ねこ 〇艶木テルコ 空からデジタルワールドに落ちてきた10歳の少女。小学4年生。一人称は私。 明るい性格で、初対面の相手ともすぐ話が出来る。 好きなものはシーフード全般。食い意地が張っており、よくご飯を食べるが、身体に肉が付きにくい体質のためほとんど太らない。 同年代に比べ、発育が悪いことを少し気にしているが、その内セクシーに育つだろうと楽観的に考えている。 また、猫のことをこよなく愛しており、自室やリビングには猫グッズや猫の写真などで溢れている。猫耳と尻尾も生やせるようになった。 家族構成は父と母と愛猫のエリザベス。 デジタルワールドにやってくる際に光の中に見えた、大きな猫のようなデジモンを探して冒険に出た。 それが帰り道の手がかりになると信じている。 ***** その日、テルコの通う小学校は、台風の予報があることから半日で下校となった。 給食のアジフライを3枚ほど追加でいただいたテルコは上機嫌で帰宅し、軽やかに ドアを開けると、飼い猫の名前を呼ぶ。 「エリー!ただいまー!!」 返事はない。 シンと静まった玄関で、テルコは不機嫌そうにむくれた。 「また出ていったなあエリー。これから台風が来るなんて時にどこ行ったんだろう」 エリザベス──テルコは面倒なので専らエリーと呼ぶ──が家を空けることは珍しくない。 締め切ったはずの家からいつの間にか抜け出し、しれっと戻ってくる脱走の常習犯であった。 エリーが遊びに出たことは問題ない。しかし、テルコが心配していたのは、夜には乗り込んでくるであろう台風による影響だ。 エリーが風雨に打たれ、家まで帰ってこれないかもしれない。風邪を引いてしまうかもしれない。どこか怪我をしてしまうかもしれない。 「ピンチ……エリーのピンチだ!!」 テルコは手早く書き置きを済ますと、おやつに取っておいたするめいかを袋ごと持ち出した。 エリーには食べさせられないが、この磯の香りを嗅ぐと、エリーが家のどこに居てもすぐ駆け寄ってくるという優れたアイテムであった。 これでエリーを探せばきっとすぐだ。ひょいとするめいかを一切れ口に運ぶと、テルコは外へと駆け出した。 エリー捜索のために持ち出したというよりは、ただテルコが食べたかっただけかもしれない……。 「エリー!帰っておいでー!エリー!!」 近所の猫達の集会所を探す。 「今日は台風だから家にいなさーい!エリー!」 テルコがよく遊ぶ公園を探す。 「どこ行ったエリー!ご飯抜きにしちゃうぞエリー!エーリーィー!!」 町内をぐるっと周り、エリーがよく出没するスポットを虱潰しに探した。それでも、エリーは見つからない。 するめいかを以てしても出てこないなんて……。テルコは焦るが、それも虚しくいつの間にか日は傾き、少しずつ雲も黒く、厚くなってきた。 「大丈夫かなエリー……。でも、私も帰らないと……」 6時のチャイムが聞こえてくる。雨が降り始める予報時刻まであと2時間に迫っていた。 きっといつもの様にエリーは帰ってくるだろう。不安を押し殺し、ひとまずテルコは帰ることにした。 風が強くなる。見慣れた町の風景も、テルコの心のように暗く沈んでいる。嵐が来る──。 その時、トボトボと歩くテルコを照らすように光が差した。 「なに……?」 それに気づいたテルコが上を見あげると──空が割れていた。 「なに、あれ……?急に晴れたの……?……わぁっ!?」 テルコの身体が宙に浮いた。少しずつ、空の裂け目へと近づいていく。 「も……どしてっ!なんで!!なんで浮いてるの?!お母さん!!エリー!!エリーーーーッ!!!」 必死にもがくテルコだったが、動かす手足は空を切るばかりで、地面へ戻ることは叶わなかった。 遂には、テルコの身体は空へと消えたのだった。それと共に空の裂け目は消え、町は再び暗い闇に包まれた。 