なあ義兄貴、言い出せないんだろ?姉貴を抱きたいって。 そんな怯えた顔をするな、別に咎めに来たんじゃない。 三年間美人な姉貴と一緒に頑張ってきてにそういう感情を持つなというのは無理がある、流石に私でもそのくらい分かるさ。 まあ姉貴は堅い奴だからな、そんな奴に卑しい話題を振ったらどう思われるか分からない…でも義兄貴はそういう所が駄目なんだ、言いたいことはちゃんと… ……なんだ?早く本題に入れ?まったく…義兄貴はせっかちだな。 分かった、じゃあ単刀直入に言おう 私の身体を使わないか? 義兄貴は真面目だから姉貴との関係を壊したくないのも分かる…が、所詮は男という性別の人間だ、溜まっていくものも出てくるだろ? だったら発散するしかない、そこで私を使わないかという話だ。 …匂い?匂いなんて仲良くしてもらっていると言えば誤魔化せる…ついでに言うと私との関係性もだ。 しかしそういうことを言うとは…義兄貴も乗り気じゃないか。 姉貴との関係性を壊さず、自分の欲求を満たせる。そして身長は姉貴に少し劣るが、体形としては遜色ない相手がいる…どうだ?話としては良い条件だろ? …義兄貴の身体は正直だな…でもそうだよな?目の前でいい女が自分から誘ってるんだ、反応しない訳がないよな? それに今頷けばその目の前の女を好き勝手に出来るんだぞ? だからもう我慢なんてしなくていいんだ、あんな朴念仁の姉貴よりも私の方が都合が良いに決まっている。 …なあ義兄貴、まさか私に押し倒されている状況で逃げられると思ってるのか? 幼い頃だろうか、私が姉貴と同じものを欲しがると言った記憶がある。 姉貴と同じ服が欲しい。 姉貴と同じ髪飾りが欲しい。 姉貴と同じ筆箱が欲しい。 その気持ちは今でも残っているかと言われれば、少しぐらい残っていると答えるだろう。 残っているとは言っても、バレない様に同じものを買うぐらいだが。 …でも彼は違った。 姉貴のものとは関係なしに、ただ彼が欲しいと…そう私は思った。 姉貴のものだから欲しかった…なんて、そんな可愛い理由の方がまだ良かったのかもしれない。 「義兄貴、起きてたのか」 外の雨の音とテレビの音が少し聞こえる中、私は見覚えのあるベッドの上で目を覚ました。 一人でソファーに座りながらテレビを見ている彼に言葉を投げかけたが、返事はまだ無い。 「服…貸してもらってすまなかった」 …また返事がない。 突っ立って居ても仕方ないので、私は洗面台へ向かった。 もう何度目か分からないこの場面、多分彼はいつものように考え込んでいるんだろう。 「…ハヤヒデの事が嫌いなのか?」 顔を洗い、歯を磨き終えた私に突然飛んできた言葉だった。 そんな訳がない、むしろ姉貴は今でも尊敬している。 姉貴の背中を追っていなかったら今の私は居なかったかもしれない。 …しかし、それ以上に私は本気になってしまった。 姉貴の気持ちを顧みず、トレーナー室で一人だった彼を押し倒し、爛れた関係を持ちかけたぐらいに。 「嫌いじゃない、姉貴も、義兄貴も」 「だったらこの関係はもう…」 「私は姉貴が嫌いだからこの関係を望んだんじゃない」 そう言葉を遮った後、私は彼の隣に座った。 暗い表情をしているが、きっと彼は今も姉貴の事を考えて、目線の先にあるテレビなんかに注目していない。 まあ姉貴のトレーナーだから当然なんだろう……でも、私が隣に居る状況で姉貴の方が優先されているというのは少し悔しい。 …いや、悔しいというより気に食わないと言った方が正しいかもしれない。 せめて私と二人の時は姉貴を忘れてほしいという我儘が出てきたせいだろう。 「大丈夫…まだ姉貴にはバレないさ…」 いつかはバレるかもしれないこんな爛れた関係… 傍から見れば悪い関係だが…私はこれぐらいしか思つかなかった。 身体を使って無理にでも振り向かせるなんて、自分でも良くない事だと自覚している。 それでも…今はこれで良い。 少しずつでも、彼が私の方に振り向いてきているのなら…私はそれで良いんだ。 「…だから義兄貴、もう一回しないか?」