神浜市の中央部に存在する昭和風の古びた屋敷。  それは、様々ないわくの付いた都市伝説マニア御用達の奇妙な建物。  或いはそれは、神浜の魔法少女の半数以上がお世話になったことのあるお助け屋の住む場所。  信じ難い話だが、どうやらあの家には化け物が住んでいるらしい、と人は言う。  誰もその建物から人が出てくるのを見たことがないのだとか。  人っ気を感じないのであそこには人外が住んでいる、と断定するのもどうかと感じるが、とはいえその噂はある程度的を射ているのだから興味深い。  「」。  悠久の時を生きる稀有な生物、魔法少女、そして鬼。  人らしい感性を持つ存在ではあるが、根底の部分で人類とは相容れないのだ、と彼女は言う。  果たしてそれが本当かどうかは神のみぞ知ることだ。  しかし、「」という名の人外と心を通わせ、また友情、愛情を育む人間がいるのもまた事実。  「」の考えはじわりじわりと打破され始めているとも取れるかもしれないが……。 「やちよちゃん。」 「何かしら。」 「あなた、脚フェチなの?」 「なっ……」  そんな彼女が、“相容れない”と形容されても仕方がない程ノンデリカシーな発言をやちよにぶつけたのはワルプルギスとの一戦より数日と経ったある夜のことだった。 「誰に、どこでその話を……?まさかみふゆ……」 「いえ、みふゆちゃんは無関係よ。ただでさえ療養中なんだからそんな話振らないわ。」 「それもそうね……じゃあ誰に?」 「十七夜ちゃん。」 「……」  やちよの脳裏にふわりと浮かび上がる東のボスのふざけた笑顔。 「すまない、七海。奥様の頼みだ、無碍にはできん。」  瞬間沸騰した脳漿が一瞬で冷え切ったその時、彼女は早くも魔法少女の姿と化していた。 「ごめんなさい、「」さん。たった今、用事ができたわ。」 「用事って?」 「人の秘密を勝手に喋るメイドを滅殺するのよ。」  悪鬼滅殺。やちよの瞳に憤怒の炎が産声を上げる。 「ふふふ……五分で戻るわ……五分で……」 「ちょっと待ってやちよちゃん!」 「何かしら……これから忙しくなるところなのよ?」 「良いから良いから、ほら座って。それにまだ私の質問に答えてもらってないんだけど?」 「……答えなきゃ駄目なのかしら。」 「そうね。とはいえ、そんな反応を見せた時点で答えているも同然よ。」 「……」  軽く俯きながらやちよは、近くのソファにぽすっと座り込む。  あまりにも、あまりにも分かり易い。彼女の中で濁流のように暴れ狂っているものはまさに、「」に対する好意にも似た甘い欲求だった。  そして彼女は意を決したと同時に、声を張り上げる。 「そうよ!あなたの所為なのよ?いつも無防備に脚を晒して!魅力的に思わない方がおかしいでしょ!?」 「えっ。」 「何がえ、よ。今もそう、お風呂上がりだからってバスローブ一枚羽織ってるだけじゃない……一体何を考えているのかしら。」  一息で紡がれる逆ギレの応酬。  性癖を暴かれて頬を赤く染めている少女の姿にはとても見えない。 「うん、成る程ね。少し面食らったけど、事実と分かって良かったわ。」 「随分、平然としてるのね。私はあなたのせいで頭の中が茹って仕方が無いわよ。責任を取りなさい……責任を……」 「責任も何も、今日はそういうつもりで居たわよ?」 「え?」 「だって、ここ数日事後処理やらみふゆちゃんのケア(という名のお説教と3P)やらで忙しかったでしょ。思い返してみれば、今夜はワルプルギスとの戦い以来のお泊まりじゃない。それならやちよちゃんも求めてくるんじゃ無いかな、ってね?」 「つまり、あなたは……」 「自分で言うのもアレだけど、差し詰め今の私はあなたにとっての据え膳ってところかしら?