幸せが手に入ったはずなのに。
自分がどこかに浮いてるような感覚がある。
この空間はなんなのだろう。
今、ここが崩れてしまったら。
余計なことばかりが気になってしまう。
頭が空っぽにできない。
寝返りを打っても変わらない。
今日もまた、眠れないのか。
そう思ってブルーは重い気分になった。

翌朝。
「ブルー、大丈夫か？」
「…ちょっと辛い」
遊びに行ったレッドの家で、ブルーは弱音を吐いた。
最近は両親が出張で家にいない。
だからこうして、近所に住んでいるレッドに相談も兼ねて会いに行っていた。
「何日寝てないんだ？」
「今週入ってから、ずっとかな。
正確にはわからないけど…」
あくびが出て、話が途切れてしまう。

「ごめん…」
「いいよ。でも、寝れないってどれくらい？」
「正確には、寝るまですごい時間かかるの。
何時間も、ベッドで寝転がってようやくかな」
入眠障害というものだろうか。
眠りにつくまでが長い。
完全に眠れないまではいかなくても、眠れそうになったところでまた意識が戻ってしまう。
「アタシもどうにかしようって、運動とか食生活に気をつけてみたりはしたの。
でも成果が出なくて…」
またあくびが出る。

今も眠気はきている。
でも、それで眠れるまではいかない。
そこがもどかしい。
「ここなら寝れるかな？
枕変えたら寝れるようになったって話も聞くし」
「…やってみようかしら」
この際なんでもいい。
やれることがあるならやりたい。
そうしないと、解決しないから。
「ベッド借りるわ。
ひょっと眠れるかも」
「おう」
嫌な顔一つせずに、レッドが了承してくれた。

しばらくした後、リビングに戻る。
「どうだったか？」
「…ダメね」
彼の隣に座って、ため息と共に報告する。
時計を確認すれば3時間。
ベッドに入ってからそれほどまでの時間が経ったが、結局眠れはしなかった。
「昼間だったからじゃないか？
明るいうちはベッドに入っても寝られないって言うし」
「そうかも…」

普段に比べて語彙力も思考も低下している。
気の利いた返事もいい案も思い浮かばない。
「ごめん。今日泊まっていい？」
家に帰る気になれない。
さっきは眠れなかったが、少しでも環境を変えてまた試してみたい。
「いいよ。それでブルーが寝られるようになるなら」
「ありがと…」
礼を言うが、そこでブルーは急に意識が遠のいていった。

「…ん」
降りていた瞼を上げる。
眩しさに慣れず、目を細めた。
「起きたか？」
「…うん」
意識が中途半端に戻って、どうにか簡単な返事をする。
「ごめん、寝てた」
「いいよ。それより、よく眠れたか？」
「うん、多分」

理由はわからないが、眠ることができた。
起きた後も、眠気は完全には晴れないが倦怠感もない。
最近の中では、きちんと眠れた方だった。
「もしかして眠れなくなったのはブルーの両親が出張に行った日からか？
だからオレのいる家でなら寝られたのかな」
「…そうかも」
言われて初めて気がついた。
両親がいないから。
その寂しさから、眠れないのか。
レッドに指摘されなければ、その発想に至れなかった。
それほどまで、自分は憔悴していたのだろうか。

「やっぱり、今夜はここで寝るわ。
ちょっとでも寝られたんだから、まだ寝れる可能性は高いもの」
「オレはさっきもいいって言ったから構わないけどな」
笑顔でレッドが応えた。
可能性があるなら縋りたい。
それを了承してくれたことにブルーは感謝していた。

その夜。
「…やっぱり寝れない」
ベッドの中で、ブルーはつぶやいた。
眠気は来ても、結局まだ眠りに到達できない。
時計を見ると、2時間も経った。
自分がベッドに入ってから。
結局変わらないのか。
絶望感から、またため息が出た。

