俺の所持品に、その“親愛の証”とやらを刻む。
ここ一週間、ゴールドシップがどうやらハマっている悪戯らしい。
最初こそマグカップやPC、トレーニング教本などのちょっとしたものに、年頃の女子らしい丸みを帯びた文字（意外だった）が施されるだけのものだった。
普段の破天荒な発想から生まれる嵐のような行いに比べれば可愛いものだったし、すぐに飽きて新たな事に興味が移ろいでいくだろうと楽観視していたのも昨日までの話。

今回は度を超えている。
財布、ハンカチ、携帯、腕時計……ありとあらゆる物に“金”、“金”、“船”！
どうしたものかと対処に頭を悩ませながら此処に向かって歩いている途中にも、遠巻きのウマ娘たちにクスクス笑われてしまう始末。
まさかシャツの背中側にまで“ゴルシちゃん参上！”と書かれていたとは。
通りすがりのメジロマックイーンに指摘されるまで全く気付かなかった。

そして何よりも。よりにもよって、このペンケース。
八日目のセミの抜け殻みてーないい色じゃねえか！とこれ以上ない褒め言葉を受け取ったのが嬉しくてつい昨日、これにまつわる思い出話をゴールドシップに語ったばかりだ。　
学生時代に初めて出来た彼女に貰った思い出の品なんだ、と。
何故かその話をしたあと、急にふて腐れたように機嫌が悪くなったのが気になるといえば気になったけど。まさか関係無いだろう。

とはいえ、そういう事情の一品だということはゴールドシップも分かっているはずなのに。案の定これである。油性だこれ。

「なあ、せめて水性にしてくれないか。落とすのが大変なんだ」
「いいぜ！　じゃあ今日見に行くか今日！　日没後の丘の上で集合な！　心配すんなって！　ゴルシちゃんの手にかかれば彗星のひとつやふたつ気合いで堕としてやっからよ！」

ううん、どうやらまともに取り合う気は無いようだ。分かっていたが。

「とにかく、流石にこれ以上は困るよ」
「ふーん。つまりアタシのスキンシップに不満があるってことか？　そうだよな？」

ぐい、と襟を掴まれ、顔を寄せられる。
見目麗しいさらさらの芦毛が頬に当たり、こそばゆい。
普段の様子とは打って変わった真剣な眼差しに見据えられて。
改めて、ぞっとするほど整っている容姿。その距離の近さに、心臓の鼓動が跳ね上がる。

「そんなに嫌なら。また新しいの、買ってもらえばいいじゃねえか」
「……だ、誰に？」

……カノジョ。
ぼそり、とギリギリ聞き取れるか取れないかほどの音量でゴールドシップは呟いた。
カノジョ……彼女？

「……居ないよ、そんなの」
「なによ！？　しらばっくれるのもいい加減にしなさいよね！　ゴルシちゃん聞いたんだから！　トレーナーくんはガクセーの頃からピュアピュアイチャイチャくんずほぐれずなカンケーのカノピッピが居るってこと！」

ゴルシちゃんというものがありながら！よよよ〜！と両手を顔に当て、大袈裟に泣くマネを始めるゴールドシップ。
どうやら、とてつもない勘違いをしているらしい。

「だから、学生時代の話だって！　今は誰とも……そんな関係に無いよ」
「……あ？」

呆けた顔のゴールドシップに、渋々説明を行う。
まあ、要するに。ほろ苦い思い出というやつで。
意中の女子になけなしの勇気を振り絞り告白、OKを貰い浮かれ気分だったのは最初だけ。
一月も経たないうちに、貴方と一緒に居てもつまらないから、という理由でフラれたのだった。

「昨日、この話をしなかったのは、君には退屈な話だと思ったから……いや違うな。見栄を張ったんだ」

他の卓越した学園のトレーナー陣と比べ、取り立てて光るものを持っていない自分を。
ヒマそうだからという気まぐれな理由とはいえ、自分を選んでくれたゴールドシップに、こんな情けないエピソードを知られて。
つまらねえ奴だ、と見限られ、距離を取られるのが嫌だったから。

「……オマエなあ。『キビレカワハギとトレーナー、どっちが好き？』と問われたら即答でトレーナー！と答えられるアタシが、今更そんな事でオマエをリリースする訳ねえだろ」
「ゴールドシップ……！」
「へへ……！」
「ちなみにチョウチンアンコウと比べたら？」
「……………………トレーナー」

長い沈黙の後に絞り出した震え声が少し気にかかったが、うれしい。
そこまで彼女の信頼を得ていたとは。彼女を信じ切ることが出来なかった自分がまったくもって恥ずかしい。