フェチの話題を振ったのも予め事実確認しておいた方が良いと思っただけよ。」  ちなみに普段バスローブ姿でいることが多いのは解放感があって好きなだけ、他意は特に無いわ、と彼女は言うが。  最早やちよの耳にその言葉は届いていない。  そもそもの話。最愛の人が、進んで淫らな欲求を受け止めてくれる、という事実を前に理性的でいられる人間の何と少ないことか。  加えて今のやちよは、恥ずかしさと欲求不満とが入り混じっている状態であり、端的に言えばしばらくぶりの無敵暴走列車と化している。  つまり、どうなるかというと。 「やちよちゃんどうしたの?そんなふらふら歩いて……危ないわよ。」  こうなる。 「そう。「」さんは私の性癖を知った上で誘ってたってことなのね。馬鹿みたいね……自分の好きなことばかり押し付けるのはダメって我慢して……ふふふ……」 「もしかしてやちよちゃんスイッチ入った?」 「仰向けになって。ヤるわよ、「」さん。」 「ふふ。了解。」 「っ!」  「」の扇情的な声がやちよの脳内をこだまする。  彼女の声には幻惑剤でも仕組まれているんじゃ無いだろうか。  くらくらする程にその姿は魅力的で、艶かしい。  何といっても、「」は最初、やちよに攻めさせる。  スタートの狼煙を上げるのも毎度、やちよ。  ただ彼女は、いつそうなっても良いように準備してくれているだけなのだ。  成る程正にその姿は、据え膳そのものである。 「んっ、最初から、ボル、テージが高すぎないっかしらぁ?」  最早相手を気遣ってられないとばかりにやちよは「」の胸を激しく揉みしだく。  “今の内”に満足しておかないと後々後悔することになる、というのもあるだろうが、前提として今のやちよに理性など存在しない。  具体的に言うと、魔法少女化を解くことすら忘れて彼女は今「」に跨っているのであった。 「そんなこと言われないと分からないじゃない……」 「ごめんね。もっと無遠慮に言える子だと思ってたから。」 「これからは、そうさせてもらうわよ……!はむっ」 「あはっ、もう、かわいいんだから。」  「」の乳首は、乳輪は、乳房は、やちよの舌によって余すことなく犯された。  特にその乳首は、元の大きさも相成って強固に屹立している。  赤紫色で巨大なそれ。  「」から溢れんばかりの母性を感じているやちよにとっては、これ以上ない代物だ。 「んーっ、むぐ……れろ……」 「やちよちゃん、こそばゆいわ。そんなにおっぱいが好き?」 「すひにひまっへるへろ!」 「やっ、ふふ、喋るなら口を離してっ、んっ……」 「んむーっ!」  徐に、「」の大きな手が、やちよの頭に伸びる。  彼女にとって、やちよとは今の全て。  凛々しいやちよは皆が知っているだろう。  弱々しく折れそうになったやちよのこともまた、ある程度の人々が知っている。  だがこのように甘えてくれるやちよを知っているのは、「」以外だと十七夜かみふゆくらいの物である。  そんな彼女の姿は、数ある側面の中でも特に愛おしい。  生で味わえている自分。最も近くでやちよの情欲を受け止める自分。  そうである間、彼女は自分が生きてこられたことに意義を覚えるのだ。  かくして、数分。 「ぷはっ、はぁっ、はぁっ……。」  やちよの舐りは終わった。 「もう、だからそんなに強く吸ったって母乳なんか出ないって言ってるでしょ?毎回必死に顔を押し付けて求めるんだから。」 「放って、はぁ、置きなさい、よぉ、はぁっ、んっ。」 「気持ちよかった?」 「……えぇ、とても。」 「それは良かった。受け答えできるくらいには落ち着いたようね。」 「いえ、まだよ。」 