担当と釣りに行くのは、これが初めてでは無い。……というより、ここのところ時間のある休日には毎回と言って良いほど来ている。
針に餌を取り付ける所からして覚束なかった記憶も今は昔、そろそろ自分から釣り人を名乗れるレベルには到達できたように思える。
「いや〜。まいど付き合ってもらっちゃって悪いね、トレーナー。でも助かるよ。やっぱり車があるかどうかで持ってこれる装備にもずいぶん差が出るし」
それはまあ、問題ない。俺自身も楽しんでいるしな。ところで、
「うん。分かってる、分かってる。まあ〜向こうから何か言い出すまでは、見なかったフリしてあげるのが良いんじゃないかなあ」
「そうなのか？」
「そうなのでーす。……あ、ほら。トレーナー、引いてる引いてる」
「おっと」

「うーん。……焦れったいですね。もうちょっとらしい雰囲気になったりしないものでしょうか」
「そーですか？　エルには十分いい感じに見えマスが」
「いいえ。あれくらいの距離感は、あのお二人の自然体です。わざわざこんな人気のない所まで来ているのですから、もっとこう……うっかりを装い水に落ちて濡れた体を温めてもらったりだとか。釣り針で怪我をしたトレーナーさんの指先をくく唇に含んで消毒したりだとか」
「フラワーさん。少し掛かってしまっていませんか？」
「えっ！？　そ、その、私ったら…お恥ずかしい……」
「あら〜」
「……私もう帰っても良いデスか？」

「……みたいな感じに言われてるねえ。どうするトレーナー？」
どうすると言われてもな。……キスの一つでもしてみせれば満足して帰るのではないか？
「うひぇ！？　そそ、それは……そうかな？　そうかも…しれない、ね？　……え、あ、と…トレーナー？」

片腕で、よく鍛えられた……けれどもどこか儚さを感じる華奢な身体を抱き寄せる。彼女の、青い神秘的な瞳を上から覗き込むような姿勢になって、驚きの表情をしばし堪能する。細い顎に手をやると、小さくぽかんと開いていた口がきゅっと引き結ばれて、……揺れていた瞳が、落とされた瞼に覆い隠される。
………………そのままの姿勢で、2秒、3秒、…10秒ほど経って。
「……トレーナー？」

「ひゃわ！？」「ケ！」「あら〜」

担当が薄目を開けたのと、後ろで隠れていたウマ娘達が身を乗り出し過ぎて転がり出てきたのは、殆ど同じタイミングだった。

「覗き見なんてらしくないんじゃない？　エルだけならともかく。ニシノに、グラスまで一緒になって」
「うう、すみません……」
「お恥ずかしい限りです」
「……エル、巻き込まれただけなのに」
一生の不覚です。私だけならともかく、同行して頂いたお二人にまで恥ずかしい思いをさせてしまいました。こんなことでは立派な大人の女性など夢のまた夢もいいところです。
……ですが！　成果はありました。私は確かにこの目で見てしまいました。仲睦まじく肌を寄せ合い、あんな風に情熱的な口付けを……！
私ったら、本当に掛かってしまっていたみたいです。お二人はお二人で、しっかりと仲を進展させていたんですね！

どうやら、上手く誤魔化せたみたいだな。
「……まあ、そうだね」
悪かった。何か埋め合わせるから、どうか機嫌を直してくれ。この通りだ。
「……顔上げてよ。別に怒ってるわけじゃあないんだからさ。元はと言えば、私がみんなの前でトレーナーに告白してみせたのが始まりだし」
ああ。……あの時は驚いたよ。春の天皇賞に向けた布石、だったか？
「え。あ、うん。そうそう！　ほら、クラシックでは、ちょっと勝ちすぎちゃったからさ！　あんな感じ派手にパフォーマンス打って、色ボケしたって侮ってくれたら嬉しいな〜、なんて」
順調そうか？
「それは〜……どうかな。学内の評判はいい感じに薄れてるよ。だけど、肝心の本命には意味なかったかな。スペちゃん、あんまりそういう浮いた話に興味なさそうだしね。グラスにも、あれは勘付かれてるかもだ。今日だって見極めに来てたんじゃないかな。……あの子の性格だから、殊更言いふらしたりはしないだろうけど。侮ってくれるとも思えないし」
勝てるか？
「……もちろん。まだ、誰にも負けるつもりはないよ」
頼もしいな。俺の担当は

「ふふん。そりゃあ、君の愛バですんで〜♪」

そう言って笑う彼女の顔は、今日の青空のように澄み切っていた。

ここの所、たくさんのセイウンスカイ怪文書や解釈をぶつけられて幸せな気分で見た幻覚です
あれこれと焦れったいラブコメめいた事をしつつ、その中心には勝負事への情念が渦巻いていると格好いいかな、と

いい幻覚だった
こういう晴天スカイはいい…

とても素晴らしいものを見せてもらった

空は色んな表情を見せてくれるからいいんだ

これはセイテンスカイ

素晴らしい

カラッとしたウンスもいいよね…

この世界ってブルボンボーン？

>この世界ってブルボンボーン？
キブリフラワーを書く上で大いに参考にさせて頂きましたが筆者は別です