「ったくよー。アタシとあろう者が、すっかりうっかりバッチシ勘違いしちまったぜ」
「ごめん……」
「だいぶ使い込んでるんだろ、それ。……忘れられねえのか？　そいつとの思い出」
「うーん、そういう訳じゃ……」

元々、物持ちは良い方だし。捨てるのも忍び無いので、使い続けていたのだ。
当時は好きだったその子の事も、トレセン学園で過ごす破茶滅茶な毎日のせいだろうか。今では顔も思い出せない。
誰だって、この破天荒ウマ娘に一週間も振り回されればそうもなろう。

「……そだ。手、出せよ。トレーナー」
「えっ？」

訳も分からぬままに言われた通りに差し出した手をむんずと掴まれ、懐から取り出したマジックで俺の掌にキュキュキュ、と何かを書き始めるゴールドシップ。

「………」
「……ははっ」

“ごめん”。
控えめに書かれた、これまでの悪戯に対しての彼女なりの反省の気持ち。
そう変わらないはずの身長なのに、ぺたんと耳を垂らした姿がこれ以上なく小さく見えた。

「……いいか、トレーナー」

5秒で気を取り直したゴールドシップにがしりと肩を組まれる。
しまった。写真でも撮っておけば良かったな。

「確かに、アタシと出会う前のオマエは例えるなら……そう、紅ショウガのねえ焼きそば、味噌のねえカニ、スイ禁（過度な糖質制限の意）中のマックイーン、黒髪丁寧語眼鏡マシマシギャル抜きのジョーダン。それぐらいのポテンシャルしか無かった、ただのダサ之助だった。フラれたのも無理はねえ」

ひどい……。
幾らなんでも言っていいことと悪いことがある。

「けどよ。オマエはもう立派に進化を遂げた。……アタシのノリに付いて来られる奴はそうは居ねえ。誇ってもいい」
「ありがとう……」
「だからよ。あー……」

そこで言葉を詰まらせるように唸りながら。ゴールドシップはぽつりと呟いて。

「もし、アタシ以上にビビッ！と来るヤツが居たら……アタシに気にせず、自由に男女カンケーを切磋琢磨に営めよ！」
「ゴールドシップ……」
「週4……いや週3でのトレジャーハントを断らない限りはアタシは文句無えからさ！」
「今とそう変わら無いじゃないか」

苦笑しながら頭を横に振りかぶる。
唯我独尊を自で行くゴールドシップの心遣いはこれ以上無く嬉しい。
しかし、今の自分はそんな事にうつつを抜かしている暇はない。
ただでさえ、彼女に着いていくのに精一杯だし、何よりも。

「気持ちは嬉しいけど……俺には、そんな事を考えてる余裕なんて無いくらい、今が楽しいんだ」
「……おう」
「それに、君以上に魅力的な子なんて居ないだろうし。そんな君の活躍を……この特等席で目の当たりに出来る歓びに勝るものなんて、無いからな」
「キャーッ！ちょっと男子！　直球すぎてゴルシちゃん照れちゃってるじゃない！　TPOを弁えなさいよ！」

両手を頬に当て、くねくねと身体を揺らめかせるゴールドシップ。
よかった。どうやらすっかりいつもの調子を取り戻してくれたみたいだ。
ぷい、とそっぽを向く彼女の頬が、ほんの少しだけ朱に染まっているのが気になったが。
まさか本当に照れている訳があるまいし。風邪かな？

「よっしゃあああ！！　燃えてきたぜ！　この勢いを燻らせて堪るかよッ！　行くぞトレーナー！　トレーニングだ！」
「おっやる気だな……！　よし、じゃあ今日は併走トレーニングだ！　ハッピーミークも一緒だぞ！」
「チャンミーとか！？　いいねいいね！珍しいこともあるもんだ！」
「ああ！　この間の休みの日、桐生院トレーナーと一緒に合同トレーニング計画を立てていて……！」
「熱い！熱いぜトレーナー！　ちなみに何処で立てたんだ？」
「下見に行った温泉旅館でだけど」
「そっか〜〜〜！」

ニコニコと笑みを絶やさずに窓際へと歩み、俺から距離を取るゴールドシップ。
クラウチングスタートの体勢を取っている。ま、まずい。

「おい、待って、何を……」
「ちょれーい☆」

お馴染みの衝撃。しかし何時もより数倍は痛みがひどい。
こら、ゴールドシップ……！
室内でドロップキックはしない約束だろ！
……ぐっ！？　何でウマ乗りに……？
ど、退いてくれ……うぅ、逃げられな……？
そのマジックで何を……？
ひっ！止せ！
た、頼む！　顔は！顔は勘弁してくれ！
せめて外から見えない所に……ぐむっ

