「勇太っ……!」  気づけば胸の圧迫感、不快感、嘔吐を感じさせる何かが全てが描き消えている。光はそれが勇太がやったのだと理解し、しかしすぐに悲鳴を上げていた。  戻ってきた勇太の姿を見る。衣服には火傷が残っている、顔には細かな切り傷、足取りは千鳥足、表情は無理に笑顔を作っているのがまるわかりで痛々しい、戦いの後、それもただの戦いではない闘争の後であることは誰の目にも明らかでだった。  勇太のパートナーであるヴォーボモンも大差はない、傷は見えないが疲労困憊の様相を隠しきれていなかった。  足が動いていた、駆け寄る。意志か本能かいまはどちらでもいい、勇太、勇太、ただその考えだけが脳裏を支配している。抱き着いた、いつもならばこのようにすれば力強くとは言えなくても抱き返してくれるはずなのにそれが来ない、腕を動かす力もほとんど残っていないのだろうということを察しさせた。 「勇太っ……」  抱きしめて頬を擦る。 「ぁ……光……ただいま」  寝ぼけている声だがそれは寝ぼけているように聞こえるだけで実際は落ちかけている意識を無理につなぎとめているだけなのだろう、気絶するのを無理に堪えてただ戻ってきた。光はその事実にさらに勇太の体を抱きとめる、ここで離してしまえばきっと倒れてしまうのだろう、そしたら勇太がどこかに行ってしまう気がしたから絶対に離さないつもりで両腕に力を込めた。 「あぇ……なんかあったかぃ……」 「馬鹿っ……」  何かを言おうとして何の言葉も出てこなかった、いつもならば悪態など意識していなくても出てくるはずなのに、その全ての言葉が描き消えてその一言だけが残る。 「バカバカっ……馬鹿勇太っ……!」  本当はねぎらいの言葉の1つくらいはかけたいはずなのに、染みついた言葉がただただ出てくる。 「あは……馬鹿でゴメン……」  苦笑するような言葉で言ってくる。そうじゃないのに、違うのに、本当は馬鹿なんて言葉で迎えたくなんてないのに、しかしそれに美味く返すような言葉を持ち得ていない事実に愕然とする。 「でも戻ってきたでしょ」  そんな自己嫌悪に陥る思考を勇太の言葉が引き戻す、考えて考えてようやく1つだけ自分でも返すことができる言葉を思い出した。 「お帰り」  小さくか細く泣くような声で言う。ん、と帰ってきた言葉に安堵を感じる。 「光ちゃん」  その言葉は後ろから来る、良子のものだった。 「何?」 「えっと……そうしていたのはわかったけどさ……流石に立たせっぱなしはちょっとだし…寝かせてあげよ?」  ピリついた感覚を発しつつ良子に対応し、それは正しいものだった、ふらついた足で立たせているのは良くない。 「はぁ……しゃーないね、クロウ手を貸せよ」 「言われなくてもわかってるよ慎平」  その状況を察して慎平とクロウが前に出る、少年の体重を少女が支えるのは大変だ、力仕事は男の仕事なんて時代はとうに過ぎたがそれでも現実として力の差というものがある。  しかしそれを光が振り払った。 「私がやるから……」 「おいおいお嬢様…流石にそう言ってる場合じゃないって」 「実際問題勇太のことどうやって運ぶ……」  慎平とクロウの言葉を遮ったのは竜馬だ、片をつかんで首を振る。 (無粋はいかんという顔) 「……っはぁ……わーかりました、どーなっても知らねーぞ」 「ま……こう言うのもアリかね」  そう言いながら男たちがさる、残っていたのは良子だがその良子も軽く笑って自分のバックパックを漁って1つのものを取り出して渡した、ゼリー飲料だった。 「これ…多分お腹減ってるかもしれないからさ、もし起きたらこれ上げて」 「……わかった」  おずおずと受け取った。柔らかいパックに吸い口がすいているタイプのものだ。コンビニなどで普通に売られている市販品。 