南の島というのはみんなのんびりしている。否、東京が齷齪（あくせく）しすぎだったのかもしれない。みんな早足で何かを求めて急いでいる。3分後にも同じ列車が来るのにぎゅうぎゅう詰めになってまで乗り込まなきゃいけない焦燥感というの物をみんな持ち合わせていたのかもしれない。
　事実私がそうであった、吉祥寺から聖蹟桜ヶ丘駅の病院まで通うのに毎日命がけだった、2、3本遅い電車に載っても間に合うのだが、我先にと焦って電車に乗っていた。
ある日、階段で女の人が転がり落ちた姿を見たことがある。
誰も助けなかった、私も人混みに押されて助ける事ができなかった。いやそれは方便である。助けなかった言い訳でしかない。自責の念の押しつぶされそうになるが、仕事の忙しさでそれを紛らわしていたというのは事実だ。

この島ではそういう事は起きない、「宗像さん歩くの早いわねえ」と婦長さんによく言われる。
「東京の病院じゃ歩くどころか常に走ってましたから」と返す。これは現実だ。
「そう…大変だったのね…けどここじゃそこまでテキパキやらなくてもいいのよ、無理をして身体を壊されるより長く続けてほしいからね」
婦長の言葉にハッとした、私…無理してたなのかな…無理なんかしてない！
心が葛藤しているが、顔には見せず今日の仕事をテキパキとこなして、いつものように3時に終業する。
「宗像さん慣れてきたら夜勤お願いしたいんですけど…」という台詞が降ってこないのは私が所帯持ちだからだろう。稼がなくてはならない人がここでは夜勤をやっている。そういう事だと私は思っている。…と思っているのは私だけで、明日になれば婦長さんから夜勤の催促がくるかもしれない。…少し怖い。

今晩の宗像家の夕食は『ご飯　アーサーと豆腐のお味噌付け　スーパーで端値で打ってるけどおいしいマグロの刺し身　イカ刺し　昨日の残りの肉じゃが』以上
安い値段で裁かれているが種子島のマグロはとてもおいしい、油が乗ってる訳ではないあっさりしていておいしいのだ、これは東京でも宮崎でも食べられるものではない。
アーサーは海藻の事みたいだ、ちょっと粘り気があっておいしい。
　ふたりでもくもくと食べる、お互いお腹が空いていたのか箸が止まらない。20分もしない内に食べきってしまった。
「ごちそうさまでした」二人で手をあわせる。　
　流しに下膳している最中、草太さんが食器を洗いながら「アイショップに行こう」と誘ってきた。お腹は満杯だけどヨーグルッペを流し込む程度の隙間は胃袋にあったので、二人で暗闇の道をﾄｺﾄｺ原付きで向かう事にした、ﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟーと相変わらずスーパーカブちゃんは情けない音を出している。

　時刻は８時過ぎ、まだ店はやっていた。
「いらっしゃいましー」と若いお兄さんが店番をしていた。店内のBGMはいつもリンドバーグがかかっている。ソフトの検索ソフトで調べると「君の一番に…」という曲らしい
詳しく聞くと環さんは
「リンドバーグ…世代じゃないわね、まだ私も姐さんもちっこかったもの、私、なんか芹沢くんのせいでかなり年寄りに見られてるかもしれないけど私の世代は椎名林檎と宇多田ひかるよあと浜崎あゆみ」
と釘を刺された。たしかに環さんの車に乗ると椎名林檎の「本能」がかかってる事が多い、ガラスを正拳突きしている看護服姿しか思い浮かばないが…あとBUMPOFCHICKENの古い曲…黒猫がどうとか…あと「天体観測」

　とにかくいつものヨーグルッペをチルドコーナーから取り出す。もうヨーグルッペがない生活には戻れないほど中毒になっている。草太さんはコーヒー牛乳かと思ったら私とおなじヨーグルッペ。あとアイスを２つ籠に入れていた
「食べられるよね？すずめさん」と聞く草太さんに私はお腹いっぱいだけどｺｸﾘとうなずいた。甘いものは別腹なのである。
「ﾁｬｯｽ！」という若いお兄さんの掛け声とともにレジで精算をすます。
「ありがとざいましたー」の声で外へ出る。四月というのに少し蒸し暑い。
「いつもの原っぱにいこう、アイスが溶けない内に食べないと」そういうとお互いスーパーカブを飛ばす、飛び石が足に当たっていたい。