「?」  やちよは恐る恐る、「」の足元へと移動する。  寝転がっている「」……その身長は、やちよが少し見上げる程度。故に、そうしているだけで存在感があり、ソファの大半が埋まってしまっている。「」の脚の間など、普通に考えれば居辛いことこの上ない場所なのだが。 「あなたは、私が脚に興味あることを受け入れたのよね?」 「そうね。1000年以上生きてれば、そのくらいの性癖なんてことないわ。」 「じゃあ……。」  恐らくその後に続く言葉は、何かしらの特殊なプレイを求めるもの。  「」は、何を言うのだろうかと気長に待った。  しかし、当のやちよは最近処女と言う名の童貞を卒業したばかり……精神的には未だ童貞と呼んで差し支えない程脆弱だ。  よって、一向にその何かが出てこない。 「どうしたの?分かり易いことなら私から提案してあげられるけど、そういう類いのものは言って貰わないと分からないわよ?」 「う、あ、あの……。」 「なぁに?」 「脚で……私の頭を……挟んで……欲しい、わね……。」 「ふぅん?」  ニヤリ、と悪い笑みを浮かべる「」。  ここで恐怖を覚えるのはやちよの方である。  やはり拒絶されないだろうか。やはり撤回するべきだろうか。  嫌な想像と言ってしまったという焦りだけが彼女の頭を支配する。  しかし、そこで怯む程「」は狭量ではない。もっと言えば、「」の方がずっとアブノーマルであった。 「えい。」 「いっ!?」  突然、「」の逞しくも艶やかな両脚が、やちよの頭を前後から挟み込む。  やちよは未だ座り込んだままだった為か、「」がわざわざ脚を持ち上げる形となってしまったが、そこは鬼。これくらいのことだったら何ともないらしい。 「んんん!んんっ!んんん〜〜〜。。。!」 「ふふ、気持ちよさそうで何よりよ、やちよちゃん。繰り返すけど、こういうのは我慢せずに言って良いんだからね?私はやちよちゃんのことなら何でも受け止めてあげられるから。私の全てを、あなたが受け止めてくれるようにね。」 「んはっ、はぁっ、あぁっ、んんーっ!」  辛抱たまらぬ、といった様子のやちよ。包み隠そうという雰囲気も一瞬で蒸発し、気づけば彼女の手は自身の陰部を刺激していた。  「」も「」で、やちよを喜ばす術には長けているのだ。特に、こういった身体を使う物事に関して「」の右に出るものはいない。  巧みに力加減を調整し、息を吸える時間と強く締め付ける時間、感触を味わえる時間とフェーズに分けながらやちよの頭部を太ももでもって攻め立てる。  一般的に腹筋を鍛えるポーズとして広まっている筈の体位をものともしない様子もまた、やちよを大いに興奮させた。 「んんっ!んあぁっ〜〜〜!」  絶頂の時もまた、普段の数倍と言って良い早さでやってくる。  「」の脚に抱かれたまま、彼女は眼を見開いた。汗と、ボディソープと、「」自身の香りが混じって、やちよを官能的な快楽へと引き摺り込んだのだろう。  「」としては見てはいけないものを見た気がする一方で、やはり興奮を隠すことはできなかった。 「放すわよ?」 「ぷはぁ、はぁ、あぁっ……。」 「何寂しそうな声を上げてるのよ。お陰で右脚がべたべたじゃない。」 「い、良いでしょ別に……!」 「そんなに良いものなのかしら?」 「当然よ……特に「」さんの脚はその、普段、武器として使ってるじゃない?」 「そうね。私の一番の武器と言っても過言じゃないわ。刀の方が好みだけど、早く動くにも、蹴りを放つにも、不可欠ね。」 「だから何というか……生殺与奪の権を握られてる感があるのよ。」 「それ、誰かさんが聞いたら激怒しそうな発言ね。」 「?」 「いや、気にしなくて良いわよ。