体調を崩してしまった。
オグリキャップを中心としたシニアクラスのウマ娘は強敵揃い。
更に同期のヤエノムテキ、サクラチヨノオーも油断ならない。
彼女達の分析・レースでの展開予想。そしてアルダンの体調を見極めたトレーニングメニューの考案。いくら時間があっても足りない。

そんなことを繰り返していたせいか、情けないことにアルダンの重賞での勝利を見届け、ウイニングライブ後の控え室で倒れるように寝落ちしてしまった。
アルダンには怒られた。目が覚めたら彼女の膝の上だった。
指導者として情けない。果たして俺はこの先も面目を保てるだろうか。
重賞を一つ勝った程度では俺の目的は果たせないというのに。

しかし彼女の膝は柔らかく、良い匂いがした。

やってしまった。

天皇賞秋という大舞台。そこで勝利を勝ち取った弾みでアルダンに抱き着いてしまった。
ハグをスキンシップとして行なっているトレーナーも中にはいるらしいが、自分としてはアルダンとはビジネスの関係のつもりだ。
勝利の高揚からかその時は何も疑問に思わなかったし、アルダンも受け入れてくれたように見えたが、冷静になってみるとマズイことをしたんじゃないかと思う。

この3年間で結果を残すことは出来たが、果たしてアルダンはこれから先も契約を続けてくれるだろうか。
やらかしは消えない。彼女はどう思うだろうか。不快に感じたのならば指摘してくるタイプだとは思うが。

とりあえず今晩は彼女の感触に浸りながら眠ることとしよう。

驚くことが二つほど。
まず一つはアルダンとの契約継続。
セクハラについて指摘されるかと少し不安だったが、契約解除どころか永遠という言葉を使ってくれた。
これからも彼女と歩

（何度も消しゴムで消した跡が残っている）

まだまだ、この程度で満足する俺ではない。GIトレーナーとなったからには次の目標を立てなければ。
そう考えていた矢先に、なんと王族であるファインモーションの担当となることが決まった。
彼女との出会いは打算があったわけではなく、殆ど勢い任せではあったが、改めて考えてみれば恐らく無意識にチャンスを掴もうとしていたのだろう。

とにかく、これはまたとない機会だ。
王族のトレーナーとなれば箔をつけるには十分過ぎる。必ずやこの3年間で栄光を掴んでみせるぞ。

王族にセクハラをした男。

そんな風に後世に語り継がれることになるのだろうか。
トレーニング中、バランスを崩したファインを抱き止めたら偶然そういう姿勢になってしまった。
今のところファインからもSP隊長からも訴えはないが、頬を赤く染めて惚けたようにこちらを上目遣いに見つめるファインの顔はハッキリと覚えている。
彼女の父の耳に入ったあかつきにはどうなるかわからない。

その後、同じようにバランスを崩したアルダンはちゃんと支えてあげることができた。
しかしどことなくアルダンも不機嫌なような気がした。
やはりセクハラ野郎だと思われてしまったのだろうか？

済んだことを悔やんでも仕方ない。
香水なのか、ファインの首筋からは良い匂いがした。

ファインは素晴らしい資質を秘めていた。
無敗でGⅠを連勝し、女王の座に輝いた。
しかし彼女と日々を過ごす程に、彼女に残された時間を意識してしまう。
最初から分かっていたことだ。しかし別れの日のことを考えると

（ページが少し滲んでいる）
（何度も消しゴムで消した跡が残っている）

いや。商売道具を手放すのは惜しいが最初から期間限定だと理解していた筈だ。
とにかく、悔いの残らない時間を過ごさなければ。

さびしい。

また、驚くことが二つほど。

（ページが少し滲んでいる）

ファインが帰ってきた。親善大使として。
こんなに喜ばしいことはない。まだまだ彼女達との日々は続いていく。

そしてもう一つは、新しいチームメイトが決まった。
サトノダイヤモンド。URAに多大な貢献をしながらもGⅠでの勝利は未だ果たしていないサトノ家の秘蔵っ子だ。
実のところ彼女をスカウトするつもりはなかった。ファインとアルダンのドリームトロフィーへの移籍も視野に入る今、チームメンバーを増やすのは少し慎重になりたかった。

しかしメジロ家主催のパーティーで模擬レースでの彼女の欠点を指摘したところ、気に入られてしまって半ば強引に契約を結ぶことになってしまった。
しかしこれもチャンスだと言えよう。サトノグループと縁を結べれば一気に飛躍できるだろう。
この3年間を糧としてみせるぞ。

