デジタルワールドの何処か。二体のデジモンが戦っていた。 「ふんッ!」 「ガハッ………」 もんざえモンの黄色い拳がメタルシードラモンのアゴを強かに打ち据えた。メタルシードラモンの全身を覆う、あらゆる攻撃を跳ね返す筈のクロンデジゾイド装甲は、今やもんざえモンの拳によって無数のヒビや亀裂が生じ、装甲としての意味を成していなかった。 「バカな……何故だ。此方は究極体、お前は完全体…」 「何故も何も無いよぉ?出力もスペックもそっちのが上だけど」 勝敗は決した。傷だらけで息も絶え絶えなメタルシードラモンと全く無傷のもんざえモン。誰が見ても一方的な戦いだった。 『戦いの慣れは此方のほうが上だった。それだけ。素直に究極体に進化してくれて助かったよ。進化したてで、自身のスペックと武装の取り回しが不慣れで隙だらけだったしさ』 デジモン2体の他にもう一つ声が響いた。もんざえモンの後ろから姿を現した、フルフェイスヘルメットにライダースーツの少年だ。歳の頃は15、6程だろうか。ヘルメット越しに響く声は未だ若さを宿していた。そしてその手に赤いデジタルモンスターの端末を握っていた。 「……!!究極体すら倒すもんざえモンに、フルフェイスヘルメットのテイマー…!まさか…貴様が…!!」 『もんざえモン』「うん」 もんざえモンがメタルシードラモンの首を掴んで地面に叩きつける。ここまでの戦いで最早メタルシードラモンに抵抗する力は残っていなかった。 『誰が広めたのか知らないけど、その仇名には迷惑してるんだ。僕はただ敵を倒してるだけなのに』 「ほ、ほざけ…!敵対した相手を倒すだけのみならず、勢力ごと根こそぎ叩きのめしているような奴が、語られない訳が無い、だろうが…!」 「そうは言うけど…別に僕達だって世界を滅ぼしたい訳でも戦いたいわけでも無いのにねぇ。」 『「それに」』 1人と一体の声がハモった。そしてそれを見たメタルシードラモンは心の底から戦慄した。成長期の時に完全体に執拗に追い回されて遊ばれた時以来の恐怖がクロンデジゾイドの全身を走った。 彼らは泣いていた。もんざえモンはともかく、少年はヘルメットで表情は見えないが、声を震わせて泣いていた 『本当はね…君の事だって倒したくは無いんだ…。なんなら、友達にだってなりたかった。でもね。敵対するなら消さなきゃ。とっても悲しいけど』 「僕だって戦いたくないよぉ。でも敵になっちゃったから」 もんざえモンが拳を振り上げる 『敵は消さなきゃ』 メタルシードラモンはデジタマに還った 『じゃあ、行こうか。もんざえモン。次こそは誰も倒さなくて良い場所に行ければ良いんだけど』 「そうだねえ」 かくして1人と1体は踵を返して次なる場所へと向かう。既に散々広まったデジモンイレイザーの異名と共に。 〜27年後〜 「ふぃー、ただいまー。」 「お帰りワタル〜」「お帰りパパー」 22:00頃、一軒家。 40代に足を踏み入れたスーツの男を黄色いクマの着ぐるみめいた存在と、6歳程の娘が迎え入れた 「出迎えありがとうもんざえモン。それとヒカネも。寝てて良かったのに」 「僕もそう思ったんだけどねぇ。「小学生になったからにはパパのお出迎えするんだ!」って聞かなくて」「宿題も終わったしお風呂も入ったもん!まだ起きてられるから大丈夫!」 もんざえモンは6歳の娘──ヒカネの頭を撫でた。 「ハハハ、そりゃ偉いね。でも明日は学校だろう?ちゃんと寝なきゃ辛いよ」 「でも全然眠くないよ!」 「ヒカネ、これ以上はダメだよぉ?明日もあるから今日はもう寝よう?」「でも」 ヒカネは渋った。最近ワタルは帰りが遅いのだ。 男─ワタルは少し考えてから、ヒカネに目線を合わせて 「ヒカネ。明日が終われば僕も休みだから。そしたら一緒に何処か遊びに行こうか」 「良いの!?」「うん。行きたい所に連れてってあげるさ。だからヒカネはもう寝よう?もんざえモン、頼む」「りょうかぁい」 もんざえモンが優しくヒカネを抱き上げる。もんざえモンのふかふかした肌触りは、あっという間に子供を眠りに誘う。抱き上げて少し経てば、ヒカネはもう夢の中だ。 「布団に入れてくるねぇ」「お願い。