リビングに行くと、レッドがソファで寝ていた。
自分にベッドを譲って、彼はここを寝床としていた。
「ごめん…」
せっかく譲ってもらっているのに。
眠ることができなくて。
申し訳なさで、やるせなくなる。

彼の隣に座る。
昼間のように。
それならば、あの時のように眠れるのでは。
その可能性に賭けようとした。
だけど、まだ眠れなかった。
昼が嘘のように、また眠りにまでたどり着けなくなっていた。
なぜ。
なんでまたこうなったのか。
焦燥で頭がモヤモヤする。

レッドの手に自分の手を重ねる。
肩に頭を乗せる。
彼に甘えるように。
すがるように。
手から、温もりが伝わる。
彼の体温が。
安心する。
ここに彼がいると教えてくれる。
眠れない世界にいる自分。
それでも、隣に誰かがいる。

1人でいること。
それが怖かったのか。
誰にも頼れない孤独な生活。
かつてのそれを思い出して。
あの頃に戻ってしまったような気になって。
でも、今は違う。
レッドがいる。
隣に、彼がいる。
そう思うと、心が暖かくなる。

より、彼に身体を寄せる。
その存在を、もっと感じたくて。
心地いい。
ベッドに横たわる時とはかけ離れた、男性の固い身体の感触。
それでも、今のブルーにとっては。
愛しいぬいぐるみでも抱きしめているような安心感をもたらせていた。
「ん…」
ブルーの意識が遠のいていく。
よかった、とかろうじてそれだけは頭の中で言語化できた。

「…なんでだろ」
ふと目を覚ました時、レッドは愕然としていた。
いつのまにか、隣でブルーが寝ていた。
それ自体は喜ばしいことだ。
彼女の不眠症が解消されたのならば、大変めでたい。
だが、今の状況。
なぜか、彼女に抱きつかれていた。

女の子の身体。
筋肉のついた自分と違って、ふわふわで柔らかい。
あちこちに、彼女の感触があって気が気でない。
心臓がうるさく響く。
成長したブルーの身体。
子供の頃よりも、大きくなっていてあの頃よりも抱き心地が違う。

眠気が一気に吹っ飛んだ。
間近でみる彼女の寝顔に見惚れる。
まるで絵画のように、あどけなくも美しい。
こんな美少女が、すぐ近くに。
自分に密着して眠っている。
下手に動けば、せっかくの眠りを妨げてしまう。
だから、何もできない。
ただ見ているしかできない緊張。
それでレッドは動けずにいた。

夜が明けて。
「んー、よく眠れた」
「それはよかった…」
上機嫌になりながらブルーは伸びをした。
身体が軽い。
寝心地は悪いはずの環境なのに、目覚めは最高だった。
振り切れなかった睡魔も今はない。
何日か続いていた倦怠感も、もはやどこかに消えていた。

逆にレッドが辛そうになっていた。
明らかに目元に隈ができている。
昨日までの自分のように、疲れ切った声をしていた。
「ごめん、アタシがくっついてたせいでしょ」
「大丈夫、ブルーが寝れたんだからオレはいいよ」
そう言いつつ、あくびをする。

「お礼に今日はご飯作るわ。
それに、今夜は一緒にベッドで寝ましょう。
今度は2人で寝れるようにならないと」
「そうなったらいいんだけどな…」
そう言って、レッドはため息をついた。
今度は彼が苦しむことになるようだ。

以上です
閲覧ありがとうございました

俺はイエローに引っ付かれて眠れない夜を過ごしたい

前回は両親と生活するようになって幸せなブルーを書いたので今回は逆にそれによって失う恐怖に怯えるブルーをコンセプトに書きました
その結果レッドがとばっちり受けましたが

>俺はイエローに引っ付かれて眠れない夜を過ごしたい
ワタルのレス
雷惨するワタル

イエローの寝顔がかわいいのは本編で実証済みだからな…
ブルーねえさんは大体寝顔というか気絶してておいたわしい