続けて。」 「続きなんて無いわ。まぁ、「」さんの脚は特にその、興奮する……ってこと。」 「へぇ?」  細まった「」の瞳に刺々しい光が宿る。  まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。 「となると。もしかして私が戦ってる姿そのものに興奮してたりするんだ?」 「そんなことは……」  ふと、やちよは「」の戦闘を思い出した。  例えば、最近、魔女を倒すために使っていた踵落とし。  踵は古来より斧に喩えられてきたが、彼女のものはそんな甘くない。  それはまるで、巨大な裁断機のようだった。まともに受けた魔女が次の瞬間、真っ二つになっていたことからも威力の高さが窺い知れる。  頭部を難なく砕き、胴まで両断する彼女の姿は当に“鬼”だ。  では、私はそれを間近で見ていて、興奮していたのだろうか。  私へ服やら靴やら荷物やらを押し付けて、息抜きついでに伸び伸びと戦っている「」を見て、私は……。 「ある、わね。正直眼福だった。特に、あなたが本気を出してる時。」 「ふふ、素直で可愛い。なんでこんなに愛おしく感じるのか分からないくらい可愛いわよね、やちよちゃんって。」 「そんなに褒めたところで何も出ないわよ。それに、あなたの方がずっと綺麗だし、可愛いわ。」 「卑下することないのよ?」 「卑下なんてしてない……心底そう感じるだけ。「」さんは私のお嫁さんだから、当然ね……当然……」 「お嫁さん、か。やちよちゃんから見ると私ってお嫁さんに見えるの?」 「私が愛する女性という意味ではそうね。」 「ふぅん?」  「」の見せる楽しそうな顔に、思わずやちよは眼を細める。  声には出してないが、言いたいことがあるなら言いなさいという雰囲気が全開だ。 「まぁいいわ、続きといきましょう。」 「……そうね。まだ私が攻めさせてもらうわよ。」 「ええ、勿論。」 「余裕そうね。」 「まだ前戯でしょ?あと、場所を変えましょう。ここは狭いわ。」 「分かったわ。」  パチン、と「」の指が鳴る。  気付けば二人の周囲は、数十分前まで使われていたばかりの風呂場となっていた。  そして、二人の着ていた服もまた、消えている。 「相変わらずノーモーションで服を消すのね……。」 「あちらに置いてきただけよ。それにあなた、魔法少女のままだったし。」 「あっ。」 「まぁ、変身は解いても解かなくてもどちらでも良いわよ。」 「勿論解くわよ。」  実のところ、魔法少女の状態でいてくれた方が、やちよの体力も増えるため本番に入り易い……のかもしれない、が。  その点はやちよの自由である。 「……さて、「」さん。そこに寝てくれる?」 「はい、どうぞ?」  文字通りの五体投地。  彼女は今、無防備にもその身体を開けっぴろげに晒している。 「……。」 「どうしたの?」 「あなたの身体って本当、綺麗ね……。」 「ふふ、ありがとう。でも、やちよちゃんの方が数倍可愛いわよ?慎ましやかで。」 「つつま、しやか?」 「……地雷だったかしら?」  やちよの口角がピクリピクリと震えている。  「」にとって、その言葉は罵倒でなかったのだろう。  寧ろ褒め言葉に近い、可愛らしいの類語のようなものだった。  しかし、今のやちよは無敵である。よって、そこまで考えを深められる程冷静ではない。 「覚悟しなさい……。」  そう言うと、突然やちよは顔を「」の陰部に近づけ、舌を中へと捩じ込んだ。 「やっ、激しいっ。なんでっ。」 「んむぅ〜!!!んぅ!!!れろっ、じゅるっ!」 「んっ、あぁっ!」  ふと、彼女は眼を必死に動かして「」の歪んだ顔を見つめる。  