いつも助かるよ」 そのようにした 〜10分後〜 「ワタル、ヒカネは寝かせて来たよぉ」「お疲れ様」 居間。ネクタイを緩めて、ノートパソコンを叩くワタルの元へもんざえモンがやってくる。 「まだお仕事残ってたのぉ?」「いや、これは違う。個人的な調査というか、まあそこんとこが一区切り付けたかっただけだよ。もう終わった」 ワタルはメガネを外し、パソコンを閉じた。 「で、やっぱり増えてるのぉ?デジモンイレイザー案件は」 「ああ、凄まじいよ。デジモンイレイザー勢力は日毎に勢いを増してる。抵抗勢力はそれなりにあるが、それでも追っ付かない有様だ」 ワタルは嘆息して天井を見る。「なにが面白くてそんな事するんだか」 「元祖デジモンイレイザーでも分からない?」 「勘弁してくれもんざえモン。ありゃ若気の至りって奴だよ」「ごめんごめん」 27年前、彼らはデジタルワールドの伝説だった。自分達から喧嘩を売るような真似はしないが、一度敵対したら最後、チームがあるならチームごと、勢力があるなら勢力ごと。究極体が相手でもお構いなしに叩き潰して消して回る恐怖のテイマー、デジモンイレイザー。 それが、かつてワタルが、デジタルワールドで活動した結果だった。 「…なんで今更になってデジモンイレイザーなんだか。もっと他の名前とかあるだろうに。デジモンエンペラーとかデジモンゴッドだとか」「さぁねぇ…全くの偶然とか?」 もんざえモンが首を傾げた。言っておいて納得していない顔だ 「だったら良いんだが、そうじゃないと思うんだ。」「なんで?」 「普通に考えてデジモンイレイザーなんて名前、デジタルワールドで活動するには盛大に喧嘩売ってるじゃないか。わざわざヘイト背負う意味がない」「そうだねぇ」 「なのにその勢力内にはテイマーの他には当然のようにデジモンも多数だ。いずれ自分達を消すって名前の相手に従ってるのさ」「そりゃ変だねぇ」 「で、あと居たんだってさ。」「何がぁ?」 「「あの伝説が蘇ったんだ!イレイザー様だ!」とか言ってるデジモンが」「うわあ」 1人と1体は顔を見合わせた 「…なあもんざえモン。これって僕達の責任って事になるのかな。真剣な話」 「……結果的に当時荒らし回ったのは事実だからねぇ。若気の至りとは言え」 1人と1体は一緒に天井を眺めた そして一緒に溜息を吐いた 天津鎧 渡(アマツガイ ワタル) かつて、デジタルワールドにおいてデジモンイレイザーの仇名で呼ばれた男。 生来、敵対者は消さなければ落ち着かない、行動に遅れて感情が出てくる、という不安定な性質と尋常ならざるテイマーとしての才と過剰な思考能力という特異性を持ち、かつてはそれが存分に発揮された結果敵には絶望と恐怖、味方には畏怖と恐怖を広げて回る羽目になった。尚、別に世界を滅ぼしたい訳でも森羅万象が敵というわけでもなく基本的には善性の人間ではある 今は年月と紆余曲折を経てその尖った性質とも付き合い方を覚え丸くなったが、今度はかつての自分の仇名と同じ名前で暴れ回る奴が出てきた。どうしよう。デジヴァイスはデジタルモンスター(初代) もんざえモン ご存知初代デジタルモンスターにおける最強隠しデジモン 温厚で優しい性格をしておりワタルとはデジタマからの付き合い。そしてワタルの抱えている特異性 を誰よりも深く理解する無二の相棒である かつてはワタルの育成の元、極限までそのぬいぐるみボディを鍛え上げ、究極体すらも相手取れる程のスペックを持っていたが今はもっぱらワタルの娘のヒカネの面倒を見るのに発揮される この間調理師免許を取得した 天津鎧 緋金(アマツガイ ヒカネ) ワタルの一人娘。 年相応に天真爛漫な元気娘。まだ父親に甘えたい盛りだが、父は基本忙しそうなので普段はもんざえモンと一緒に遊んでいる 自分が生まれたと同時に母親が死んだ為、母親の顔や名前を一切知らない。普段はその事をあまり考えないようにしているようだ。 実は父をも凌ぐテイマーの才があり、もしもそれが発揮される事があれば良かれ悪しかれデジタルワールドに大きな影響を及ぼすだろう…が、少なくとも父ともんざえモンが健在な限りその機会は訪れる事は無さそうだ