その年の夏は地球全体がおかしかった。 ブラジルでは全く雨が降らずアマゾン川が枯れ。 アフリカでは大雨による洪水が発生。 カナダでは記録的な酷暑となり森が燃えた。 新宿の路地裏にいたふたりは何も知らずにいた。それが誰も知らない世界での冒険になる事を。 街頭モニターは普段の映像ではなくブルースクリーンに何かの文字列を表示し、照明や街灯がいたずらに点滅している。道行く人々のスマートフォンからは発信者の分からない着信音が鳴っていた。 日野 勇太小学6年生。この日勇太は1つ歳上の従兄と怪獣のオブジェを見るために新宿に来ていた。 「今日って何かトラブルでもあったのかな?」 「よく分からないけど、電車とかにも影響しないといいけど。  それにしてもなぁ勇太もガキだな。小6にもなって怪獣なんてな」 「またぁ言う。いいじゃん。今度アメリカで映画するし、去年はなんかハリウッドで賞とかぁ!」 「わかった。わかった。って早く見て行こうぜ。あんまここいない方がよさそうだしな。」 周りを見渡すと勇太達の年齢からすると萎縮してしまうような雰囲気の人々がいる。 それを遠くから見守るような監視するようにいる数名の警官が異質さを感じさせている。 恐らく従兄は自分達…勇太に危害がないか心配して、できればここから早く去りたいのだろう。 集まっているようで、無造作に散らばっている集団の中で着かず離れずだが距離があると感じさせるところひとり座っている少女に勇太の目は留まった。 同じクラスの鬼塚 光であった。 光は小学2年生の冬に勇太の通う学校に転校してきた。 転校してきた当初から光の印象は一貫として【孤立】だった。 ひととは必要最低限しか関わらず、他人が話しかければ邪険に扱い、嫌味のひとつでも言われれば次には「バカ」「役立たず」「目障り」と10の罵倒で返す。 滅多に笑わず、笑うとすれば他人を馬鹿にするなどマイナスの印象を与えるものばかりだった。 当然の事ながらそんな彼女は周囲からの攻撃対象となっていた。 罵倒や無視、いたずら時には直接的な暴力を光は曝された。 勇太には彼らがからかいなのつもりなのか分からない罵倒の言葉は分からなかった…恐らく発している彼らも半分も分かっていないだろう。 だが、彼らの正当性の薄皮を張り付けた攻撃に明確に言語化はできずとも勇太は憤慨していた。 光本人はそんな時には何も感じていないような感情の何もない表情をしていたが勇太にはそれがただ悲しい顔をする以上に心が締め付けられた。 仲裁に入る事もしばしばあったが、光はその事もまるで関係ないように孤立を貫いた。 そして、6年生の頃にはクラスに顔を出すこともなくなっていた。 どうしてるのだろう。大人は話を濁すばかりで教えてくれなかった。 その彼女が目の前にいた。勇太は積極的に女子に話しかけられるタイプではないが、目についた時には従兄の「おい、危ないから近づくな」という言葉も耳に入らず反射的に近づいて話しかけていた。 「あっ…えっと鬼塚…さんだよねっ俺同じクラスの…「っ…誰あんた?なにナンパ?キモ…話しかけないで…」 掛けた言葉を遮られてしまい勇太は動揺したがなんとか言葉を続けようとしたが、 「「あぁ!あぁ!だから!ウザいし話しかけんなって言ってんのが分かんないの!殺すわよ!」 「…」 取り付く島もない。そういえばこんな感じであった。ちょっと前までの事だったのに完全に忘れていた。 「っ…っ」 光は不安定なスマホをなんとか動かそう勇太に目を合わせないようともしない。 周囲の嘲笑と従兄の言わんこっちゃないとい視線に勇太の顔は赤くなっていた。 なんとか話しかけられないか言葉を考えていると視界が急に暗くなった。 先ほどまではなかった黒く厚い雲がいきなり空を覆っていた。 「つめっ…!」 鼻先に当たったものが勇太は瞬間理解できなかった。雪である。 たまにニュースで観る雹ではない。冬に降るようなしんしんとした雪である。 「えぇ嘘だろ…地球温暖化ってやつなのかな」 奇妙さと不安そして非日常への興奮が混じった声で勇太は呟いた。 対照的に従兄は不安そうな顔で空を見ている。 「…?」 雪と雲ののあいまに何かが見えた。 光の卵だった。