突如として襲い来る快楽に抗い、彼女は我慢しているのだ。  オーガズムというのはそういうもの。抗って抗って、最後に押し負ける。  そして敗北感と幸福感の中で、余韻を味わうのだ。  彼女は今、最高の幸せを得るために、戦っている。  ――なればこそ。 「あっ。そんな、相変わらずやんちゃすぎるっ、わよ!」  屈服させなければならない。  腕を伸ばし、指を使い、「」の胸を弄る。  そうすると、「」の顔が緩むまでそう長い時間はかからなかった。 「うぁっ、くぅ〜〜〜っ」  尾を引くような、深い絶頂。  潮こそ吹かなかったが、一瞬「」が腰を浮かすのを、やちよは直に感じていた。  どろりと、愛液が垂れ込む。  一舐めするとその味はほろ苦く、そして甘かった。 「はぁ……はぁ……ふふ、最初から思ってたけど、はぁ、やちよちゃん。クンニがうまい、わよねぇ……。我慢利かないわ、全然。」 「我慢なんてしなくて良いのよ……全く。ほら、「」さん、口開けて。」 「ふぅ……ふふっ、あーん。」 「はむっ」  加えて、口内に取り込んだ愛液を共有するかのように、やちよは「」と舌を絡めた。  「」の舌はまだ殆ど動かない。  ただ、その濃厚さのあまり、唾液がやちよの顎を静かに伝う。 「じゅるるっ……んはぁ……んぶ……」  二人の甘い吐息が重なり合い、そして。  やちよの気付かぬ内に、「」の腕が、やちよの頭を捉えていた。 「ぺろっ」 「んっ?ん、んん!?」  もう、逃れることはできない。 「んぶぅっん!!ん!!!ん゛ん゛ん゛っ!」 「じゅろっ、っろろろ、んむっ、ぶむっ」  ある意味、やちよは「」のキスに壊されてしまっているのだろう。  それ程までに「」の舌遣いは巧みであり、中毒性を伴う。  余りにも。余りにも暴力的で、乱雑。しかし、齎される快楽は例外なく当事者の全身を包み込み、濁流のように身体の奥底から吹き荒れる。   「ぶぶっ、んっ、あぁっ!」  今すぐにでも顔を離せば楽になる。しかし、楽になりたくない。  やちよを襲う感情は、矛盾している。だからこそ、彼女の脳は考えることを拒否するのだ。 「ふぁあ……あぁ……。」 「ぷはっ……んふ、どうしたのやちよちゃん?……いやらしい顔しちゃって。」  蕩けるような囁きが耳を侵す。  たちまちにして、彼女の隠部は降伏の音をあげた。   「あ、あっ、うぁ……きもちぃ……」 「そう?それは良かったわ。実は今ね、やちよちゃんが一番気持ち良くなれる程度の激しさを探してるところなの。段々グレードアップして、いつしか一瞬でイかせてみせるわよ?」 「そんなぁこと、されたら……身体が持たないわ……」  これでまだ鬼化していないというのだから恐ろしい。   「ふふ、起き上がれる?」 「……うん、まだ大丈夫。まだ2回イっただけだから……」 「それにしてはお顔がゆるゆるよ?」 「……どうかしら。」 「今更シャキッとさせたって意味ないわよ。」 「それもそうね。……ふぅ。」  柔らかなマットレスにやちよは倒れ込む。  「」のお風呂道具はなんというか、全てが一級品だ。  よって、一人で入るには広すぎる風呂場に設置されたこれも、どこかしらのブランドの一品なのだろう。  毎日の疲労感と性交の疲労感に身を任せて眠るのは、彼女にとって最高の快楽の一つである。……それを味わえるのは、「」がやちよを抱き潰すと心に決めなかった日だけだが。 「毎日お疲れ様。今日も魔女狩りと後処理で奔走してたんでしょう?」 「そうね……あなたも手伝えるならずっと楽になるんだけど、ワルプルギスの時みたいになられても困るし。仕方ないわ。」 「あの時はその、久しぶりに浴びる太陽光と勝利の感慨とで思考が停止してただけよ。