県道７６号線沿い、朽ち果てた赤いバス停が目印の原っぱで二人、アイスの袋を開けた。本来なら真っ暗なはずの原っぱだが、紫や黄色の光に包まれている。
「JAXAの明かりだよ、生徒から聞いたんだけど今夜ロケット打ち上げらしい」
「へぇ…だからここなんですね」
草太さんがアイスキャンディーの袋をあける。ソーダー味のガリガリした奴
私はガツンとくるみかんの奴
「そうだよ、ここが一番ロケットの打ち上げが一番綺麗に見えるらしい３年１組の遠野くんには頭があがらないよ、彼はロケット博士だ、いずれJAXAかNASAに就職するだろう」
「小学生ながらすごい逸材ですね」
「打ち上げ予定までまだ２時間もある、何かお話しよう」
草太さんはスマホのJAXAアプリを開きながら私に顔を覗かせる。
「草太さんは３年生の子の教室も掛け持ちしてるんですか？たしか一年生ですよね」
「全校人数15人の小学校だよ、小学生なんて２人しかいないよ、だから低学年全体を受け持っているよ１年生から３年生まで10人、大変だよ一年生のすうがくと3年生のすうがくを同時に教えるのは」
「たいへんなんですね」

「けどみんなまるで兄弟のように下級生の子にはやさしくしてるよ遠野くんもそうだし他の子も1年生2年生の子の面倒を見ている。ある意味学校教育の究極というのを見た気分になったよ」
「なんだかたのしそうですね」
「すずめさんは何かないのかい？」
―――そう尋ねられた私は、東京で齷齪していた頃の思い出を目一杯語った。3分後におなじ電車が来るのにわざと雪隠詰めの電車に乗る。階段からころんだ女の人を助けられなかった事、病棟内を走ってかけずりまわっていた頃の話…とにかく時間に余裕がなかった東京の話…
「わかるよすずめさん、あそこはああいう土地なんだよ」
　草太さんは頷いてくれた。草太さんは20何年もあの土地で暮らしていたから身に沁みてわかっているのだろう
「けど転んでしまったお姉さんの事をすずめさんが気を病むことではない、辛いことかもしれないけど人の波ほど恐ろしいものはないんだ」

　ガツンとみかんを食べ終えて、二人星空を眺める。天の川が美しく流れている。
「授業で聞き齧った程度だけど〜」と草太さんは星座について教えてくれた。北斗七星から大きく尾を描くようにアルクトゥルースとスピカという星が流れている。これが春の大曲線、とても激しく光る星が2つ見えるのでよくわかる
　そしてアルクトゥルースとスピカとデネボラという人一番輝いている星を繋ぎ合わせた物を春の大三角形とよぶらしい、デネボラが属するしし座についてはよくわからなかった。
「すずめさん、宮崎の空は綺麗だったかい？」
「夜空、あんまり見ないんです、あの頃を思い出すから」
　津波により全ての電気が止まり、星空だけが降っていたあの夜を思い出す。星座だけがくっきり見えていたが見る気もおこらなかった。
「そうだね、東京も電気が止まって夜空が綺麗だったよ…でもただ怖くて星空なんか見てる余裕はなかった

草太さんは食べかけのガリガリくんを投げ出して私を抱きしめる。
答えるように私は草太さんを抱きしめる。
ドキドキする…どうしよう…身体がとまらない…草太さん！草太！
私はキスの一線を越えようとした時、地鳴りと共に轟音が島中に響く！