予報よりも早く、雨が降り始めた──。 〇シャコモン テルコのパートナー。硬い殻に覆われている2枚貝の形をしているデジモン。一人称はオレ。性別を聞かれると頭がフリーズする。 好きなものはテルコに与えられたするめいか。 嫌いなものは猫(型のデジモン)。 デジタルワールドのとある浜辺のエリアに1匹で暮らしていた。 しかし、空から落ちてきたテルコがシャコモンを尻で押し潰すように着地した事で出会ってしまう。 テルコには度々食材のように扱われたり、出汁をとられそうになる。キレてもテルコは直そうとしないのでうんざりしている。 内心飽き飽きしていた浜辺暮らしから抜けて、新しい刺激を得られるテルコとの冒険は嫌いではない。 どちらかというと、するめいかが食べられることを目当てにテルコのパートナーとなる。 最近、殻から黒い歯車が生えてきた。特に問題はない。 ***** 数多くの選ばれし子供たちが集う、imgデジタルワールド。 いつの話か定かではないが、そこにデータの欠片が舞い落ちてきた。 とあるデジタルワールドでデジモン達を洗脳し、凶暴化させていた悪意のアイテム──黒い歯車。 その残滓か、複製か……あるいは新しく生まれたものか。 まだ形すら成さない黒い歯車の小さなデータは空間を漂い、己の存在が消えないための拠り所を探して、1つのデジタマに宿った──。 野を駆けるデジモンがいた。 強靭な肉体に獅子の顔を持ち、正義の為の戦いに身を投じる──その名はレオモン。 凶悪なデジモンを鎮める戦いの中、彼は不穏な気配を感じ取った。遠くの地で、何か恐ろしい力が生まれる。 戦いが終わるや否や、レオモンは何か黒い波動を感じる場所へ走り出した。 (この力……何が起こるのか見極めなければ……。だが、私の予感が告げている。  これはこの世界にあってはならないものだ!すぐに絶つ!) 幾度も夜を超え、全速力で走り抜き、レオモンがたどり着いた先には──。 「ん……なんか用か?」 (このデジモンは……シャコモンか。硬い殻に身を包む成長期のデジモン……。  見た限り、凶暴さは感じないが……) 「なんだお前ッ。オレはプカモンから進化したばかりだけど強いんだぞ!  怪しいデジモンなんて返り討ちにしてやるからなッ!」 (いや、どこか好戦的な気質が……?私が感じたあの波動にあてられた影響だろうか……) 「何か言えよーーーっ!!」 レオモンが見つけたのは、テルコと出会う前のシャコモンであった。 じっと自身を見つめ、訝しんでくるレオモンに対し、シャコモンは水流を放つ。 「ウォータースクリューッ!!」 しかし、成長期のシャコモンの攻撃は、成熟期であるレオモンにダメージを与えられなかった。 レオモンはシャコモンの必殺技を正面から受け、微動だにしなかったのである。 (あの気配を感じたのはこのデジモンでは無かったか……。  いや、もしかすると、何か危険なものを殻の中に隠している……?) 「うわわわなんだお前ッ!!やめろーッ!!!」 レオモンはいとも簡単にシャコモンを捕まえると、殻の中をまさぐり始めた。 ちなみに彼はここまで何も喋っていない。全力の移動で息が上がっており、説明する余裕すらなかったのだ。 「ハーッ……ハアッ……」 「うわああああーッ!!なんかキモいぞお前ぇーッ!!!」 (牙の裏にも怪しい所は無い……それともシャコモンの下に埋まっている……?  まずはしっかり中まで覗いておく必要があるな……) 「ハーッ……ここか……」 「うわーーーーーーーーッ!!!!喰われるーーーーーッ!!!!!」 シャコモンの攻撃によりずぶ濡れたレオモンが丁寧にシャコモンの殻を探る。 正義のための行いは数分続いたが、遂には何も見つからなかった。 (確かにこの地から何かを感じたのだが……。