… | 1024/04/11(木)21:40:14No.1177274221そうだねx1ついするすると色んなことを口にしてしまった。けれどどれも普通のことだ。 そう、普通に。普通に挨拶をし、普通に近況を語り、普通に───少しだけ身の上話をした。聖堂教会に追われてきた過去を。 彼女の眼差しとピオジアの視線が重なり合った時、一瞬だけ時が止まったかのような錯覚を覚えた。 彼女の瞳はまるで硝子珠のよう。何の色合いもなく、ただピオジアだけが映っている。 その透き通った様に感嘆した途端、ピオジアは彼女へ何と返事をすればいいのか理解できた。そう返すべきだと心の底から思えた。 「ありがとうございます」 ベンチに座ったまま、頭を深く垂れて礼をする。 その断りを聞いて彼女はピオジアを見つめたままぱちぱちと瞬きし、やがて残念そうでも安堵したようでもなく淡々と呟いた。 「そうですか」 そしてフラスコの中身を2つのマグカップに注ぎ、蠱惑的な香りのする黒い飲み物をカウンター越しにピオジアへ差し出した。 ───その日以来、彼女がピオジアに「やりましょうか」と尋ねたことはない。 けれどここで彼女のコーヒーを口にするたび思い出す。 あれが彼女なりの気遣いで、優しいけれどとても恐ろしい問いかけだったのだと。 |