レジストシティーに向かう道すがら勇太達の前に砂漠が広がっていた。 「うわ。こんな砂漠越えてかないとなの?」 「ううん。こんなのなかったよ。」 「最悪…また、あの蜘蛛女みたいなのがいるんじゃないの?避けて通った方がいいんじゃない?」 光は前に訪れたアルケニモンでの街を思い出していた。 「でも…とってもひろい。まわりみちしてたらもとのみちにもどれないかも…」 「ヴォーボモン。あんたほんとに道覚えてるんでしょうね…」 光はヴォーボモンの口を引っ張る 「ほんほらっへ。そほまへわかひゃにゃいよ。」 最近このふたり。友達の家で見た姉弟みたいになってきたと勇太は思った。 「君たち、この砂漠渡りたいの?」 後ろから声をかけられた。後ろには頭から翼が生えてパタパタ飛んでいる小動物みたいな生き物がいた。 「パタモンだ!とっても素直でいいデジモンだよ!」 「可愛い!え!?何この子!?1匹持ってていい!?」 「う゛う゛う゛う゛」 「わわ苦しいよ」「食べられる!?食べられちゃう!?」 光とデビドラモンがやってきたパタモン達を抱きしめている。 「はは…渡りたいんだけど何か方法あるの?」 「うん。近くに僕達の村があるからそこに行けば方法があるよ。僕達ねこの砂漠と一緒に旅してるんだ。」 「砂漠と旅してる?」 「そ!この砂漠動くんだよ!端の部分にいれば安全だから僕達は砂漠に乗って旅してるんだ!この砂漠のサボテンおいしいんだ!」 「え?じゃあしばらく待ってれば大丈夫じゃない?」 「う〜ん。砂漠は気まぐれなんだ。もうしばらくは動く気配がないんだ。」 「じゃあやっぱりその方法教えてくれる?」 「いいよ!」 近くのパタモンの村に移動する。そこは小さな赤、青、黄、緑の小さな家が並んでいた。空の青さと合わさってまるでガリバー旅行記に出るようなおとぎの国だった。 「住んでるとこまで可愛いじゃない!」 光は抱えてるパタモンに顔を埋めて顔を横に擦る。 「うわわわわわ」 「これを使えば砂漠渡れるよ!」 そこには木製の横長の収納ボックスのような物があった。 横には鉄の棒が収納ボックスと地面を繋いでいる。 「何これ?」 中を見てみると金属の板の上にマットレスが敷いてある奥には幾つかのボタンと扉がある小さな部屋だった。それが2組ある。 ボタンには部屋が居心地悪い時。飲み物食べ物欲しい時。等々の説明文が付いている。 扉を開けるとトイレと浴槽があった。ここも決して広くはないが物理法則もあったもんじゃない構造となっていた。 「これで?どうやって砂漠渡るの?」 「うん。まずねここの砂漠は見た目よりそんなに広くないんだ。半日もあれば渡りきれちゃう。」 「えっ?じゃあ準備して渡れば別に…」 「でもね砂漠に足を踏み入れると砂漠がデジモンを作って追っ払っちゃうの。」 「砂漠が…え?」 「あっほら。さっき無理矢理渡って行ったオーガモン達!」 パタモンが指を刺す方を見ると複数のオーガモンが砂漠から一目散に逃げてくるのが見えた。後ろには砂漠色の複数の… 「巨大なデジモン!?」 そこには恐竜型、カブトムシのような見た目の恐らく完全体であろう強靭そうな見た目のデジモン達がオーガモン達を追いかけていた。 「デビドラモン!」 「う…「わっわ!大丈夫だよ!」 パタモンが静止する。 オーガモン達は勇太達に目もくれず走り抜けていった。 オーガモン達が去るのを見届けるように追っていたデジモン達は砂に戻っていく。 「こうやって村や砂漠に無理矢理入ろうとするのを守ってくれてるんだ。飛んでいけばよっぽど害意がなければ問題ないけど…雨が降る日は出てこないけど砂漠に雨なんてよっぽどじゃないと降らないんだ。」 「な…なるほど。」 「そこでこのオルゴンボックスの出番ってわけ!」 「オルゴンボックス?」 どうやらこの胡散臭さ全開の箱の名称らしい。 「そう!僕達は飛べばいいけど前から渡れなくて困るデジモンが結構いたんだ。 そんな時に君達よりおっきな人間さんと黒いもんざエモンがここに入れば雨が降るって!デジモンひとりでもいいけどふたりのデジモンが入って仲良くすると雨が降るんだ!それでね!おっきな人間さんがもし僕達より小さい子供達が来たら是非入ってくれって!…あっこれその時は渡して欲しいって説明書…?なんだって」 説明書には男女1名ずつ定員2名(厳守)し雨が降るまで絶対に出てはいけない。 そして1番重要なのは下着姿で入ること。と書いてあった。 その下にリピドーとか横文字がツラツラと書いてあったが何も頭に入ってこない文章だった。 胡散臭さい…パタモン達に悪意や負の感情がないのは分かる。