鼓動している。今にも孵りそうだ。 音がする重低音のラッパのような轟音がどこからか聞こえてくる。 「なに…あれ…」 流石に光もスマホから目を離し空を見上げていた。 光の卵の鼓動が早くなると共に周囲の物が浮かび上がりはじめた。 引っ張られるように勇太と光の身体も浮かび始めた。 「日野君!!!!」「鬼塚さん!!」 卵に引っ張られる光を勇太が掴もうと手を伸ばす。 「やめろ!勇太!!こっちに来い!!!」 勇太が従兄を見ると手を伸ばしている。従兄も宙に浮いているが黒い衣装を身にまとった人物に抑えてもらっている。 確かにこのままじゃ自分が危ない従兄の方に勇太の意識が向く。 「日…勇太!…誰か助けて!」 「っ!」 勇太はすぐに振り返り光にに手を伸ばした。 なんとか手を掴んだが宙に浮くまいと掴んでいた電灯も卵に吸い込まれて支柱から抜けてしまった。 「うわぁああああああああああああ」 卵に吸い込まれる、目の前に光が溢れたと思ったら次には幾つものスクリーンに様々な景色が映し出されているような光景が目に入った。 月面にある電話ボックス。海を走る電車。シルクの糸の上に立つバザール。核の焚火。怒りに満ちた顔でクッキーを焼く肉塊。常に変動するキャンバス。米国尊厳維持局の週末映像。 身体は幾つも回転し意識が遠のく。ただ握った手だけは確かに掴んでいた。 意識が遠のきそのまま消えていった。 「きて…ねぇ…ねえ!起きて!」 誰かが呼んでる母さん…?いやこの声は父さ… 「ねえ!起きて!!」 「え゛ふ゛っ゛!゛!゛」 思いっきり誰かに顔を叩かれて意識がはっきりする。声の主と目が合った。 黒い身体に翼の生えて爪や背びれが赤く輝いている小さな…恐…翼竜 「うわぁああああああああああああ!!な…だ…なんだお前!!!??」 「良かった!目が覚めたんだ!君人間、選ばれし子どもだろ!ずっと待ってたんだ!」 「へ…いや!?喋って…」 「ヴォ―ボモン!ぼくの名前!ついに会えた!君選ばれし子どもだろ!」 「ちょちょちょえっ待て待て!急に色々言われても…へ?いや訳分かんないんだけど!?そもそもここ…へ?あれ!?」 見渡すとそこは森の中であった。 ただの森ではない。森の中に電柱。ベンチ。不自然に人工物がある。異質だった。 「ここどこ?他のひとは…えっと」 「ヴォ―ボモン!」 「ヴォ―ボ…モン?さん?えっと俺日野 勇太で…す…あの…ここどこ?知ってる?」 「ヴォ―ボモンでいいよ!ここはウェブ島!僕たちデジモンが住んでいるところ!」 「ウェ…ブ…へ?日本じゃない?あ…いやこんな珍妙なところがんな訳ないか…ていうか選ばれし…子なにその恥ずかしい呼び方」 「恥ずかしいって…選ばれし子どもって凄い事なんだよ!みんな言ってるよ!デジタルワールドの危機を救うデジモンとのパートナー!すっごいことなんだよ!」 「デジモン…ああヴォ―ボモン?みたいなの?」 とりあえず取って食われる事はなさそうな態度だと勇太は安心した。このヴォ―ボモンと名乗るデジモンという生き物は見た目は恐竜というよりも怪獣だが言葉が通じて敵意があるというわけではないようだ。あまり賢そうな感じでもないが… 「というか何で俺がその選ばれし子どもって思ったわけ?自分で言うのもなんだけど俺ってそんな特別な感じがあるわけじゃないし…」 「だって勇太が持ってるのデジヴァイスだろ?それを持ってるって事は選ばれし子どもって事じゃん!」 デジヴァイス?ヴォ―ボモンの指摘に手を見ると手には身に覚えのない機械が握られていた。 「なんだこれ?」 機械には楕円形にアンテナがついている。父さんや母さんが使っていたウォークマンに似ているかもしれない。 「あれ?でもこれ全然動かないじゃないか」 中心にはディスプレイ画面のようなものが見えるがボタンを触っても振っても起動しない。よく見るとちょっとヒビも入っている。 「ヴォ―ボモンこれ壊れてるんじゃない?」 それは勇太が本当に選ばれし子どもなのかという疑問でもある。 「分かんないけどこういうものなんじゃないの?ぼくだってはじめて見るもん?」 「…?じゃあなんでこれがデジヴァイスって分かったの?」 「?そんなことすぐ分かるよ!