「爆発したの！？」
「いや大丈夫だよすずめさん、離床した」
その正体はロケットだった、定刻午後10時きっかりにH-3A3ロケットが発射された
　草太さんいわくここは特等席だと言っていた。しかしロケットの姿はみえない。
爆煙をあげるロケットとその煙の中に煌々と光るロケットの噴射がくっきりと見える
そして、知識がない私でも解る。一段目を切り離したのだ、燃焼を終えた一段目が燃え尽きるように海へとおっこちていく。
　きっとこの一連の流れを見るための特等席だったみたいだ。
「ほら、すずめさん。もうロケットは電離層を放れ大気圏から脱出したんだ。3分もかからないで地球から飛び立ってしまったよ、早いものだね」
と草太さんが満足そうに言う
「これが見たかったんですね草太さん」
「うん…恥ずかしいけど、種子島に赴任したからには一度くらいロケットの打ち上げが見たかったんだ。しかも深夜に打ち上げるのは稀だからね」
　草太さんがいつになく早口だ、よっぽど好きだったんだろうなぁと思いながら私はヨーグルッペに手をだしていた。

「草太さん？あれは携帯電話か何かの通信衛星ですか？」
「いやもっと大きいものだ…探査衛星だよ」
「探査衛星？」
「ああ、火星や木星に着陸してどうこうするって衛星じゃない。あてのない宇宙をひたすら浮遊し続けるんだ、目標は太陽系外、半永久的に動く原子力電池一つ抱えて。地球との交信が途絶えたらそれでお払い箱さ」
草太さんは少し寂しそうな顔で語り始める
「―――それは本当に、想像を絶する位、孤独な旅であるはずだ。本当の暗闇の中をただひたむきに一つの水素原子にさえめったに出会う事なくただ深淵にあるはずと信じる世界の秘密に近づきたい一心で、彼は音も聞こえない宇宙をさまようんだ」
「なんだか寂しいですね…」
「人間がやらないだけましだよ。機械だから情けはいらない、けど同情してしまうよね」
「うｎ…」

「僕たちはそうやって何処までいくのだろう、何処まで行けるのだろうね、じいちゃんが若い頃にはもう人類は宇宙に足を踏み入れた。これからは海や山がそうであったようにかつて神の領域であったようにこれからは人間の活動の舞台としていつでもいけるくだらない場所になるだおろうね…人の糧ある場所にミミズあり、そのうち宇宙にミミズだでたらどうしようね？すずめさん宇宙服来て真空空間で祝詞をあげる日が近いかもね」
すずめさんは黙ってるヨーグルッペを飲んでいる
「難しいお話は終わりだすずめさん帰ってお風呂に入って寝よう」
「そうですね！」
空になった紙パックをコンビニフックにひっかけてカブのスタンドをあげてエンジンをかける。
すずめさんは思った「草太さんの言う難しい話をいつか理解できる日がくるのだろうか…」と
彼の話は別段難しい話ではないと気づくのは少し経ってからである

――その夜二人は官舎の広いお風呂に二人で浸かって、そのまま二人で抱き合って眠った。
吸血動物に2、3箇所噛まれているのを翌日発見して後日からはあの原っぱにいくときは虫よけスプレーが必須という事を学習した。

うお…

こいつらコスモナウトしたんだ！

まさよししないんですか？

>吸血動物に2、3箇所噛まれているのを翌日発見
ということにした
ってやつじゃないのか？
周りはお盛んねーなんて思ってたりしないか？

貴樹くん...

環さんの音楽のセンスが劇中より生々しくなってる

まさよししろ

まさよししたからここに推定tkkknの子供がいるんだろ！

肉食ガールにトロフィーとして持ち帰られたのか

アカリとまさよしして花苗ちゃんとコスモナウトしたんか貴樹くん！

貴樹くんがおる...

新海作品肉食女子二人がこの島にいるのか凄い土地だ種子島…

種子島ってそういう

>新海作品肉食女子二人がこの島にいるのか凄い土地だ種子島…
mthとhnsnが揃えば完璧だ！

>「そうだよ、ここが一番ロケットの打ち上げが一番綺麗に見えるらしい３年１組の遠野くんには頭があがらないよ、彼はロケット博士だ、いずれJAXAかNASAに就職するだろう」
>3年１組の遠野くん
tkkknが明里にいつまでもメール送らないで肉食サーファーに捕食された末路

宇宙の話になると早口になる草太さんわかる