だがこのオルなんちゃらボックス…それを設置した人間からの何か漂う芳ばしい臭いを感じ取ることができた。 勇太は光に目線を送ると光は露骨に怪訝そうな顔をしている。 「どうする?」 光の過去の事もある。勇太自身はあの過去の具体的な意味を半分もしっかり理解できてはいない。だが感覚としてはどういったものなのかをある程度感じ取れる事はできたそしてこれにはそれがあるような気がする。できるだけ光を悲しませるような刺激はさせたくはなかった。 そこも含めて光も理解してくれてると思い判断を仰いだ。 「…嫌だけど…滅茶苦茶嫌だけど最近またお風呂にも入れてないし…お風呂あるし…ていうかここ迂回するのも…迂回中に砂漠が動いたら…う〜ん…ええい!入るは勇太!!」 光が全体の事を考えて決断した。その事実に勇太は感動を覚えた。 「お風呂やっぱり入りたいし!入るわよ勇太!」 …違うかもしれない。 「じゃあヴォーボモン達もあっち入って手伝うね!」 「デビドラモンもがんばる!」 「あんた達もちゃんとお風呂入るのよ!デビドラモン!しっかりヴォーボモンが入るか見張ってなさい!毎回水浴びも適当なんだから! 「わかってるよ!ちゃんと入るよ!」 「デビドラモンしっかりみはってる。」 「これってふたり入る前にお風呂使えないの?」 「僕達は使った事ないけど閉まらないと駄目みたい。何かあったら呼んでね!すぐ開けるから!」 オルゴンボックスの扉を閉める。 照明が薄暗く狭い。 「せまっ…しかも結構暑苦しいわね…」 部屋は狭く密着しないといけない。しかも今はお互いが下着姿だ。光に絶対に見るなと言われて見てはいないがすぐそこに下着姿の光がいる事を考えると勇太の心臓は跳ね上がった。そして言いようない感覚が胸から下半身にかかり感じた。 「…変な事考えてないわよね?」 「なっないない!絶対ない!そんな事絶対にないから!目…ずっと目瞑ってるから!」 「そ…じゃあ私お風呂入るから覗かないでよね!」 「も…もちろん!でででございます!」 「そう…」 光が浴槽の部屋に移動しようとした時どこからかアナウンスが流れてきた。 「ペアの位置はオルゴンボックスが感知しています。トイレ以外は必ず一緒の部屋にいるようにしてください。警告を無視する場合はロックをかけます。」 えぇ…勇太は反射的に光の顔を見る。お互いの顔は恐らく熱を帯びていた。 「絶対見るんじゃないわよ!!!!絶対よ!!!」 「分かってるよ!見ないよ!」 結局勇太も浴室に移動し湯船と逆方向に体育座りをしていた。 「シャワーで済ませるから水…濡らさないと思うから…」 「う…うん」 光の方向から布擦れの音がする恐らく下着を脱いでいる。 勇太は目を瞑っているため余計に聴覚が優先され気を取られてしまった。 ぱさっと恐らく下着が地面に置かれた音がする。 これはどっちだ…?瞬間的に過ぎった疑念を勇太は払拭した。だが次にはどこか匂いがするようにも感じた。いつも嗅いでる匂いだ。なんで気になるんだ。勇太はそこまで具体的に何を気にしたのかは理解してはいなかった。その匂いが下着を取る事で露わになる箇所で発生する匂いを気にしたのは無意識であった。 湯船に入る音がする。肉が地面を蹴る音それは普段とは違う全てが露わになり発生する特別な音にである事が脳裏に浮かぶ勇太はそれをすぐさま払拭する。この何秒にも満たない間に何十回も同じ事をしている気がする。そしてこの払拭する思考はこの先も至福と興奮そして苦悩の合間に何十何百と行われることになる。 光が布を擦り石鹸だろうか身体を擦る。その音で今それはどこの箇所で音を立てているのだろう。そして今振り返れば…不埒な妄想が何度も何度もぶり返す。幾ら口では自分が光を守ると言ってもそれはこの不純な感覚の為なのだろうか。少しの落ち込みと不純な興奮にげっそりする感覚を覚えた。 「勇太!終わったわよそれより見て見て!ここの瞬間洗濯機とかいうの一瞬で下着綺麗になったわよ!あんたも…ってあんたげっそりしてない?」 「あっ…うん…はい。」 勇太はこの数十分で数日間動き続けたような精神的な疲労感があった。 交代して湯船に入る。身体を洗う事に集中すれば少しは気持ちも晴れるだろうと勇太は思った。 備え付けのシャンプーで頭を洗い石鹸をタオルで泡立て身体を擦る。 さっきの下半身に感じた猛り。アルケニモンの街で雨で濡れた光を見た時も感じたもの。 下半身を洗っている時にふと気付いた。 このタオルも石鹸も常備されていたのはひとつ。 …つまりこれは先光も自分が擦っている部分を… 「ふぅーーーーン!!!!!!!」 勇太は瞬間的に頭を壁に打ち付け思考を払った。 