最近トレーナーとウマ娘の立場が緩んでいる気がする。

慣れてきて気が緩んでいるのか、もしくは少しばかり彼女達と親しくし過ぎたのかもしれない。
アルダン達が俺の手料理を食べたいと言ったので部屋に上げたのだが、危うくこの日記を見られてしまうところだった。
引き出しに鍵をかけていなければ全てが御破産となっていただろう。

気を引き締め、今までより厳しくあたることにした。

今日はダイヤとお出かけをしたのだが、彼女が少し肌寒そうにしていので俺のジャケットを肩にかけてやった。
可愛らしい女の子の私服の上から無骨な男性もののジャケット。余りにも不釣り合いだが彼女が体調を崩してしまえば元も子もない。
これで俺と一緒にいる時はファッションの自由も無いのだと理解してくれただろう。

アルダンやファインとて例外ではない。これからは厳しく接していくことにする。

ダイヤとの3年間は今までの中で最も険しい3年間だった。

そしてアルダンとファインも感化されたのか、ダイヤと同じように接することを求めてきた。
であれば俺も異論は無い。チーム全員で一丸となって日常生活からお互いを鍛えあった。
例えば食事の時に栄養が偏っていたのなら、不足している栄養素の入ったメニューを自分の皿から分け与えたり。
理事長やたづなさんですら言葉を失っていることが何度かあった。学園で最も厳しいチームと評しても過言ではないだろう。

その3年間が実り、チーム全員がURAファイナルズで優勝を果たすことができた。

次に目指すは世界最高峰のフランスのあのレース。
俺達なら、きっと勝てる。

まるで夢のようだ。

ダイヤがあのレースの勝者となった。日本史上初の快挙だ。こんなに喜ばしいことが他にあるだろうか。
チームで交わした抱擁も、轟いた歓声も、頬を伝ったものの熱も、この上ないものだった。

祝勝会はメジロ家・サトノグループ・そしてアイルランド王室の合同で盛大に執り行われた。
思えば、彼女達の両親が一堂に会する機会というのは滅多に無いのではないだろうか？
彼女達の両親が集まって何を話していたのかはわからなかったが、和やかでありながら真剣な雰囲気に見えた。

まあ、直感ではあるが物事が悪い方向に進むことはない筈だ。

歴史に大穴を開けたアルダンとの日々。
輝かしい思い出をみんなに残したファインとの日々。
ジンクスを打ち破り、不可能だと謳われた呪いを覆したダイヤとの日々。

名声、金。俺の望むものは殆ど手に入れたと言っても過言ではない。
しかし、困ったことがある。
最近、明らかに彼女達との繋がりを求める輩からの接触が多いのだ。

最近ではプライベートで一人で出かける時もSP隊の隊員や明らかにサトノのものである護衛が陰からつくようになった。
SP隊長からまるで王族のような、そしてサトノやメジロの関係者からはまるで当主のような扱いを受けることがある。

高い地位は俺が望んでいたものの筈だが、いざなってみると窮屈というか落ち着かないものである。
立場に見合った中身にならなければ。

気が付いてしまった。

地位、名声、金。
望むものを手に入れて、人と接する機会が増えた結果、学んだことがある。

どれだけ素晴らしい芸術品であっても、展示された場所が見窄らしい場ではその輝きは燻んでしまう。

歴史的な絵画を飾るのであればそれ相応の場所が必要だ。
では、アルダン・ファイン・ダイヤ。彼女達の場所がこのチームに相応しいのかと言えば──それは、否だ。

下心を持って俺に近づいて来る輩達。
俺は、彼らの同類ではないか？　下心を抱いてトレセンの門をくぐった俺が、彼らを否定できるのか？

彼らと同じ俺に、アルダン達と一緒にいる資格があるのか？

逃がさん…貴様だけは…

勿論、いきなり無責任に逃げ出すことはしない。
彼女達が引退したら、俺もトレーナーを辞めようと思う。
そして後腐れなく、レースからも、彼女達からも、関係を断とうと思う。
アルダン達は俺のことを厳しくも頼れるトレーナーだと思ってくれている。
だからせめて、彼女達の思い出の中だけは汚されることなく、綺麗なものであってほしい。

引退したら、どこか遠いところにでも引っ越して静かに暮らそう。
彼女達との繋がりも、少しずつ断っていこう。
いつか、ふとした瞬間に俺のことを思い出した時に、それが輝かしい思い出であるように。
とても辛いが、彼女達のためだ。

