カーテン越しの月明かりを浴びながら、自身を『ニセモノ』と称する彼女は酷く脆いモノに見え、瞬きする間にも消えてしまいそうに感じた。思わず、抱き寄せてしまう程に。
きっと俺は、彼女を繋ぎ止めたかったのだろう。

先日、友人であるウマ娘、セイウンスカイに押し倒され……俺はそれを受け入れて、一夜を共にした。
彼女は発情期とそれに伴うフェロモンを利用して俺に迫ろうとしたようで、本人曰く『私が全部悪い』という事らしい。……が、俺も結局は受け入れたのだからそんな訳は無い。酒が言い訳にならないようなモノだと思う。
俺は担当を持つ専属トレーナーとして最低の…恥ずべき行為をした。が、不思議と後悔はしていない。

果たしてこの感情が友人としてか、それとも異性としてなのか。俺には分からない。
しかし、ああでもして繋ぎ止めないと、彼女はどこか…致命的な何かが崩れてしまいそうな……。
上手く言葉に出来ないが、俺の知らない“セイウンスカイ”の表情、雰囲気、在り方……、そういったモノが、彼女が既にどん詰まりにいる事を主張している様で、酷く恐ろしかった。

彼女を抱いたのは、憐れみからではない。
だが、あの夜彼女を優しく撫でた俺の心には、確かに恐怖感があった。自分の腕の中にいる少女が、本当にあの“セイウンスカイ”なのか、確信が持てなかった。それ程までに、あの夜の彼女は異質だった。
俺の知ってる彼女に、友人である彼女に戻って欲しかった。
あの出で立ち、あの声色、あの表情。……あの瞳。
全てを諦めたかのような虚ろさ。人を『恐い』と感じたのは初めてだった。

あの後、スカイは自分からキングに全てを明かしたらしい。スカイの残した書き置きに加えて、律儀に本人から報告のメールが来ていたし、今目の前でしかめっ面で座っている担当の様子からも明らかだ。

『トレーナー。今日のトレーニングはお休みにして頂戴。話したい事があるから、放課後は貴方の部屋にお邪魔するわ』

そう連絡を受けた翌日、自室にやってきた担当は挨拶代わりとばかりにビンタを浴びせてきた。
曰く、『話もあるし、今はとりあえずこれで済ませておいてあげるわ』という事らしい。
かなり力のこもったビンタだった為か、キングは右手をさすりながらクッションに腰を下ろす。

「じゃあトレーナー、早速なのだけど───」

キングヘイロー。俺の担当する不撓不屈の一流ウマ娘。
彼女は決して諦めず、折れる事は無い。
そんな彼女の強さというのは、この三年間の挑戦……幾度もの敗北や挫折を経て作り上げられた努力の証だ。担当トレーナーとしても鼻が高い。
……そう、折れる事が無い。そうと決めたらとにかく、必ずやり遂げる。例えば『セイウンスカイと俺をデートさせる』というよく分からない事でも、言い出したら聞かない。
担当として不甲斐ない限りではあるが、何をどうしたらそんな結論に辿り着くのか……。皆目見当もつかない。

「…なぁキング？話がよく見えないんだが」
「あら？浮気するような三流トレーナーがこの私に意見するのかしら」
「うっ……、それは」「冗談よ。…まぁ気にしてないわけじゃないけど、それはもう問題ではないわ」
「言ったままよ。私のお友達、そして貴方のお友達であるセイウンスカイさんとデートをしなさい」

スカイから事の顛末を聞いたキングはこう結論する。

「一度だけ抱いてくれたらそれで満足してすっぱり諦める？思い出になれればそれでいい？そんなわけがないでしょう！？勝負事には手を抜かないあの娘が、そんな中途半端に、簡単に割り切れるとは思えないわ」
「あの娘は多分、諦めてる。自分の恋も、私達との関係も。それを自虐して、誤魔化してると感じたの。……あんなスカイさん、見たことないもの」

「……だから、もう一度手を出される前に決着を着けろって事か？」
「はぁ……貴方、こんな時ばっかり察しが悪いのはどういう事？極端過ぎよ。やっぱり教育のし直しが必要かしら」
「ち、違うのか」「全然違うわよ！」
「やる事はそれで合っているけど、ニュアンスが全然違うわ。貴方の役目は、彼女の気持ちをもう一度真正面から受け止める事。貴方が今見るべきなのは“私”じゃないの。“私”と“スカイさん”よ。答えは貴方に任せるわ」
「キング、それは……」
「あら、貴方まさか、振る前提でデートをするつもり？それも大概惨いとは思わない？」
「それ、は……まぁ…そうだな」「でしょう？」

「恋ってそういうモノだと思うわ。弱肉強食じゃあないけど、貴方が彼女に惚れる事があったならば、それは彼女がそれだけ貴方にとって魅力的だったと言うだけの話。私は、貴方の選択を尊重するわ」
「まぁ、言いたい事は理解した。納得はまだ出来ないけどな」
「なら当日までには納得しておく事ね。私のお友達への無礼は、貴方であろうと許さないから」
「……了解、善処しよう」

善処するとは言ったが、やはり無茶苦茶だ。
キングの言う事は理解したものの、もし仮に俺がスカイを選んだとして、キングはどうなる？
キングの心だって知っている。きっとキングは、今よりも深く傷つくだろう。
それでもやはり彼女は、正々堂々と話をつけたいのだろう。

俺の事も、スカイの事も、自分の事も大切に思うからこそ導かれた、平等な結論。
……担当に“平等”を意識させる俺は、トレーナーとして三流ですらないだろう。

「“平等”……そうね、その通りかもしれない。貴方達二人だけが傷ついてはいおしまい。そんなの、私は嫌よ」
「これは昨日スカイさんにも言ったのだけれど、貴方とスカイさんは私にとってかけがえの無い大切な人なの。たかだか一夜を過ごした程度でそれは変わらない。だから許すわ」
「キング……あぁ、俺もそれは同じだ。…本当に、済まなかった」
「良いのよ、貴方やスカイさんがどんな気持ちなのかは、何となく伝わるもの。貴方は私を騙すような事はしないから、私は貴方の言う事を信じるわ」

「……あぁ、それはそれとして、トレーナー？もう一つ、少し聞きたい事があるのだけれど…いいかしら？」

「貴方、まだ少し匂うわね」

ﾋｯ

ﾋｯ

ﾌｰ

トレーナーは最低だけどキングは王の余裕を見せたな

これぐらい怒る権利あるよ！！

後ろめたい思いを抱えるトレーナーを真正面からぶち砕くキングが見たいという思いで書かれた文章です。
ウンススレ画でキングとキントレの語りしかなく申し訳ございませんでした。
8本目までのまとめ→ su4841360.zip

こいつら上書きぴょいするんだ！！

トレーナーは間違いなく悪いとして
抱かなかったら本当に失踪しそうなウンスなのがまた困る

続きを！続きを見せてちょうだい！

年長者はこれくらいの仕打ちは受けんとな

サッパリとした展開になるのかドロドロに爛れた展開になるのか
続きが楽しみですよ私は

キングが一流過ぎる…

>ﾋｯ
>ﾋｯ
>ﾌｰ
突然のラマーズ法は耐えられないんよ

まだ誰もおめでたしてないから……()

逃げるセイウンスカイ
差すキングヘイロー

一流トレーナーをこんなにしてるのは正直キツい