なかった。自分は…両親共々に愛され育った自分には触れてはいけないものに思えた。 「…」 「…いつもみたいに怒らないんだねコドクグモンに酷い事言ったのに…」 「…言える訳ないだろ。鬼塚さんもあんな…」 「そっか……日野はクラスでも私の家族の事聞いたりからかわないでくれたよね。」 やっぱり覚えていて… 「俺だけじゃないよ…でも鬼塚さんが悲しい顔してたから…」 「ママ…私のママもねほんとのパパが生きてた時は優しかったんだ…」 「…」 勇太は黙ってその話を聞く。 「パパが事故で死んで…それから全部おかしくなった…どんどん家が汚くなっておばあちゃんやジジイが心配に見に来ても大丈夫って…役所のひとも来て…ママはよく夜出るようになってあいつ…が…きた…。」 光の声が小さくなる。 「自分がパパだよ…って…ママも最初は元気になったけど…あいつママも…私も…殴って…暴れて…あの時あいつ酔ってて…ママはずっと俯いてて…怖い…のしかかってきて…パンツ脱がせて無理やり…何も分からないのに…痛い…怖いのに…助けてって言ってもママはこっち向いてくれなくて…その後も…ママおかしくなって…お前が上手くできないからって…お前が駄目だからこんな私が不幸なんだって…」 「…」 「おばあちゃんとジジイの家に行った時もずっとごめん。ごめん。って…優しくしてくれたけど…結局私は信じられなかった…いつかママみたいになって…私が駄目な子だから…結局家出して…ひとりで生きてくんだって…結局あんだけ嫌だった事…やって…それに慣れて…クラスの奴が言ってた事なんて全部本当よ…淫売…汚らしい子供…全部…全部…いつか逃げてれば全部嘘になるんじゃないかって。」 「う…ぐす…ぐ」 「?…え…なんであんたが泣いてんのよ」 「分かんない…分かんないよ…俺…ガキだし今までそんな事なかったから…でも辛いのは…痛い事は分かったから…」 「ば…馬鹿ぅ…ぐ…馬鹿なんじゃないの私の為になんか泣いて…」 下水道に2人の子供の泣き声が響いた。何かをここに捨てていけるのではないかと思えるような。 「私…あんたの事嫌いだったわ。」 「いやまぁ…そっか…そうか…」 2人ともひとしきり泣いて落ち着いた光は続けた。 「いっつも前向きで、挫けたと思ったらまた立ち上がって…私デビドラモン見た時怖いってよりも嫌だと思ったの…パートナーとデジモンって心が繋がるみたいで…自分の心がおぞましい何かに見えて…でもデビドラモンもそれだけじゃないって…あんたとヴォーボモンと一緒にいれたら分かって…私も変われたら…怖いけど…おばあちゃん達に会えたらその時は…だから…ここで決着をつけたい…今までに…マイナスからゼロに歩いて行きたいの…」 「僕達も…そうだ」 「コドクグモン?」 「聞き見立てちゃってごめん。でも鬼塚さんのいう通りだ!本当に自由になりたいなら自分でどんな形でも決着をつけないといけないんだって!やる!僕達も…僕達が戦う!」 「…分かったわ。私に考えがあるの…日野はここにいてあんたは無関係だし出来ることもないから私達だけで。」 「無関係じゃないよ。せめて…一緒にいさせてくれない?」 「…あんたが一番危ない目に遭うのよ…」 「それでもせめて一緒にいるくらいはさせてほしい。」 「…好きにすれば」 「なんで!使えないのよクソクソ!あぁ!!!」 街中央のビルにアルケニモンはいた。 デジヴァイスをなんとか使おうとするが何も反応しない。 アルケニモンは周りのドクグモンに当たり散らかしている。 「あんたなんかが使える訳ないでしょ!」 光と勇太はアルケニモンの目の前に現れた。 「あらぁ丁度いいところに来たわね光とクソガキ。このデジヴァイス全く使えないのよ。なんとかしてくれなぁい?」 「そのデジヴァイスは私と日野がいないと動かないのよ!そんな事も分からないで使おうとした訳!?脳みそまで蜘蛛の巣みたいにスカスカね!」 怒声を出しながらも光の手が震えている。 やはり霧の影響かまだ自分の母親にアルケニモンが見えるのだろう。 「なら、また蜘蛛の糸で絡めとればいいだけじゃない。どっちがスカスカ脳みそかしらね!」 アルケニモンが糸が光達を絡み取る。 「…日…勇太。手握ってて。」 「分かった。光。」 勇太は光の手を握った。 アルケニモンが光達を絡め取りそのまま手繰り寄せた。 「さて、じゃあこれを使って私の可愛い子供達を進化させてね」 「…!っ」 怖いのだろう顔が強張っている。 「くらえ!」 手に持っていたくすねた発煙筒をアルケニモンの顔に向けた。 「ああああ!!!てめえ!」 アルケニモンが発煙筒で顔を覆っている隙にデジヴァイスを奪い取る。 だが、デジヴァイスと思ったのものが糸の形で崩れていく。 「チッどうせそんな事だろうと思ったわよ。