いややっぱり辛い。明日は休みだ。予定も無い。今日は酒を飲み明かそう。

「トレーナー？　いるよね？……鍵、開けっ放しだね」

「あの人にしては不用心ですね……何かあったのでしょうか……」

「お出かけに誘ったのに電話にも出ませんし、メッセージに既読すら付かないなんて……」

「あ、いた……机の上で寝落ちしちゃってるみたいだね」

「それにこのお酒の空き缶の数……」

「酔い潰れちゃったみたいですね……でも、トレーナーさんらしくないですね……」

「なにか、あったのかな……お酒で忘れちゃいたいこととか……辛いこととか……」

「……これは……日記……？」

あ…

日記を失くしてしまった。

酔った弾みで間違えて捨ててしまったのだろう。今更失くして困るものでもないのだが。
アレはもう、今の俺には必要の無いものだ。
……しかしこうして気が付くとノートに書き込んでいるのだから、習慣とは不思議なものだ。

彼女達の引退の日が決まり、卒業式が近付いてきている。
一日一日を噛み締めるように過ごす俺に、アルダン達が海外旅行をプレゼントしてくれることになった。
費用も何もかも彼女達が出してくれるらしい。
そこまでは流石にと断ろうとしたが、人生を導いてくれた恩師へのプレゼントと言われたら受け取るしかないだろう。

行き先は内緒らしい。
彼女達曰く、俺が望むもの全てがそこにあるとのこと。

ああ、とても楽しみだ。

ここはどこだ？

ファーストクラスの背もたれを堪能し、空の旅を楽しんでいた筈だが、気が付いたらベッドの上で横になっていた。
誘拐されたのかと思ったが上質なベッドや室内の豪華な調度品からしてそれは有り得ない。
彼女達も一緒にいる。
部屋の扉は外から鍵がかけられているようで開きそうにない。窓から見える景色からしてここは外国なのだろう。

落ち着くためにこうして日記を書いているが、アルダン達が目覚めたら一緒に状況の確認を

「あ、起きたかみんな」

「ここはどこだ？　何か知っているか？」

「……え？」

「え？」

「いや、ちょっと、いや」

「落ち着こう？　な？」

「俺なんかより、君たちに相応しい人はいる筈だ。だから」

「いや、ちょっと、待っ、んっ

ここに来てからどれだけの月日が経ったか。
こうして日記を書くのは何年ぶりだろうか。

午前中は公務、午後はサトノグループとの打ち合わせ、夕方はメジロの重役として某国との会議。
もしかしたら現役のトレーナー時代よりも多忙な日々を過ごしているかもしれない。
しかし辛いと感じたことはない。

愛しい妻達と、そして我が子達と過ごす日々は、あの頃と同じように。もしかしたらそれ以上に輝いている。

こうして久しぶりに日記を書こうと思ったのは、妻達が庭で焼き芋を焼いていたからだ。
何でも書斎を整理していたら燃やさなければいけないものが出てきたからついでに、とのこと。
焚き火の中で燃え盛るノートの表紙は見覚えがあるような気がしたが今一思い出せない。
しかし何となくトレセン学園で過ごした日々のことを思い出したので、こうして久しぶりに日記を書くことにしたのだ。

「あなた、それは？」

「ああ、日記だよ」

「ねえ、見てもいい？」

「いいよ。大したことは書いてないけど」

「わぁ……あなたの日本語の字、久しぶりに見た気がしますね♪」

「はは……そうだなぁ……」

妻達と過ごす日々。
これ以上望むものが、果たしてあるだろうか？

何でオチで急にホラーになるんだよ！！！

俺は闇のトレーナー
お嬢様ウマ娘を利用して成り上がっ

お前闇のトレーナー向いてないよ

…消えた

闇のトレーナーいう奴大体闇のトレーナー向いてないからな…

闇を自称する奴は大帝

逃がしてくれるわけなかったか…

正しき闇のトレーナー

スマホで日記を書いておけば…

>闇を自称する奴は大帝
確かに王家に連なる者にはなったが…

やりましたわ！一心同体ですわ！

一心同体の先輩もこの喜びよう

アルダンもファインもダイヤも……
いやレースに直向きなウマ娘全てキラキラに輝いていて……
俺みたいな下心から始まったトレーナーは消えるべきなんだ……

>アルダンもファインもダイヤも……
>いやレースに直向きなウマ娘全てキラキラに輝いていて……
>俺みたいな下心から始まったトレーナーは消えるべきなんだ……
その結果がこれである