「それじゃ、後はよろしくね」  そう言って良子も離れて行った。  残されたのは勇太と光だけだった。 〇  あまり力のない光にとって同年代の男子をキャンプ地のテントに運ぶだけでも大仕事だった。本当はもう少しだけ今日先に進む予定だったが勇太の消耗具合を鑑みて日を明かすことを決定したのだ。  全部あのボンクラおやじのせいだと言うのはクロウの弁だったがそれに反対するものは誰もいない。事実として迷惑を被ったのだからだれもそれに非を唱えるものはいない。だが、いつもと雰囲気が違ったの事実、どこか纏うものが違うというべきか、だからなんだと言えばそれまでだが。  キャンプの少し離れたところ、勇太を横たえるのに丁度いいところに勇太を寝かせた。その隣に光が座り込んだ、空を見る既に星がきらめている、夜になっていた、戦いの後何をしたかもうほとんど覚えていない。正しくは戦ったのは勇太だけだが、しかしその後やったはずの雑務を何も覚えていない。上の空だった。  人差し指で勇太の鼻先を小突く。 「心配かけないでよね……馬鹿」  近くに居ようとするヴォーボモンと認めたくはないが自分のパートナーのデビドラモンは適当に言いくるめてキャンプ地側に置いてきた、それが少しだけ光の行動を大胆にする。勇太の額に手を置く、撫でた、少しばかり普段にはできない優しさがにじみ出ている。これをいつも出すことができればと思い、無理だな、とすぐに諦めた、優しくすることなんてできない、反発することでしかその態度を表すことの出来ていない自分には。  思う、脳裏に浮かぶ最低なクズ親父のことを、とある雑踏で自分に売春を要求してくる脂ぎった中年のことを、そう言った自分をコケにしてくる男子のことを。勇太はそのどれとも違った、確かにまだ幼い部分もある、それでも勇太は光をまっすぐに見た、茶化すわけでもなければふざけるわけでもない、ただ自分のことをまっすぐに。 「……」  今は伏せられている瞼の先にある瞳を思い浮かべた、あの何の曇りもない瞳で見られれば光は自分の内心の全てをのぞき込まれているようにすら感じてしまう。  それがどうしようもなく光の心をざわつかせる、そんな奴らはごまんといた、自分のやっていることを説教していい気になる奴、自分の境遇に同情する奴、そんな奴らは大概その眼の奥に欲を抱えていた。道を間違えている若い人間を導いて野郎、同乗して木を弾いて野郎、そしてその体を貪ってやろうという邪念。  だから本当はそんなの大嫌いなはずなのに、勇太だけは嫌だと思えなかった。むしろ入り込んでくるときに自分から迎え入れようとする感覚すら覚えた、触れられたくない柔らかい部分をさらけ出してそこに触れさせようとすらしている。  何も言わないままに勇太の手を取った、何も言わず自分の胸に触れさせる。ドクリと心臓が震えた気がした、普段ならしない、できないようなことを今はしている。 「んっ……」  背筋に震えが走る、男に触られるなんて嫌な記憶しかないはずなのに勇太の手が肌に触れるだけでその嫌なものが全て消えていく気すらした。今この瞬間の間隔が自分にとっての全てとすら思える。  服の上側を少しだけ降ろす、胸を露出させた、同年代に比べれば少しだけ膨れた旨を外気にさらす。1度だけ身震いをする、普段出さない部分をだしたときのくすぐったさがそうさせた。  勇太の手を直接触らせてみる。痺れが来た、甘く脳が蕩けそうな痺れ、そこに一切の不快感はない。むしろもっと自分の肌を押し付けたいとすら思った。それだけではない自分の我儘な気持ちが溢れてくる、これは光が意識のない勇太の手を取って自分から触らせている。勇太が自分から求めてほしい、自分の自由意志で乳を触り乳首を弄り求めてほしい、それだけではない、服を剥がし、自分の女を蹂躙してほしいと。  だがそんなことを勇太はしないのだろう。