普段はそんなことしないわ。晴れの日中、外に出るならフルアーマー一択ね。」 「フルアーマー?」 「日傘!帽子!サングラス!マスク!和服の厚着!」 「……あなたが日中外出できるのならもっと楽になるのに。」 「お気に召さない、と……。」  当然よ、当然……、とやちよはぼやく。  まぁ、不審者然とした格好ではあるだろう。 「ふふ。まぁその代わりに燦ちゃんミユちゃんコンビとか、マミちゃんのこととかは任せて貰って構わないわ。やちよちゃんの仕事は、西のリーダーとして不特定多数の魔法少女を支えてあげることだもの。」 「そうね……弱音が吐けるのなんてここか、家だけよ。特に、「」さんに対しては遠慮なく吐かせてもらうわ。」 「私だって、弱音はいっぱいやちよちゃんに吐き出したからお互い様ね。私を“お嫁さん”として扱うならそれくらいして貰わないと。あぁ、そう言えば……。」 「え。」  一気に、「」の顔が悪魔のように、否、鬼のようになる。  笑顔。女神が如き笑顔なのに。漂うオーラは禍々しい。 「あなた、キレーションおみあしランドのこと覚えてる?」 「マギウスとの戦いの中じゃ一番忘れ去りたい記憶ね。それがどうしたのかしら?できれば思い出したくはないのだけど。」 「いえ、思い出して貰うわよ。やちよちゃん、あなた、私にウワサ討伐を押し付けた挙句手下の駆除を名目に私の脚に触りに来たわよね?あれは何を目的とした行動だったのか教えて貰おうかしら?」 「そ、そんなことあったかしら……」  思わず目を逸らすやちよ。  彼女の欠点その一。  「」のこととなると性欲と思考が直結してしまう、がモロに出たシーンであった。 「思い出して貰うと、言った筈だけど。聞こえていなかった?」 「「」さん……」 「怒るわけないじゃない。寧ろあの時怒っていたのはやちよちゃんの方でしょう。」 「それは、そうね。……でもそんな、追及する程の……」 「いえ、元から聞こうとは思っていたのよ?でもついさっき、やちよちゃんは脚フェチだって分かったから、もしかして、と思ったのよね。」 「……。」  まずい……!と。  やちよは思ったことに違いない。  そして。 「何がまずい?言ってみろ。」 「その時々言う“何がまずい?言ってみろ。”って何なのよ!?」 「……あくまで、知らぬ存ぜぬで通すのね。じゃあ――」  冷たい、突き刺さるような声音。  この声が何を意味するか、やちよは嫌という程知っている。  数日ぶりに聞いたとは言え、幾度となく味わった悪寒はどうあっても失われない。  彼女は恐る恐る、視線を上げ。 「ヒッ」  久々に、鬼を見た。 「なぁに、やちよちゃん。そんなに情けない声を出して。本当に可愛いわね。」 「ま、まさか「」さん、あなた、本当は私を好き放題やる口実が欲しかっただけ……」 「ふふ、正直に言っていいかしら?イエスよ。このまま良い雰囲気で終わらせても良かったんだけど、久方ぶりだからかどうしても情欲が収まらなくて。ねぇ、良いでしょう……?拒否権は」 「あっ」  「」がどかっと一気にやちよの上へ覆い被さる。 「無いんだけど、ね。私はもうあなたに対する責任を取ったのよ?ならあなたにも取って貰わないとやちよちゃん……定期的に発散させておかなかったらそれこそ、危ないのよ。」 「それは私の責任じゃ」 「そうね。でも、私をやちよちゃんしか見えない女にしたのは一体誰かしら?」 「……。」 「それに。」 「それに……?」 「こういう無理矢理なのも好きでしょ?私相手なら。」  きゅう、とやちよの奥底に、「」の優しい音がずっしりのし掛かった。  彼女の身体はまるで、鉛が詰め込まれたかの如く動かない。  