走る、走る、走る――― もうどれだけ森の中を走り続けてるだろう。 足元の木の根に躓かないようにしながら必死に足を動かし続ける。 わたし、紫藤愛彩の手を引いて走る幼馴染の手と、反対の手で抱きかかえたデジタマ。 両方を離さないようにぎゅっと手に力を込めた。 「もう少しだ!がんばれ、愛彩!」 「う、うん!」 幼馴染―――創真くんが私を励ます言葉に返事をする。 ある日、私と創真くんはこの世界…デジタルワールドへ一緒に飛ばされてしまった。 とても不安だったけど、創真くんはいつも隣で私を励ましてくれた。 彼の相棒、パルスモンと共に私を守り続けてくれていた。 「創真!このままじゃ逃げ切れない!」 「くっ……」 パルスモンが叫びを聞いて私の手を握る彼の手に力が入ったのを感じる。 戦う……それは私にとってとても怖いことだ。 きっと彼らがいなかったら狂暴なデジモンも存在する危険なデジタルワールドで私は1日と生きていられなかっただろう。 私のパートナーは私が抱いているデジタマだ。 デジタマのこの子と出会った時に私の腕にデジヴァイスが現れたからこの子が私のパートナーなのは確か。 それでも未だに生まれてくる気配はない。 当然、戦うことはできない。 「わかった!やるぞパルスモンっ!!」 「おう!!」 足を止めて背後から追いかけてくる敵の方へ視線を向ける二人。 息がピッタリで本当に頼りになる。 きっと、二人ならなんとかしてくれる。 「愛彩は隠れてて!俺とパルスモンで迎え撃つ!」 「わ、わかった…!」 その言葉にいつものように木の陰へと隠れて二人を見守る。 大丈夫、きっと二人が勝つ。 いつものように。 「いくぞパルスモン!」 「おう!パルスモン、進化―――ッ!」 光に包まれて進化する二人を見て何の根拠もなくそう信じていた。 『いつものように』なんてある訳ないのに。 パチパチと周囲で燃える木々が音を立てている。 さっきまで森だった場所は地面は抉れ、木々は吹き飛び、辺りに火の手が上がっていた。 「…ぁ…ぁぁ」 さっきまで、必死に、離さないと抱きしめていたデジタマは目の前で消滅してしまった。 襲ってきたデジモンの攻撃から、守り切れなかった。 生まれてくることすらできなかった。 私の、パートナーだったのに。 それでも今は空から目を離せなかった。 空には二人が究極体へと進化した姿、カヅチモンが戦っていたから。 そのカヅチモンが…カヅチモンが 『……ガ…ァ……ッ……!!』 私たちを守ろうと目の前の敵から意識を逸らした一瞬。 そのたった一瞬で、カヅチモンは胸を貫かれていた。 地上から、遠目でもわかってしまう。 二人はもう助からない。 体がブレはじめてカヅチモンのデータの体が揺らいでいるのがわかる。 それでも、カヅチモンは自身を貫く敵にしがみついた。 『グ……ォォ……!』 バチバチと周囲に放電が起きてギュッとカヅチモンへと収束する。 『神電召―――』 『―――雷光ッ!!』 最期の力を振り絞ったであろう雷撃が発せられた。 閃光が視界いっぱいに広がり何も見えなくなる。 真っ白な視界の中で、敵とカヅチモンが消滅するのが見えた気がした。 次に目が見えるようになった時、目の前には創真くんが立っていた。 体が、ボロボロとデータ片に崩れていっている姿で。 「…創、真…くん…」 「愛彩……」 絶対に負けないと何の保証もなくそう信じていた。 二人なら守ってくれると勝手に頼りきっていた。 私を守ろうとして、二人が…二人が… 「わた、私の…」 「ごめん」 私のせいで、そう言おうとして先に謝られた。 「ごめん、俺……俺……」 絞り出すような、聞いてるだけでも苦しくなるような声。 いつも元気で、陽気な彼がこんな声を出すなんて知らなかった。 「何も守れなかった……パルスモンも…デジタマも……愛彩も」 ボロボロと涙を溢しながら懺悔する。 そんな彼を見て思考が止まってしまった。 なぜ?なぜ創真くんが謝るの? だって私のせいだ。 デジタマを守れなかったのも。 二人の意識が逸れて攻撃を受けてしまったのも。 全部全部、足手まといの私のせいだ。 「俺一人で…守ろうなんて思いあがってたんだ…」 「そ、んな…こと」 言わないと、ちゃんと そんなことない、創真くんが守ってくれたから今まで無事だったんだって。 ちゃんと言葉にして伝えないといけないのに。 喉がカラカラで、舌が自分のものじゃないみたいに上手く動かない。 今まで感じたことのないような。 これから起こってしまうことが分かってしまっている恐怖でお腹が痛くて胸が苦しくて言葉が上手くでてこない。 「もし…他の…選ばれし子供たちに…会えて…たら…」 「ま、って…」 「ちゃんと…みんな、守れたのかな……」 「そ―――」 創真くん、と名前を呼びきる前に。 彼だったデータが弾けてどこかへ飛び散っていった。 呆然とそれを眺めて。 ゾッとするほどキレイだと感じた。 「ぁ……」 後に残ったのは私一人。 生まれてくることもできなかったパートナーを守れず。 