勇太が自分に木を向けているのは知っている。そしてそれは欲の抜けているもので、だからこそ光が自分は引かれたと思っている。だから来ない、自分がどれだけ求めてもきっとまた柔らかい笑顔で首を振るのだろう。それがどうしようもなく悔しかった、自分がいらないと振り払うものは、本当にそうして欲しい人がそう求めてくれない。ズルいと思った、これだけ自分が思っていることを思っているのに、目をつぶり寝息を上げている勇太はその内心をわからない。  その心がまた動きを大胆にさせる。スカートを少しだけまくり上げて、手を股の中に導く。普通ならば触らせるような場所ではない、だったら今はきっと普通のことではないのだろう。パンツのクロッチ部分を少しだけ避けて直に勇太の指を押し付ける。閉じている分を開いて奥に、最初はそんなことなんてするはずじゃなかったから濡れていなかった、中の膣肉部分が勇太の指で形がゆがむ。 「つっ……」  今が冒険をしている間であるということを忘れていた、そのうえただでさえ少年然としている勇太が爪を気にかけていると思ってはいなかったがやはり伸びていた。 「これくらい……」  しかし自分の痛みを無視してもう少しだけ自分のナカへ、そして少しだけわかっている自分の中の感じる分を指で押させた、妄想する。 『光はここがいいんだね……』  きっとそんなことは言わない……言うかもしれない、どちらだろうと思った、もしかしたらエッチなことには少しだけ性格が変わる可能性だってある、そう言うのもギャップがあっていいかもしれない。  そんな妄想をしながら指で擦り上げ続けるとだんだんと湿り気で満ちてくる、粘質でまとわりつくような淫水、自分の中の女が表れている証拠。動かせば動かすほどにどろどろとしたものが奥から流れてくる気がする。それは光の中の欲望を表しているように思えた、勇太に纏わりずっとそうしていたいという思い。 「っ……くっ……ぅっ……♡」  押し殺すような声を上げながら光は満足するまで指を動かす、きっとこのままだとパンツが濡れるんだろうな、などと言う冷静な思考も今はどこかに消え去った、年頃ともなれば男女ともに異性への興味が出る。光は自分のトラウマからきっとそんなことを感じたりはしないのだろうと思っていたが、そんな例外は存在しなかったらしい、性について散々な目に合っているのに自分の中の本能的な部分は今だに残っている。 「っ……!!!♡」  身震いをした、脳内を振るわせ、それが体に出ているように感じる。荒い吐息を吐き出しながら体を揺らす、汗をかいていた、へばりつく髪の感触が気持ち悪い。それでも内心に湧きあがる心地よさと快感と、そして充実感がそれをかき消す。 「……勇太がこんなにしたんだから……」  言い訳をするように告げる。聞こえていないと言うのはわかっているのにそれでも言わずにはいられなかった。  勇太の手が自分の雫で月明かりに輝いているのが見える。水で流さないとな、などとぼんやり考えて、最後に1つだけ自分の中の猥雑な心が動いた。 「起きないでよ」  淫水まみれになっている勇太の指をそのまま勇太の唇に添える。リップを引くように勇太の唇に添わせた、誰も知らない自分が作った秘密に欲望が少しだけ満足した気分になる。きっとこれからずっと知らないまま勇太はこの唇を持つことになる。顔洗っても取れはしない、光が自分の蜜を塗りたくったという事実。こんなことをしている自分を勇太は引くかもしれない、離れるかもしれない、それでも永遠にこの事実だけは消えない。  光が満足するまで勇太の唇に水を塗り付けて、最後、その手を空に掲げて光が言う。 「勇太は……私んだ……」  誰にともなくそう言う、たとえがある、月が見ているという言葉、だから見せつけた。  輝く月は何も言わない。