本物はこっちよ。」 アルケニモンの後ろ脚にデジヴァイスが握られていた。 「ほら…どんどんママの言う事聞けれる素直になってくるでしょ。」 光の意識が現実感を失っていく。目の前にはアルケニモンじゃなくて自分の母親がいるような気がしてくる。 「ママにこんな酷い事してるって悪い子ね。」 「ご…ごめんなさい…ごめんなさいママ…」 「ママ傷付いちゃった。ねぇ光はママの為のものでしょ。だからねぇ…」 その時、アルケニモンの背後から光達を助けたコドクグモンが糸を吐き出してデジヴァイスを奪い取った。 「なっ!?お前達生きてたのか!?お前達!!」 コドクグモンにドクグモンが攻撃する。 それをモチモン達が泡で目眩しをする。 「鬼塚さん!」 コドクグモンがデジヴァイスを光に投げ渡す。 「誰がママよ!騙されて!あんたなんて他人よ!」 光の手に戻ったデジヴァイスは強い輝きを放った。 「ああああああ!!!!」 デジヴァイスの輝きにアルケニモン達が退けぞいた。 その隙にコドクグモン達がなんとか撤退する。 その輝きは霧を晴らしていく。 「よくも!!クソガキがあああ」 「クリムゾンネイル!!!!」 アルケニモンが爪で光達を切り裂こうとする瞬間デビドラモン達が間に入った。 「デビドラモン!ヴォーボモン!」 「良かった!心配したんだよ!勇太!光!」 デビドラモン達が合流した事でデジヴァイスがより強く輝きをました。 「ひかり!」 「デビドラモン!」 強い光がデビドラモンを包む。 「デビドラモン進化!!」 デビドラモンの姿が変わる。 「レディデビモン!!」 デビドラモンは黒い女性型のデジモンに変化した。 「クソ!お前達!!」 アルケニモンはドクグモン達を差し向ける。 「レディデビモン!殺さないで!」 「!分かった光!ダークネスウェーブ!」 レディデビモンから黒い蝙蝠の群れがドクグモンを吹き飛ばす。 「なっ!クソどいつもこいつもなんで私の役に立たないのよ!クソ!クソ!クソ!スパイダースレッド!!!」 「ダークネスウェーブ!!」 アルケニモンの両腕から鋼の糸の束とレディデビモンの黒い蝙蝠の群れがぶつかる。威力が拮抗している。 「ヴォーボモン!」 「分かった!プチフレイム!」 勇太の指示にヴォーボモンが左腕を攻撃する。 「僕達も!ポイズンネイル!」 コドクグモンが右腕を攻撃する。 「てええめええらああああ!!!なんでよ!!なんで思い通りにならないのよ!!!!!なんで私だけ!!!!!!!!!!!!!!」 アルケニモンの腕へのダメージで糸の威力が弱まる。 「今よ!レディデビモン!!!…さよならママ!!」 レディデビモンの黒い蝙蝠の威力が増し、アルケニモンを焼く。 「あがああああああああああああ!!!!!!」 アルケニモンが燃え上がり焼き尽くされた。 アルケニモンはそのまま焼き尽くされデータとして霧散した。 ドクグモン達はいつのまにか散り散りにどこかへ行ってしまったようだ。 「…泣いてるの」 「鬼塚さんこそ…」 光とコドクグモンは涙が流れていた。これで自由になれる。そのはずなのに涙が止まらなかった。 「じゃあ私達こっちに行くから。」 「僕達はもう少しここにいるよ…やっぱりママはママだから…気持ちの整理ができたら…僕達も行こうと思う。」 「そっか…じゃあ元気で。」 「鬼塚さんこそ。ありがとう。」 「…私こそ。」 コドクグモン達とは別れて、レジストシティーに向かった。光が先行して後ろに勇太達がついて行く。 レディデビモンはデビドラモンに戻っていた。 「…ひ…鬼塚さん大丈夫。」 「光でいいわよ私も勇太って呼ぶから…それより」 「?」 「ありがと!勇太も…デビドラモンも!」 振り向き光は勇太達ににかっと笑って見えた。それは今まで勇太が見た光の笑顔の中で一番自然な笑顔であった。 「ひかり!」 デビドラモンが光に抱きつく。 「光が素直にありがとう。って悪い物食べた?」 「ヴォーボモン!」 「ああ!?私が感謝して何が悪い訳!!!?デビドラモンもそんな引っ付くんじゃないわよ!」 「やっぱりいつもの光だった。」 今までのやり取りは変わらない。だがそれまでとは違う何かがあった。 レジストシティーはもう近くまで来てた。 その様子をビルから眺める影があった。 「アルケニモン…デジモンを操る組織の目的を勝手に私物化した末路がこれか… 親と子の関係で縛る…結局は自分が縛られ裏切り身を滅ぼす…それにしてもあの女とデジモン…勇太の隣に居ていいいと思ってるのか? 穢れた売女に虫けらが勇太の隣にいるなんて…でも、もうすぐだ…もうすぐ僕が勇太の隣にいるよ…ずっとずっと…もうすぐ会えるよ勇太…。」 影は不気味に恍惚とした笑みを浮かべ勇太達を見下ろしていた。