「随分悩ましいため息だ」
「走りたいんです」
「だろうね」
パソコンのモニタから顔を上げずに、走り書きのメモをひらひらと白旗のように振られて、もう１つため息。
今後のトレーニングやレースのスケジュール調整、他のウマ娘の情報収集はそのトレーナーにも及ぶし、それが私にどう影響するかの落とし込みもする。
雨の日は当然ミーティングが多くなるけど、私も彼もお互いに知り過ぎるほど知っているから、相談というより確認になりがちだ。
だから彼に机仕事があっても、私にはせいぜい屋内トレーニングくらいしかやる事が無い。
体を暖めていれば走りたくなる。でも走れない。走りたいのに。
「ま、脚への大休止だと思おう」
些か慰めのような響きでそんな事を言いながら、トレーナーさんは大きく伸びをした。
乾いた骨の音がここまで聞こえてくる。閃いた。

ヨガマットを床に敷いて、正座をして、彼を手招き。
「ストレッチ、一緒にしましょうか」
「ええ？」
座りっぱなしは体によくない。そう言うと、少し考えてから、頷いて上着を脱ぎ、ヨガマットへ座ってくれた。
私も隣に座ってまずは開脚。流石にトレーナーさんも柔軟で、150度くらいに広げた爪先を軽々と掴む。
そのまま体を前へ倒すと、これは私の勝ち。あごから胸を床にくっつけて彼を見上げると、称賛の声。楽しい。
「これが昔から苦手でな」
脚を閉じての前屈。テイオーなど羨ましくなるほどこれが得意だけど、トレーナーさんはなるほどちょっと前屈は浅かった。
座り仕事をしている人は、大殿筋と大腿二頭筋が伸びなくなる。
背後に回って、背中をちょっとずつ押した。Ｔシャツ越しの背筋の感触は、情事をほんの少しだけ思い出してしまう。

「くっ……ぬっ……」
「歯を食いしばっちゃダメですよ、リラックス、リラックス」
苦悶の声をあげる姿に思わず手を引っ込めそうになりながら、徐々に徐々に息を吐きつつ前へ押していく。
元々柔軟なのだろう、少し慣れると思ったよりもすぐに前屈が伸びていく。
自然、背中に覆いかぶさるようにしながら、ぎゅっと前へ、限界まで体重をかけた。
暖かい体温。大好きな感触。落ち着く匂い。しばらくこのまま、おぶさっていたい。
扉をノックする音。同時に開く音。エアグルーヴ先輩。
「失礼、春季合同練習の件で共有事項……が」
揃って扉へ振り向いた私達と目が合うと、エアグルーヴ先輩は書類片手に目を丸くして、ぱくぱくと口を小さく動かした。
なるほど、見た目だけなら男の背中を抱いているように見えるのかもしれない。特にトレーナーさんはシャツだけだし。

流石にどんな誤解をされてるのかトレーナーさんも得心行ったようで、私に頼む、と小声。
頷いて立ち上がり、エアグルーヴ先輩の手元を覗き込んだ。何か言いかけてた件の資料らしい。
「お預かりします」
「あ、ああ、すまない返事を待つべきだったっ……！」
「いいえ、ただのストレッチですよ」
出来るだけ笑顔を作って書類を受け取ると、先輩は引きつった笑顔を返して足早に去っていった。
トレーナーさんに手渡すと、苦笑いが返ってくる。
「地の底から湧き出るような声だったな」
「私がですか」
「今後もスズカは怒らせないように気を付けるよ」
失礼な。業務連絡を笑顔でしただけなのに。
でもまあ、気付けば私の雨への不満はエアグルーヴ先輩と一緒にどこかへ行っていたのだった。

スズカさん怒らせたらいけない説

その時、ふと閃いた！
このアイディアはスペシャルウィークとのトレーニングに使えるかもしれない！

普段散々覗かれてるからって女帝ってば…

女帝をビビらせる笑顔…

そりゃまあ仮にもかのサイレンス一族の若頭だからな…

>その時、ふと閃いた！
>このアイディアはスペシャルウィークとのトレーニングに使えるかもしれない！
何でスペのトレーナーまでデバガメしてるんだよ！？

こいつら今日はうまぴょいしてないんだ！！

>そりゃまあ仮にもかのサイレンス一族の若頭だからな…
やめようサイレンス一族マフィアみたいに言うの

美人は怒ると怖いから…

>暖かい体温。大好きな感触。落ち着く匂い。しばらくこのまま、おぶさっていたい。
これかわいい

雨の時とかは古傷傷みやすいから無理にうまぴょいするのはね…

リラックスリラックスってスズカさんの声で耳元で言われたらリラックス出来なくない？
トレーナーすごくない？

スズカ怪文書甘々だから脳が癒されて助かる

くっついたあとの怪文書は入眠に丁度よい

いつも明日を生きる力になってる

>雨の時とかは古傷傷みやすいから無理にうまぴょいするのはね…
うまぴょいだけが愛情表現じゃないからね…
この後左脚もいたわってあげようね…

>雨そのものの風情は嫌いではないが、走れないのは困る。なぜなら走れないから。
>私は悪くないのに、走れない。ため息が窓を曇らせ、すぐに室温に負けて消えた。
サイレンススズカ過ぎる…

私は悪くないのに走れないは言いそう

そういやオペラオーが天に働きかけて雨を上がらせたと彼のトレーナーから聞いたことがある

エアグルーヴ先輩の胃が痛い
甘いもので癒さなきゃ

でも急に晴れたら走る？って言われたら
このままトレーナーさんにくっつくのを選ぶのがここのスズカさんだよ

>エアグルーヴ先輩の胃が痛い
>甘いもので癒さなきゃ
私悪くないのに…って彼ぴっぴに慰められてるのはわかる

>でも急に晴れたら走る？って言われたら
>このままトレーナーさんにくっつくのを選ぶのがここのスズカさんだよ
足元がよくなるまで待ちますとかなんとか言うんだ！

走るのも好き
トレーナーさんも好き
それはそれ
これはこれ

恋と愛を知ったスズカさんは我儘になったな…

古式ゆかしいクーデレですね
私の好みに合っていますよ

>恋と愛を知ったスズカさんは我儘になったな…
我が儘な私はお嫌ですか？

>>恋と愛を知ったスズカさんは我儘になったな…
>我が儘な私はお嫌ですか？
だいすき！！！！！！！！！

>>恋と愛を知ったスズカさんは我儘になったな…
>我が儘な私はお嫌ですか？
最高

>リラックスリラックスってスズカさんの声で耳元で言われたらリラックス出来なくない？
>トレーナーすごくない？
多分スズカさんもトレーナーの苦しそうな声に反応してるからおあいこ

好意を隠そうともせず矢鱈とくっつきたがるスズカさんいいよね…

スズカさんはランニングマシンとかじゃ満足出来ないから
雨の日はずっと耳も尻尾もしょんぼりしてんだろうな…

>好意を隠そうともせず矢鱈とくっつきたがるスズカさんいいよね…
普段そんな素振り無いのに2人きりだと甘えたになるのいいよね…

実際季節を感じながらランニングとかめっちゃ気持ちいいから
それの何倍ものそう快感感じてるんだろうなスズカさん

>あごから胸を床にくっつけて
これスズカさん得意そうですよね！

スペシャルウィーク

>扉をノックする音。同時に開く音。エアグルーヴ先輩。
おい…どうして振り向いて声掛ける前から識別している…！？
ソナー手か何かなんです！？