息を整えてから、彼女の隣へ。
起こすつもりなんて無い。溜まった疲労が噴き出たのなら、これで良いんだ。
今も上下する肩にタオルケットを掛けると、耳がピクリと動いた。
「……すぅ」
……起きたわけでは、無いようだ。
少し安堵しながら、持ち込んだ教本を開く。
この本の内容に彼女の意見を交えながら、擦り合わせていく予定だったのだが。
前日に何度も読み直した。なら、もう一度だって構わないか。
必要以上に音を立てないよう注意を払いながら、頁を捲る。
「……」
「……」
微かな寝息、微かな紙と紙の擦れる音。
遠くから聞こえる、誰かの笑い声。
思わず笑みが零れるほど、くすぐったいくらいに。その空間の居心地が良かった。

そうして、慣れた手付きで読み進めた頃。
「んぅ……」
彼女がモゾモゾと身じろいだ。
起きるかと思ったが、そこまで目覚めたわけでは無いらしい。
組んだ腕の中に埋まっていた顔をこちらに向けて、また寝息を立てだす彼女。
……彼女の寝顔が見える。
横目に見る。手元の本へ視線を戻した。また横目に見る。次は真っ直ぐ見る。
ダメだ。集中できない。
教本に栞を挟んで、パタリと閉じる。しまった。少し音が出た。
こちらの動きに連動して度々動く耳。
それに意識を割きながら、これ以上不必要な物が鳴らぬように本を置く。
いや。それじゃ足りない。これは彼女の安眠を妨害しようとした罰だ。
なんて、今さっきまで頼りにしていた教本に責任を押し付けて。
肘掛けにでもするように、上に肘を乗せて頬杖を突いた。

あまりにも無防備な彼女を、静かに見守る。
……本当に、心地良さそうに眠る彼女。
一見クールでも、何処か抜けている彼女。そのギャップも魅力。そんな彼女が、好きになった。
……魅力。
彼女を何も考えずに眺めていた視線が、一点に集中していく。
薄く開いた、唇。
何故か、目を引く。惹かれる。
意識した事なんて無かったのに。ふと気づいてしまうと、もう、戻れない。
幸せそうに、健啖のままに沢山の料理を食べるため大きく開けた時。集中している際、一文字に引き結ばれた時。
彼女の唇。思い返した色とりどりのそれらが、心を呆気ないほど簡単に掌握していく。
身を乗り出すと、彼女の寝顔が近づいていく。
彼女の綺麗な葦毛と、自分の髪が、触れ合う距離。
最早、抑えこむ理性は高鳴る情動に掻き消えた。
虜にされたそれが、すぐ、そこだ。あぁ、もう少し。もう少しで……。
「邪魔するでー！なぁなぁ、こっちにオグリおる……お、お邪魔したみたいやな……」

「頼むタマモクロス！！後生！後生だ！頼むよぉおお！！」
「あー！わーっとるから服引っ張るなや！！」
「絶対に内緒にしてくれぇ！お願いだぁあああ！」
「言いふらしたりなんてせぇへんって！だーっ！大の大人がしがみついて何をお願いしてんねん！」
「緊急時には大の大人だって小の子供にしがみついてお願いするんだよ！！」
「喧嘩売っとんのかぁ！！」
「……ふぁ。んん……トレーナーに、タマ……？」
「「ヒェッ！？」」
「私は眠ってしまって……っ！どうしたんだタマ！？服がはだけて……それに顔が赤くて、息も……荒い……」
「はぁっ……はぁっ……なんでも、あらへんでぇ……オグリには、関係無い事や……」
「……トレー、ナー……？」
「ふぅっ……そう、だ。オグリには関係無いんだ……俺とタマモクロスだけの事だからな……」
「せやで……オグリにはこれっぽっちも関係あらへん……」
「一切、何も、全然、関係無いからな……！！」
「……」

オグリキャップのやる気が下がった。

ク

ソ

ボ

ケ

が

ケ

！？

？！

クソボケがケ！？？！
完成してるの始めて見た

クソボケがケ！？？！が成立してるの初めて見た

エル。

エル的にもありえまセーン！

止めないでくださいグラス！こいつクソボケデース！！

クソボケ掛け pt170

オグリが可哀想だろ！

どこから湧いてきたグラエルプラスワン

オグリの反応がみてえ〜

じわぁ

まあ普通に社会的地位の危機だからな…

親友と大切なトレーナーの恋路だからって何かサポートしようとするんだろうなオグリ…

トレーナーとタマは私に言えない秘密が…？

とほほ〜寝込みを襲うのはもうこりごりだぁ〜い！

大好きな二人が仲良くなるのは嬉しいことの筈なのに…

>クソボケが
>ケ！？？！

頼むクロス…ふふっ

胸がチクチクして走るのも大変になっちゃうんだ

食欲が3割減になる

オグリ曇らすやつ許さないけど勘違いで曇らすなら良いよ

>食欲が3割増になる

やけ食いしてる…

>オグリ曇らすやつ許さないけど勘違いで曇らしてハッピーエンドになるなら良いよ

ふふっ、大丈夫だ
わかってる、わかってるさタマ、トレーナー

二人の関係は私の胸に閉まっておく………