細かいなぁ!勇太は!とにかく勇太は選ばれし子どもでぼくといっしょにデジタルワールドを救ってもらいたいんだよ!」 「というかその救うってのがそもそも…」 「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」 少女の劈くような悲鳴が響いた 畳みかけるように降りかかる珍事に気を取られて一緒にやって来たであろう少女の存在を忘れていた。 「勇太!」 悲鳴の方向に勇太は駆け出していた。続いてヴォ―ボモンも走ってついて来る。 鬱蒼とした森を走る事で草木が引っ掛かりところどころ切れている感覚があったか気にしている場合ではないと勇太は足を進めた。 「勇太この悲鳴って!?」 「きっと鬼塚さんだ!俺と同じ人間の女の子でクソ!すぐに探すべきだったんだ!!」 「まずいよ勇太!最近ここも危ないデジモンが現れたりするんだ!!」 やっぱり見た目どおり危ない奴もいるのかよ!勇太は足を早めた。 声の元へ近づいてくる。 いた!特徴的な銀髪。うずくまっているが間違いなく鬼塚 光だった 脅えている彼女の傍らに今に襲いかかりそうに見える赤い恐竜のようなデジモンがいた。 「その子から離れろおっ!!!」 「勇太!ぼくに任せて!プチフレイム!!!」 ヴォ―ボモンが勢いよく火球を吐き出し赤いデジモンに命中させ吹き飛ばした。 やっぱりこいつら危ないじゃ…そんな場合じゃない! 「鬼塚さん大丈夫!?」 「あんた…日野!?どこいってたのよ!!???あんたに話掛けられたら空飛ばされて!訳わかんない森の中に飛ばされて!!変な赤い化物に話しかけられて !!???全部あんたのせいよ!!!!バカ!!カス!!クズ!!!バカバカバカバカ!!!!!クソ野郎!!!!!!!!!!!」 「…勇太ほんとにこの子で合ってる?」 「ははは…」 元気そうでなによりだ…見たところ怪我もないようだった。 半泣きでキャンキャンと吠える光と不信の目で見るヴォ―ボモンを横に勇太は自分を納得させた。 「…というか…え?話しかけられた…?だけ?」 「いきなりなにするんだよ!」 先ほどヴォ―ボモンが吹き飛ばした赤いデジモンが起き上がった。 「お前達まさか選ばれし子どもの光を狙ってるの!?ギルモンそんなことさせない!!」 赤いデジモンのギルモンが勢いよくヴォ―ボモンに飛びかかった。 「ギルモン知ってるお前ヴォ―ボモンだろ!みんなに飛べないって馬鹿にされてるからってひとを困らせたらダメなんだよ!」 「飛べない事は関係ないだろ!!というかギルモンが光を襲ってたんだろ!お前こそ悪い事してるんじゃないか!」 「ギルモンそんな事してないもん!ヴォ―ボモン嘘つき!」 「嘘つきはギルモンだろ!!」 売り言葉に買い言葉で取っ組み合いの文字通り怪獣プロレスとなってしまった。 言っていることを聞くにギルモンも悪いデジモンではなさそうだ。仲裁に入ろうか危ないし見守ろうか逡巡し光の方に目をやった… 怯えている…それも先ほどの恐怖をはまた別の雰囲気があった。目の焦点が定まらず両肩を抱えるような何かに耐えるような姿に見えた。 「…お前達やめろ!」 勇太はヴォ―ボモンとギルモンの間に入った。 お互い目がけて放ったパンチが間に入った勇太の顔面へと双方当たった。 「ぶ゛へ゛」 なんとも情けない勇太の声によりこの喧嘩は終わった。 「…泣いてんじゃないわよ男のくせにザコ」 「泣いてないよちょっと涙が出ただけだよっ…」 「ごめん勇太…」 「ごめんなさい…」 喧嘩も終わり落ち着いた段階で聞いた話をまとめる事となった。 「じゃあ光も選ばれし子どもでギルモンは光のパートナーってこと?」 「うん!ギルモン光のパートナー!」 光に抱き着こうとするギルモンを突き飛ばす。だがあまり力がないせいかただ押しのけたようにしか見えない。 「近づくんじゃないわよ!うっとしいわね!バカ!」 「鬼塚さん怖がらせちゃだめだよ」 静止した勇太の後ろにギルモンが小さく丸まって光の様子を見ている 「…何よ…あんた化物の味方するの」 「そんな言い方ないだろ。不安な気持ちは分かるけど落ち着いて。俺達だってここの世界の事は何にも分からないんだ。ひと?