◇勇者「」  「」の思考はとにかくこんがらがっている。今置かれている状況に。  ベッドの上で、鶴乃と一緒に抱き合っている。お互い裸で。意味がわからない。わかれない。わかりたくない。わかる度胸すらない。  確か魔女と戦っていて。そいつが氷結系だったことは覚えている。奴のブレスを突き抜けてグリーフシードも手に入れた。そっからの記憶がない。顔を柔らかいもの包まれている感覚の中、目が覚めたらこの有様だ。  当然、目を開けてしまえばその柔らかいものがなんだったのか見てしまう訳で。虚な意識の中でその正体をじっくり見てしまって。そのまま顔を上げてみれば鶴乃の顔があって。 「あっ……やっと「」君起きてくれた……!」 「えっ…えっ…あっ…あぁ!?」  当然飛び起きる。勢いでひんやりとした空気を全身に浴びる。そう全身に。  まさか、と思い下を向き、寝起きから主張してる見慣れたモノがそこにあって。 「やぁっ!?」  すかさず両手をもって隠す。そして今だけは両手で収まるくらいだった事に感謝したくなった。 「……見ちゃいました?」 「あはは……まぁ……そもそも脱がせてる時に……」 「あぅぅ……じゃなくて!まずなんで脱いでるんですか!?脱がされてるんですか!?鶴乃さん!なんでですか!?」  状況が状況だけにまずは浮かんだ疑問に答えて貰いたくて、「」は強く問いただすような口調で捲し立てた。 「わー待って待って!まず「」君!魔女と戦ったのは覚えてる?」 「……はい」 「あれから「」君凍えて眠っちゃって……わたし心配で……そしたら昔なんかで凍えてる時は体温で温めるのがいいって……それで……」  鶴乃の表情がだんだん暗くなっていく。勢いあまって強く言ってしまった言葉をすぐに後悔した。 「ごめんね……心配だからってこんな……先走りすぎちゃった……」 「鶴乃さんは悪くないですよ!僕が無茶したのが一番悪くて……」 「けど「」君……」 「それに……じゃないです……」 「ほっ?」 「僕!鶴乃さんと寝るの!嫌じゃないです!!」  両手を前に出して、握り拳を作って「」は言い放った。顔を赤くしてチラチラと目線が下にいく鶴乃を見て、また放り出していたことに気づいて再び両手を下に戻した。 「あの……「」君?」 「鶴乃さんは明るくて……優しくて……僕いつも助けてもらって……だから嫌じゃ……ないです」  鶴乃さんは悪くない。なんとかそれだけは伝えたくて。想ってくれた行為に後悔してほしくなくて。「」は慣れない言葉を紡ぐ。 「そ、それに!僕だって鶴乃さんの……見ちゃいましたし!そこはお互い様ですし!だから」 「……「」君!」  鶴乃が立っている「」の背中に腕を回して引き寄せる。あっという間に二人して向き合う姿勢で横になっていた。 「鶴乃……さん……」 「わたしね……「」君にはずっと元気でいてほしい!万々歳にももっと来て欲しいし!離れたくない!「」君ずっといてほしいよ!」 「…………」 「でも「」君がみんなを助ける為に戦うのは応援したい……それはやめてとは言いたくない……だから……わたしのところに絶対戻ってくるって約束して?」  鶴乃は今にも泣きそうな顔で見つめている。かつて自分勝手に諦めて、自分勝手にいなくなろうとしたことを思い出す。その時に助けてくれたことも。だから答えは決まってる。 「約束します。僕は絶対、何があっても、鶴乃さんのところに戻ってきます」  精一杯、鶴乃の目を見つめて言い切る。この人にこれ以上悲しい顔はさせたくない。それは偽りのない、ずっと変わらない「」の想いだった。 「……そういえばまだ身体が冷えちゃってるかもしれないなー!あ……暖め合うしかな」  言い切る前に背中に回った手がギュッと締まり、再び柔らかい感触が「」の顔面を覆った。  やられるばかりは失礼と思ったので「」も鶴乃の背中に腕を回して抱きしめた。ずっと見ていた勇ましく、美しい背中は暖かかった。 「ん……あったかくなってきたかな「」君?」 「……はい」 「……もう少しあたたかくなっちゃおうかな?」 「はい……えっ」 「よし言質とったよ!お望み通りギュウ〜!!」 「むぅっ!?んぅ……うぅ……」 「えへへ……ど、どうかなぁ!?わたしも結構ドキドキだけど!あったかいかなぉ!?」 「……鶴乃さん」 「……うん!」 「すごく鼓動が伝わって……暖かくて……いい匂いして……む……むにむにで……」 「う、うん!」 「最高です……」 「……な、ならよかった〜!」 「ただ……」 「ほっ?ただ?」 「つ……鶴乃さんの膝が……膝が……」 「……あっ」 「み……密着しすぎちゃって……当たって……」 「……えいっ」 「ひゃぅ!?鶴乃さ、待っ、あっ、なんでっ!?」 「あはは……ふにふにしてるね!なんちゃって〜!」 「鶴乃さん!?」 「もうちょっとやっていいかな?」 「鶴乃さん!!?」 「かわりに「」君も……えいっ、むにむにしていいから……」 「鶴乃さん!!!?というか両手がもうむ……む……!」 「んっ……へへへ……がっつり触っちゃったね?それじゃ……ね?」 「……お胸柔らか……じゃないお手柔らかに、お願いします……」