まあ言う人はかなりひどいこと言ってそうだから闇でも間違いではないだろう…

お前は格好いいよ…

パワプロとかのバットエンドでこんなんあった気がする

闇とか抜きに入れ込みすぎて誰相手でもひどいことになってたと思うよこのトレーナー…

闇のトレーナーならウマ娘の一人や二人抱いてみせんかい！！

>俺みたいな下心から始まったトレーナーは消えるべきなんだ……
記憶と国籍消えちゃったねぇ

本当に闇側のやつは現役の時より忙しく働いたりしねえんだ

>闇とか抜きに入れ込みすぎて誰相手でもひどいことになってたと思うよこのトレーナー…
うっかり素質初期はすごいけど…な子担当したら一緒に潰れてそう

>闇のトレーナーならウマ娘の一人や二人抱いてみせんかい！！
闇だから三人抱いた…抱かれた？

>闇だから三人抱いた…抱かれた？
食われたの間違いでは？

鴨葱久々に見たな…

なんか既視感あると思ったらアレだ
エドモン・ダンテスだ

鴨葱を丹念に描こうとするとお願いへの抵触が避けられないからな…
なので匂わすに留める

原作年代順なだけかもしれないが
アルダンが最初の担当なのがいいな…と思いました

良心の呵責で消しゴムのあととか書き直ししまくってる？

三人とも願い叶えてるの滅茶苦茶有能だなこの闇トレ…

なんだ
ただのサクセスストーリーか…

ずっと一緒にいたい的な本心が早いうちから隠しきれてないからな…

アルダンと一緒に歩みたい
ファインと別れるのが寂しい、帰ってきてくれて泣くほど嬉しい
ダイヤに入れ込んでめちゃくちゃ優しくしちゃった

危機ッ！一向にトレーナーの数が増えないッ！

アルダン達が迅速果断だったけど本来なら闇のトレーナー逃亡編と闇のトレーナースローライフ編が始まっていた筈だから……

面白かったぞ闇のトレーナー！

このトレーナーちょっと可愛すぎない！？そりゃ食われるよ…

恐ろしいものを見た…まあウチは大丈夫だろう

俺野心家闇のトレーナーが捕縛される展開大好き
何度もこの三人のスレで妄想したわ
怪文書の供給ありがてえわ

>このトレーナーちょっと可愛すぎない！？そりゃ食われるよ…
鴨葱の場合担当ウマ娘よりトレーナーのほうが「」によくない目で見られる傾向がある

自分を闇と思ってる有能で有情なトレーナー

三人とも独占欲はあるけど分け合うとなれば結託しそうな三人

エドモンも復讐のサクセスストーリーだったのに最後らへんもうエデ大半持ってかれたからな

以前も見たな闇のトレーナー…情報が更新されている…

成り上がりの具体的なヴィジョンを最初から最後まで持ってなかったばっかりに…

こんな可愛らしいのに表面上は悪ぶって自分のために利用してるとか本気で思ってるんだぜ

いいハッピーエンドだ

才能ある小市民が闇を名乗って張り切りすぎた結果がこれだ…

日記が途中で見つかってなくても絶対逃げられなかったよねこれ

闇のトレーナーを名乗るならデジトレになるしかない

凱旋門勝利時点で三家間で協定が結ばれている

名家と王族と財閥でどんな話し合いがあったのか知りたいな
いややっぱり怖いから知りたくない

>日記が途中で見つかってなくても絶対逃げられなかったよねこれ
だってとっくに親同士の協議が済んでるんだもの…
当人には生活のグレードくらいしか求めるものが無いらしいから後は時期を待つ段階でしかないという

>名家と王族と財閥でどんな話し合いがあったのか知りたいな
>いややっぱり怖いから知りたくない
まずトレーナーの睡眠時間と自由時間を合わせて9時間とする
残った15時間を各自平等に5時間ずつ手に入れることとする
時間帯は平等に朝昼夜のローテーションを組むこととする

多分なんやかんやどの家での仕事も想定されてたより覚え良くこなしてるんだろうなって

>>このトレーナーちょっと可愛すぎない！？そりゃ食われるよ…
>鴨葱の場合担当ウマ娘よりトレーナーのほうが「」によくない目で見られる傾向がある
つまり「」はウマ娘…？

王家と財閥と名家と繋がりがあり更に大陸ともパイプを持つ闇のトレーナー

いくら地位や名声欲しいからってアルダン担当する時点で闇のトレーナーではない気がする

繋がりってそういう…

>つまり「」はウマ娘…？
鬼龍院スレが定食違反を連呼する葵に足の速さで負け始めたウマ娘で溢れる辺り
地方で未勝利や条件戦で燻ってるウマ娘「」もいる可能性は高いと考えられる

>ID:D3JpyX/Q

>恐ろしいものを見た…まあウチは大丈夫だろう
コンボ始動

>名家と王族と財閥でどんな話し合いがあったのか知りたいな
>いややっぱり怖いから知りたくない
多分最初はそれぞれが独占する方向で話し合いと言う名の取り合いが始まったと思うけど
当人達(闇トレ抜き)も交えた結果4人仲良くで決まったんだろうな