いや、本能的に動くのを拒否しているのか。  目の前の鬼から逃げることを。 「……分かった。来て。」 「ふふ、良い子ね。……ねぇやちよちゃん。」 「何かしら。」 「首筋、一回だけ噛んで良い?」 「……それは、鬼の姿になったから?」 「まさか。」 「お好きにどうぞ。どうせ、抵抗なんてできないわ。」 「……かぷ。」 「んっ。」  漏れ出る嬌声。混じり合う唾液と血液の味。  歯形が付いたかどうか、やちよに確認する術は無い。しかし、今彼女が気にしているのはそんなことではなかった。 「……顔を近付けてよく見ると、「」さんが鬼化した時の瞳って、ただの紅色じゃ無いのね……。暗い紅色の中で、鮮やかな七色が微かに煌めいている。まるで夜景みたい。」 「……」  鬼の姿を誉められたことはきっと無いのだろう。「」にとってそれはある意味宿業であり、呪詛であり、過去である。  更に突き詰めれば、過去どころか今を生きる、恐怖の象徴なのだから。 「青白く透き通った肌も。全身に浮かび上がる模様も。小さな角も。こうやって見てみると、全てあってこその「」さんだわ。確かに怖いし、そうやって凄まれると驚いちゃうけど……確かにあなたになら。良いのかもしれない。」 「……そう。あなたは、そう言ってくれるのね。」 「ええ。その姿の「」さんは、一段と怖くて、美しい。まるで私があなたに惚れてるみたいね?」 「まるで、なのかしら?」 「いえ。まさに、ね。」 「ありがとう。じゃあ、また明日会いましょうね。」 「ええ。何回私がイッたのか数えておくと良いわ。」 「そんな余裕があれば、だけど。」 「大体あなたがイッた回数に10倍すれば済む話でしょ……ッ!?」  明日いっぱい謝るからね、ごめんね。  その一言を皮切りに、「」による壮絶なプレイがやちよを襲う。  成る程これは鬼畜と呼んで差し支えない。  最早これは二人で行われる性交ではなく、片方のうねりを鎮めるためのオナニーだ。  しかし、こうして二人の心は満たされる。   「あ゛ぁっ、あ゛ッ、イ゛っでる!イッてるがりゃぁ!もう、む゛りぃ゛っ!やめっ」 「やちよちゃん。やちよちゃん。次からは幻覚使うわよぉ。その後は棒も生やすから。いっぱい出すまで止めないわよ。」 「だずげッ、あっあああぁっ!」 「もう、なんでこんなに可愛いのかしら!?」  貝合わせ。幻惑キメセク。鬼に金棒な中出しレイプ(妊娠はしないby「」)。極め付けには潰れたカエルのようになったやちよを見て復活した「」による第二ラウンド第三ラウンド。  どれほどやちよがもがいても。  どれほど呼吸を用いても。  仮に彼女が魔法少女の姿で挑んでも。  暴虐の嵐は止むことを知らない。  「」の性欲が爆発する直前、やちよが投げかけた言葉は、ある意味で最後のストッパーを破壊してしまったとも言えるか。  全てを見て、全てを理解し、全てを受け止める。  そう聞いたなら、「」はもう手を抜かない。  ならば全てを曝け出そうと。受け止めてくれる相手に恥など欠かせまいと、彼女はそうする女である。  だから、やめなかった。  やちよを信じて。 「あぁ、あっ、んぁっ、あっ」 「だめ、だめよ……だめなのに……止まらない。止まらないぃ……ごめんね。やちよちゃん……あなた以外もう見えないのよ……。」  マグマのようにねばらかなキス。  やちよはびくりびくりと身体を震わせつつも、無意識の中で愛の言葉を聞き及んでいた。 「情けない顔しちゃってぇ。まだ分からせ足りないのかしらぁ!」  何時間と経ったのか分からない。  彼女が本気を出した場合、そのプレイは長きに及ぶ。  