彼と共に戦ったパートナーを死に追いやり。 ずっと守ってくれた好きな男の子に謝ることもできない。 役立たずの足手まといの私だけ。 「ぁぁぁ……」 大切な人たちみんなを不幸にしてぬくぬくと一人守られるだけだった。 「ぁぁぁぁぁぁぁぁ――」 疫病神の私一人だけだった。 どれだけそうしていたか。 たった一人、戦闘の焼け痕の中で座り込んでいた 立ち上がる気力なくも考えることもせずにただただそうしていつまでも俯いてた。 「ふむ……コピーして兵隊化した劣化デクスモンではテイマー付きの個体には相打ちが精々か」 「……」 さっきまで誰もいなかったのに、傍に現れた誰かが独り言を話していた。 人間じゃない、きっとデジモンだ。 一瞬でそうわかるくらいに、怖い気配のする相手。 でも、もうどうでもいいや。 ここで死んじゃったら、創真くんに会えるかな。 そんなことを考えた。 「しかし…良い拾いものだ、デジヴァイス付きの人間とはな」 わたしは、せっかく守ってもらった命を大事にしようともしなかった。 「貴様は今からこのバルバモンの術により、人形になってもらおう」 だからきっとバチがあたったんだ。 「お主にはせいぜい手駒として働いてもらおうか、デジモンイレイザー様の忠実な尖兵としてな」 「バルバモン様、今回の『収穫』報告になります」 「うむ、よく働いた『バイオレット』」 私は今デジモンカイザー様に仕えるバルバモン様の元で動いている。 コードネーム『バイオレット』。 デジモンイレイザー様の忠実なる駒。 バルバモン様は私の恩人だ、この方がいなければ今の私はないと言える。 一人だった私を拾い上げて戦力としてくれているのだから。 …一人?私は、本当に一人だった? 確か、誰かといteeeeeeeeeeeeeeee ―――――なんだっけ、そうだ私はシュラウドモンと一緒にいたのだった。 シュラウドモンは始まりの町で拾いあげたデジタマから孵ったドキモンが進化したデジモンだ。 この子は私のパートナーではないが、出会った時に何故か涙が零れそうになった。 バルバモン様は私が連れ帰ったドキモンに『処置』を施した。 結果、暗黒進化して究極体のシュラウドモンへと進化したのだ。 彼がこの姿を見たら悲しむだろうか… バルバモン様は彼の肉体データと記憶データがデジタルワールド中に散らばっているという情報も教えてくれた。 それからというもの、この5年間シュラウドモンと共に砂漠で針を探すような日々を送って彼のデータを集め続けた。 肉体データを集めれば、彼の体を復活することができる。 記憶データも集まれば、彼の記憶も戻すことができる。 彼に、また、会えるのだ。 その一心で集め続けた。 しかしその肉体データも復元段階でどこかへ飛び去ってしまった。 まるで私から逃げるように。 彼が私を拒絶した。 それだけでヒビだらけの私の心が壊れていく気がした。 あの日から、私はもう正気ではないのかもしれない。 あの日?あの日ってなんだろう? 思考がまとまらない、何か、思い出せない。 彼?彼ってだreeeeeeee ―――そう、肉体データだけで復活した対象は、今デジタルワールドで記憶データを集めているらしい。 バルバモン様は「欲しいのであればいつものように『収穫』してくるといい」との仰せだった。 『収穫』…デジタルワールドでデジモンを、リアルワールドで人間を集めてくることだ。 集めたこれらをバルバモン様の手によりデジモンイレイザー様の忠実な部下とすること。 非道な行いだが……非道?デジモンイレイザー様の崇高な力の一助とするのだから、でも、これは誘拐で、いけないことのはzuuuuuuuuuuuu ―――私は、バイオレット、デジモンイレイザー様の、駒 「デジタルワールドに来てからのことはなーんも思い出せない」 皆里創真は記憶の集まりはどう?と問われて、そう話す。 「でもきっと大丈夫だって」 ニカッと外見よりも幼さを感じさせる笑みを浮かべて笑う。 「なんせなんでそうなったのか知らないけど、体までデータでバラバラになったのに俺復活してるんだよ?」 「大体なんとかなるって!」 ちょっとツッコミづらいネタだったが彼にとっては鉄板ネタだった。 俺一回死んでるからー!と笑い飛ばしてはみんなどういう反応をしていいか曖昧に笑う。 でも本人は本当に特に気にしてなかった。 「早く記憶データ集め終えたいなー!」 一回死んだからなんだろう? 一度終わった命だったのなら今つながってるのでまた始めたらいいのではないか? 「俺には選ばれし子供の仲間もいるし!」 覚えてはいないが、会いたかった仲間がいる。 「一人じゃないっていいことだ!」「そもそもわたしがいるのよ」 ぽよんと隣で跳ねるユキミボタモンもいる。 ―――だから、思い出せないあの子に会いに行かなきゃ。 「一人じゃできなかったこともきっとなんとかなるさ!」「単純なのよー」 ―――大丈夫、一人じゃない。 みんなで一緒に迎えにいけばなんとかなる。