シャコモンが原因でないとすれば、別のデジモンかエリアに問題があるのだろう……) 「たす……助け……」 (シャコモンには悪いことをしてしまった……。しかし、私はこの一帯を探らねば……。  今は疲れているだろう。再び会う時に、説明をするとしよう……) 「シャコモン……」 「ンひッ!!?」 「ハアッ……また、来る……」 「ゾッわアああああぁああーーーーーーーーーッ!!!!」 シャコモンは気絶した。恐ろしい獣に襲われ、あまつさえ捕食されかけた。 意識が飛ぶ中で、シャコモンは決意した。ここを離れ、誰とも会わぬようひっそり暮らすことを。 シャコモンに、大きなトラウマが出来た……。 〇エリザベス にゃん!私はエリー!よろしくね! テルコちゃんはいつもは明るい天真爛漫な子だよ!デジタルワールドではシャコモンと仲良くやってるみたい! シャコモンの出汁を狙うのは猫吸いくらいの感覚みたいだから本当に食べられたりはしないよ!安心してねシャコモン! デジタルワールドに連れてかれる時の出来事は心に刺さってるみたい! 会いたかった私を見つけられずもう二度と会えないかもしれない後悔と寂しさ! シャコモンと出会って本当に楽しそうだけどもしシャコモンが居なくなっちゃったらどうなるんだろう! 頑張れテルコちゃん! ***** 光の中で、手を伸ばす──。 「うわーーっ!!!」 突然現れた空の裂け目へ飲み込まれ、テルコは異空間を飛んでいた。 言い知れぬ浮遊感にテルコはお腹がくすぐったくなる。 「あーはっはっは!!ここどこーーっ!?なんなのーっ!!」 どこを向いても光しか見えないのに、なんだか前には進んでいる。大きく腕を広げて、少しずつ身体の安定を取る。 異空間の先──デジタルワールドへ吸い寄せられていくテルコ。 少しずつ、データの波がテルコの眼に映りだす……。 「あっ!!恐竜!?オオカミ!?……トンボ!?  なんか……なんかいっぱいいる!!この先に、何かが待ってる!!」 まだ見ぬデジモン達の存在を感じ取るテルコ。 先ほどまで感じていた寂しさは少しずつ収まり、未知の世界へと飛び込む楽しみが高揚し始めた。 その中でも、とりわけ大きく見えるデジモンの影があった。 「猫だーーーーーーーっ!!!大きい猫!!  たてがみもあって……牙も生えてて……すっごい猫!!!!」 テルコの広義的にはライオンやトラも猫に含まれるのであった。 「あの猫に会いたい!!きっと、他にも猫が……!!  変な世界に来て、猫に出会って……。お土産を持って帰るからね!エリーッ!!」 気づけばテルコの手には、ディーアークが握られていた。 一体何かとテルコが見つめる間もなく、光は途切れ……。 「……今日もこの浜は安全だな」 デジモンが1匹、安住の地と決めた浜辺で過ごしていた。 「見慣れた海に見慣れた空……これでいい、オレはここに住む……」 貝殻を大きく開け、中身を天日に晒す。今日のデジタルワールドは、日向ぼっこにうってつけの陽気であった。 気持ちよさそうにする顔とは裏腹に、どこかデジモンには寂寥感がにじみ出る。 「いつか強くなってやるからなあの野郎……今度会ったらオレのブラックパールでぶち抜いて……」 「ああああああーーーーーーーっ!!!!落ちる!!!」 「ん?」 変な声に気づいたデジモンが上を見あげると──空が割れていた。 「さっきまで飛んでたのになんで浮いてくれないのーーーーーっ!!?」 「うわわわ何だよアレーーーーッ!?」 「「うわああーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」 必死に身を守るデジモン。閉じこもった殻に、空から少女が落ちてきて──。 「猫だーーーーーーーーーっ!!!顔が猫!!!!」