乙女ゴルシですか…私の性癖には合っていますね

追いこみウマなのにかかり気味じゃありませんか？

しっとゴルシは健康にいい
めっちゃ痛い指圧マッサージみたいな感じ

向こう正面からのロングスパートですね
彼女のスタミナには合っていますよ

自分の所有物には名前を書いておかないとな！

独占欲ってやつだな

これはおでかけ以外の行動が封じられたな

>追いこみウマなのにかかり気味じゃありませんか？
私性合

> 年頃の女子らしい丸みを帯びた文字（意外だった）
私ここが好き！

ゴルシちゃんに自分のものだとマーキングされるのいいよねが抑えられませんでした
みんなも書こう！嫉妬ゴルシ！

>「週4……いや週3でのトレジャーハントを断らない限りはアタシは文句無えからさ！」
ここ凄い譲歩

チョウチンアンコウのオスってメスに張り付いた後一体化するんだよな

嫉妬ゴルシありがたい…

マジックでごめんとか可愛すぎるゴルシですね
私の性癖に合っていますよ

ゴルシのゴルシ感を損なわずにゴルシがトレーナーに対して嫉妬なり好意なりを抱いたらこういうリアクションだろうなという認識にすごく合致する怪文書だった
やっぱり額に金ってほぼ告白だよねアレ

勝ちたいレースには全力で追い込むゴルシ

> 黒髪丁寧語眼鏡マシマシギャル抜きのジョーダン
ちょっと見たい

ゴルシはかわいいなぁ！

>ゴルシはかわいいなぁ！
ジャスタのレス

ゴルシトレースできてるのすごいわね…
それはそれとして悪友プラスほのかな恋心って感じが大変良かった…

しっとりしたゴルシもいいがこのゴルシは公式感ある

でもチョウチンアンコウには僅差での勝利なんだよね

しっとりを表に出すまいとするところがゴルシの可愛いところだよ

チョウチンアンコウより好きってすごくない？
チョウチンアンコウだよ！？

クソボケがーっ！

ゴルシエミュできる人は尊敬する
海ぶどう贈りたい

こういうイベントがあった気がしてきた

魚言葉の前振りして鯛持ってくる女がそういうこと考えないわけないからな…
ちなみに鯛の魚言葉は宿命です

>チョウチンアンコウより好きってすごくない？
>チョウチンアンコウだよ！？
チョウチンアンコウより好きって言ってくれる相手に
「桐生院と温泉行ってきた」はダメだよなぁ…

桐生院はさぁ…

ミークと確かに仲良さそうだなゴルシ…

胸ぐら掴んで真剣な眼差しで見つめてくる嫉妬ゴルシは私の性癖に合ってますね

おでこに金って書かれてますわよ！
おでこに金って書かれてますわよ！

>「もし、アタシ以上にビビッ！と来るヤツが居たら……アタシに気にせず、自由に男女カンケーを切磋琢磨に営めよ！」
心根ではどこにも行って欲しくないずっとアタシのおもしれー奴でいて欲しいって思ってる筈なのにそれをぶち撒けるには勇気が足りないし普段の素行を自覚してるから自分のキャラじゃないから言えなくてでも精一杯トレーナーを優先した言葉を選ん
ア゜ッ

ゴルちゃんは悪いことしたらちゃんと謝るから好き

>ア゜ッ
またデジたんが死んでる…

ドロップキックは愛だよねゴルシ

>「もし、アタシ以上にビビッ！と来るヤツが居たら……アタシに気にせず、自由に男女カンケーを切磋琢磨に営めよ！」
彼女のプレゼントとか出されたら我慢できないのにこうして独占欲隠しちゃうの本当に…

>ミークと確かに仲良さそうだなゴルシ…
ゴルシの海生物談義をうん、うん、って聴いてくれそう

アグネスデジタルすぐ死ぬ

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一見ゴルシちゃんがかわいそうと見せかけて地味に水族館もかわいそうじゃねえか…？

>「週4……いや週3でのトレジャーハントを断らない限りはアタシは文句無えからさ！」
そんなこと言ってて実際に新しい彼女できたとバレたらすっと遊びに誘わなくなって「アタシに気を使うなって言ったろ…」て笑うんだ

ゴルシのドロップキックはモーションが完全にパフォーマンス用だからな…