しかも、今回に関しては、やちよに受け入れてもらえたという気持ちの強いまま、理性の枷を外してしまった。  故にもう止めどころを失っているのだ。  「」の、鍛え上げられた脚の筋肉が、腰を動かすべく躍動する。  やちよがその眼で見られるのならば大興奮ものの映像だろうが、今その当人は、気絶中……現実、そう上手くはいかないものなのか。 「はー、はー、はー……。都合、100回以上はイったかしら……。大分正気に戻ってきた、わね……。」 「あー、あー……。」  とはいえ、やり過ぎである。  「」が100回以上イったとするならば、つまりやちよは1000回以上絶頂に達したということ。  それこそ相手がやちよ出なければ許されない行為、或いはやちよだからこそ許されることである。 「ふふ……髪も乱れちゃって……私の所為ね。取り敢えず綺麗に洗ってから寝室に戻りましょう。お互いの色々でぐちゃぐちゃだもの。」  一度。  彼女は身体を洗う前に、やちよの頬へ優しいキスをした。  これは情欲からくるものではなく。それは愛故に。  鬼の姿まで美しいと認めてくれる、その高邁な精神に対する尊崇は計り知れない。  「」はその永きに渡る人生で初めて、全てを捧げるに値する人と出会ったのだ。  勿論、やちよは「」よりも先にこの世を去るだろう。  「」が一番、それを理解している。嫌というほど。  しかしそれは、今を精一杯に噛み締めない理由にならない。  後々、大きな傷となって彼女を襲うことになるだろう。  大いに苦しむことになるのは目に見えている。  だが、「」がその記憶を不必要と断じることも決して無い。  何故ならば、それすら背負って彼女は悠久を駆けるのだから。 * 「はっ。」  毎度お馴染み。「」に蹂躙された翌朝のことである。  いつも通りというかなんというか、やはりというべきか、やちよは潮を吹いた状態で、朝日を出迎えていた。 「はぁ……やっぱり耐えられなかったのね……。」 「ふふ、おはよう、やちよちゃん。よく眠れたかしら?」  そして、その傍らに寝ている「」も健在だ。  憑き物が落ちたかのようにスッキリしたご様子である。 「お陰様で。」 「毎回謝るのも変だけど。ごめんね、やちよちゃん。もう、久しぶりも何もなく、加減できなかったわ、全く。」 「分かってるわ。あんなこと言った手前、覚悟してたもの。……何回?」 「私は100回ちょっと。110回くらいかしら?」 「……考えないことにするわね。」 「そうするべきね。私が言うのか、と言う話ではあるけど。」 「ふふ。……朝風呂、行きましょう?」 「そうね。私のネグリジェも、やちよちゃんのせいで下半身びしょびしょ。」 「自業自得よ。」 「……ぐうの音も出ないわ。」  二人は笑いながら部屋を出る。  敢えて今日は転移を使わないらしい。  曰く、着替えを漁ったり、お風呂場まで歩いたり、そういう日常的なことを積み重ねたい。そんな気分だったのだとか。  便利過ぎるのも考えものなのだろう。  はてさて、こうして二人の一夜はお終い。  その後は外出しての仕事、屋内での仕事に別れ、再び数日互いは多忙の日々を送る。  そしてそれから時が経てば、新たな波乱をも。  だが、二人は折れない。  二人は他人に頼ることを覚えた。  二人は他人を信じることを知った。  そして今やその和は、二人だけのものではない。  みふゆ。十七夜。マミ。燦。ミユ。いろは。その他、三滝原のメンバーやみかづき荘の仲間たちに、元マギウスの阿呆ども。  多くの犠牲、悲劇を繰り返し、それでも前へと進め。  鬼殺隊が辿った苦難の道のりと同等の苦難が神浜のこれからに幾度となく待ち構えているだろう。