電気が消えた暗い部屋。 そんな暗闇で見えるのは、ボクに背中を向けている姿。聞こえるのは、寝息だけ。 でも、油断は禁物。 コッソリと、音を立てないようにベッドの上で身体を起こす。 何度も、何度も、同室のマヤをチェック。 ……うん。完璧に眠ってる。 確認は、十分。後は……。 ボクの今着ているパジャマの下。胸元に手を入れて、まさぐる。 結構小さい物だけど、あっさり捕まえて取り出してみせた。 ……銀の指輪。 今は細い紐を通して、ネックレスにしてる。 ほんの一時でも手放したくなかった。だけど、ポケットとかに入れたら、忘れそうで怖かった。 とっても大事なその指輪を、持ち上げて、眺める。 「……えへへ」 月明りに照らされて、小さくキラキラと光る。 不思議。そのキラキラを見つめてるだけで、胸がぽかぽかしてきて、自然と笑っちゃうんだ。 バレたら騒がれそうだから、こうして隠れて、夜の短い時間に楽しむしかできないけど。 それでも十分なくらいに、力をくれるんだもん。きっと、魔法の指輪だよ。 月明りの下で傾けて、この魔法の指輪を伝う光を楽しんで。 ……普通なら、そこで終わり。 また胸元に仕舞って、おやすみなさいをするんだけど。 ……紐を解いて、ちゃんとした指輪に戻してあげる。 そしたら、それを右手で持って。 「……」 何てことないはずなのに、左手を見つめたら身体が固まっちゃった。 動け、ボクの身体。ずっと憧れてたでしょ? 指輪を持つ手がプルプル震えるのは、緊張かな?それとも、期待なのかな? ゆっくり、ゆっくり……。 まるで前に見た映画の、爆弾解除シーンみたいに、ちょっとずつ手が動いてって。 少しずつ、確実に、右手と左手の距離が縮まっていく。 「わぁ……!」 ボクの左手。薬指で光る、銀色の指輪。 ……嬉しいけど、恥ずかしさもすごい。 指輪がついた左手を、右手で覆って胸に抱くように丸まる。 本当なら、このままゴロゴロ転がりたいけど! でも起こしちゃうかもしれないから、我慢。必死に、我慢。我慢だ、テイオー! ……どうにか転がり衝動を抑え込めた。死闘、だった……。 胸に抱きしめた左手を、もう一度、顔の前へ。 うん。マボロシとか、そういうのじゃない。 ちゃんと、ある。トレーナーから貰った指輪が、ボクの指にあるんだ。 思わず、指輪にキスしちゃったや。 仕方ないよね?というか、仕方ないんだよぅ!テイオー様でも勝てない物だってあるの! なんて一人ではしゃいでたら、近くからゴソっと音。 息を殺して、静か。 「……うぅ〜」 ……大丈夫、寝てるだけ。 とはいえ、今日はこのくらいにしとかないと。 名残惜しいけど、薬指から指輪を外して、紐を括る。 ネックレスにしたら、またボクの胸元へ。 そしたら、毛布を被って、おやすみなさい。 また、明日。 明日は、トレーナーと遊びに……デートに行く日だ。 きっと、明日の夜も、やるんだろうなぁ。 ……ううん、やるんだ。 だって、こんなに、うれしいんだもん。 トレーナーが好き。 昨日より、ずっと好きになる。 明日は、今よりもっと好きになる。 どこまでも、好きにさせられるんだから、ズルいや。 いつか、この指輪をトレーナーにはめてもらえる日が、来るのかな。 ……なーんて!あはは!そんな遠い未来なんて、わかんないや! でも、うん。そうだね。 夢見るくらいなら、いっか!