「勇太!?大丈夫!?」 「大丈夫…マジ大丈…あっ」 心配した光がブラインドを開け勇太の方を見ていた。 そこには勇太の身体を隠すものは何もなかった。 「変な奇行してんじゃないわよ!!!バカ!!」 「ご…ごめん!!」 光は再び背を向ける。 勇太が先程やっと払った感覚はより強く勇太を襲った。 …勇太を襲った感覚。それを明確な理解と感覚で光にも襲っていた事を勇太は知らなかった。 「なんか…サッパリするどころか疲れたわね…」 「そうだね…」 浴室から出て薄暗い部屋でお互いを背にして座る。 沈黙が流れる。暑苦しさと光の石鹸に匂いに勇太の頭がくらくらしてきた。 「…ねえ勇太はなんで私に優しくしてくれるの。」 「え?なんでもクソもないだろ。」 先に口火を切ったのは光だった。 「私…自分で言うのもアレだけどわがままだし怒りっぽいし、クラスでも浮いてたじゃない…あんた別にクラスカースト高くもないくせにあの無駄に身体だけデカいゴリ松とかクソ山が嫌がらせした時も止めに入ったじゃない…」 ゴリ松とクソ山はクラスのガキ大将っぽい連中…光の言葉を使うならカーストの高い連中。その陰口とかで言われる渾名だった。ふたりとも反抗的な光を面白がってなのかよく突っかかっていた。 その時にどこから聞いて覚えたのか心ない言葉を光に言う事もあり度が過ぎてると思った時は勇太も仲裁に入った。それから勇太自身も定期的に突っかかれている。 「そりゃああんなのきっと言っていい事じゃないし光に対してのあいつらのああ言うのはムカつくよ…というかここに来る前に会った時やっぱり覚えてたんだ…」 「そりゃ…悪かったわね…なんか恥ずかしかったのよ…ていうか話逸らさないで。」 「えっと…あんまり話した事もなかったけど…なんか仲良くなりたかったんだ…ずっとつまんなそうで悲しそうだったから…いっぱい楽しい事あるんだって。伝えたくて。その…恥ずかしくて声かけられなかったけど…」 「あんた、私の事好きなの?」 「はああ!!!???ちが…違わないけど…へああ!なんで!?」 急な言葉に勇太の全身が紅潮し汗が出る。 「だって、そういう事じゃないの?」 光が勇太の方向に振り返る。 「ひ…光?」 「ねえ…勇太…私は…」 顔が近付いてくる気がする。これってまさか… 勇太の全身が強張りより体温が上がっていく。 「へ?」 そのまま光は勇太に覆い被さるように倒れた。 「……!…のぼせてる!?」 一瞬思考が止まったがすぐに理解した。妹ものぼせて倒れた事があったからだ。 「まずい…パタ!!「メディカルチェックをします。」 部屋からまたアナウンスが流れる。 「クーラーをつけます。適時足から順に冷やしていき、ちょっとずつ水分を補給させてください。」 部屋が少しずつ涼しくなり氷枕とポカリスエットが壁から出てきた。 「…なんだこの部屋。」 勇太はアナウンスに従い対処する。 光の顔も徐々に苦しそうな顔から和らいでいる。 「よかった…」 勇太は安堵する。もはや光の下着姿も気にしていなかった。 「大丈夫?苦しくない。」 「うん。ありがと…」 弱っているのかいつもより光は素直に返事をしている。 「ねえ…勇太。」 「大丈夫?どうした?」 勇太は光に優しく話かけた。 「膝枕して…」 「…いいよ。」 また顔が紅潮するのを感じたがこんな状態なら言う事を聞いてあげたい気持ちが勝った。 勇太は光を膝枕する。やって少し後悔した。 下半身の近くに光の顔が来て息が吹きかけられる恥ずかしさとこそばゆさで胸の鼓動が早くなった。 「固い…」 「へ…うわ!?」 膝枕が気に入らなかったのか光は勇太を押し倒し胸の辺りで寝息を立てている。 「…いつもお疲れ様。」 勇太は光の頭を撫でてこの体制を受け入れた。 「…」 「どうした光?」 光が何か寝言なのか言っている。勇太は耳を傾けた。 「…ママおっぱい」 「…?…っっつ!!!!!?????」 光は勇太の乳首を吸い上げた。 「駄目っちが…うんっ!俺おっぱい…出な!?あっあっ!!!!」 暫くしてパタモンの雨が出たという声でふたりは外に出た。 「なんやかんや寝たらスッキリしたわね勇太!」 「そうっすか…」 勇太は胸を押さえどこかいつも以上にげっそりしていた。 「…あっヴォーボモン。お前達どう…」 出てきたヴォーボモン達は俯きなぜか黙っている。 「「「「…」」」」 気まずい空気が4人に流れた。 「またねえ!」 「またどっかでね!」 パタモンから1本の傘をもらいそれを勇太達はさして砂漠を渡る。 どこか今までの2人より近くに寄り添って歩いているのはその一本だけの傘のためかそれともまた別の理由か。