「おいケンゾー! メシ食う時はそのナメクジ近寄らせんな!」 「やだ! ヌメさんもいっしょがいい!」 「衛生観念ってもんを知らねえのかこのガキ!」 「すまねえなぁ、アンちゃん……」 「へへっ、今のうちに……」 「ちょっと。料理長が見てないからってつまみ食いしたら串刺しにするわよ」 「げえっ! デカパイの人!」 「てめえサンシタ! お前は毎度毎度配膳を待つことも出来ねえのか!」 「だからサンシタじゃねえっつーの!!」 あれから暫くして。 八戒(いつも訂正されるが、面倒だからこう呼んでる)に案内されてここが所謂現実世界じゃないという事を知った。 まあこれも良い修行の機会だと思い、未知の食材を料理しては八戒に食わせる旅をしていたら、小坊と中坊のガキを拾っちまった。 ウンコシッコで笑う文字通りクソガキの高嶺健三。友達と称してよりによってウンコ投げて戦うナメクジを連れてやがる。 どうもはぐれ根性というか、ひねくれたガキの三下(みつした)慎平。こいつもどうにもウンコ臭ぇサルを連れてやがる。 オレはウンコに縁でもあるのかと、料理人なのにそんな縁あって溜まるかと、泣きそうになったが、そこはなんとか堪えた。 何故なら、どちらも出会った時腹ペコで今にも倒れそうな顔してやがったからだ。 勝負となりゃあマジックマッシュルームだろうが幻覚作用だろうがブチ込むオレだが、空腹のガキを見捨てるほど食への尊厳を忘れちゃいねえ。 とびっきりの美味いメシをやったら懐かれて、仕方ないからメシの支度をしてやってるってわけだ。 「オラ、今日は四川麻婆豆腐だぞ。ケンゾーのは辛くなくしてやったから安心して食え」 「わーい!」 「俺は?」 「激辛」 「なんで?」 旅の道中どうも荒くれたバケモンが襲ってくるが、そういうのはオレの管轄外だ。 八戒も八戒で、腹が減ってない時は常にやる気がねえし、腹が減ってると制御が効かねえので自己防衛もままならない。 なので、オレとこいつらの関係は食事↔護衛のwin-winの関係と言えるだろう。 大の大人がガキに護られるとは情けねえ話だが、人間様はトラックよりデカいバケモノには勝てねえんだから仕方がねえ。 サンシタ曰く、八戒なら余裕で蹴散らせるらしいが、本人のやる気がない以上はどうしようもない。 ちなみにオレが三下(みつした)の事をサンシタと呼ぶのは、どうも三下(さんした)っぽく見えてしまうからだ。 いっつもシケたツラをしているので、景気よくツッコミを入れさせてやるという算段も、あるっちゃある。 あと目を離すとすぐ独りになって餓えてブッ倒れるので、怒りでも嫌いでもいいからオレに執着させて目の届く場所に置きたいってのも、まぁ、ある。 その点健三は手がかからなくてラクだ。 美味いメシさえやっときゃ、犬みてえに懐いて逸れることもない。 こいつのダチがウンコで戦う上に、その臭いも健三に移ってるので、料理人としてはマイナス5億ポイントくらいの好感度なのが玉に瑕だが。 健三自体は歳の割には目立った悪さもしねえ、ただゲラなだけなので複雑だ。 とまあ、そんなこんなで。 オレはガキ二名にメシを食わせながら旅の途中だってことだ。