だっていないしとりあえずでもヴォ―ボモン達と一緒にいたほうがいいだろ?大丈夫!俺も一緒にいるしなんとかなるさ!」 「…あんたちょっと楽しんでない?」 「ソンナコトナイヨ…」 光の指摘は合っていた勇太はこの状況に興奮していた。特撮ドラマが好きでこういった非日常の冒険に憧れがあった。 「どうだか…」 「それでこの島の異変って?俺達に何やらせようってんだよ」 「うん。最近色んなデイモンが変なんだよみんなどこかに行ったかと思えばいつもいない場所に居て人形みたいに同じ行動したり連れ戻そうとしたデジモンを攻撃したりするんだ。いつも頼ってるデジモン達も最近この島に邪悪な気配が漂ってるって。 そんな時、噂が流れたんだ。昔こういうデジタルワールドに異変があった時選ばれし子ども達がやってきてパートナーデジモンとデジタルワールドを救ったんだって、選ばれし子ども達は勇太達が持ってるデジヴァイスを持ってて僕たちデジモンを進化させて一緒に戦ってくれるんだ!」 勇太達は持っているデジヴァイスに目をやる。ほんとにそんな力があるのだろうか… 「というか何よ進化って…進化って何万年もかかるって前おばあちゃん家の本で読んだんだから!嘘つくんじゃないわよ!」 「嘘じゃないよ僕達は強くなったりすると姿が変わって進化できるんだよ」 うんうんと勇太の後ろのギルモンも頷いている。キッと光に睨まれまた勇太の後ろに隠れてしまった。 「私嫌よ…なんで関係ない私がこんな奴らのために戦わなきゃいけないのよ!私は帰りたいの!!こんな訳わかんないとこにいたくないの!元いたところに返して!!!どうにかしてよ!日野!!!???」 光は蹲り肩を抱え搔きむしりヒステリックに叫んだ。 「落ち着いてって鬼塚さん俺も訳わかんないんだよ…さっきも言ったけど俺達はここの事分からないし、それに異変を解決するために呼ばれたなら異変を解決すれば帰れるかもしれないだろ。」 「…勇太!」 なんとか光を勇太が宥めようとした時、近くから爆音が聞こえた。 「気を付けて!光!勇太!!この臭い!フライモンだよ!」 森の中から爆音を鳴らし、蜂と蛾が混じったような巨大なデジモンが現れた。 「あれがヴォ―ボモンが言った危険なデジモンか!?」 巨大な金切り音のような鳴き声と耳障りな飛翔音鳴らしながらこちらにフライモンは突進しってきた。 「きゃああああ!!?」 「危ない!!」 巨大な前足の爪で光を切り裂こうとするところ寸前で勇太が抱き抱えて躱した。 「ファイアーボール!」 「プチフレイム!」 ヴォ―ボモン達が火球を吐き出す。だが火球は当たってもフライモンが少し怯んだだけでダメージがあるように見えなかった。 「全然効いてない!?」 「フライモンは僕達より進化してるんだ!」 「それじゃあこっちも進化すれば!どうすればいいんだ!?」 「分かんないよ!」 「役に立たないわね!」 「なんとかならないのかよヴォ―ボモン!」 「なんとかって分からないよ!」 ヴォ―ボモンとギルモンの攻撃を何度も当てるが全く効いてるようには見えない。 「勇太!危ない!」 ヴォ―ボモン達を相手にしたフライモンが勇太達に向かってきた。 「きゃああああ!!!なんで!!!?なんでよ!!!???」 恐怖で足が動かない。だけど…! 勇太は光を抱きしめてなんとか庇おうとする。その時鈍く勇太のデジヴァイスが光を放った。 「プチフレイム!!」 先ほどよりも強力な火球がヴォ―ボモンから放たれる。フライモンの体勢が崩れる。 フライモンの前足が勇太を翳める。ヴォ―ボモンの火球によりなんとか本来の致命傷を防いだ。 「あ…がぁあああぐずっ…」 痛みで涙が出る。目を開け相手を見なければ次こそ殺されるかもしれない。だが、痛みで身体が思うように動かず物理的に開けようにもできない。 翳めた方が炎症と流れる血で熱くなっているのが分かる。 「いや!いや!いや!!血が…!やめてよ!!死なないでよ!!怖いのよ!ひとりにしないでよ勇太!!やだ!やだ!!助けてよママ…ママぁ!!!!!!!」 光も動揺でパニックになっている。 「勇太!光!」 「ギルモンがなんとかする!光助ける!」 