エイプリルフール怪文書 ///// また、ダメだった ワルプルギスの夜が纏う暴風雨はレーザー砲を散乱させ、放つ電波は誘導弾のシーカーを機能不全に陥らせる 佐倉杏子や美樹さやか、呉キリカといった面々の契約を阻止していたことも裏目に出た。単純な戦力そのものが足りなかった そして彼女は……観測者さんは、まどかを庇って…… 「んっ、んん……」 思考が巡る間にループの狭間を通り過ぎ、私はまた、あの日へと舞い戻る 「悔やんでも仕方ないわ。まずは症状の記録を書き換えて、彼女が来るのを待ちましょう」 ベッドから降りて行動開始しようとして、ふと病室の片隅に目を向けて 「……なんでもういるのかしら?」 壁に寄りかかるようにして、地面に座りつつ彼女が眠っている 彼女が眠るのを見るのは何周目以来だろうと懐かしく思いつつも、頬を叩いて起きるよう声を掛ける 「……冷たい?」 まさか、という思いで肩を掴んで揺するとそのまま彼女の身体は力なく横倒しに崩れる 震えながら首筋に手首、思いつく限りの場所で脈拍を測ろうとしても、鼓動は少しも感じられない 「嘘……どうして……」 震える声で呟きながら、力一杯壁を殴る ぎぃ……ばたん!!! そのまま、壁が倒れる 「……は?」 流れかけた涙が引っ込み、思考を束の間、困惑が支配する 病室だと思っていた部屋は、巨大な倉庫か何かの中に建てられたハリボテだった ぱぱぱぁん! 「「「さぷらーいず!!!」」」 視界の外からクラッカーの鳴る音と彼女の声が何重にも響くのを聞いて、私は漸く状況を理解するに至った 「悪趣味ね……え?」 訂正、私はまだ状況を理解できていないらしい 「こっちだとほむらちゃん心臓病じゃないし、さっさと合流しようと思ってさ」 「でもこっちでも天涯孤独だし、いっそこういうのはどうかなって」 「どう、なかなかうまく出来てたでしょ?病室のセットとか」 観測者さんが、3人の彼女が、さも当然のように私を囲んで、歓迎してくれる 「ええと、これは……?」 「まずわたしが観測者ちゃんです」「次にわたしが観測者ちゃんです」「そしてわたしが観測者ちゃんです」 「「「わたしたち、一にして全、全にして一な観測者ちゃんです」」」 ばばーん、などと効果音を声に出してポーズを取る様子はいっそ微笑ましくもあるけれど…… 「つまり……どういうことなのかしら?」 ////////// 「……と、そういうわけでわたしたちは1つの身体に縛られることなく行動できるようになったんだよ!すごいでしょほむらちゃん」 「えぇ……確かにその……すごいわね?」 正直、前の周回との温度差がすごすぎて少し頭痛がしてきたけれども、ここが踏ん張りどころと気合を入れ直す 「ところで、あの病室にいた貴女は……?」 「あぁ、丁度出来上がるところだね」 答えになっていない返答に面食らったのも束の間、わっせわっせと観測者さん二人がテーブルごと料理を運んでくる 「はい、これがさっきのわたしだよ。おいしそうでしょ?」 「え?」 これが?目の前にあるのはどう見てもローストビーフやステーキ、あるいはカレーライスやコロッケといった美味しそうな料理で、間違っても彼女では…… 「あっ」 気付いてはいけないことに気づいた途端、目の前が真っ暗になり、平衡感覚が崩れる どさり、という音に続いて彼女の慌てるような声が遠ざかるのを聴きながら、私は意識を手放した そこは、噓であって欲しかったわ……