ギルモンが勢いよくフライモンに飛びかかるがすぐに払いのけられてしまう。 「まずい!また勇太達の方に!!勇太逃げて!!」 「ひ゛…か゛り゛」 ヴォ―ボモンの声で危険が迫ってるのが勇太には分かったが、体が動かない…反射的になんとか光だけでも覆い被さり守ろうとする。 「やだ!やだ!やだ!!死にたくない!!!!死にたくない!!!!!!なんで私だけ!!!!!私だけこんな目に!!!!!!!!!!」 光の絶叫と一緒に光のデジヴァイスが大きな光を放った。そして、ギルモンの身体も光を放つ。 「ギルモン進化!」 ギルモンの身体が光に包まれテクスチャのように皮膚が剥がれフレームのようなギルモンの骨格が露出し、変身…進化をする。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛デビドラモンッッッッッッッッッッ!!!」 ギルモンから進化したデビドラモンは黒い肌に長く伸びた強靭な腕に赤く鋭い爪。そして4枚の羽根と尻尾。それは禍々しい姿とだった。 「デビ…ドラモン?」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」 雄叫びをあげながらデビドラモンがフライモンに飛びかかる。がっちり強靭な腕で翼を捕まえフライモンは振り払おうにもできないようだ。 そのまま翼を引き抜き、地面に叩きつける。 フライモンは衝撃で痙攣し動けないでいる。そこに間髪入れずデビドラモンは鋭い爪で切り裂く。 「゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛」 「もういい!やめろ!デビドラモン!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」 勇太の静止も聞かずデビドラモンは攻撃…蹂躙を続ける。 「プチフレイム!」 ヴォ―ボモンが火球をデビドラモンに当てる。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ…ぁ…」 火球に当てられて冷静になったのかデビドラモンの動きが静止する。そのままフライモンはよたよたと逃げていった。 「う゛う゛う゛」 唸りながらこちらにデビドラモンが近づいて来る。 ヴォ―ボモンもこちらに寄って来るがデビドラモンに対して意識を向け警戒をしている。 勇太はヴォ―ボモンに目線を向け、デビドラモンの方に目を見直す。唾を呑む。光は勇太の腕の中で震えている。 「あ…ありがとう。デビドラモン…」 「う゛う゛う゛…あ゛あ゛あ゛あ゛」 デビドラモンが軽く吠える。やっぱり食われ…そのままデビドラモンは跪くように頭を下げた。 「う゛う゛う゛…」 「…」 デビドラモンに促されるように勇太は頭を撫でた。 「う゛う゛う゛…」 どうやら喜んでいるようだ。 「大丈夫だよヴォ―ボモン。ヴォ―ボモンもありがとう。よく頑張ったね。」 「勇太は肩大丈夫?」 「あっうん…痛いけど大丈夫。ひ…鬼塚さんもう大丈夫だよ。」 「っ…うぐ…ひぐっ」 光が顔を上げて、デビドラモンと目が合う。 「ひっ!なにこの化物!!?やめて!離してこんなのの近くに寄せないで!!!!」 光は勇太を引き剝がし、デビドラモンに近くにあった石を投げつける。 「ちょっと光やめなよ!」 ヴォ―ボモンが宥め、デビドラモンは勇太の後ろに隠れて唸りながら怯えているようだった。 「とにかくそいつこっちに近づけないでキモい!!!」 「う゛う゛…ひ゛か゛り゛」 悲しそうにデビドラモンは唸っている。 どうすればいいのだろうか。ただ今は落ち着ける場所に移動したほうがいいだろう。 「とりあえず、移動しようか。ヴォ―ボモンどこか町みたいなとこない?」 「それなら、僕が普段いる町のストレジシティに行こうよ。遠いけど安全だし噂を話してくれたデジモンに詳しい話を聞いてみよ。」 「そうだな…ほら行こう鬼塚さん。」 「なんで…私ばっかりこんな…スマホも圏外だし役に立たないし…クソクソクソなんで…」 ぶつぶつ呟く光の手を引き勇太、ヴォ―ボモン、デビドラモンは歩き始めた。 これがふたりのとても長くて短い夏休みのはじまりだった。